揺れる紫※雇われ×オクタン
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(お、仏頂面の上着)
ソファにかけられたままだった真っ黒の上着を手に取って顔を埋めて深く息を吸い込む。
汗と、コロン、うちで使ってる洗濯洗剤の香りと、クリプトの体臭と…………
「煙草?」
仄かに煙草の臭い。俺は煙草嫌いだし、クリプトだって煙草は吸ってないはず。どこか外で臭いが移ったのだろうか。
それにしても上着の内側に臭いが付いてるのが気になる。他人から移ったのなら外側につくはず。
なんとなく引っかかった俺はそれから二週間、クリプトの上着の臭いチェックをすることにした。
そして、俺の出した結論は、
「あんた、煙草吸ってるだろ」
「え?」
セックスが終わった後、俺はベッドに寝転んで、クリプトはベッドの端に座ってガムを噛んでいる。本当は煙草吸いたいんだよな。
「煙草」
「……気づいてたのか。……悪い、やめる」
「やめなくていい」
「でも、お前嫌いだろ」
「引き出し、開けてみろよ」
クリプトがベッド脇のチェストの引き出しを開ければそこには煙草とzippoと灰皿。煙草は多分その銘柄で合ってると思うんだけど。
「…………」
「煙草、それじゃなかったか?」
「いや、これだが。どうしてわかった」
俺からの贈り物を持って不思議そうにこちらを見つめる仏頂面に説明してやれば、一応は納得していたようだった。
「なあ、それ吸ってみて」
「臭いつくぞ」
いいから、と促せば、外装のフィルムを破いて一本取り出し、真新しいzippoがシュッと音を立てて火を点す。
(ああ、この匂い)
煙草を持つ指、咥える口元、煙を吐き出す時の肺の動きにゆるく開いた口。どれもこれもがセクシーで堪らない。
煙草の臭いだけなら嫌いだし、他の誰が吸っててもやっぱり嫌いだが。
(あんたが吸ってるのだけは許せる……ってのは惚れた弱みかな)
窓から入り込む月明かりに照らされて煙草を吸う仏頂面の画と、煙草の匂いと、セックスの後の甘ったるい空気が、俺の気分を最高に良くさせた。
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匂いフェチオクタン
2022-08-09 一生休日
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ベッターから移行
2022-08-31 一生休日