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    xxshinopipipi00

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    前世の親友が転生したら女になってたので、今世では一緒に幸せになります。(1)
    ※Twitter更新の第1話〜第3話までをまとめました。
    6/25の新刊。転生大学生五夏♀が幸せになる話。
    付き合うところまでは全編公開予定。付き合ってから結婚生活編を書き下ろしとして合わせて、6/25に刊行します。

    続き→https://poipiku.com/532896/8693349.html

     五条悟には、前世の記憶、というものがある。生まれる前の記憶、というやつだ。
     その記憶の中では、世界には呪霊という普通は目に見えないものがそこかしこにはびこっていて、その姿を見ることができない普通の人々に害をなしていた。ごくわずかに存在する「見える」人間たち、その中でもさらに祓う力、「術式」と呼ばれるものを持つ人間たちは、呪術師と呼ばれ、呪霊と戦い祓うことを仕事としていた。
     五条悟はその呪術師の一人だった。記憶の中の彼は最強と呼ばれていて、その隣には同じく最強の親友がいた。
     誰よりも大切な人だった。呪術師の名家に生まれ、その中でも特に稀有な術式を持ち、それを使いこなすのに必要な眼を持って、世間から隔離されて育てられた前世の彼に、知らないことをたくさん教えてくれた人だった。
     自分以外の誰かを信じること、頼ること。「呪術師」ではなく「人間」としての倫理。自身の持った力を使って、何をなすべきなのか。前世の彼は、その親友に教えられたことを何よりも大切にしていた。――親友を自らの手で殺してからも、死ぬまで、ずっと。
     生まれ変わったのだと理解したのはずいぶん昔のことだ。確か小学校に上がる前だろうか。それから五条はずっと、かつて隣にいた親友を探し続けた。
     夏油傑。それが親友の名前である。記憶の中で散々繰り返した名前。この世でただ一人の魂を示す名前。その名前だけが頼りだった。
     自分がこうして生まれ変わって記憶を持っているのだから、夏油だって同じ状況のはずだ。なぜなら二人は親友なのだから。根拠なんてないけれど、そう信じていた。
     前世の記憶があることを、彼はほかの誰にも語らなかった。記憶がよみがえると同時にその記憶の中の自意識が、幼児であった当時の彼の意識を塗り替えたのだ。前世では六十を見ることなく死んだ彼には、幼児が突然わけのわからないことを言い出したら間違いなく両親にいらぬ心配をかけるだろうことを理解していた。
     だから、黙った。子供の顔をし続けた。その裏で、その姿で許される限り、一生懸命に彼は親友を探した。
     けれど、探しても探しても夏油は見つからなかった。幼い子供に手の届く範囲など、そう広くはない。手の届かないところにいるのかもしれないと、ずっと彼は希望をもって探し続けた。
     高校生になるころには、彼の手元にはそれなりに自由になる小遣いと時間があった。そのすべてをかけて、五条はさらに捜索の手を広げた。
     ――けれど、本人はおろか、その手掛かりすらも、全く見つけることはできなかった。
     いい加減諦めるべきなのか。
     高校を卒業してもなお見つかる気配のない彼に、さすがの五条も少しだけあきらめたくなった。
     誰よりも大切なひと。前世の彼が、指標のようにずっと胸の中に抱え続けた面影。名前。存在。魂。
     五条の記憶以外に、その存在を証明するものはない。
     生まれ変わったこの世界には、呪霊もいなければ呪力もない。奇しくもその見た目は記憶の中の彼の姿と同じだけれど、それだって「前世と同じ姿」なのか、それとも「今の姿を前世の姿と同じだと思い込んでいるだけ」なのか。客観的に判断してくれる人などいるはずもないのである。
     この記憶は彼だけのもので、彼以外のほかの誰も、この記憶を共有してはくれない。より多くの人間の意見を真実として扱うのであれば、彼のこの記憶はただの幻、幻覚、思い込みだ。
     思い込みにしては、幼いころから知っているはずもない事項を数多く知っているし、精神的な成熟度だって前世のそれに引きずられているので、五条からしたら思い込みであるはずがないのは明白なのだけれど。目に見えないものを証明するのは非常に困難だ。
     そういうわけで、高校を卒業して大学生になるタイミングで、彼はほんの少しだけ心が折れそうになっていた。
     大学生になればもっと自由な時間が増える、とは思うのだけれど。高校時代でもだいぶ自由にやっていた手前、それがさらに劇的に変わるとは思えなかった。
     できることは何でもやった。それでも手掛かりの一つ、名前を聞いたことがあるという証言の一つすら得られない状態が、この進学でどうにかなるものか。
     とまあ、若干不貞腐れるような気分で参加した、大学の入学式。
     特に知り合いもいないつまらない式を適当に終えて、その日彼は一人で帰路に着こうとしていた。
     前世でも成績は悪くなかったところに、今はその前世の記憶や知識がそのまま持ち込まれている。受験勉強もそこそこに、それなりの大学にうっかり首席で合格してしまった彼は、面倒なことに新入生総代として式で挨拶をするようにと命じられ、今やっとその責務を終えたところであった。
     ステージに上がり、マイクを握り、それなりに無難な挨拶をつらつらと口にしながら、五条は会場の人間を眺めていた。
     彼の精神年齢からすれば、そこにぎゅうと詰め込まれた新入生、どころかその親たちですら、若く幼く思えて仕方なかった。明るいスポットライトに照らされた彼とは対照的に、薄闇に沈んだ講堂の中に座る子供たちの顔は朧気だ。ついいつもの癖で一人一人の顔を確認しようとかけて、――こんなことをしたって無駄だろうと、内心で苦笑いをこぼす。
     どうせ、ここにもかつての親友はいないのだ。
     この大学を受験する男子学生の名前は、ちょっとしたコネとなんやかんやですでに確認済みである。そこに「夏油傑」の名前はなかった。この大学にかつての親友が入学しているはずがないのである。
     さっさと済ませて下がってしまおう。五条は挨拶の最後の一文まで、よどみなく読み上げて見せた。
     まあ、かつての彼の職務と比べたら、このくらいの責務は本当に大したことないものだ。緊張などするはずもない。命をかけて毎日戦っていた日々を知る人間には、別に失敗したって死にはしない日常はぬるくてたまらなかった。
     生まれ変わった彼の実家は、かつての家に負けず劣らず裕福で、都内にある彼名義のマンションからは毎月七桁近い不動産収入がある。生まれた瞬間に祖父母たちが大喜びで買い与えたものである。おかげで十八歳にして高額納税者だ。
     生前も似たような境遇だったことから、その金銭感覚が一般とは大きく乖離していることは流石に理解していた。何事もほどほどに、他の人間と差異なきよう装う技術は、この生で身に着けたものだ。
     特別な力を持たない今世の体は、かつてのものとは比べ物にならないほどに脆く柔く弱い。かつては無敵を誇った彼も、生まれ変わってしまえばただの人間、ということである。面倒な目立ち方をすれば、その分望まぬ危険もある。
     大学生になってからは、自分名義のマンションの一室に住むことにしていた。一人暮らしになれば、誰に構うことなく遠くまで親友を探しに行くことができる。授業なんて正直どうにでもなると思っていたし、どうにでもなるだろう大学を選んだつもりだ。
     入学式の終わった構内は、新入生とその保護者、そして新入生を勧誘しようと待ち構える上級生たちでごった返していた。
     どうせここにも夏油はいないのだ。こんなところに長居は無用、さっさと帰ろうと彼はため息をついて、人混みを抜けるべく一歩足を踏み出した。
     ――まさに、その瞬間だった。
    「悟!」
     背後から、呼び止める声がした。その呼び方に、彼ははっと振り返る。
     それと同時に、走ってきた人物が、振り返り際の五条の体に思いっきり飛びついた。衝撃で一瞬たたらを踏んで、何とか飛びついてきた体を受け止める。
    「うおっ!」
     驚いて声を上げる彼に構わず、抱き留めた人物は、感極まった顔で彼を見上げていた。
     真っ黒い髪をきれいに整え、後頭部でゆるくまとめた姿。ミステリアスな奥二重、切れ長の眦に琥珀の瞳。
     全身を雷に打たれたような衝撃が走る。いままでずっと眠っていたのかと思うほど、一気に体中の細胞の一片までもが声を上げる。叫ぶ。活性化する。
     目を真ん丸に見開いて、五条はその人物の姿を網膜に焼き付けた。
     その顔に、五条は見覚えがあった。
     否、見覚えがある、なんてものではなかった。その顔こそ、彼がこの世に生を受けてからずっと探し続けていた、親友そのものだったのだ。
    「傑…!?」
    「やっぱり悟だ!」
     ひし、とその体に抱きつく親友。想像だにしなかった事態に、五条は思わず固まってしまう。
     いないはずだったのだ。この大学には。入学する男子学生の名簿はとうに確認済みで、そこに親友の名はなくて、まあ仕方ないか、なんて諦めていたのだ。
     だというのに、今ここにいるのはまぎれもなく親友そのものだ。五条が呼ぶ名前に応えたことからも、目の前の存在がその名前を自分を指すものと認識しているからで。
     降ってわいた僥倖。突然目の前に差し出された、ずっと探していたもの。
    「傑?」
    「うん」
    「ほんとに?」
    「ほんとだよ」
     まだ信じられないとばかりに問いかける五条に、目の前の親友――夏油傑は、にこりと笑って見せた。
    「久しぶり、悟」
     その笑顔に、たまらず彼はその体を抱きしめ返した。回した腕が、目の前の背中を捕まえて、その肩甲骨を手繰り寄せるようにぎゅうと抱きしめる。
    「ずっと探してた……」
    「うん、私も」
     あやすように、五条の背中を夏油はとんとんと軽くたたく。
     思いもしなかった再会。その喜びをかみしめるのもつかの間、ふと五条は違和感を覚える。
     あれ、と思って体を離し、改めて彼は、目の前の親友をまじまじと見た。
     ――小さいのだ。背格好が、あまりにも。
     五条は今回の生でも前世と同じく長身で、人混みの中にあれば頭ひとつ飛び出すことは確定だった。前世の親友は彼ほどではないものの、世間一般からすれば十分背の高い、ガタイのいい男だったはずだ。
     けれど、今五条に抱き着いているのは、その体よりも有意に小さい体。周囲の人間たちからすれば長身の部類に入るのだろうが、それにしたって、記憶の中のものとは比べるべくもない。
     抱きしめた体はびっくりするほど柔らかく、かつての筋肉質な体とは全く違う。極めつけには、抱き着かれている腹に、その体からぽよん、と柔らかいものが当たっている。よくよく見れば、彼の奥二重の瞳も、輪郭も、かつてよりも多少丸みを帯びている、ような。
    「…………まって、傑、もしかして……」
     女になってる?
     呆然と五条がつぶやくと、夏油は「へへ」と困ったように笑って見せた。
     ――親友は、女性に生まれ変わっていたのである。
     かつての親友、夏油傑。同じ名前、同じ記憶の人間が、今目の前に異性として存在していた。
    「びっくりしただろ。私も記憶戻ったときはびっくりした」
     くすくすと笑う彼女――夏油に、五条はただ頷くことしかできなかった。
     そりゃあ見つからないわけだ。五条は思わず天を仰ぐ。男だと思って探していたのに、そもそもの前提が違ったのだから、見つかるはずもない。男子学生の名簿を確認したって見つかるはずがない。
    「なんで女になっちゃったの」
    「さあね。私も知りたいくらいだよ」
     首をすくめて見せる夏油。だよなあ、とつぶやいて、五条も首をすくめる。
     そうしてしばし抱き合ったままでけらけらと笑いあってから、夏油はようやくその体を離してくれた。
    「ごめん、嬉しくてテンションあがっちゃった」
     照れくさそうな笑顔は記憶の中の親友と同じものだ。その表情で、ようやく五条は現実を受け入れた。
     見つけることができたのだ。ずっと探していた親友を。
    「あ、いたいた! 夏油~」
     と、その親友を呼ぶ女の声。その声に二人がそろって振り向けば、人混みをかき分けるようにしてやってくる一人の女子学生の姿。そちらにも五条は見覚えがあった。
     ぱちりと五条と視線のかちあった彼女は、感動の再会を終えたばかりの二人に気づき、うげ、と顔をしかめた。
    「うわ、マジで五条じゃん……」
    「硝子!」
     前世の同級生かつ戦友、家入硝子である。前世の五条悟にとっての同級生はこの二人だけで、彼にとっては特別な人間たちばかりだ。
     家入の方はと言えば、夏油とは異なり完全にかつてと同じ姿だ。目元の泣きぼくろまで同じところにあって、五条はそのなつかしさにじーんとしてしまう。
    「硝子もこの大学なんだ」
    「そ。完全に偶然なんだけど」
     こんなこともあるんだね、なんて言って、彼女は珍しく笑って見せた。
     二人とも入学式終わりの大学生らしく、安物のスーツにパンプスというそろいの出立ちである。同じような価格帯ばかりのほかの学生の中にいる分には気にならないのだろうが、セミオーダーのスーツの五条と並ぶとその差は歴然である。
    「五条、生まれ変わってもボンボンなんだ……」
    「ボンボン言うなよ」
    「大学の入学式にセミオーダーのスーツ仕立てるのはボンボンなのよ」
     呆れ切った口調の家入に、五条は何も言い返せないまま黙り込むほかなかった。
     そんな二人の様子を眺めていた夏油が、楽しそうにからからと笑った。
    「なんだか懐かしいな、この感じ」
     同じ学校に通っていた前世のことを思い出しているのだろう。ゆるく目を細めて笑う彼女に、五条と家入は顔を見合わせる。
    「……まあ、傑が楽しそうでよかったよ」
    「そうだな」
     具体的に口に出すことはなくとも、考えることはおそらく同じだ。二人は前世の夏油の最期を知っている。それに至るまでの十年間も、おそらく家入は道をたがえる直前の数か月の様子も。
     今世の夏油は、少なくともその記憶にある彼とは違う顔をしていた。同じ顔で、同じ魂で、同じ記憶を持っていても。
     前世とは違う体で、前世とは違う環境で十八年と少しを過ごしてきた彼女は、少なくとも今この瞬間は、楽しそうに笑っていた。
     ――それだけでいいと思った。この人生のすべてが報われる思いだった。
     親友のことを、ずっと探していた。それは彼が――記憶の中の親友が、最期の瞬間に告げた言葉がずっと喉の奥に残っていたからだ。
     前世の夏油傑は、あの世界では笑えなかったのだと、最期に打ち明けてくれた。
     彼が五条悟の隣にいたのはほんのわずかな時間だった。そのわずかな時間、三年に届かない程度の時間で、前世の五条悟はずいぶんと救われたのだ。
     その彼が、もし転生することができたならば。今度こそ彼には、心から笑える世界で生きてほしいと、願ったのだ。
     彼が笑えているかを確かめたくて、ずっと彼を探していた。その彼は――実際には彼女が、になってしまったわけだが――今、五条の前で屈託なく笑っている。
     その事実に、なんだかぐっと胸が熱くなってしまって。詰まる呼吸を意識的にゆっくり吐き出す。
    「悟?」
     黙り込んだ五条に、少し低い位置から夏油がその顔を見上げて首を傾げた。
     何でもない、と首を振って、うっかり滲みそうになる涙を誤魔化すように、五条は笑って見せた。
    「また会えて嬉しいよ」
     それは、彼のまごうことなき本心であった。



     同じ大学で奇跡のように再会した三人。しかし残念なことに、入学した学部はそれぞれ異なっていた。
     五条は理学部、夏油は経営学部、家入は医学部。見事に文理もばらばらの彼らは、当然必修の専門科目が重なることもなく。渡されたシラバスと時間割表を三人で見比べても、どう考えても別の授業をとらざるを得ない状況だった。
    「せっかくだし、共通の教養科目はなるべく一緒に取ろうよ」
     そう言って共通科目のページを真っ先に開いたのは夏油だ。それに倣って五条と家入もそのページを開き、先に必修で埋まった時間割の空いたところで受けられる授業を見繕った。
     必修科目が違えば、時間割の空いているコマも違う。その制約の中でも、取れるだけの科目を彼らは三人でとれるよう、ほぼ一日以上かけて時間割の作成に取り組んだ。
     医学部の家入だけは共通の科目が非常に少なく、ほとんどは五条と夏油が二人で一緒に受けることになった。私のことは気にしなくていいから、と家入は早々に時間割作成の協議から離脱してしまったので、五条と夏油は残りの時間、二人でああでもないこうでもないと頭を悩ませながら、何とか授業を選択していった。
     最終的に出来上がった時間割では、五条は週の三分の一ほどのコマを夏油と取ることになっていた。家入とそろって三人で取れるのはかろうじて重なった二コマだけだ。
    「まあ、硝子とは家で会えるし」
     ある程度は想定していたことだったのか、夏油の割り切りは早かった。
     家、という彼女の言葉に、五条はきょとんと眼を丸くする。
     聞けば、彼女たちは今、大学近くの女子学生用のマンションに二人で暮らしているという。
     夏油と家入は、大学に入学する前から出会っていた。同じ女子高出身だというのだ。
     三年前のこの季節、入学した高校のクラス分け表で家入硝子の名前を見つけて驚いていたところに、同じく夏油の名前を見つけていた家入がその姿を見かけ、声をかけてくれて。それ以来、彼女たちは三年間、同じクラスで一緒に過ごしてきた。
     幼いうちに両親を失った夏油は、高校までは施設で育ち、高校卒業後は奨学金とその他いろいろなところからお金を借りて暮らすことになり。
     家入も医学部に進学したはいいものの、一人でセキュリティのちゃんとしたマンションに暮らせるだけの余裕はなかった。ということで、利害の一致した二人は、同じ大学に進学することが決まった時点でルームシェアをすることにしたのだと、夏油が教えてくれた。
     いいなあ、と五条はその話をテーブルに頬杖をついてぶすくれる。
     入学式からおよそ二週間。桜の季節も終わり、頭を悩ませた履修登録期間も終わり、それぞれの大学生活が順調に滑り出したころである。
     今は空きコマで、たまたまカフェテリアにいた五条を見つけた夏油が正面に勝手に座ったところだった。次の時間はそれぞれ別の授業の予定である。
    「ていうか、マンションなら俺の持ってるとこの空き部屋安く貸してあげたのに」
    「しょうがないだろ、悟が同じ大学にいるなんて知らなかったんだし」
     苦笑いの夏油は、今日は紺色のワンピースに軽やかなパンプスという出で立ちだった。
     もともと整った顔は、女になっても変わらない。むしろ女性的な柔らかさが増して、さらに魅力的になった気すらする。
     親友という贔屓目を除いても、彼女は美しかった。それに加えて、前世からの人たらしはおそらく健在だ。かつては男だったからよかったものの、女の身でその天然たらしを発揮されたら、大学中の男が彼女に夢中になってしまうかもしれない。
     そういう点では、新入生総代としてあいさつをしていてよかった。五条の顔を新入生は大体皆覚えているし、夏油の隣に彼がくっついていれば、彼女にわざわざ声をかけてくる男子生徒はいない。彼と夏油が親密であることが公知となれば、少なくとも大学の中での彼女の安全はある程度保証されるだろう。
     それも「ある程度」でしかないことを、五条はよくよくわかっているのだけれど。
    「次の更新の時には、硝子と二人で君のところのマンションに引っ越そうかな」
    「ん、友情料金で格安にしといてやるよ」
    「助かるよ」
     ふふ、と夏油は笑った。ほころぶ口元、細められる瞳。よく手入れされた黒髪が身じろぎに合わせて微かに揺れる。
     さらりと風になびいた黒絹に、周囲の男子学生の視線が向けられているのを、なぜか五条の方がひしひしと感じてしまった。
     その視線は不躾なものも多い。彼女の髪や顔、体にべったりと塗りつけられる視線のもとには、あからさまに下心を抱く若者の姿。その視線は彼女の正面に座る五条にぶつかって、ようやく残念そうに引き下がる。
     ここに五条がいなかったら。もしくは、五条が彼女の正面のこの席を空けたら。その瞬間、別の誰かがこの席を狙ってやってくるだろうことは、火を見るよりも明らかだった。
     けれど、当の彼女はその視線に気づいているのかいないのか、カフェテリアで買ったアイスコーヒーのストローに口を付ける。つややかな唇を舌がぺろりと舐め、細く長いまつげが瞳の上に微かに影を落とす。風に吹かれてそよいだ髪を、ほっそりと白い指先がかきあげる。
     思わず五条すらもどきりとするその仕草に、周囲の視線がまたうるさくなった。
    「……傑」
    「ん?」
    「お前、マジで気を付けろよ……」
     自分の仕草の罪深さに気づかないらしい夏油は、きょとんとした顔で首を傾げて見せた。五条は「何でもない」とつぶやいて、深々とため息をついた。
     前世で男だったのなら、男の欲望くらい理解できるだろうに。約二十年も前のことだから忘れてしまったのだろうか。女の身になったことのない五条には、あいにくとその感覚は分からない。
     ただ、親友である夏油傑が、見ず知らずのどこの馬の骨とも知らぬ男に不躾な視線を向けられるのは、どうにも気にくわなかった。じゃあどうしたらいいのかと言われれば、ただの親友である五条には何もできないのだけれど。
     夏油傑は五条悟にとって、この世の誰よりも大切な人だ。それは夏油の性別がどちらであろうとも、何も変わらない。夏油に害が及ぶことを、五条は望まない。
     彼女を守るために「親友」というポジションからできることなら、文字通りなんだってしてやるつもりだった。それだけの経済力も知識もコネも、今の五条は持っている。それを夏油が望むかどうかは別として。
     遠くで授業時間の終了を告げるチャイムが鳴った。次の時間は二人とも別の授業に出ることになっている
     人の動きが活発になり、周囲はにわかに賑やかになる。そんな喧噪の中、彼女は飲みかけのアイスコーヒーをじっと見て、む、と唇を尖らせた。
    「飲み切れなかった……」
    「教室持っていけば?」
    「次言語科目なんだよね。たぶん飲んでる暇ないなぁ」
     そうつぶやくと、はい、と彼女は五条の前にそのプラスチックのカップを差し出して、にこりと笑った。
    「残り飲んでいいよ」
    「ええ……」
     彼女の飲んでいるアイスコーヒーはブラックだ。甘党の五条にはそのまま飲むのは厳しい。
    「ブラックだろ。パス」
     べえ、と舌を出して見せる。
    「相変わらず甘党なんだね、悟」
     くすくすと彼女は笑って、そのまま席を立った。
    「もう行かなきゃ。ごめん、飲まないならそれ捨てといて」
    「はあ? 自分で捨てろよ」
    「時間ないし。じゃあね」
     荷物の入ったトートバッグを腕にかけて、彼女はひらりとワンピースの裾をひるがえした。
     五条の前には、彼女の飲みかけのアイスコーヒーだけが残される。冷たい表面に結露した水滴が、テーブルの上を濡らしていた。
     はあ、とため息をついて、彼は残されたカップのストローに口を付けた。するんと口の中に広がる苦みに顔をしかめ、一口飲み下したところですぐに口を離す。
    「……よく飲むよな、こんなの」
     前世のころから、夏油とはこういう細かいところの趣味が合わなかった。いつも夏油は五条に趣味を合わせて、彼の好きなものを優先的に選んでくれていたっけ。
     そんなことをふと思い出して、もう一口だけ彼はストローに口をつける。先ほどと変わらない苦味、その奥に安物のコーヒーに似合わない華やかな香りを一瞬感じた気がして、やれやれと首を振った。
     もうあと少しだけが残されたカップを手にして、五条も自分のカバンを手に立ち上がった。彼も次は授業である。そろそろ移動しなくてはならない。
     ヒールの音も軽やかに去っていく夏油の背中が遠くに消えていくのを、五条は何とも言えない気持ちで眺めていた。



     五条の暮らす部屋は、大学から二駅離れた駅のすぐ近くにあった。
     彼の名義のマンション、その中の単身者向けの間取り。リビングダイニングにさらにもう一部屋がくっついた、大学生が住むにはいささか過分な部屋だが、家主が自分である以上そこに文句をつける者はいない。
     彼らの通う大学は、住宅街にほど近い街にある。その最寄り駅は周辺人口の割に小ぢんまりとしていて、生活するのであれば五条の暮らすエリアのほうが何かと便利だ。大学までも自転車で十分通学可能な範囲にあり、利便性と通学のしやすさからこのエリアを選ぶ学生も多い。
     それに対して、夏油と家入の暮らす女子学生用マンションは、大学と同じ駅を最寄りとしていた。ただし大学までは徒歩でおよそ十分程度で、近いけれどものすごく近いというほどではない。二つ向こうにある駅の目の前に暮らす五条と比べても、通学時間はさほど変わらないありさまだ。
     というわけで、夏油と家入はよく五条の家に遊びに来た。どのみち大学の最寄り駅にはスーパーなどの商業施設が乏しく、五条の暮らす駅のエリアまで出なければならない。五条が帰るのに合わせて一緒に行くことにすれば、彼の使う自転車に荷物を載せて、しゃべりながら歩いていくこともできる。帰りは電車を使うか、また彼の自転車に乗せてもらうかすればいい。
     入学式の翌週には五条の家を訪れていた彼女たちに、五条は早々に合鍵をわたした。
     朝大学で顔を合わせた彼女たちに、手を出すように五条は言った。その言葉に従って素直に差し出される二つの手。ちゃりん、と手のひらの上に落とされた鍵に、二人は目を丸くする。
    「鍵?」
    「そ。俺んちの」
    「いいの?」
    「いいよ、別に。傑と硝子なら」
     まじまじとその鍵を眺める二人。
     二人が暮らすマンションは女子学生専用で、家族以外の男性の立ち入りが禁止されている。必然、三人でどこかで過ごそうと思うと、五条の家に集まるほかない。彼がいないときにも勝手に部屋に入れるようにしておいたほうが、何かと便利なこともある。
     基本的には五条はバイトもしていなければサークルや部活などもしていないので、大学にいるとき以外はこの家にいるけれど。もし何かあったときのためだ。
     手渡された鍵を眺めた二人は、そういうことなら、と素直に受け取ってくれた。
     それ以来、彼女たちは実に自由に五条の部屋を出入りした。黙って入ることこそなかったが、五条に一言端末で「入ってるね」とだけ告げて、その返事を待つこともなく勝手に上がり込むこともしばしば。五条が帰ったときには持ってきた部屋着でのんびりくつろいでいることすらあった。五条もそれをとがめることもなく許した。
     もともと前世で彼らの過ごした高専の寮も、似たような環境だった。あの頃は今の彼女たちと同じように、五条自身も夏油の部屋に勝手に入り込んでは置いてある雑誌を読んだりしていたものだ。時間にすればもうずいぶん前のことだけれど、そういう経験も記憶もあったから、この状況には違和感も抵抗感もない。
     一方でこの距離感が、他の大学生にしてみればずいぶん、もっと率直に言えば異様に近いものである、という認識も、五条にはあった。
     彼女たちと大学構内を歩いていると向けられる奇異の目、好奇の視線。五条と彼女たちの関係を変に勘ぐったり噂したりする者も多くいた。まだ二十代かそこらの若者たちにとっては、そういうゴシップはよい娯楽だ。気づいていないと思っているのか、それとも気づかれてもいいと開き直っているのか、そういう噂をする学生は、五条からすればよく目立っている。
     特に学生たちが勘ぐったのは、五条と夏油の関係であった。
     医学部に所属する家入は、共通科目もあまり彼らと重なっていない。実習などで忙しく走り回っているところは見ているし、土日になれば夏油と一緒に課題をしに五条の家を訪れることもしばしばだが、そこまではほかの学生たちの目も届いていないのだろう。
     それに対して夏油とは、五条は多くの授業を一緒にとっていた。授業開始時間ギリギリにのんびりと教室に現れる五条に、教室の前の方に陣取った夏油が「こっちこっち」と呼びつける様子は、当然多くの学生に目撃されていた。
    「もうチャイム鳴るよ」
    「いいじゃん、間に合ったんだし」
     百人以上が入る大きな教室、その前から三列目の端。この教室を使う授業の時はたいていいつも、彼女はこの席を陣取っていた。そのすぐ隣には大きな窓があり、昼からの授業だと縦型のブラインドカーテンの隙間から淡く光が差し込んで明るいのだ。
     五条としてはわざわざ前の方に座る意味もないと思っているので、本当なら教室のもっと後ろのほうに座りたいのだけれど。背の高い彼が前に座っていては、その後ろに座る学生たちの邪魔になるのでは、という気もするし。
     まあそれでも、夏油がこちらに来いというのであれば、それを断ってまで端に座る気はない。せっかく同じ授業をとっているのだから、彼女の隣の席を空けておくのももったいないだろう。
     それに、彼女の隣に座りたい、あわよくば声をかけたい、お近づきになりたい、と思っている男子学生は無数に存在する。実際彼女が一人で受けている授業では、その隣に座ろうとする男子学生たちが、それはそれは醜く熾烈な争いを繰り広げているらしい。五条はその様子を見たことがないが、同じ授業をとっている同じ学部の学生が教えてくれたことがある。
     下心満載のそこらの一般人に、夏油の隣を譲るつもりなど、五条には全くなかった。そこは当然五条の席だし、それ以外の誰かが勝手に座るなんて許さない。
     そういうわけで、今日も呼ばれるままに五条は彼女の隣に座り、肩を並べて授業を受けるのだ。
     毎日のようにどこかの授業で隣に並んで授業を受け、放課後も一緒に帰っていく二人が、噂されないはずもなかった。
    「なあ、五条って夏油さんとどういう関係なの?」
     学部の同級生に尋ねられた言葉に、五条は目をぱちぱちと瞬かせた。
     五月の連休明け、大学生活にもだいぶ慣れてきたころに開催された、学部の飲み会。上級生や教授陣までを巻き込んでの大規模なそれに、五条は参加していた。
     アルコールがダメなのは、前世のころから変わらなかった。サークルの新歓などはそれを理由にすべて断っていたのだけれど、さすがに学部飲みとなると、その一言だけで断るわけにもいかない。そもそもまだ彼らは大学一年生、現役で入学した学生たちはみなまだ未成年で、酒を飲ませられるわけでもない。上級生や教授陣との交流の場だ、と言われてしまえば、参加しないとはそう簡単には言えなかった。
     連れてこられたのは、都心の繁華街にある飲み屋である。毎年学部飲みはこの店で開催されるらしく、店員と教授陣は顔見知りのようだった。未成年は飲むなよ、ときっちり言い聞かせられた会場内では、現役合格組がちびちびとソフトドリンクをすすりながら、あちこちで話に花を咲かせていた。
     その会場の隅で、とくに興味をひかれる話題もないな、と思いながら、五条はのんびりとオレンジジュースを口にしていた。わいわいと盛り上がる学生たちを尻目に、彼は冷めた気分だ。
     楽しくないわけではないけれど、やはりこういう場はあまり得意ではない。これなら家に夏油と家入を呼んで遊んでいるときのほうが圧倒的に気が楽だ。
     二次会があってもこれはパスだな、なんてことを考えながら会場を眺めていたところに、かけられた言葉がこれである。
     夏油とはどういう関係なのか。
     その問いに、会場のうち彼に比較的近いあたりにいた学生たちが一斉に振り返った。理系学部の運命か、その場にいる学生の八割は男子である。
     向けられた視線に思わず五条はたじろぐ。
    「え、なに」
    「高校からの付き合いってわけでもなさそうだよな」
    「夏油さん女子高出身らしいから違うな」
    「それより前にどっかで知り合ってたとか?」
    「五条って出身どこ?」
    「ていうか夏油さん女子高って情報もソースどこよ」
     戸惑っている五条に構わず、彼らは好き勝手に話し始めた。話題の中心は夏油傑、他でもない五条の親友である。
    「いっつも一緒にいるじゃん、夏油さんと!」
    「入学式の直後に夏油さんが抱き着いてるの見たけど」
    「マジ? 俺それ見てねえわ」
    「どういうこと? ていうかどういう関係?」
     口々に投げかけられる質問に、五条は目を白黒させた。
    「どういう関係も何も、普通に友達だよ」
    「嘘つけ友達なわけねえだろ!」
    「あの距離感で友達って言われたら、こいつとこいつの彼女も友達だわ」
     そう叫んだ学生が、自身の隣にいた別の学生の背中を叩く。まさか自分が引き合いに出されるとは思ってもいなかったのだろう彼は、その衝撃にちょうど口にしていたジンジャーエールをぼたぼたとこぼした。
    「付き合ってんだろ」
    「見てりゃわかるんだから認めろって」
     な、と腕を回して肩を組む同級生からは、しっかりとアルコールの匂いがしていた。めんどくさいことになったな、とげんなりしながら、五条はその腕を振り払う。
    「付き合ってないし、傑のことはそういう目で見てないよ」
     これはまぎれもない事実であった。
     五条にとって夏油傑は、あくまでも親友だ。この世の誰よりも大切で、この世の誰よりも愛しているけれど、それだけだ。前世、まだ男だったころの彼を自分の手で殺した時から、いやそれよりもずっと前、彼と高専で短い青春を共に過ごしたころから、彼にとって夏油は唯一無二の存在だ。ほかの誰にも代えられない、ただ一人の。
     きっぱりとそう口にした五条に、周囲の学生たちがどよめいた。
     あれを女として見てないって何。修行僧か何かか? あんな美人と四六時中一緒にいて好きにならずにいられるって無理じゃない? 精神鋼でできてる? ていうか付き合ってもいない女の子のこと呼び捨てにしてんの? こいつ。
     好き勝手なことを言う同級生たちに、五条はやれやれとため息をついた。
     わかってもらえるとは思わなかった。彼女との仲を説明するためには、二人の前世の話からしなければならない。しかし科学全盛のこの時代、前世からの親友で、なんてある種オカルトめいたことを馬鹿正直に話したところで、到底信じてもらえはしないのである。
    「他に好きな子いるとか?」
    「あ、そう言えばもう一人よく一緒にいる子いたよな。家入さんだっけ? 医学部の」
    「あの子も美人だよなあ」
    「あっちのほうが好きなの?」
    「違うって。どっちも付き合ってないし、ただの友達だよ」
     落ち着けって、と特に近くにいる学生の手に水のグラスを握らせながら、五条はその場をなだめにかかる。
     と、その騒ぎを聞きつけた女子学生が一人、隣のテーブルからひょこりと顔を出した。
    「そういえばさ、夏油さんが五条の家に通ってるって噂、あれマジ?」
     何でもないような口調で投下された新たな爆弾に、一瞬治まりかけた会場が再び燃える。
    「なにそれ、どういうこと?」
    「あの辺住んでる友達が、この前の土曜日五条と夏油さんがスーパーで買い物してるの見たって言ってた」
    「あ、それ私も聞いたわ。駅前のスーパーでしょ」
     つられるように登場したもう一人の女子学生が、その証言をさらに固める。
     聞けば、彼女たちの共通の友人が五条の暮らすマンションの近所に住んでいるらしく。駅前のスーパーで食料品と日用品を買って一緒に五条のマンションに帰っていく、その一部始終がしっかり目撃されていたという。
     その証言に、五条は心当たりしかなかった。先週は土日で夏油と家入が家に泊まりに来ていたのだ。
     どういうことだ、と言いたげな無数の瞳が、五条をすっかり取り囲んでいた。
    「いや、違くて。本当に」
     どう説明したものか、と五条は必死に頭を回転させる。しかしいくら考えたところで、この好奇心と勘繰りの鬼と化した同級生たちを納得させられるような言葉など、見つかるはずもなく。
     結局その日はずっと、彼女との関係を追及され続けることになったのだった。

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    xxshinopipipi00

    SPUR ME7/30新刊サンプル第4話です。
    当主×呪専の五夏、唯一の1年生すぐるくんが五条家の当主様に気に入られる話。
    すぐるくんが五条のおうちに行く回です。モブが若干でしゃばる。

    前→https://poipiku.com/532896/9061911.html
    イカロスの翼 第4話 目の前に聳え立つ大きな門に、夏油はあんぐりと口を開けた。
     重厚な木の門である。その左右には白い漆喰の壁がはるか先まで繋がって、どこまで続くのか見当もつかない。
     唖然としている少年の後ろから、五条はすたすたと歩いてその門へと向かっていく。
     ぎぎ、と軋んだ音を立てて開く、身の丈の倍はあるだろう木製の扉。黒い蝶番は一体いつからこの扉を支えているのか、しかし手入れはしっかりされているらしく、汚れた様子もなく誇らしげにその動きを支えていた。
    「ようこそ、五条の本家へ」
     先に一歩敷地に入り、振り向きながら微笑んで見せる男。この男こそが、この途方もない空間の主であった。
     東京から、新幹線で三時間足らず。京都で下車した夏油を迎えにきたのは、磨き上げられた黒のリムジンだった。その後部座席でにこにこと手を振る見知った顔に、僅かばかり緊張していた夏油は少しだけその緊張が解けるように感じていたのだけれど。
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