無自覚、無意識、その先は無意識だった。
そこに置かれた服に手を伸ばし触れるのも、抱き寄せて服が纏う匂いを吸い込むのも。
「アーサー?」
呼ばれて初めて、自分の行為を自覚した。
「あ、あの、申し訳ありません!クリーニングに出して来ます!」
コノエの顔を見る事が出来ず、抱き締めている上着を元に戻すにも時すでに遅く、アーサーはここから逃げる事を選択した。体を強張らせながら、コノエの横を通り過ぎようとするが、優しい声と強い力で引き止められた。
「待ちなさい、汚れている訳でもないからわざわざクリーニングに出す必要はないよ」
「ですが!その、自分が触れてしまったので」
ただ触れていただけではない。顔をうずめてしまったのだ。化粧をしていないとはいえ、気持ちのいいものではないだろう。
けれど事細かに説明は出来ず、大まかに答えるがコノエは首を縦に振らなかった。
「君が触ったところで何も問題はないだろう?」
「ですが……」
「その代わりと言ってはなんだが」
言い募るアーサーを見て、コノエが考え込むように顎に手を置く。
何を言われるのかと身を固くするアーサーにコノエが笑いかける。
「なに、怖いことでは…ないと思いたいんだが」
「はあ」
歯切れが悪い、とアーサーが気を抜いたその一瞬。
「僕も少しいいかな?」
コノエが距離を詰め、アーサーの体を腕の中に閉じ込める。
「か、艦長!?」
慌てふためくアーサーを放って、有ろう事かコノエがアーサーの上着、襟の辺りに顔をうずめている。
そして、すう、っと何かを吸い込む音がした。
「……っ!!」
息が止まりそうだった。
身動きが取れず、アーサーは身を固めたままコノエの気が済むのを待った。強くコノエの上着を掴んでしまっているとも知らずに。
「ああ、君の匂いがするね。けれど、」
ようやく解放されたかと思えばコノエの瞳がアーサーを捕らえて離さない。
「こちらは匂いが移ってしまって、どちらのものかわからないかな?」
強く握り締めたコノエの上着は、皺が寄って今度こそクリーニングが必要だとわかる。
けれど何故か、すぐに持ち出すのを惜しいと思ってしまった。