しあわせのあさスペインでは朝食を2回食べるというのを聞きました。わかりにくいので2回目の方は“軽食”と表現してます。
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ヴゥン。
「……んっ」
起動アラームをセットしているハックの起動音で目を覚ます。薄暗い部屋の中、サイドテーブルの上でぼんやりと緑に光るハックに背を向ければ、大きな口を開けて寝息を立てる恋人がいる。
(今日は涎垂れてないんだな)
ちゃんと口を閉じて寝ている日もあれば、今日みたいに口を開けっぱなしで寝ている日もある。いつだったか、肩のあたりが酷く冷たい感触で目を覚ましたら人の寝巻きを涎で濡らしていたこともあったな。
喉を痛めるからできれば口を閉じて寝てほしいが、寝ている人間にそれを強いても意味はない。しばらくオクタビオの寝顔を眺めていたら、背後のハックの光が少しだけ強くなるのを感じた。起動してから10分後に一段階明るくなるようにわざわざ設定しているのは、そうしないとずっと眺めていてしまうから。音のアラームにしないのは、オクタビオを起こしたくないから。アラーム音には敏感なようだが、幸い光はあまり気にならないらしかった。
寝息を立てて健やかに眠る恋人の曝け出された丸いおでこに軽くキスをしてベッドを出る。起こさないように音に気をつけて寝室をでた、もちろんハックも忘れずに。
リビングのカーテンを開けると、外は綺麗に晴れていた。
(きっと出掛けたがるだろうな)
あくびを噛み殺しながら、顔を洗って簡単に身支度を整えてからキッチンに向かう。
コーヒーポットに水を注いで火にかける。棚から揃いのマグカップを二つ取り出して、ドリッパー、ペーパーをそれぞれにセット。電動ミルに豆を入れてスイッチを押せば簡単に粉が出来上がる。ふんわりとミルから漂ってくるコーヒーの香りを楽しみながら、挽いた粉を二等分。昨日買ってきたビスケットをトースターに並べるが、まだスイッチは入れない。
お湯が沸くのを待ちながら今日の予定を組み立てる。
(今日は外で軽食を取るのもいいな)
遠目の散歩に行こう。途中で軽食を食べて、またふらふらして昼食を済ませて、できれば夕食の買い物もして帰ってこよう。もしオクタビオが行きたいところがあるなら行けばいい。ないならアテもなく歩いたって構わない。オクタビオがいるなら俺はどこだって……。
ぼんやり考えていれば目の前のポットの中でコポコポと音が立っている。火を止めて、ビスケットが並んだトースターのスイッチを入れた。
Pipipi…。
「よし」
できた。テーブルにビスケットとコーヒーを並べて、今度は音を鳴らして時間を知らせてくれたハックを止める。
きっとまだ大口開けてベッドで寝こけているだろう恋人を起こす時間だ。
今度は音は気にせず寝室の扉を開けた。
「オー。起きろ」
「……ん」
もぞ、と布団の塊が動く。寝室のカーテンも開けると、眩しいと言わんばかりにオクタビオは顔を布団の中に隠した。
「いい天気だぞ」
「ー……」
どうやら今日の恋人はワガママらしい。寝起きは良い――というか物音に敏感で、俺が夜中トイレに立っただけで目を覚ましていることがままある――のでもう目は覚めているはずだ。
ベッドに座って、布団の上からオクタビオをトントン、と叩く。
「オー」
「」
「起きてるのはわかってるんだ」
「……おきてない」
布団の中にいるせいでくぐもった声が俺に届く。ちゃんと起きてるじゃないか。
「良い天気だから、今日は外に軽食を食べに行こう」
「ん」
「起きろ、ほら」
布団を捲るとなんの抵抗もなくあっさりと剥がれた。丸まったオクタビオが少しだけ恨めしそうな顔で俺を見ている。
「おきてねぇって言ったのに」
「どうしたら起きれるんだ?」
ワガママ坊やは。と揶揄えば、むっすりした後にオクタビオはこう言った。
「おはよーのちゅーしてくんなきゃ起きねぇ」
いたずらが成功した子どものようにきらきらと笑う恋人が可愛くてとても愛おしくて。
これが永遠であればと、信じもしない神に祈った。
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結局良い子なので、酒浴びてない限りは寝起き良さそうだけど、たまにこうやって気を許した相手にだけ見せるワガママがあってもいいよね。
でも全然起きれないアラーム山ほどかけるタイプの寝起きの悪いオクも好き。
2022-07-28 一生休日
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2022-08-31 一生休日