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    クーデターの背景を考察した小説③

    ・前作の続き

    #宇宙小戦争2021

    語られなかった真実 -第三章-「献上品の準備は順調かね?」
    男は、パピに問うた。ピリカの君主国である隣の惑星の新たな皇帝の即位式は10日後に迫っていた。即位式に向け、ピリカの政府関係者も、朝貢の準備に追われていた。
    「なんとか明日までには整いそうです。あとは、道中の警備の問題だけなのですが……」
    外務大臣の執務室にて、パピはソファに座るギルモアに、恐る恐る目を向けた。
    「……面目ない」
    ギルモアはバツが悪そうに目を伏せた。
    「諜報部に目をかけている部下がいて、その男に任せているのだが……。返事がなかなか来ず」
    「その男というのは、ドラコルルのことか?」
    男がギルモアに問うた。
    「若くして、北部諜報室の室長になったと聞いているが、実力は確かなのか?」
    「もちろんだ。ただ、少し疑り深いところがある。北部山岳地帯の地震観測小屋から帰ってきてから、何やら調べておるようだ」
    「ほう?」
    男は興味深そうにギルモアを見つめた。
    「Y12号地点か。あそこは確か……」
    「わしの妻が消えた場所だ」
    ギルモアが答えた。
    「ちょうど30年前にな。お前がまだ軍にいて、情報局長を務めていた頃だ」
    「忘れたことはないさ。あの日、彼女にあの場所に行くよう指示したのは私なのだから。……不運な事故だった」
    黙り込み、目を閉じる男の顔をギルモアは静かに見つめた。
    自分と同期のこの男は、今のドラコルルと同じように早くからその才を認められ、異例の出世を遂げていた。自分が年齢相応の、平凡なキャリアを歩んでいた頃、この男はすでに軍の情報局長の立場で、自分の妻の上官であった。

    妻が死亡して、この男にも何かしら感じるものがあったのだろう。遺体のない葬儀の場で涙を流しながら、頭を下げてきた男の姿をギルモアは鮮明に覚えている。以降も何かと自分を気にかけ、気がつくと自分は軍のトップに上りつめていた。自分が今、将軍の立場にあるのは、この男の手回しがあったからではないかとギルモアは考えている。妻の死に後ろめたさを感じたこの男が、せめてもの償いにと、自分を引き上げてくれたのだ。

    「もう30年も昔のことだ。……そこまで気にしないでくれ」
    穏やかなギルモアの口調に、男が顔をあげた。
    「……そうか。ところで、そのドラコルルという男は、何について調べておるのだ?」
    男の問いにギルモアは答えた。
    「さあな。詳しくは知らんが、なんでもあの場所で古い墓地を発見したそうだ。そこに書かれていた没年月日が、全て同じ日付だったとか……」
    「同じ日付?」
    ずっと話を聞いていたパピが、口を開いた。
    「興味深いですね。流星の落下に巻き込まれて亡くなった方のお墓でしょうか?」
    「おそらくはそうだ。あの男、観測小屋の改修だけでなく、あの一帯の墓地の移転まで予算に含めて提出しおった。意外と信心深いところがあるなと、驚いたものだ」
    「ちなみにその日付というのは、いつだったんです?」
    興味深そうに緑の目を光らせるパピの姿に、ギルモアは笑った。
    「ずいぶんと食いついてくるんだな。ドラコルルといい、お前といい、若い連中というのはこういう話題が好きなのか?」
    「パピ。仕事とは関係のない話だ。秘書官の立場であまり話題に入ってくるな」
    「まぁ、よいではないか。好奇心が旺盛で実に可愛らしい。……そうだな、日付は確か……」
    パピを咎める男の言葉を制し、ギルモアは顎に手を当てた。
    「日付は確か、2570年4月2日だったかの? 4月2日で『死に』とはずいぶん縁起が悪いなと、報告を受けたときに思ったものだ」
    「……2570年4月2日?」
    パピはキョトンとした顔で、ギルモアが言った日付を繰り返した。パピは何かを思い出すかのようにしばらく考え込んでいたが、やがて静かに口を開いた。
    「ギルモア将軍がおっしゃった日付。私も昔、歴史の本を読んでいて同じように思ったことがあるんです。4月2日で『死に』だなんて、ずいぶん縁起が悪いなと。おめでたい日なのに」
    パピはギルモアを見つめた。

    「旧暦2570年4月2日。この日は確か、4代前の皇帝陛下が即位なさった日ですよ」








    ドラコルルからの指示の受け、中尉はY12号地点の観測小屋の前に車を停めた。この地方特有のどんよりとした天気はあいかわらずだ。
    ドラコルルが言っていた通り、観測小屋の外壁はひび割れ、すぐにでも改修が必要な状態であった。

    ……まさか過去の大地震のデータが、歴代の皇帝の即位の日と一致していたとは……

    中尉は静かに考えた。
    ドラコルルから過去の地震データの調査を依頼されてすぐ、中尉は日付について様々な仮説を立て、その検証を試みた。しかし数日間、寝る間を惜しんで検証を試みたものの、大規模な流星の落下があったとされる日にちは全てバラバラで、何の規則性も見出すことはできなかった。唯一、見つけた共通点は『全て仏滅』ということだけだった。連日の作業で疲れ果て、笑う気力も起きずに、ぼんやりと朝貢船の警備の資料に目を通していたとき、ふと即位式の日にちの照合はしていなかったことに気がついた。どうせ今回も無駄骨だろうと、全く期待などせずに地震データと歴代皇帝の即位式の日にちを照合したところ、驚いたことに、過去7回の大地震の日にちすべてが、歴代皇帝の即位の日と一致していた。

    ──観測小屋内部をすみずみまで調べてくること 

    中尉の報告を受けたドラコルルが、次に出した指示だった。

    地形の変化が無さすぎることを考えても、もはや地震データの改ざんが行われていることは明らかであった。しかも、それは今に始まったことではなく、皇帝の即位に合わせて過去数百年にわたって行われている。そして、大規模な流星の落下事故がなかった以上、かつてこの地方に住んでいた人々が死んだ、いや消えた理由も、全く別のところにある。それは、ギルモアの妻も含めてであった。
    あとは、地震データの改ざんを行ったのは誰なのか。それさえ分かれば、この謎は解ける。

    この小屋の中にある地震計のデータは、そのつど、軍の諜報部が受信していることになっている。しかし、改ざんが明らかとなった以上、そのデータは一度、軍ではないどこかへ送られ、誰かの目を通っているはずだ。もちろんレーダーの記録も。データの送付先さえ分かれば、その誰かにたどり着く。
    中尉は観測小屋の扉の前に立つと鍵を取り出し、ゆっくりと扉を開けた。

    小屋の中は、非常にシンプルな造りであった。打ちっぱなしのコンクリートの壁に窓はないが、天井には光を取るための小さな天窓があいている。天窓から差す光の先、部屋の中央には地震計が設置され、一定の速度でその針を揺らしていた。

    ……この光景を、かつて将軍の奥方もご覧になったのだろうか。

    中尉は、天井に備え付けられたカメラに目を向けた。カメラは下部に光を灯し、地震計の前に立つ中尉の姿を、じっと見据えている。中尉は映像記録端末を取り出すと、口元に笑みを浮かべた。

    「見ているか? どこかの誰かさん。すぐにてめえの正体を暴いてやる」

    相手を挑発するようにつぶやくと、中尉はカメラ下部に記されていた登録ナンバーごと、写真におさめた。

    「その写真は、ドラコルルに送るつもりか?」

    突如、聞こえた男性の声に中尉は振り向いた。
    「カメラの登録ナンバーさえ分かれば、どの回線を使って映像が送信されているかを特定できる。軍の諜報部なら、ものの数分でその回線に侵入することも可能だ。仮にお前がここで何者かに襲われても、その様子はすべて傍受できるし、証拠も残るということか」
    小屋の入り口には、ギルモアと同じくらいの年の男が立っていた。この男には、見覚えがある。特に最近は、朝貢の関係で頻繁にテレビにその姿をさらしていた。

    「……外務大臣」

    中尉は、入り口に立つ男を見据えた。
    「わざとカメラに向かって煽るような口調で話したのもドラコルルの指示か? ここで私が現れなくとも、カメラを見ていた人物がいずれはお前に接触を試みてくると。……いかにも諜報の人間が考えそうなことだな」
    そう言い、男は笑った。
    「……大臣。あんただったんだな」
    中尉は男を見つめた。
    「何がだ?」
    「とぼけるなよ。即位式の日に合わせて、地震計とレーダーの記録を改ざんしたのは、あんただろ? 軍の人間も含め、ピリカの国民は皆あんたにだまされてきたってわけだ。なんでこんなことをした?」
    「……」
    男はしばらく黙り込んだ。静かな小屋の中には、地震計の針が刻む規則正しい音のみが響いている。だんまりを決め込むつもりかと、中尉は腰の銃に手をかけた。

    「まさかお前は、私1人がデータを改ざんしてきたとは思っていまいな?」

    中尉が銃を引き抜く前に、男が口を開いた。
    「お前たちがどこまで突き止めているかは知らない。だが、確かに過去数百年にわたって、データの改ざんは行われてきた。それは認めてやる。そして、それをしてきたのは諜報部の人間だということも」
    「な……!?」
    男の言葉に、中尉は目を見開いた。驚く中尉を気にすることもなく、男は無表情で続けた。
    「正確には、歴代の局長たちだ。私は局長時代にそれを知り、外務大臣として選ばれた今も、その秘密を守り続けている。だから今の局長は何も知らない。……こんなことは自分で最後にしたいという思いからだ」
    男はさらに続けた。
    「だが、ほころびを見つけられてしまった。お前たちが真実に辿り着くのは時間の問題だった。ならば自分から話したほうが、こちらも気持ちとしては楽ではないかと。そう考え、ここへ来た」
    そう言い、男は微笑んだ。

    「出てこい。聞いているのだろう?」

    男が中尉に呼びかけた。すると、しばらくのち、小屋の外に停めてあった車からドラコルルが姿を現した。
    「盗聴ご苦労。ずっと車内でかがんでいては腰にくるだろう?」
    「ご心配には及びません。さすがは、元情報局長。中尉に盗聴器を持たせていたことも、すべてお見通しというわけですか」
    ドラコルルはイヤホンを外しながら、男に向き直った。
    「君こそ、実力は確かなようだ。まさか墓地の日付から、ここまで辿り着くとは思わなかった。ギルモアが目をかけているだけはある」
    男は小屋の扉にもたれかかりながら、ドラコルルに微笑みかけた。
    「あの墓地を初めて訪れたとき、言いようのない不吉な気配を感じました。今思えば、あれは、あそこに名を刻まれた人々の声なき叫びだったのではないかと、そう確信しています。……この理不尽な所業へのね」
    ドラコルルは男を見つめた。


    「『人間』が献上品だったのですね」


    男が口元を歪ませる。ドラコルルはさらに続けた。
    「皇帝の即位のたびに人間が消えては、さすがに世間も気づくでしょう。だが、この地方特有の、流星の落下事故ということにすれば、たとえ村一つ消えようが不審に思われることはない」
    そう話し、ドラコルルは男の反応を伺った。男は口元を歪ませたままだ。

    しばらくの沈黙ののち、男は目を伏せながら口を開いた。
    「……こんな辺鄙な場所の話だ。大きな流星が落下したところで、マスコミも大して報じないさ。おかげで我々は堂々と隠蔽ができた。彼女のときはギルモアがゴネて、多少は騒ぎになったがね」
    「……彼女というのは、将軍の奥方のことか?」
    小屋の中にいた中尉が、たまらず声をあげた。
    「30年前のあの日、私はギルモアの妻にこの観測小屋へ行くよう命令を下した。全く役に立たない通信機とレーダー端末を持たせてね。一切の証拠が残らぬよう、小屋の中のカメラも電源を切っておいたよ」
    中尉は息をのんだ。かまわず男は続けた。
    「案の定、彼女は献上品として拉致された。後日、この場所には、あの国の艦が着陸したと思われる焦げ跡だけが残っていたよ」
    「……ッ!!」
    中尉のこぶしは震えていた。男の口から出るあまりにも非道な行いに、その顔は怒りに染まり上がっている。
    「よせ、中尉」
    銃を引き抜こうとした中尉に、ドラコルルは声をかけた。
    「一つ納得できませんな。将軍の奥方はともかく、80年前までは少ないながらも、この地に人は住んでいたはずだ。そんな大規模な流星の落下があれば、人里の被害状況をマスコミも報道するはずです。なぜ、それがなかったのですか?」
    ドラコルルの疑問に、男は力無く笑った。
    「ドラコルル室長、君は優秀だな。君の言う通り、マスコミが報道しなかったのには理由がある。それこそ、ピリカ史上最大のタブーだ」
    男は周囲を見渡した。


    「君は疑問に思わなかったかね? こんなにも流星の被害を受ける場所に、なぜ人が住んでいたのか」


    男の言葉に、ドラコルルは目を見開いた。
    「大規模な流星の落下は、人間が献上品とされていることを隠すために、我々がでっち上げたものだ。だが、中規模・小規模な流星の落下は、今でも頻繁に起こっている。それを考えても、ここは絶対に人が住む場所ではない」
    男はさらに続けた。


    「疑問に思わなかったかね? 隣の惑星は民族の違いによって内乱が何度も起こっている。皇帝が君臨していても、だ。それに比べてピリカはずっと一つの国のままだ。『ピリカ民族だけ』のね」


    男の言葉に、中尉も目を見開いた。
    「歴史の授業で習ったはずだ。『遠い昔、大陸を見つけたピリカ民族は、その土地を北へ北へと開拓していきました』と」

    淡々とした男の声だけが響く。

    「『開拓を進めたピリカ民族は、その土地に住んでいた先住民が安心して住めるよう"保護区"を作りました──』」

    まるで教師が教科書を読み上げるかのような口調であった。

    「『"保護区"に住んでいた先住民も、次第にピリカ民族への同化が進んでいき、やがてピリカは単一民族の国家となりました──』」

    男が口元を歪める。




    「ここまで言えば分かるだろう。お前達が学校で習ってきたのは、ピリカ民族にとって都合がいいだけの……、全くのデタラメの歴史だ……」



    男はそのまま目を伏せた。
    ドラコルルと中尉は、呆然とその場に立ち尽くした。衝撃のあまり、動くことができない。こんなことは絶対にあってはならないと、良心が叫んでいる。

    言葉を失った2人に、男は最後に言い放った。



    「この場所は"保護区"。土地を追われた先住民が、数百年もの間、隔離されていた場所だ」





    つづく
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