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    MondLicht_725

    こちらはじゅじゅの夏五のみです

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    #夏五
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    【夏五】早い者勝ち「ねぇそこのお兄さん、随分悪いモノ憑けてるねぇ。このままじゃ君、あと数日で死ぬよ。間違いない。僕にはわかる。死にたくない?なら助かる道はひとつだけ、僕と一緒にそこのファミレスに行こう」

     誰あんた、とか。なにその胡散臭い話、とか。この後約束があって、とか。言い返したい言葉は喉元まで次々這い上がってくるのに、実際に出たのは「ああ」だとか「ええ」だとか「うう」だとか、意味をなさない音だけだった。OKとも応えていないはずなのに、半ば引きずられるようにファミレスに入ったのは大体10分前。
     平日だというのにそこそこ混んでいる店内の一角、向かい合って座る謎過ぎる怪し過ぎる男は、浮ついた声で期間限定パフェの注文を終えたところだった。席について、メニューを広げて数分。季節限定にするか、スペシャルにするか悩んだ末での結論だ。
     満足げにメニューを元の場所に戻して、ようやく視線が合う。

    「さて、本題に入ろうか」

     ちらりと、テーブルの下の腕時計を見る。約束の時間まですでに1時間を切っていた。余裕をもって出てきたはずが、これでは走ってもギリギリと言ったところだろう。ギリギリだろうとなんだろうと、今すぐここを離れれば間に合う。わかっている。今すぐに動くべきなのだと。けれど、体は凍り付いたように動かない。動けない。
     ならばと仕方なく、強引に私を連れ込んだ相手を観察する。見ず知らずの、初対面であるはずの男は、ひどく目立つ容姿をしている。今は座っているのでさほど差はないが、話しかけられたときにはうんと見上げなければならないほど背が高かった。今は目線が同じくらいということは、腰から下がかなり長いということだ。決して、私の足が短いわけではない――はず。
     他にも目立つ要因はある。まず、顔を見た感じまだ若そうなのに、随分と年を経たかのような真っ白な髪だ。他にも髪を染めている客はそこそこいるが、混じりっ気のない純度100%の白はやっぱりひどく目立つ。
     それでいて色に負けることのないかなり整った容貌をしていた。男の私でも、見惚れてしまうくらいに。あちこちから熱い視線が向けられているが、男が気にする様子は一切ない。きっと、こういう状況に慣れているのだろう。
     そんな、モデルか芸能人かと言わんばかりの容姿端麗な男が口にするのがなんとも胡散臭い内容なのだから、ギャップに眩暈がする。人を惹きつけるという面では適材であると言えなくもない、のかもしれない。誰だって見るからに胡散臭い男よりは綺麗なお顔に「神を信じますか?」なんて言われたら勢いで頷くだろう。たぶん。

    「あ、あのぅ」

     一応まだそこまで骨抜きにされていない私は、やっぱり帰ってもいいですかと意を決して告げようとした。けれど、ズレたサングラスから突如覗いた、不可思議な色合いの双眸に射貫かれて口をつぐんでしまう。
     なんて綺麗な色なんだろうかと、一瞬状況を忘れて見惚れた。青に違いはないが、はっきりと形容するのが難しい色。空の青とも海の青とも違う。じぃ、っと、その宝石のような目玉に見つめられて、なんとも居心地が悪い。一体何が。尋ねる前に、向こうが口を開いた。

    「君、最近体ダルイでしょ。特に、頭から右肩にかけて」
    「えっ」
    「あとは――変な幻覚を見る。しかも右目だけ」

     身長と同じく長い指が、自らのこめかみを叩いた。
     きっと世の中の怪しげな霊媒師やら占い師は、こうして人の心を掴むのだろう。まさか身をもって体験することになるとは思わなかった。初対面の相手にずばり言い当てられれば、「怪しげな」はどこかへ飛んで行ってしまう。
     言葉が出てこない。なにしろ、男が言うことは――すべて本当のことなのだ。
     足を止めてしまったのも、胡散臭いはずの話に耳を傾けてしまったのも、すべてそのせいだ。
     体の不調は、1か月前から現れた。なにがきっかけなのかは、いまだにわからない。最初は軽い頭痛と体の怠さ。昔から片頭痛持ちなのでいつものことだろうと軽く思っていたが、いつまで経っても治らない。市販の頭痛薬も効かない。それどころか、症状は悪化する一方で、さらには右肩に石でも積み上げてるのかってくらい重くなりはじめた。
     そして1番の大きな問題が――この、右目である。
     視線を、男から外して横へ移す。隣のテーブルに食事を運んでいる店員の貼り付けた笑顔が、突如爛れて崩れ始め、しまいに骸骨になる。慌てて右目を手で塞ぐと、それはす、っと消える。ニコニコ笑う、店員の顔。外すとまた、骸骨に成りはてる。店員だけではない。接客している家族連れも、その向こうのカップルも同じ状態に見える。街を歩く人々、全員そうだ。
     ただひとり――目の前の白髪の男だけがなぜか変わらない。
     最初の頃は、見えるたびに悲鳴をあげていた。叫んで、逃げ出そうとして、周囲に奇異な目で見られたものだった。心配して近づいてくる家族や友人、同僚たちも拒絶した。なにしろ私には、それらが肉が溶け落ちた骸骨に見えていたからだ。
     それが幻覚なのだと自覚したのは何日も経ってからで、現在交際しているの彼女に思い切って打ち明けたからである。嫌われたら、呆れられたら、バカにされたらどうしよう――不安で誰にも打ち明けられなかったのだが、彼女は真摯に聞いてくれて、心配してくれた。
     おかげで少しばかり肩の荷は下りたが、病院に行っても体に異常はないし、神社や寺でお祓いしてみても結果は同じ。むしろ日々状態は悪化していた。
     どうにかならないかと方々探して、藁にもすがる思いで彼女が見つけてきたのが――これから向かうはずだった場所である。
     こういう、私のような原因不明の不調や幻覚に苦しむ者たちが相談に行くと、たちどころに解決してしまうと評判の。

    「君が行こうとしてたとこ、止めといた方がいいよ」

     いつのまにか、男の前には真っ赤なイチゴがふんだんに乗っかった大きなパフェが、私の前には、なにがいいかと訊かれてなんでもいいやと咄嗟に口にしたコーヒーが置かれている。いつ来たのか、思考の中に沈んでいたらしい私はまったく気づかなかった。

    「アソコ、腕は確かだけど、かなりぼったくるって話」
    「え、でも、」

     相談内容によっては無料でなんとかしてくれると、彼女は言っていた。だからこそ感謝して、大勢の「信者」たちが集まるのだと。だから行きましょう、不安なら一緒に行くから――そう手を握りしめてくれた彼女は結局、急な仕事で来られなくなった。だから私は今、ここにひとりでいるのだ。

    「それってさァ、完全に洗脳の入り口じゃない?1回だけで済めばいいけど。アイツはきっとこう言うよ。”あなたはこう言ったものに好かれやすいタイプのようだ。定期的に祓わないと、同じことが繰り返される”――で、2回目3回目と続いて、気づいたときには戻れない」
    「――あなたは、その人のことを知っているんですか」
    「…こっちの界隈じゃ有名人だから、ね」
    「そう、ですか」

     大袈裟な声真似は、会ったことがないので似ているかどうかは私にはわからなかった。ただ、はっきり言葉にされて、彼女が見つけてきたからという理由だけでまったく疑いもなく向かおうとしていた事実に気づく。その先で、もし仮に今の苦しみが消えたとすればどうするか。どういう心境になるか。
     こんな状態になる前は、いわゆるスピリチュアルな事柄について全く信じていなかった。でも今は、実際にこうして経験してしまっている。心が弱っている自覚はあった。

    「僕なら1回で終わるよ。代金は、このパフェ代だけね」

     ―――かといって、この男の怪しさが消えるわけじゃない。やろうとしていることは、その宗教団体と同じじゃないのかと、疑うだけの理性は残っていた。
     ファミレスのパフェ代だけならまぁ、宗教に頼むより安いかもしれないと一瞬考えてしまったことは置いておく。

    「その――わ、わたしには本当になにか、憑いてる、んですか」

     けれどようやく絞りだした言葉は、結局それだった。
     実際、気になって仕方がないのだ。病院で検査したって原因はわからない。けれど不調も幻覚も原因で、そういうことで悩んでいる人が通う場所があると聞かされて、もしかして本当に憑りつかれているのかと考えてしまっても仕方がない。
     私には、なにも見えない。
     見えないからこそ、不安になる。

    「うん。べったりと、気持ち悪いのが」

     タコとナマコが合体して巨大化したみたいなヤツ。ひときわ大きなイチゴを口の中に放り込み、咀嚼しながら綺麗な顔がにっこり笑う。具体的な形容に、ちょっと想像しただけで具合が悪くなる。食欲だって失せる。でも、男が気にする様子はない。やっぱりギャップに眩暈がした。

    「そ、それ、取ってもらえるんですか、その、パフェ代だけで」
    「できるよ」

     相手が悪徳商人だとしたら、きっと私はもう術中にはまっているのだろうとどこか他人事のように考える。それでもいいとすら思えた。この苦しみから解放されるのなら、なんだっていい。
     今日本来向かうはずだった場所も、かなり怪しいのだと本当はわかっていた。きらきらと目を輝かせ、うっとりと教祖だという男について語る彼女に違和感があった。
     それでも、どうでもいいと思ってしまうくらいに限界だった。

    「お、お願いします、どうか」

     ぐっすりと、眠りたかった。
     美味い飯を食いたかった。
     ただ、それだけで。

    「OK、交渉成立。動かないでね」

     ほとんど空になったグラスの中で、カラリと長いスプーンが鳴る。
     白くて長い親指と中指が輪っかを作り、私に向けられた。一体なにが始まるのかと見つめる中で、軽く指を弾いた、瞬間。

    「え」

     一瞬、強い風が右頬を掠めていった。背後で、小さな悲鳴があがる。同時に、グラスが割れる音が、店内に響いた。
     確認するまでもなく、周囲を取り囲むのははめ殺しで開くような窓じゃないし、この席は入口から最も離れている。

    「やっぱりこっちで正解!でも次はスペシャルにしよ」

     店内が騒然としている間に、男は最後の生クリームを舐めとって満足げな顔で席を立った。

    「…え?え?」
    「じゃ、約束通りここの支払いはよろしく。あと、彼女とは別れた方が良いよ。たぶん、アイツの手先だから」

     じゃあね。
     ひらりと手を振って、長身がテーブルを離れていく。我に帰ったときには、来客ベルが軽やかな音を奏でた後だった。
     そこで、ようやく気づいた。
     妙な幻覚が、見えなくなっている。それどころか、体全体が軽い。ついさっきまであった頭痛も、肩の重みも綺麗さっぱり消え去っていた。

    「あ…」

     自分が鈍くさいと思ったことはなかったが、このときばかりは気づくのが遅すぎた。そのまま慌てて追いかけようとして、テーブルに置かれた伝票が目に入る。コーヒーを一口も飲まないまま、伝票を掴んでしっかり会計を済ませて、外に飛び出したときには、当然のように男の姿はどこにもなかった。



















    「―――なるほどね」

     現地に到着して、納得する。
     話を聞いたときから、興味を惹かれる呪霊だった。憑りついた相手に、幻覚を見せる。脳に作用する呪霊はさほど多くない。だからできれば手駒として取り込みたかった。
     どうにかこうにか誘い込もうと手を回した。なかなか渋るを、送り込んだ恋人を使って誘い出そうとした。
     どうやらその思惑は、失敗に終わったらしい。
     今日訪ねてくる予定だった男から、直接連絡があったのは数時間前、ちょうど約束の時間だった。問題は解決したので、キャンセルしたいという内容である。対応した菅田は、こちらの望みを知っていたので納得がいかずに聞き出したところ、途中のファミレスで「祓って」くれた相手がいたのだという。実際見たわけじゃないが、現に怠さも幻覚もすべて消えたのだから間違いないと言ったと聞いた。
     相手の名前は、聞かなかったそうだ。というより、聞く前にどこかへ去ってしまった。
     事実かどうかはわからない。ただの猿の妄想かもしれない。けれど呪霊が憑りついていたのは事実だし、なんとなく気になって、すべての仕事が終わった後に件のファミレスに赴いた。

     ――ほとんど消えかかってはいたが、そこにはひどく懐かしい残穢があった。

     同時に、納得した。ならばきっと、祓われたのは本当だろう。
     彼が、後生大事に呪霊を持ち帰るはずはない。



    「―――横取りとは、ひどいじゃないか」


     最近、こういうことが増えていた。目をつけた上級の呪霊が、辿り着いたときには祓われている。そんな競争が続いている。ときにはこちらが勝つし、ときには向こうが勝つ。
     今回は、どうやら負けらしい。それなのに、不思議と怒りも苛立ちも湧いてはこない。
     猿ばかりがひしめく中で、微かな残穢がひどく神聖なもののように感じられて、ほんの少しだけ目を閉じる。
     その気配はいつだって、青い空の中にあった。
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