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    MondLicht_725

    こちらはじゅじゅの夏五のみです

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    MondLicht_725

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    夏五版ワンドロワンライ第69回お題「終わりの日」お借りしました。
    0最後から、違う世界に飛んだ夏の話。

    #夏五
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    夏五版ワンドロワンライ第69回お題「終わりの日」 全ての始まりの日は、いつだろうか。
     この世界に生まれ落ちた日か。初めて家の隅に漂う呪いを視認した日か。
     それとも――満開の桜の下で、君と初めて出会った瞬間だろうか。


    「素晴らしい、素晴らしいよ」
     一歩、また一歩。壁にほとんど凭れるように、ゆっくりと、しかし確実に前へ進んでいく。
    「正に世界を変える力だ」
     片方の腕が吹き飛ばされたせいで、うまくバランスが取れない。しかし麻痺しかけてはいるが痛覚によって、今にも飛びそうになる意識を、まだ辛うじて留めることができていた。
     ここで立ち止まって倒れ込んで、目を閉じてしまえば、すぐに楽になれるとわかっていた。
     それでも、夏油自身がそれをよしとはしない。
     まだ、なにも成し遂げてはいない。
     まだ、諦めていない。
     どんなに低い勝率だろうと、夏油は本気だった。あの強大な呪いを手に入れれば、必ず大義を成し遂げられると――世界を変えられると信じていた。
     ただあの少年が、乙骨憂太が、夏油の想定以上の能力者だったというだけで。
     ――いや、もうひとつ。
     彼の、彼らの「愛」とやらが、とても強固だったのだ。
     それは、今の夏油には持ちえないものだ。
     それでも。
     夏油はまだ、生きている。
    「次だ、次こそ手に入れる!」
     砂利を踏み締める音がする。肌に馴染んだ、しかし今は遠い存在となった呪力を全身で感じる。
     帳が溶けた空は、まもなく来る朝の色に染まり始めている。
     その瞬間、ほんの数秒前まで燻り保っていたすべてが、凪いて消えていく。
     この世でひとりだけ、それが可能な相手。

    「――遅かったじゃないか、悟」

     最期に、見た光景は。
     とても美しい色をしていたと、素直に思った。




















    「――――から!頼むよ」

     妙に、騒がしい。

    「びょういん?いやだってさ、連れてけねぇじゃん、こんな怪しいやつ」

     誰かが、ひとりで騒いでいる。微かに聞こえる声だけでも、妙に焦った様子で、何かを必死に訴えていた。

    「や、警察はもっとダメでしょ。――いやだってさ、ほら…あまりにソックリだから」

     その声には、聞き覚えがあった。
     というより、ついさっきまで会話をしていた。最期に見た色。最期に与えられた言葉。
     あれで、私は終わったはず…なの、だが?

    「それはない。だってあいつがここにいるはずない。それは断言できる。別人のはず――なんだけどさ、あまりにその、似てるんだって!」

     試しに重い瞼を持ち上げてみる。眩しさにすぐにまた閉じて、再び開ける。そうして瞬きを何度か繰り返すうちに、徐々に目が慣れてくる。
     最初に見えたのは真っ白な灯り。太陽とか、月とか、そういうものではない。丸型は丸型だが、自宅の天井にもあった、ごく普通のシーリングライトである。
     ライトはもちろん、天井にくっついていて、そこから視線だけを移動させていくと壁に至り、青いカーテンに到達する。
     ――なんだ、これは。
     天国ではありえないが、地獄にしたって奇妙すぎる。これはまるで――ただの部屋の中だ。
     それに、すぐ近くで聞こえるこの声。

    「汚れてたからとりあえず着物も脱がせたんだけどさ、すっげぇ高そうで…これこのまま洗濯機突っ込んでいいと思う?――あ、やっぱり?でもクリーニング持ってったら怪しまれない?ネタで使うには上等すぎるっしょ」

     恐る恐る、そちらへ視線を動かす。
     案の定見えたのは、灯りに照らされてキラキラと輝く銀色の後頭部である。最期に見たときより、襟足が少し長い。
     立っているせいで――さらに私は寝転んでいるようなので――長身がさらに際立ち、なぜか美々子と菜々子に強請られて連れて行ったスカイツリーを思い出した。

    「待てって、な?頼むよ。見た感じ怪我はしてなさそうだけど、頭とか打ってたらやばいじゃん?ちょーっとだけ寄ってちょーっとだけ診てよ、頼む」

     右手には、薄型のスマートフォン。そこでようやく、盛大な独り言ではなく、電話の向こうの誰かと話しているのだと気づく。
     しかし、ひとりで喚いているヤバいヤツじゃなかったとわかったところで、疑問と不安は1mmも消えない。
     この状況は、一体なんなんだ。
     いや状況はわかる。どこかの部屋のフローリングの上に寝かされていて、傍らには元親友が誰かに捲し立てている。
     問題は、一体なぜこうなったのかということだ。
     あの瞬間、私は終わったはずだ。他ならぬ彼の手によって、大義も、夢も、すべてを失ってしまったはずなのだ。
     体はひどく怠く、重い。指先を動かすのさえ億劫である。本当ならお決まりに、頰を抓ってみたいところだが、これでも十分わかる。
     これは夢ではないのだろう。そもそも、死人は夢など見ないだろう。

    「わかったわかった、ダッサイでもダッタンでも買ってきてあげるから!――サンキュ、待ってるね!」

     いや獺祭は買うとすればかなり高い――などとどうでもいいことに逃避しそうになった瞬間、通話が終わった。
     くるりと、長身が振り向く。
     最期に見たときと同じ、遮るもののない青が、私に気づいて大きく見開かれた。



     終わりの日は、新たな始まりの日。
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    おはぎ

    DONEWebイベ展示作品③
    テーマは「くるみ割り人形」 現パロ?
    彫刻と白鳥――パシンッ
     頬を打つ乾いた音がスタジオに響く。張りつめた空気に触れないよう周囲に控えたダンサーたちは固唾を飲んでその行方を見守った。
     水を打ったように静まり返る中、良く通る深い響きを持った声が鼓膜を震わせる。

    「君、その程度で本当にプリンシパルなの?」

     その台詞に周囲は息をのんだ。かの有名なサトル・ゴジョウにあそこまで言われたら並みのダンサーなら誰もが逃亡しただろう。しかし、彼は静かに立ち上がるとスッと背筋を伸ばしてその視線を受け止めた。

    「はい、私がここのプリンシパルです」

     あの鋭い視線を受け止めてもなお、一歩も引くことなく堂々と返すその背中には、静かな怒りが佇んでいた。
     日本人離れしたすらりと長い手足と儚く煌びやかなその容姿から『踊る彫刻』の異名で知られるトップダンサーがサトル・ゴジョウその人だった。今回の公演では不慮の事故による怪我で主役の座を明け渡すことになり、代役として白羽の矢がたったのが新進気鋭のダンサー、スグル・ゲトーである。黒々とした艶やかな黒髪と大きく身体を使ったダイナミックなパフォーマンスから『アジアのブラックスワン』と呼ばれる彼もまた、近年トップダンサーの仲間入りを果たした若きスターである。
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