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    MondLicht_725

    こちらはじゅじゅの夏五のみです

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    MondLicht_725

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    離反回避世界の夏が来ちゃったネタ
    前のポイピクからの再掲

    #夏五
    GeGo

    【夏五】無題 おっと、「赫」は勘弁してくれないか。逆らうつもりはないよ。
     ところで君はどう見ても悟だけど、私の悟とは少し違うね。
     ここで会ったのもなにかの縁だ、少しだけでも私の話を聞いてくれないか。突然謀叛人呼ばわりされた挙句に攻撃を受けた哀れな男の話を。


     五条悟は困惑していた。いや、困惑なんてものじゃない。思考が停止して、頭の中は真っ白だ。
     硬直したまま沈黙してしまった五条に、見覚えがありすぎる――けれど最後の記憶より大人びた男は眉尻を下げた。
     ぽたりと雫が男の手の甲、指を滑って床に落ちた。寄木造の床に雨のように降り注ぐ赤に、ようやく我に返る。紺色のシャツの袖は肘のあたりで大きく裂け、鍛え上げられた腕が見え隠れしている。
     少し迷って、印を結んでいた指を下ろす。もちろん、油断はしていない。
     それでも、この男は”違う”と思った。見てくれも声も、似ているどころではなくほとんど同じ。なにより五条の六眼が本人だと知らせてくる。
     けれど、なにかが違うのだ。
     宣言通り、相手には攻撃の意思はなさそうである。
    「――わかった。とりあえず、今殺すのは止める」
     慎重に、一歩ずつ、近づいていく。
    「いつまでもそこに居たんじゃ、誰かに見つかる。中に入れよ」
     男は何度か瞬きをしたのち、表情を緩めた。そんな顔も、よく知っているようで初めて見るような、不思議な感覚に陥る。
    「ありがとう、助かった」
     唇に、薄く笑みが浮かぶ。今、この顔に、そんな穏やかな顔で礼を言われるとは思ってもみなかった。



     教師寮の庭に、突然雷が落ちた。樹齢幾年にも満たないまだ若い木が、衝撃に耐え切れずに悲鳴のような音をたてて倒れた。
     1週間ぶりに戻ってきた自室で、しかし目が冴えて眠れる気がしなかった。休めるときに休めと、夜蛾にも家入にも口を酸っぱくして言われていたが、睡眠時間が足りなかったからといって醜態を晒したことはないので、無理に目を閉じることはしなかった。
     だから、大きな音と同時に細い枝が激しく揺れて傾いていく瞬間を、カーテンを引いていなかった窓からばっちり目撃した。
     それまでぼんやりと眺めていたスマートフォンをベッドに放って、窓から下を覗きこむ。静かで広大な森と、大小あらゆる建物が並ぶ高専の敷地、ちょうど境目にある寮である。大きな音だったが、被害はどうやら木1本だけで済んだようだった。
     月明かりすらない暗闇でも、特別な目は倒れた幹の傍らで蠢く呪力を確認できた。五条が動く前に影は素早く寮へ近づき、更なる闇の中へ紛れた。おそらくは中へ侵入するつもりなのだ。
     眉間を寄せた。天元の結界への侵入にもかかわらず、今のところアラームは鳴らない。ならば関係者だと考えるのが妥当だが、それならなぜコソコソ隠れるような真似をするのか。
     自然と背筋が伸びる。両手を組んで、相手の呪力をさらに探る。
     今この寮にいるのは五条だけである。この目があれば、他の教師の予定を知らなくても建物内が空っぽであることは一目瞭然だ。外からは、一室だけに灯った明かりが確認できた筈。ならば狙いは五条自身なのか、それとも。
     玄関あたりであっさりと見つかった呪力に、五条は息を呑んだ。
     そんなはずはない、と思わず声に出していた。
     すぐさま、階下の侵入者の元へ飛ぶ。突然目の前に現れた五条に、相手もまた息を呑む音が聞こえた。手を伸ばしてすぐのスイッチを押せば、玄関から廊下に続く蛍光灯が一斉に点灯する。
     侵入者は、閉じた玄関扉に背中を預けて蹲っていた。
    「――やぁ、夜中に失礼」
     そこにあったのは、7年前に道を違えたきり一度も見ていなかった、かつての親友と同じ顔だった。






     美しい青空だった。
     日差しは強すぎるくらいで、汗が滲んでいた。目の前には大小様々な石がいくつも立ち並び、円を描いていた。
     近づくほどに全身で感じた。ここには、不可思議な力が渦巻いていることを。
     けれどそれが呪力かと言われれば即答はできなかった。もっと違う――未知の感覚。それが何なのか上手く説明できなかったが、人が消えている以上確かめなければならない。それが仕事なのだ。
     だから、私は。

    「行方不明者の捜索任務の途中だったんだ。■■町のストーンサークルって知ってるかい?そこで3人消えてね。呪霊の仕業じゃないかと依頼が来た」
     誰もいない共有スペースのソファに座って、男はポツリポツリと説明を始めた。
    「私がまず、最初に円の中に入った。不思議な感覚だったが、恐怖はなかった。だが突然、黒い雲が現れて雨が降り出した。稲妻も見えた。――憶えているのはそこまでだ」
     数時間かけて地方へ移動したはずなのに、気づけば、東京のど真ん中に佇んでいた。奇妙に感じながらもそこで偶然見知った顔を見かけ、いつもどおり声をかけた。そうしたら。
     一斉に襲いかかってきた呪力の塊。同僚、仲間、友人。彼らと同じ顔をした呪術師たちから向けられたのは、戸惑いと、恐怖と、敵意だった。
     未だ信じられないといった口ぶりで、男は語る。
    「これは夢かな。それにしては随分と痛い」
     包帯が巻かれた右腕を上げて、手のひらを握ったり開いたりを繰り返す。
     冷静を装おうとしてはいるが、目には隠しきれない疲労が浮かんでいる。
     腕の傷は案外深くて、家入を呼ぶかギリギリまで迷った。しかし、得体の知れない相手に大事な同僚をまだ会わせるわけにはいかないと思いとどまった。
     だから手当てをしたのは五条自身である。昔よりは、包帯の巻き方がマシになった筈だ。
    「お前の、名前は」
     向かい合うソファに腰かけ、男を見る。まだ全身が強張っている自覚はあった。
    「知ってるだろう?」
     からかう声には覇気はなく掠れている。力尽きたように、背もたれに無防備に上半身を預けた。黒に見えたジーンズはよく見ればネイビーで、こちらもあちこち破れ、汚れていた。
     口を開くが、名前を呼ぶことは躊躇った。
     たった、一言。それが、こんなにも重い。
     逡巡しているうちに、男の腕から力が抜け、膝の上からだらりと垂れ下がった。両目が、閉じられている。驚いて立ち上がり手のひらをあてると、微かな寝息が聞こえた。どうやら力尽きたようだ。
     ――何をしてるんだ、僕は。
     自嘲が浮かぶ。
     もしかしたら、罠かも知れない。何かの策略が動いているのかも知れない。
     術式はわかっても、人の心は見えないのだ。
     けれど、男の言葉を信じようとしている。まだなにひとつ確信を得ていないというのに。
     しゃがんで下から覗き込めば、顔がよく見える。顔色は悪いが、苦痛はない。無意識に伸ばした手を、触れる直前に止める。

    「すぐる」

     吐息にのせた小さな声は、深い眠りに囚われた男には届かなかった。
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