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    クーデターの背景を考察した小説⑤

    ・前作の続き
    ・めぐみさんを思わせる描写あり

    #宇宙小戦争2021

    語られなかった真実 -最終章-ここに、メディアを通して行われた、ある世論調査について掲載する。


    ①かつて北部山岳地帯に人々が隔離されていたことについて、あなたはどう思いますか?

    とても問題である  52%
    問題である  33%
    あまり問題でない  7%
    全く問題でない  4%
    分からない 4%


    ②朝貢において、人間が献上品とされていたことについて、あなたはどう思いますか?

    とても問題である 32%
    問題である  45%
    あまり問題でない  11%
    全く問題でない 2%
    分からない 10%


    ③大国への朝貢について、あなたはどう思いますか。

    人間の献上を含め、続けるべきだ 1%
    人間以外の献上は、今後も続けるべきだ 90%
    朝貢自体、やめるべきだ 6%
    分からない 3%


    ④献上品として拉致された人々の救出について、あなたはどう思いますか。

    救出すべきだ  11%
    救出すべきでない 59%
    わからない 30%


    ⑤ ④について「救出すべきだ」と答えた人はなぜですか。

    ・重大な人権問題であるから。
    ・被害者と、その家族の気持ちを思うといたたまれない。
    ・相手の国が言っていることが信用できないから。


    ⑥ ④について「救出すべきでない」と答えた人はなぜですか。

    ・相手の国は被害者は死亡したと回答し、きちんと謝罪しているから。
    ・30年以上も前のことだから、被害者が死亡していてもおかしくはない。
    ・そもそも朝貢は、ピリカから提案していることだから。
    ・無理を言って、大国を刺激するべきではない。
    ・大国の後ろ盾を無くしたら、他の国にピリカが侵略されるかもしれないから。
    ・独自で防衛していくとなると、防衛費がかさみそうだから。
    ・増税が嫌だから。





    「パピ大統領!!」
    ギルモアはノックもせずに、パピの執務室の扉を開けた。
    「補佐官から聞いた! 防衛費の削減を決定したとは一体……」
    「ギルモア将軍」
    ギルモアの来室を予想していたかのごとく、パピは自身の机に座りながら、冷静な口調で告げた。
    「あなたがなぜここに来たのか、何を言いたいのかは全て分かっています。それを分かった上での決定です」
    パピは、ギルモアに緑の眼差しを向けた。
    「外務大臣があの国へ去ってすぐ、ご存知のようにピリカは混乱を極めました。あまり自分の上司を悪く言いたくはありませんが、私も大臣がしでかしたことの後始末で寝る暇もありませんでした」
    パピは続けた。
    「ですが、ピリカの運命を背負って朝貢船に乗り、あの国へ行ったとき、皇帝陛下は謁見いちばんに私に頭を下げてこられました。即位したばかりの皇帝が私のような子どもに、です。小児性愛などとんでもない。革新的なだけでなく、過去の行いをも謝罪してくださる、非常に誠実な方でした」
    パピはさらに続けた。
    「その場で皇帝陛下は、「人間」は献上品として今後は一切受け入れないことを約束なさいました。このような悪習は、即座に取りやめるべきだと。ですが……」
    パピは目を伏せた。
    「……奥様のことは本当に残念でした。しかし、あのような誠実な対応をされてしまっては、こちらもこれ以上追求のしようがありません」
    ギルモアはパピを睨みつけた。
    「……信じるのですか。妻が死亡したなどという相手の勝手な言い分を」
    ギルモアの声は静かだが、その声には怒りが込められている。
    「『人間』の献上がなくなったことは非常に喜ばしいことだ。だが、死亡という言葉を聞いて『はい、そうですか』と簡単に納得できるとお思いか? せめて遺品や遺骨はないのかと問い詰めても、『申し訳ない』の一点張りだった」
    「皇帝陛下は誠実です」
    パピが口を開いた。
    「皇帝陛下のお話では、拉致されてしばらくたってから奥様は車の事故でお亡くなりになったそうです。奥様のご遺体は、丁重に埋葬されたと」
    パピは続けた。
    「確かに死亡を示す証拠として、遺骨を掘り出すことも可能でしょう。ですが、それは亡くなった方への冒涜です。皇帝陛下が何も証拠を出されないのは、奥様への敬意もあるのですよ」
    パピはさらに続けた。
    「このような誠実な対応をなさる皇帝陛下に、我が国がこれ以上無理を言えば、それこそ陛下の機嫌を損ねます」
    パピの言葉に、ギルモアは唇を噛み締めた。
    「パピ大統領。あの国を信じるのは大概にしていただきたい。遺骨を掘り出すのが冒涜ならば、骨になってもなお、故郷の地へ帰ることができない故人の気持ちにはどう説明をつける」
    パピはじっとギルモアを見つめた。
    「外務大臣とてそうだ。皇帝の話では自分の命と引き換えに、『人間』の受け入れを今後はやめてくれと嘆願したそうだが、結局、大臣が生きているのか死んでいるのか、その安否は不明のままだ。わしからすると、自分可愛さから皇帝に取り入り、大国で生きながらえるために、ピリカから逃げたとしか思えん」
    「外務大臣の功績は確かです」
    パピが口を開いた。
    「あの国に到着してすぐ、自分の命をもろともせずに、涙を流して嘆願する大臣の姿に、陛下は強く心を打たれたとか。大臣がいたからこそ、陛下は今までと同じように、今後もピリカを保護してくださると約束なさったのです」
    パピは続けた。
    「たとえ大臣が生きていたとしても、あなたの手前、もうピリカに戻ってくることはできないでしょう。ですが、大臣の行動によってこの国は今まで通り、大国の保護を受けられる。それも『人間』の献上無しでです。この功績はあまりにも大きい」
    「……」
    ギルモアは黙り込んだ。




    「……『そんな功績ある外務大臣の秘書官ならば、きっと大統領にふさわしいに違いない』。国民とは実に単純ですな。パピ大統領」



    しばらくの沈黙ののち、ギルモアが口を開いた。
    「君に先住民の血が流れているというのも大きいだろう。心配された差別も、大統領がそうならば全く問題ない。ピリカ初の少年大統領は実にご立派ですな」
    ギルモアは皮肉たっぷりに告げた。
    「大国の保護を受けられるか受けられないかで、ピリカの運命は大きく変わる。その局面を見事に切り抜け、かつ他国とも友好関係をお築きになっておられる。ピリカは変わらず平和なままだ。いやはや、本当に素晴らしい」
    「ギルモア将軍、時代は変わったのです」
    パピは毅然と答えた。
    「あなたの気持ちは痛いほど分かります。ですが、必要以上の武力で国家間の均衡を保つ時代はもう終わりました。皆、戦争はしたくないのです。だから私は、このたびの防衛費の削減を決定しました」
    パピは続けた。
    「お若い皇帝陛下も、そのことをよく分かっておられました。ましてや『人間』の献上など、悪しき風習の最たるものだと。……将軍、どうか分かってください」
    パピはギルモアに頭を下げた。そんなパピの姿をギルモアはこぶしを震わせながら、じっと見つめた。

    「……わしだけが悪者ということですか」

    しばらくの沈黙ののち、ギルモアが口を開いた。
    「世間は防衛費の削減に反対するわしのことを、軍国主義者だの、対立主義者だの、好き放題に言っている。防衛費を増大させて、いずれはあの国に戦争をしかけるつもりだと。わしはただ、妻を取り戻したいだけだ」
    ギルモアはパピを睨んだ。
    「妻の死亡を信じられぬ中、わしがどんな気持ちであの星を後にしたのか。貴様には分からんだろうな、パピ」
    「奥様はお亡くなりになっています」
    パピが答えた。
    「私にとっても遠縁にあたる方です。この現実を認めることは、とても心苦しい。ですが……」
    パピは緑の瞳を伏せた。
    「ですが、今ここで私心にとらわれては、それこそピリカの平和が損なわれます。国民は平和を望んでいます」
    パピの言葉にギルモアは何も答えなかった。
    「ギルモア将軍、どうか分かってください。この国は……」
    パピはひと呼吸おくと、顔を上げた。

    「この国は民主主義なのです」














    女性は、ため息をつくと絵の具のついた筆を水入れに浸した。慣れた作業とはいえ、さすがに長時間、小さな文字を見続けていては、目の奥が痛くなってくる。女性は遠視用の眼鏡を外すと目頭を押さえた。
    「まだ終わらないのか?」
    優しげな男性の声が、女性の耳に届いた。
    「もう2時間だろう? 急ぎの仕事でもないのだから、少し休憩しないか?」
    男性は、淹れたばかりのコーヒーを女性に手渡した。
    「ありがとう。老眼が進んでも、舌だけは若い頃のままだわ。あなたが淹れたコーヒーは本当においしい」
    カップに口をつけながら、女性は夫に微笑んだ。
    「年をとるのは仕方ないさ。だが、いくら君が地図に詳しいからといって、こう何時間も部屋にこもって作業するのは疲れるだろう? それを飲んだら、二人で散歩にでも行かないか?」
    「ええ、ありがとう。あと20分ほどで、ひと段落つきそうなの。そうしたら行くわ」
    「待っているよ」
    男性はそう言うと、部屋から出ていった。

    穏やかな時間だ。夫はとても優しい。年を重ねても変わらず愛情を注いでくれる。
    女性は微笑みながら、先ほどの作業の続きをすべく、机の上の地形図に向き直った。

    地形図には、くねくねとした等高線がいくつも引かれ、ところどころに標高を示す小さな数字が書かれている。女性は水入れから筆を取り出すと、その先端に絵の具をつけた。低い土地には黄緑、高い土地には茶色といったように、土地の高低に合わせて地形図に色をのせていく。

    「……あ」

    ぽたりと絵の具が、地形図の端に落ちた。本来ならば黄緑をのせるはずだった場所に、薄い茶色の絵の具が染みを作っている。
    「……」
    じんわりと紙に滲む茶色の絵の具は、かつて自分が、この星に連れてこられた日のことを思い起こさせた。



    30年前のあの日、Y12号地点の観測小屋の中で赤い光に包まれたとき、自分は死んだと思った。しかし、すぐに光は消え、見たこともない軍服を着た男たちが観測小屋の中に入ってきた。自分も軍人としてなんとか抵抗を試みるも、女が複数の男に敵うはずもなく、気がつけば窓もない暗い部屋の中に閉じ込められていた。銃も通信機もレーダーも何もかも取り上げられ、部屋にはエンジンのような音だけが重く響いていた。何が起こったのか全く理解できず、ただ恐ろしく、しかしなんとかして外に出たく、無我夢中で壁という壁を叩いた。なんとかして、わずかな隙間を開けようと必死に壁を引っ掻いた。ついには指先には血が滲み、剥がれ落ちた爪を伝って、床には血がしたたり落ちた。

    真っ暗な部屋に響く戦艦の機械音が止み、次に連れていかれたのは、豪華な衣装を身にまとった見知らぬ男の前だった。傍らに置かれた大きなベッドを目にして、自分が男の寝室にいることを悟ったとき、涙があふれて止まらなかった。これから自分の身に何が起きるのか、絶望を抱きながら床に座り込んだとき、ふと自身の膝に置かれた手が、温かい何かで包まれた。指先から血を流す自分の手を、目の前の男は布で優しく包みながら、ただ一言、「すまない」と言った。ピリカ語ではあったが、イントネーションの違和感によって、ようやく自分が他国の皇帝の目の前にいることを理解した。

    皇帝は自分には一切触れなかった。

    翌日、皇帝は一人の男性を呼び寄せると、自分にも分かるよう、不慣れなピリカ語でその男性に告げた。

    「この女性を最後まで守り抜くように」

    はたから見れば、皇帝が手をつけた女を臣下に下賜したようにしか見えないだろう。しかし、のちの夫となるその男性は、とても優しかった。







    女性は、先ほどの絵の具の染みを拭うためにタオルを取り出した。

    ──もう30年も昔のことよ。これはあのときの血でもなければ、涙でもない。

    そう思いながら、落ちた絵の具の上に優しくタオルをあてる。絵の具はすうっとタオルに吸い込まれ、やがてその場所は元の白い色へ戻った。
    「あの人の言う通りだわ。疲れているのね」
    夫を待たせてはいけないと、女性は椅子から立ち上がった。そのとき、扉の向こうのリビングから、一つの馴染みある単語が聞こえた。

    『──……月5日──……ピリカ──……──襲撃──』

    夫がテレビを見ているのだろう。女性は扉を開けると夫のそばに近寄り、自身も画面を見つめた。
    見ると、ピリカの大統領官邸と思われる建物が多くの戦車に攻撃され、炎をあげる様子が映し出されている。画面右上には、『ピリカ星軍事クーデター発生か』という文字が大きく表示されていた。
    「大変なことになった……」
    男性は青ざめた様子で、つぶやいた。
    「君の故郷で軍隊が反乱を起こしたらしい。大統領の安否は不明だそうだ」
    男性はそう言うと、コートを手に取った。
    「すまないが、散歩は後日にしてくれ。私はすぐに皇帝陛下のところへ行く。君も家から出ないように」
    男性は身支度を整えると大急ぎで家を出た。女性は夫の姿を見送ると、再びテレビに目を移した。

    テレビには、懐かしいピリカの街並みが映し出されている。しかし美しい街並みは、爆音と共に次々と破壊され、人々が逃げ惑う様子がとらえられていた。

    「……あいかわらず不公平だわ……」

    画面を見ながら、女性はつぶやいた。
    「ピリカからは、この国のことは何も分からないのに、この国からは全て丸見えだなんて……」
    そのとき、画面に一人の男の姿が映った。紫の軍服を身にまとい、炎上する官邸を見つめるその男には見覚えがあった。

    ──ギルモアさん……!!

    女性は目を見開いた。あの軍服は、軍のトップだけが着ることのできる特別なものだ。そんなたいそうなものを、かつての夫が着ているということは。
    「……あなたが将軍。あなたがクーデターを起こしたの……」
    女性は呆然と画面を見つめた。
    画面の中のかつての夫は、30年前とは違っていた。年齢を重ねたせいか、顔には多くの皺が刻まれ、表情も険しい。妻が姿を消してから30年。その年月は、ギルモアにとって決して幸せなものではなかったことが、女性には感じられた。
    そのとき、ギルモアの目がこちらを見た。正確には、極秘でピリカの内情を知るために、この国から飛ばされた偵察カメラを見たのだろう。しかし女性にはなぜか、その目は間違いなく自分を見つめているように思えた。


    「─────。───────────」


    「!!」
    ギルモアがカメラに向かって放った言葉に、女性は目を見開いた。30年前に使うのをやめたピリカ語が、鮮明に蘇っていく。
    やがて、カメラは爆発に巻き込まれたのだろうか。ギルモアを映し出していた画面は突然、砂嵐に切り替わった。女性はチャンネルを回したが、どのチャンネルを見てもピリカの様子を映し出すものは、もうなかった。

    女性はテレビの電源を切ると、その場に立ち尽くした。いつの間にか、頬には涙が伝っている。

    『3日後には戻ってくるわ』

    拉致される前、自分がギルモアに最後に言った言葉だ。
    女性は静かに微笑んだ。かつて愛した夫が、遠く離れたピリカから画面を通して自分へかけてくれた言葉に、とめどなく涙があふれてくる。

    「……ありがとう。ギルモアさん……」

















    地面に落ち、大破した偵察カメラを見ながら、ギルモアはつぶやいた。
    「ふん、不公平なものだな。あちらはピリカをずっと監視していたというのに、わしは妻の墓の場所さえ聞くことができなかった。偵察カメラは全て破壊したのか?」
    「もちろんです」
    ドラコルルが答えた。
    「怪しげな飛行物体は全て始末しました。上空にもレーダーを張り巡らせてあります。今後は、このようなものは寄せ付けません」
    ドラコルルはそう言うと、大破した偵察カメラを踏みつぶした。
    「仕事が早くて助かる。一言、妻に伝わればそれで良い」
    ギルモアが口を開いた。
    「ここまで不公平な関係であるのに、皇帝の表面的な謝罪にだまされおって。何が友好だ。やはり、あの大統領ではダメだ」
    ギルモアの言葉にドラコルルは笑みを浮かべた。
    「所詮は子どもです。他人がいかに信用できないものなのか、そんな考えすら浮かばないのでしょう」
    ギルモアも同じように顔に笑みを浮かべた。
    「あの子どもにとっても、よい勉強になったはずだ。わしがいつまでも黙って話を聞いていると思うな。国民とて、馬鹿ばかりだ」
    ギルモアは続けた。

    「一人の人間が拉致され、その人生を奪われたというのに、『救出すべきでない・分からない』だと? 自分が拉致されても同じことが言えるのか?」

    そう言うと、ギルモアは空を見つめた。
    「長官。わしは皇帝になるぞ。まずはあの国と対等にならなければ、対話すら満足にできん。防衛費も好きなように使え。この国を強い国にするのだ」
    「承知しました」
    ドラコルルはギルモアに頭を下げた。ギルモアはドラコルルを一瞥したのち、再び大国がある空の方へ向き直った。


    「……そこにいるのだろう?」


    ギルモアは空に向かって呼びかけた。夕刻を迎えた空は、街から上がる炎によって、赤く燃え上がっている。






    「待っていろ。わしが絶対に助けてやる」







    おわり
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