メイドの日「や、いいっす! 遠慮するっす!」
「まぁまぁ遠慮なさらずに♡ ほら、脱ぎ脱ぎしますよォ♡」
必死に追い払おうとするけれどフリフリの真っ白なフリルと黒いメイド服を纏った自称メイドさんは、馬鹿みたいな力で僕の身体を押さえつけて服を脱がそうとしてくる。
(な、なんでこんなことに〜!)
姿が変わったとしても、我を通す彼のふてぶてしい態度は変わらない。ビリビリと言うシャツの断末魔を聴きながら、僕は涙目で抵抗を止めた。
***
「おかえりなさいませェ、ご主人様♡」
アパートの扉を開けた僕の口から飛び出たのは「は?」という、なんとも間抜けな声だった。
「な、なんすかその格好」
「見てわかりませんかご主人様♡ メイドさんでございまァす♡」
「……いや、それはわかるけど。なんで?」
彼は明らかにサイズのあっていない、ピチピチのメイド服を着てグーにした両手を顔の前に持ってきて「きゃは♡」とぶりっ子のポーズをしている。おぇぇ。
なんでも、暇を持て余して衣装ルームで昼寝をしていたところ、姐さんが衣装の整理をしているところに出くわし処分されるところだったメイド服を貰ってきたそうだ。なんで男性アイドルの衣装ルームにフリフリの可愛らしいメイド服があるのかは、僕は触れないっす。
「今日は一日、俺っちがご主人様にご奉仕いたしまァす♡」
「ご、ご奉仕って……。ん、でも燐音くんをこき使えるってことっすか! なはは、普段の憂さ晴らしができるっす〜♪」
「ちなみにご主人様の分のメイド服もございまァす♡ 俺っちに仕向けた倍のご奉仕を、メイド服を着たご主人にしてもらいます♡ ベッドで♡」
「は!?」
決定事項と言わんばかりに、彼は圧を感じる笑顔で良いのけると「お荷物お持ちしまァす♡」と食料が詰め込まれたスーパーのビニール袋を僕の手から奪い取った。
「お食事お持ちしましたァ♡」
「お洗濯しますね♡」
「掃除機かけまァす♡」
食事は僕が朝仕込んでたヤツをチンしただけだし、掃除機はちょこっとかけただけで満足そうに終わってた。それでも甲斐甲斐しく働くメイド燐音くんにちょっと感動したけど、よくよく考えたらこれ、いっつも僕がやってることじゃん。それに気づいた僕は「燐音くんって僕のことメイドさんだと思ってたんすか?」って聞くと「は? おめェは俺っちの嫁だろ」って急に設定忘れて真顔で言ってくるから、ちょっと笑ってしまった。
そんなこんなで奇跡的な安息日を堪能しながら「お風呂が沸きましたァ♡」と教えてくれた燐音くんにありがとっすとお礼を言い、僕はお風呂場に向かった。
「……ん!?」
何故か僕の背中にぴったりついてくるメイド燐音くん。
「な、なんすか。なんでついてくるんすか」
「お身体流してあげます♡」
「や、いいっす! 遠慮するっす!」
「まぁまぁ遠慮なさらずに♡ ほら、脱ぎ脱ぎしますよォ♡」
必死に追い払おうとするけれどフリフリの真っ白なフリルと黒いメイド服を纏った自称メイドさんは、馬鹿みたいな力で僕の身体を押さえつけて服を脱がそうとしてくる。
(な、なんでこんなことに〜!)
姿が変わったとしても、我を通す彼のふてぶてしい態度は変わらない。ビリビリと言うシャツの断末魔を聴きながら、僕は涙目で抵抗を止めた。
「なんでそんなに抵抗するんですか♡ どうせ脱がされンのに♡」
大人しく服を剥かれてる僕を見て、メイドの格好をした彼が笑う。
「だ、だって、変なことするっすよね? お風呂場で……」
「変なことって? ご主人様はナニを考えてたんですか? ん?」
耳元で囁かれ、思わずぶるりと身体が震えてしまう。
「きゃは♡ 期待してンすかァ〜」
「ちが、違うっす!」
思わず否定する僕を見て、メイド燐音くんはニコニコと上機嫌に笑う。
「ご主人様を隅々まで綺麗にしてェ、ベッドに連れてってあげまァす♡」
「綺麗にって!?」
「散々奉仕してやった分、ベッドでたくさん俺っちにご奉仕してもらうンで。足腰立たなくなるまで全身全霊でやれよ♡」
「んぃ〜!?」
悲鳴をあげる僕を鼻で笑ったメイドさんら、僕の手を引いてお風呂場へ入っていった。