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    もりやま

    まほやく二次創作物

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    もりやま

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    ◯100年後、嵐の谷 ここは東の国の嵐の谷、雪の気配が濃い薄曇りの空の下。12月、凛とした冬の空気が満ちている。


     谷で暮らす幾人かの魔法使いたちのうちのひとり、ファウストもすでに冬の準備をおおかた終えていた。彼の赤い屋根の家の軒先には、割られた薪が積み上げられている。



    ぬくい。

     目を覚ましたファウストは、しばらくまぶたを閉じたまま、ベッドの中のあたたかさを享受した。昨日はしこたま酒を飲んだが、頭はすっきり冴えていて気分もいい。毛布にくるまって思わずほほえんでしまうくらいには、穏やかな気持ちだった。
    寝返りを打って横を向く。まぶたを開けると、となりで眠っている魔法使いの寝顔が窓から差し込む朝日に照らされている。ファウストのとなりで毛布にくるまっているのは、ファウストの家で広め(といえども一人用)のベッドに枕を二つ並べて眠ってしまったのは、こちらも昨夜しこたま酒を飲んでいた魔法使い、ネロだ。

     まだ目を覚ましていないらしいネロの顔を見ながら、ファウストは早くもお腹が空いてくるのを感じる。朝食は今日もきっと、横で眠っているシェフが作ってくれる。
     差し込む光の具合から、外が曇り空らしいことはわかった。それに、まだ朝だろうがおそらくそんなに早い時間ではないだろう。昨日はネロがこの家を訪ねてきて、一緒に食事をして、酒を飲んで、ぽつぽつ話して、食事の片付けを終えた後も随分夜遅くまでソファに並んでまた話をしていた。
    魔法舎にいた時から、ネロがひどく酔っ払うまで飲むことはあまりなかったが、昨日はファウストが一緒に飲んだ中では随分と量も飲んでいたし、酔っていた。ずいぶん気分良さそうに酔っていて、気を使いながらというよりは素直に話している感じが強くして、珍しいと思ったけれど、今更見たことがないネロを見たところでそういう時もあるんだな、ぐらいで何も思わなかった。
    そんなことを思いながら寝顔を見るともなしに見ていると、ネロのまぶたが重たげに開いた。水色の髪が、耳元ですこしはねている。
    寝起きの友人が、あれ、なぜファウストがとなりに?と思っているのが表情でわかる。
    「嵐の谷だよ」
    ファウストは笑って寝ぼけたネロに教えてやる。
    「昨日話していたら夜遅くなって、寒いからって客間に行かないでここで寝ただろ」
    そうだった、とネロは眉を下げて笑った。
    ネロも自分も同じくらいの量を飲んだと思っていたが、ネロの方がまぶたが重そうだった。
    「二日酔い?」
    ファウストが訊ねると、ネロは眉を下げた。
    「昨日あんたが寝た後にまた飲んだ」
    「は?」
    ファウストはネロと10センチほどしか離れていないのに、大きな声で返してしまう。だって、二人で楽しく話して、先に相手に眠られてしまったら。ネロは寂しいと思わなかっただろうか?
    「一人で?起こせばいいだろ」
    「なんで……?」
    今度はネロが不思議そうにファウストを見つめて聞き返す。
    「めちゃくちゃ気持ちよさそうに寝てるやつ起こすなんてしたくねえよ」
    「そうかもしれないが……」
    別に起こしてもいいのに、と言うファウストの顔を見て、ネロはファウストが言わんとしていることをちゃんと理解する。
    「はは、大丈夫だって。ファウストの寝顔見ながらぬくぬく酒飲んでたから」
    それはそれで微妙な心境だが、ネロがそれでいいならいい。ファウストは、ふうん、とだけ返した。
    なあ、くっついてもいい?と眠たげな顔のままネロが聞くので、さらに珍しい、とファウストは思う。
    魔法使舎を出てからもずっと100年以上付き合いが続いていくうちに、ネロは意外と他人と距離が近くても平気なたちなのだと知った。むしろ、近しい人間には甘えることもあるのだと。

     ネロからすればそれは違っていて、近しいから甘えられるわけではないし、好ましい人間だからといって甘えるわけでもない。ファウストにはそういう気分になることがある、というだけなのだが。

     うん、とファウストが頷くのを見て、ネロはにっこりと笑った。ファウストが、またもや珍しい顔だ、と思っているとネロはやおら自分の毛布を持ち上げてベッドの上に起き上がった。ネロに抱きしめられるか何かだと思っていたファウストが、眉を上げている間に、ネロはファウストの毛布も半分めくって、下の方へ下ろしてしまった。
    「おい、寒い」
    と寝間着の上着の腹の辺りをおさえて抗議するが、ネロは聞く耳を持たずに横たわったままのファウストの方に向き直ってあぐらをかくと、腹の上に乗せたファウストの手を優しく掴んで退けさせる。かと思うと寝間着をめくって腹を出させるので、ファウストは寝たまま、自分のすぐそばあぐらをかいているネロの足をはたいた。
    はたかれたネロは首を回してファウストの方を見て、「ちょっとだけ……」
    と、真顔で謎の懇願を見せる。
    何をちょっとだけなのかわからないので、「何?」と言うと、「ファウストのへそを……」と返ってくる。
    「へそ……?」
    ファウストが眉間にシワを寄せている間に、失礼します、と謎の丁寧さを見せてから、ファウストの腹に顔を寄せて、かと思うと口を開けてファウストの臍にかぷ、と食らいついた。舌をぺたりと皮膚につけられて、ファウストはおどろいて目を見開いて、続いてこそばゆさに身をよじった。
    「おい!くすぐったい」
    後から考えると他にも言うことはあったかもしれないが、ファウストはネロが自分の身体に急に(いや、先にお伺いを立ててはきたが)口をつけてきても嫌だとは思わなくて、ただ、ものすごくくすぐったかった。
     ファウストがくすぐったさで笑ってしまっているのを見たネロは、さらに機嫌のよい表情をみせてもう一度彼の腹を舐め、あはは、とつい声を出して笑ってしまったファウスト見ると、ぱっと膝立ちになる。むきだしになって寒そうなファウストの腹に毛布をかけ直すと、今度は顔の横に手をついた。と思うと、さっきまで腹に噛みついていた口で今度はファウストの口を覆う。されるがままのファウストが「んむ、」と謎の声を上げると、ネロは小さく笑ってすこしだけ顔を離す。鼻をこすりあわせて、焦点が瞳に合わないくらい近くで「昨日のワインうまかったな」と話しだす。ファウストは自分に覆い被さっているネロを見返しながら、今?と思いつつも「うん、君の料理も最高だったしな」と素直に感想を述べる。
    「昨日作ってくれたオムレツ、ひさしぶりに食べたいと思っていたからうれしかった」
    と、文字通り目の前で、ネロの顔が綻ぶのがわかる。眉がすこし下がって、金色の目が細められる。
    それを見るとファウストはなんだかネロが愛おしくて、突然、あ、そういうこと、とわかった気がした。
    ネロも僕のことをこういうふうに思うのかも。
    ネロとファウストは違う人間だから、全く同じ感情があるはずない。同じことを思っているかもしれないと思ったとしても、それは勘違いかもしれない。それは知っているしわかっている。けれど、でも思い込みでも、他人とそういうふうにお互いへの感情を共有することの嬉しさを、ファウストはぬくぬくとした毛布の中で、強く感じた。

     ファウストがそんなことを思っているのを知ってか知らずか、ネロは毛布の上からファウストの首を抱き寄せて、自分の首元にファウストの顔を寄せる。
    はあ、とファウストのつむじにあたたかな息を吐いたネロを、ファウストは抱きしめ返した。











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    もりやま

    INFO▼2023/8/20発行 ネロの短編集
    1話目全文をサンプルとして公開します。

    ▼賢者の超マナスポット2023 8/20 新刊
     インテックス大阪 5号館 い73a
     『朝食にて』
     ネロ中心 A6文庫 100ページ 500円
    朝食にて8/20新刊サンプル
    ネロが魔法舎に来てからの、なんとなく時系列順のイメージの短編集を発行予定です。全5話。
    1話目が魔法舎に来たばかりのメインスト1部→後半は2周年とか2部とかくらいの感じです。





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    1 朝食にて
    場所 魔法舎のキッチン
    時刻 早朝




     先日の厄災襲来の日までのしばらくの間、魔法舎のキッチンはたいした調理には使われていなかった。けれど、突然やってきた料理人によって、キッチンはいまやその全機能を稼働させていた。かまどには火がくべられ、大鍋や鉄製のフライパンは磨き上げられ、オーブンは丁寧に手入れされ、たくさんのパンを焼き上げる。
     ネロ・ターナーは、魔法舎にやってきた次の日から賢者と賢者の魔法使いたちの食事の世話をはじめた。最初は西の国のシャイロックに頼まれたから(あとから振り返って、あんな大騒動があった日によく次の日の朝食のことまで考えられたもんだとネロは思った。シャイロック・ベネット、彼自身、その日は心臓が燃えていたのだ)。それでもそのうち東の国に帰られると、ネロは思っていた。しかし、温かいごはんを食べたことがないなんていう中央の国の子どもの魔法使い、リケがネロのオムレツを食べて目を輝かせているのを見て気持ちが揺らいだ。賢者も何だか放っておけない若者であったし、ひとまず今のところスノウとホワイトの双子以外の北の魔法使いは魔法舎にはいなかったし―――、結局ネロはその翌日も、またその翌日も、皆の食事を請け負った。
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