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    クーデターの背景を考察した小説①

    ・全5話予定
    ・オカルト要素あり

    #宇宙小戦争2021

    語られなかった真実  -第一章-カーテンの隙間から差し込む白い光に女性は目を覚ました。肌に触れるシーツの柔らかな感触に、自分が何もまとわずに眠ってしまったことを思い出す。女性は気恥ずかしそうに、隣で眠る男に目をやった。
    「ギルモアさん」
    男から返事はない。穏やかな寝息を立て、気持ちよさそうに眠る男に、女性はもう一度声をかけた。
    「ギルモアさん。朝よ。起きて」
    「……ん……」
    ギルモアがゆっくりと目を開ける。寝ぼけた目で自分を見つめる夫の姿に、女性は微笑んだ。
    「珍しいわね。いつもはあなたの方が早起きなのに」
    「……3日間、任務で家に帰れなかった夫に言う言葉とは思えんな。帰宅して早々、抱きついてきたのは誰だ」
    「ふふ。ごめんなさいね」
    女性はそう言うと、朝食の支度をするため、台所へ向かった。


    「今日と明日は休めるのでしょう?」
    コーヒーを飲みながら、女性はギルモアに問うた。
    「ああ。悪いが今日はゆっくりさせてもらうよ。まだ疲れが取れていない」
    「もちろんそれはかまわないけれど、私も明日からしばらく家をあけるのよ。だから数日、家のことはお願いするわ」
    女性の言葉に、ギルモアは朝食の手を止めた。
    「……聞いていないな。いつ決まった?」
    「昨日、局長から指示を受けたの。場所は北部山岳地帯のY12号地点の地震観測小屋よ」
    「Y12号地点だと?」
    ギルモアは女性を見つめた。
    「不思議な巡り合わせだな。君のお祖父さんの家は、確かあの辺りだったと聞いているが」
    「そのまさかよ。50年ほど前だったかしら。あの一帯は流星の落下が多くて、危険だから閉鎖区域になったのは知っているでしょう?祖父もそれに合わせて、別の街に移住したの。もしかしたら、祖父が住んでいた家が残っているかもしれない。そう思うとワクワクするのよ」
    「妙に嬉しそうなのは、そのせいか。任務の内容は観測小屋の点検か?」
    ギルモアの問いに女性は得意げに笑った。
    「各地の地震観測小屋の点検任務。その責任者に今回初めて選ばれたのよ」
    女性は嬉しそうに続けた。
    「特にあそこは、軍の諜報部でも一部の人間しか立ち入ることのできない特別な場所よ。『国家機密を扱ってる』って感じがしない? 昇進した甲斐があるわ」
    「そんな大それたものでもあるまい。君は本当に仕事が好きだな。局長も同行なさるのか?」
    「いいえ」
    ギルモアの問いに女性は答えた。
    「命令書には、私の名前しかなかったわ。初めての任務だから、てっきり局長もご一緒なさるかと思ったけれど。よほど信頼されているのかしら」
    「何にしろ、あそこは危険な場所だ。観測小屋の点検が終わったらすぐに帰ってきてくれ。くれぐれもお祖父さんの家など探さんようにな」
    「分かったわ」
    クスリと女性が笑った。
    「3日後には戻ってくるわ」





    「本当に、誰もいない場所ね……」
    女性は荒涼とした大地にポツンと立つ、小さな観測小屋の前で車を停めた。高緯度ということもあって空気は冷たい。周辺の木々は来たる冬に備え、夏の間にしげった葉をすでに落としていた。
    流星の落下に備えてであろう、観測小屋は頑丈なコンクリートで造られていた。しかし、その壁にはこぶしほどの大きさの窪みやひび割れがいくつも見て取れた。おそらくは近くで落下した流星の破片が飛び散ってできたものだ。女性は携帯したレーダー端末に目をやった。

    ……大丈夫。流星の情報は入っていない。

    万が一、今、流星が落下したところで目の前の小屋に避難すればよいのだ。小屋が破壊されるほどの衝撃など、そうそう起こるものではない。女性はレーダー端末をしまい込むと、点検作業に取りかかった。

    「外壁は異常なし。次は小屋の中ね」
    女性は扉の鍵を開け、中に足を踏み入れた。
    小屋の中は、非常にシンプルな造りであった。打ちっぱなしのコンクリートの壁に窓はないが、天井には光を取るための小さな天窓があいている。天窓から差す光の先、部屋の中央には地震計が設置され、一定の速度でその針を揺らしていた。この針が刻むデータが、遠く離れたピリカの首都へ流星の落下規模を知らせているのだ。女性は感慨深そうに地震計を見つめた。
    「部屋の中も異常なし。よかった」
    そうつぶやき、ぐるりと周囲を見渡す。そのとき、女性はあることに気がついた。

    ……カメラ?

    女性は、天井の隅に備え付けられていた監視カメラに違和感をもった。カメラ自体は、本部が地震計の様子をリアルタイムで把握するために設置したもので何も問題はない。女性が違和感をもったのは、本来カメラに灯っているはずの光が無いことであった。

    ……電源が落ちている……?

    女性はカメラに近づいた。やはり、カメラに電源は入っていない。
    「壊れているのかしら? それとも、外の発電装置の故障? どちらにしろ報告しておかないと……」
    女性が通信機を取り出した、そのとき。
    カッと天窓から差し込む光の色が赤く変わった。と同時に、耳を塞ぎたくなるような凄まじい轟音が小屋の中に響きわたった。
    「……!?」
    女性は慌てて小屋の外へ飛び出した。空を見上げると、大きな赤い光の玉がものすごいスピードでこちらへ向かってきている。流星の落下だ。

    ──まずい!!

    女性は身を守るべく、小屋の中へ走り込んだ。部屋の隅に身をかがめ、通信機を取り出す。
    「こちら北部山岳地帯Y12号地点!! 諜報部所属の──」
    女性は自身の名を告げた。しかし通信機から返事はなく、ザーザーと響く砂嵐の音が、自身の声さえもかき消してしまっていた。
    「本部、聞こえますか!! こちらY12号地点! 流星の落下を確認!! 大きいです! 本部──」
    通信機から返事はない。女性は通信機を床に叩きつけると、レーダー端末を取り出した。必死に過去数時間の記録をたどる。

    ──そんな馬鹿な!! 流星の情報なんてどこにも──

    直後、大きな轟音と共に女性の体は赤い光に包まれた。















    「将軍、聞いておられますか?」
    ドラコルルの問いかけにギルモアは顔をあげた。
    「……ん ……ああ、すまん。何の話だった?」
    「2時間前、北部山岳地帯に落下した流星の規模について、およその値が出ましたので、ご報告しようと……」
    「ああ、そうだったな……」 
    ギルモアはバツが悪そうに頭をかいた。2時間前、レーダーが感知した流星は見事に例の場所に落下したようだ。流星の落下は珍しいことではないが、落下のたびにギルモアは、妻の身に起こった悲劇を思い出さずにはいられなかった。妻が死んだのはもう30年も前のことだというのに。
    「すまん。昔のことを考えていた。して、推定される流星の規模は?」
    「地震計の数値では、規模は中程度。周辺地域への被害も確認されておりません。ただ、念のため、観測小屋の点検は行ったほうがよいと思います」
    「そうか。小屋内のカメラは生きているのか?」
    「それは把握できておりません。ですが、長年使用してきた建物ですので、外壁部はかなり傷んでいると、数年前より部下から報告を受けております。……将軍、お顔色が……」
    ドラコルルはギルモアを見つめた。
    「お顔色がすぐれません。もしやとは思いますが、奥方のことをお考えでは?」
    ドラコルルの言葉に、ギルモアは力無く笑った。
    「……お前には敵わんな。その通りだ。知っての通り、わしの妻は30年前あの場所で死んだ。それこそ、観測小屋の点検任務中にだ。気持ちが顔に出ておったとは、情けないことだな」
    「最愛の方を亡くされたのですから無理もありません。ご遺体も見つからなかったのでしょう?」
    ギルモアは顔を曇らせた。
    「……せめて遺体が見つかっていたら、諦めもつくものを。わしは今でも納得できんのだ」
    ギルモアは続けた。
    「3日後に帰ると言っていた妻と連絡が取れなくなり、わしはすぐに現地へ飛んだ。もちろん、そこに妻の姿はなかったが、わしが納得できぬのはその後のことだ」
    ギルモアはさらに続けた。
    「たしかに観測小屋の周囲には焼けただれたような後はあった。だが、妻の体がなくなるほどの……、そんな大規模な火災や衝撃があったようには、とても見えなかった。わしからすると、妻だけが忽然と消えたようにしか思えなかった」
    「……私もその件については、存じております。ですが、地震計とレーダーの記録。これだけは疑いようがありません。当時の記録を見るに、確かにあの日、Y12号地点で流星は落下していました」
    「もちろんだ。だから最終的に、流星の落下に巻き込まれたことによる殉死だと、世間的には思われておる。納得できないのは、わしの感情の問題だ」
    「……」
    ドラコルルは黙り込んだ。

    一つの国において、毎年何人か行方不明者は出るものだが、ギルモアの妻もその一人であった。軍の諜報部に所属し、北部の地理を担当していたそうだが、30年前、ギルモアと結婚してまもなく、流星の落下事故によって彼女は帰らぬ人となった。
    しかし、遺体が見つからないこと、そして何より、流星が落下したとは思えない現場の不自然な光景を目の当たりにしたことで、年月がたってもなお、ギルモアは妻のことを考え続けていた。この歳まで独身を貫くギルモアの姿に、ドラコルル自身、一種の尊敬の念を抱いていた。

    「観測小屋の点検にはいつ発つ?」
    ギルモアがドラコルルに問うた。
    「明日です。私自身、初めての場所ですので、少し詳しく見てこようと思っております」
    「くれぐれも気をつけて行ってこい。お前までいなくなっては、わしも耐えられそうにない。レーダーを忘れるなよ」
    ギルモアはドラコルルに微笑みかけた。





    「ボロボロではないか……」
    ドラコルルは目の前の小屋を見つめた。数十年、風雨に晒され、かつ幾度となく流星の衝撃に耐えてきた小屋は、いつ崩壊してもおかしくない状態であった。コンクリートの壁はひび割れ、ところどころ剥がれ落ちている。しかし、壁に取り付けられた発電装置。これだけはほんの数年前に新調されたもので、なんともアンバランスな小屋の外面にドラコルルはため息をついた。
    「改修の予算を組まねばならんな。どうせ中もひどい状況だろう」
    そう言うと、ドラコルルは周囲の状況を確認すべく、小屋を後にした。


    殺風景な大地には、当然のことながら自分以外に人の姿はない。だが、歩きながら時おり目にする廃墟の数々は、昔、この地に人の営みがあったことを確かに示していた。

    ……こんな場所によく住んでいたものだ……。

    かつてこの地に住んでいた人々も、たび重なる流星の被害に悩み、故郷を捨てて他の地方へ移り住んでいったという。ついには80年前、この地は無人となり、以降は国有地として、国に管理されることになった。
    ドラコルルは、目に入った低い石垣に腰をおろした。おそらくは建物の基礎部分だ。
    「さて、先日の流星はどれほど地形を変えたのか」
    ドラコルルは、自身の位置を確認するためGPSを取り出した。続いて、この地の地形図を広げ、照合を試みる。そのとき、地形図に描かれた地図記号の一つにドラコルルの目が止まった。

    ……墓地?

    今、自分は観測小屋から1キロほど離れた平坦な盆地の端にいる。そのすぐ近く、少し斜面を登ったところに墓地があることを地形図は示していた。
    「……廃墟に、墓地か。実に不穏だな」
    怖いもの見たさとも言える不思議な興味が芽生え、ドラコルルは斜面へ向かった。


    ゆるい斜面には、数基の古い墓石が立っていた。かつてはもっと数もあっただろうが、人々がこの地を離れるに合わせ、その先祖の墓も移転されたのだろう。残っているのは10基もない。しかも、流星が引き起こす地震により、倒れてしまっているものもある。現在とは違う墓の形状から推測するに、おそらくは100年以上前に立てられたものだ。

    ──ピリカ旧暦2570年 4月2日没 享年35……

    ドラコルルは一つ一つの墓の周りを歩きながら、そこに刻まれている文字に目をやった。

    ──ピリカ旧暦2570年 4月2日没 享年29……。……?

    先ほどの墓も4月2日と書かれていたような? ドラコルルは次の墓に歩みを進めた。

    ──ピリカ旧暦2570年 4月2日没 享年18

    ドラコルルは目を見開いた。足早に他の墓石にも目を通す。すると予想どおり、ここにある墓石に刻まれている没年月日は、全て同じ日付となっていた。
    「伝染病か? それとも大規模な地震でも起こったのか……」
    ドラコルルが過去の流星の落下データを確認しようと端末を取り出したそのとき。


    ゾワリと嫌な寒気が、ドラコルルの体を一瞬包んだ。


    「!?」
    ただならぬ悪寒に、ドラコルルは慌てて周囲を見渡した。しかし、周囲の様子に変わったところはなく、人はおろか動物すら見当たらない。

    ──なんだ、今のは……

    言いようのない不吉な気配を感じ、ドラコルルは急ぎ足でその場を後にした。



    観測小屋付近のおおよその地理を把握したドラコルルは、街へ車を走らせながら、静かに考えた。
    「旧暦2570年4月2日……。調べてみる価値はあるかもしれん」
    あの場所で感じた不吉な気配を、ドラコルルは忘れることができなかった。





    つづく
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