ないしょのおでかけ「のいまんくん、つぎはあっちにおねがいします」
「わかりました」
ノイマンの腕に抱かれて、アーサーは高くなった視界を楽しむように忙しなく頭を動かす。あちこちを向きつつ時には体を乗り出して先を見ようとするので、落としそうになったのは一度や二度ではない。その度に抱き直し、背中を叩いて落ち着くように促した。
そのうちに落ちないように、と上着をしっかり握り締めるアーサーの様子に、内心可愛いと思いながら共に歩みを進める。
「ここは…」
そうして辿り着いた場所には、小さなお店があった。テイクアウト専門の店舗らしく、ショーケースが一台と、こちらに背を向けて作業をしている店員のみである。
「のいまんくんは、メロンパンとクリームパンはどっちがすきですか?ボクのおすすめは、ほいっぷかすたーどクリームパンです」
「選択肢増えてますね」
メニュー表を探すが特になく、ショーケース内にはアーサーが言うようにメロンパンとクリームパンのようなものが置いてあった。ノイマンの知るクリームパンとは形状が違っている。
「ここはなかのくりーむをえらべるんです!」
ノイマンの上着を握りしめて、興奮気味にアーサーが説明する。
「アーサーは甘い物が好きなんですか?」
「つかれたときにはあまいものがいちばんです!のいまんくんも、きょういちにちボクをだっこしてつかれたでしょう?ボクのとくべつ、ないしょでおしえてあげます」
立てた指を唇に押し当てて言う様は何とも可愛らしく、ノイマンは緩む頬を引き締める。
そして今日一日共に過ごした事を労おうというアーサーの気持ちが嬉しかった。
「ありがとうございます。それじゃあ、アーサーのおすすめにします」
「やったぁ!のみものもかって、ボクのすきなひみつのばしょでいっしょにたべよう!」
「いいですね」
すみません、と店員に声を掛けて注文をする。ノイマンにはよくわからない呪文をアーサーが唱え、暫くしてケーキの箱を手渡された。想像しているものからだいぶ遠ざかっているが、受け取ったアーサーが嬉しそうにしているのでよしとした。
次のアーサーのお気に入りの店に行き飲み物を調達し、とある海辺へやって来た。
これがアーサーが言う秘密の場所らしく、並んで座り海を眺めながらホイップカスタードクリームパンを頬張る。
「おいしいね!」
「あまいですね。おかげで疲れが吹き飛びそうです」
「それならよかったー!」
もぐもぐとクリームいっぱいのクリームパンを頬張ったアーサーの両頬には、予想通りクリームが付いている。しかしどうせ汚れるから、とクリームを拭おうとしたノイマンの手を遠慮して食べ進めている。
幼児化の影響なのか、元々なのかが分かりづらい。
「そういうのいまんくんもほおにくりーむついてるよ」
「え、どこですか?」
「こっち!」
小さなアーサーの手が伸びてノイマンの頬に付いたクリームをすくい、自身の口に運んだ。
「おいしいね!」
「……そうですね」
仕返しと言わんばかりにノイマンもアーサーの頬に付いたクリームをすくい、舐める。
「俺には少し甘いですけど」
「ええ〜このあまいのがいいのに!」
「普段どれだけ疲れてるんですか」
「それなりに?」
「そうですか」
ノイマンはそれ以上踏み込むのを止めた。
「食べ終わったら少し遊んで行きますか?俺プラントの海初めてなので、足だけでも入ってみたいです」
「のいまんくん、ぷらんとのうみはじめてなんだ?じゃあ、きょうははじめてがいっぱいのひだね!」
「そうですね。二人だけの秘密ができた日ですね」
「なんだかわるいこになったきぶん」
「なんでですか」
はは、と吹き出すノイマンと一緒にアーサーも声を出して笑い合う。
その言葉通り、水遊びで全身びしょ濡れになって帰路につき、コノエから長い説教を受けたのだった。