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    クーデターの背景を考察した小説②

    ・前作のつづき
    ・東アジアにおける朝貢関係の歴史を思わせる描写あり
    ・中尉=副官

    #宇宙小戦争2021

    語られなかった真実 -第二章-「外務大臣、先ほどの速報についてですが」
    パピは執務室のドアを開け、気難しそうな顔で腕を組む上司に声をかけた。
    「ああ、聞いている。……実に悲しい知らせだ」
    男は執務机に置かれた紙を持ち上げた。
    「あちらの国民には、何のなぐさめにもならんだろうが、せめてもの気持ちだ。弔意が伝わるかどうか、一度、君に読んでほしい」
    そう言うと、男はパピに紙を手渡した。A4サイズの紙にはびっしりと文字が並んでいる。その一文一文には、昨日亡くなった隣の星の皇帝の人柄や業績、エピソードが細かく書かれていた。パピは目を通し終えると、紙を男に戻した。
    「皇帝陛下の温かな人柄が伝わってくる弔文でした。言い回しに多少の手直しは必要かと思いましたが、内容は問題ないと思います」
    「君がそう言うなら安心だ。手直しは君に任せる。清書が完成したら、大統領に渡してくれ」
    「秘書官の私には、恐れ多いお言葉です。でもこんな短時間で、ここまでの素案をお作りになるとは、やっぱり大臣はすごいです」
    「なんてことはない。あそこの皇帝陛下とは軍にいた頃からの付き合いだ。思い出話など次々に浮かんでくるさ。朝貢のときは実によくしていただいた」






    古代よりピリカ星は、その小ささゆえに周辺の惑星から国とは認められず、たびたび侵略の危機に直面してきた歴史があった。その現状を打開するため、武力だけではなく、さまざまな外交手段がかねてより模索されてきた。そして、数百年前、ある指導者は決断を下した。

    ピリカ星の隣には、ひときわ大きな惑星があった。その惑星は大きいものの、それゆえ国内統制がうまく働かず、たびたびクーデターまがいの内乱が起こっていた。ピリカの指導者は、内乱に疲弊するその惑星の皇帝に、ある提案を持ちかけた。

    『今現在、強く、大きな国を統べているのはあなたです。我々ピリカは、あなたこそが君主であると考えます。どうか、皇帝の徳をもって、ピリカを一つの国として、大国の保護下においていただけないでしょうか──』

    ──従属国へ成り下がる

    ピリカにとっては、独立を保つための苦渋の決断であった。皇帝が即位するたびに「朝貢」と称して、金や資源、技術が献上品として皇帝に贈られた。国内の不安定な情勢に苦しむ皇帝は、自分だけを君主と認めるこの提案を大いに喜び、ピリカを独立国と認めた。大国側にとっても、皇帝の権威を国内外へ示す非常に魅力的な提案であった。皇帝は自らの権威を示すため、献上品の倍以上の品々を返礼品としてピリカへ贈った。従属関係ではあるものの、大国の後ろ盾を得たピリカは、以降、周辺の惑星からも国として認められるに至ったのであった。






    「朝貢は、素晴らしい外交システムです。小さなピリカが、現代まで独立を保つことができたのですから。次の皇帝陛下への献上品は何をお考えですか?」
    パピは緑の瞳を光らせた。
    「いつも通りの品でよいと思うが、君はどう思う?」
    男がパピに問うた。上司に問われ、パピは少し考えこんでいたが、しばらくしてから笑顔で答えた。
    「いつもの品に加えて、何か皇帝陛下のお好きなものを。私も画面を通してしか、お顔を拝見したことはありませんが、次の皇帝陛下はまだ20代とお若い。今、ピリカの若者の間で大ブームとなっているゲームがあるので、そちらはどうでしょう?」
    「さすがだな、パピ」
    男は優しく微笑んだ。
    「相手の嗜好を知っておくことは、外交上、非常に有効だ。子どもならではの視点も実に良い。君が言うとおり、即位を記念しての朝貢ゆえ、皇帝の心をつかむことが何よりも大切だ。君を試した私が愚かだった」
    「大臣のご指導の賜物です。献上品について、これから各方面に打ち合わせに行って参ります」
    「ああ。朝貢船の往復の警備については、私からギルモア将軍に声をかけておく。君には献上品の準備を任せるよ」
    「承知しました」
    パピは、嬉しそうに笑った。










    「やはりな……」
    観測小屋の視察から戻ってきたドラコルルは、静かにつぶやいた。小さな墓地ではあったが、その墓石全てに刻まれた日付が同じなど、そうそうありえることではない。きっと過去に、何か大きな災害か事件が起こったに違いない。そう踏み、ドラコルルは本部に帰ってきてすぐ、過去の流星の落下データを確認した。すると予想通りの結果であった。

    _旧暦2570年4月2日 AM5:12 北部山岳地帯 最大震度7以上 推定される流星の規模は大

    やはり、墓石に刻まれていたあの日に、大規模な流星の落下事故があったのだ。あの墓地に眠っているのは、全てそのとき犠牲になった人々で間違いない。
    ドラコルルはさらにデータを過去に遡った。すると、他にも数件、同じように流星の落下によって、大規模な地震が何度も起こっている。
    ドラコルルは神妙な面持ちで、椅子に深く座り直した。

    ──おそらくは、多くの若者も死んだのだろうな……

    くわしくは覚えていないが、墓石には「享年18」と書かれていたものもあった。100年以上前のこととはいえ、未来ある若者の死というのは、非常に痛ましく、心にくるものがある。
    「観測小屋の改修はもちろんだが、あの一帯の墓地の移転も提案してみるか」
    死んでもなお、流星の害にさらされる故人があまりにも気の毒だ。ドラコルルは、他の墓地の存在も確認するべく地形図を広げた。
    「…………」
    ドラコルルは目の前の地形図を見つめた。この地形図は、先日あの場所に行った際に持参したものだ。だが、ドラコルルは妙な違和感をもった。

    ……盆地が一つ……

    山岳地帯と呼ばれるだけあって、地形図には急峻な斜面を示す、幅の狭い等高線がいくつも引かれている。しかし、観測小屋付近だけは等高線も幅広く、傾斜の緩やかな盆地となっていることが地形図からは読み取れた。

    ……なぜ、盆地は一つしかないのだ?

    ドラコルルの頭に疑問が浮かんだ。この盆地は、過去の大規模な流星の落下によって生まれた、いわばクレーターのようなものだ。しかし、何度も大規模な流星の落下があったのならば、他にも動揺の傷跡があってもよいものなのだが。

    『妻の体がなくなるほどの……、そんな大規模な火災や衝撃があったようには、とても見えなかった』

    先日のギルモアの言葉が、ドラコルルの頭をよぎる。
    ドラコルルは改めて地形図に目を落とした。ギルモアの妻が亡くなったとされるY12号地点の観測小屋付近も、盆地ではあるのだが、最近流星が落下したような目立った窪みは見られない。この目で現地を確認した自分としても、はっきりと言える。地形図に誤りはない。

    「くそ、さっぱり分からん」
    しばらく考えても出ない答えに、ドラコルルはゴシゴシと頭を掻いた。そのとき、コンコンと扉をノックする音が部屋に響いた。
    「失礼します」
    扉が開かれたと同時に、大柄な男が入ってきた。
    「ドラコルル室長。次の朝貢船の警備について、ギルモア将軍から回答を急ぐようにとの知らせが……って何をなさってるんです?」
    男は目を丸くしながら、ドラコルルの執務机に目をやった。
    「Y12号地点の地形図? なんで今、こんなものを?」
    男の問いにドラコルルは答えた。
    「すまん、中尉。ギルモア将軍には、夕刻までに回答すると伝えておいてくれ。少し考え事をしていた」
    中尉と呼ばれた男は、キョトンとしながらドラコルルを見つめた。
    「珍しいですね。ドラコルル室長が、将軍への回答を後回しにされるなんて。考え事というのは、このY12号地点についてですか?」
    「ああ」
    ドラコルルは、地形図を指差した。
    「あの場所で古い墓地を見つけてな。調べてみると、100年以上前の流星の落下事故で死んだ人間のものだと分かった。だが……」
    中尉はポカンとした顔でドラコルルの話の続きを待った。
    「……過去に何度も、人が死ぬほどの流星が落下しているにも関わらず、地形の変化が無さすぎるのだ。私が調べた限りでは、この200年の間に7回、大きな流星の落下があったようなのだが」
    ドラコルルの言葉に、中尉も地形図をじっと見つめた。
    「今まで気にもしませんでしたが、確かに盆地が一つだけというのは妙ですね。地形図が正しいことは現地で確認済みですか?」
    「ああ。実際この目であの一帯は見てきたが、目視と地形図は完全に一致していた。地形図にのらない程度の、小さな窪みや流星のカケラはいくつもあったのだが……」

    「それじゃあ、地震計のデータが間違っているのでは?」

    突然の中尉の言葉に、ドラコルルの動きが一瞬止まった。
    「……なんだと?」
    「だって、それしか考えられないじゃないですか。実際に現地を見ても、地形図に間違いはないんでしょう? じゃあ、あとは過去の地震のデータが間違っているとしか思えませんよ」
    ドラコルルは目を見開いた。確かに中尉の言うとおり、流星による地震のデータが間違っているとすれば、落下の傷跡がない地形図にも説明がつく。しかし、本当にそんなことがあるのだろうか?

    「……お前はそんな大規模な流星の落下など、無かったと言いたいのか?」

    ドラコルルが中尉に尋ねた。
    「あくまで、俺が思ったことを話したまでです。室長は現地に行って、その目で地形図に間違いがないことを確認した。……でも、流星の落下による地震がいつ起こったのか。あそこは無人ですから、地震計のデータに頼るしかない。言い換えれば、誰も流星の落下の瞬間を見ていないわけです」
    中尉はしばらく間を置いてから、ドラコルルを見つめた。

    「最後に信用できるのは人の目だと、俺は思いますけどね」

    中尉はニッと笑った。そんな中尉の顔をドラコルルはじっと見つめた。

    ──全くこいつは。ずいぶんと信用されたものだな。

    「ありがとう、中尉。お前の言うとおりだ。もっと柔軟に考えるべきだった」
    「いえ。他に何かお手伝いできることはありますか?」
    中尉は笑顔でドラコルルに尋ねた。ドラコルルはしばらく考え込んだのち、先ほどの、過去の流星の落下データが記録された端末を中尉に手渡した。
    「さっき言った、過去の流星の落下データだ。地震計の記録ものっている。このデータが信用できぬ以上、何かしらのほころびが見つかるかもしれん。お前の柔軟な思考で、それを見つけてくれないか?」
    ドラコルルは中尉に微笑んだ。





    つづく
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