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    入学当初の五夏

    #五夏
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    喧嘩(ワンライ) ヒュッと空気が空を切る音がしたと思ったら、拳が目の前にあった。先ほどまで悟の顔があったところに容赦なく叩き付けられたそれ。とっさに後ろに避けてなければ顔面直撃だっただろう。
     牽制のためではなく完全に攻撃する意図の拳に、悟の導火線は一気に燃え上がって焼き切れた。もともと気が長いほうではないのだから余計だ。
    「っぶねーな!なにすんだよ!」
    「へえ、避けるんだ」
     ぐっと重心を下げ睨み付けるように悟を見てくる男に、まだやる気かと悟も身構える。さきほどは虚を突かれたが、くるとわかっているならば遅れを取るつもりはなかった。
     一瞬術式を走らせようかと思ったが、それではつまらない。男の術式を悟は知らないが、生身の体術のみで来ていることは明らかで、こちらだけ術式を使うことは負けたような気がする。
     悟はもう一度男を見た。身長は悟のほうがわずかに高いか。それでもそこまで差がないので、リーチの差も考えないほうがいいだろう。腰を落として相手の出方を窺いながら、ピンと神経を張り巡らせる。
     簡単に隙を見せるようなヘマはしないが、それは相手も同じだった。言葉もなく距離を取ったまま距離を取ることも縮めることもしない。
     しばらく膠着状態が続くかと思ったが、その直後焦れた男の重心がわずかに右にずれた。体重を乗せた合図だ。そのまま右からの攻撃か、それともそれがフェイントで左からか。悟は果たしてどちらをガードすべきか。
     否、正解はガードではなく攻撃すること。攻撃のための予備動作で男に一瞬の隙が生まれたのを目の端で悟は捉えていた。それをみすみす逃すわけにはいかない。
     悟は相手の懐に踏み込んで迷わず拳を振るう。入るはずの右ストレートは、しかし空を切った。なにかがおかしい。
     覚えた違和感に、悟は咄嗟に身を引き脇腹をガードする。衝撃がびりびりと腕に走り、ガードした腕のうえから殴られたのだと悟は知った。ガードが遅れていたら体重が乗った拳が思いきり脇腹に入っていただろう。容赦が無いことである。
    「く、……オマエ、誘ったのか!?」
    「まあね。攻撃したくてうずうずしてたみたいだから。隙見せたら乗ってくるだろうなって」
    「……むかつく」
    「でも、ガードするとは思わなかった。君、案外やるね」
    「上から目線、ドーモ」
     むかつく。むかつく。術式を使わなかったとはいえ、まさか一発くらうなんて。
     そもそもコイツはだれだ。初めて顔を合わせて、会話もろくにしていないのにいきなり殴りかかってくるなんて。その会話だって「変な前髪」と悟が言っただけだ。
     もしかしなくても、彼は同級生なのだろう。悟はもとより同級と仲良くなるつもりもなかったし、必要性も感じていなかったが、この男とは絶対にソリが合わないなと確信した。いくら悟でも、出会い頭に人を殴ったりしない。
     もっとも、同級生とはあまり関わりがないだろうと悟は思っていた。強さはそのまま任務の質だ。単独の一級任務だろうとソツなくこなせる自信が悟にはあった。
     むかつくが、関わらなければ良い。有象無象にいちいち係っていられない。非常に、非常に、むかつくが。
     男を一瞥し、悟はそっと横を通り抜けようとしたが、それを阻止したのは男だった。声を掛けられたわけではない。まるで邪魔するように、進行方向に男が手を差し出してきたからだ。避ければいいのかもしれないが、それでは逃げたようで癪だった。
    「……なに?邪魔」
     とことん苛つかせる男だ。まだなにか用があるのかと男を睨み付ければ、彼は何故かきょとんとした顔をしていた。そんな睨まれる覚えなんてありません、と表情が言っている。それが余計に悟を苛立たせた。
    「なに!」
    「なににそんなに苛立っているのかわからないけれど。これから同級生なんだから同じ任務につくことだってあるだろう。だから、よろしく悟」
    「……は!?」
     視界の下のほうで、ひらひらと男の手が揺れている。邪魔されたと思った彼の手は、じつは握手を求められていたのだと悟はようやく知った。かといって、何故という疑問は消えないが。
    「……俺の名前知ってんだ」
    「そりゃあね」
    「いま……悟って……」
    「ああ失礼。五条くんとかほうが良かったかな」
    「……悟でいい」
     いままで「あの」五条悟という色眼鏡で見られることが多く、遠巻きに見られることに悟自身慣れていた。初対面で突然ファーストネームで呼ばれて面食らったが、悪い気はしなかった。
    「オマエ、名前は?」
    「夏油。夏油傑」
    「ふーん。すぐる……」
     初めて口にした男の名は言い慣れなくて、少しくすぐったかった。口の中だけでもう一度言ってみる。この名を、いつか呼び慣れる日が来るのだろうか。
     これからよろしく、と差し出された傑の手を握った。少し手のひらが硬くて筋張っていて、殴ることに慣れた男の手だ。
     傑は細い目をさらに細めていた。その表情を見ていると心臓がきゅうと小さくなって、すこし呼吸がしにくくなった気がした。それなのに目が離せない。
     一瞬なにか攻撃を仕掛けられたのかと思ったが、傑はなにもせず目の前にいるだけだった。おかしい。こんなの、悟は知らない。わからない。誤魔化すために、悟は大きく胸を動かしてひとつ呼吸をした。
    「……ところで傑、その笑顔うさんくさいよ」
    「悟、もう一度殴られたいらしいな」
    「さっきもだけど事実を言っただけだけど?」
    「いいから表出ろ」
    「いいぜ返り討ちにしてやるよ」
     いつの間にか息苦しさはなくなっていた。そのかわり悟の胸に沸き上がったのは、どうしようもない期待と高揚感だった。
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    ask_hpmi

    DONE夏のある日
    水着(ワンライ)「あっちい~」
    「言うな悟、余計暑くなる……」
     湿度を含んだ空気が、じっとりと肌にまとわりついて気持ちが悪い。なにもしなくても外にいるだけで汗が吹き出し、こめかみのあたりからつうっと汗が流れ落ちた。ジィジィと蝉が鳴く音があちこちから響き、視界がゆらりと揺らめくほど高温が立ちこめている。
     白と青のコントラストが強く、高く積み上がった雲の影が濃い。ぎらぎらとした日差しが容赦なくふたりを焼いていて、まごうことなく夏真っ盛りである。
     呪術高専は緑豊かな場所にある。はっきり言えば田舎で、コンクリートの照り返しはない代わりに日陰になるような建物もなく、太陽が直接ふたりに降り注ぐ。
     あまりの暑さにコンビニにアイス買いに行こうと言い出したのは悟で、いいねとそれに乗ったのは傑だ。暑い暑いと繰り返しながらなんとかコンビニまでたどり着き、それぞれアイスを買う。安いと悟が驚いていたソーダアイスは、この暑さでは格別の美味さだった。氷のしゃりしゃりとした感触はそれだけで清涼感があるし、ソーダ味のさっぱりとした甘さがいまはありがたい。値段のわりには大きくて食べ応えがあるし、茹だるような暑さにはぴったりだった。
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