Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    so_annn

    @so_annn

    ☆quiet follow Yell with Emoji 🍺 🍣 🍑 🍌
    POIPOI 27

    so_annn

    ☆quiet follow

    滑り込み、キスブラ書き納めです。
    今年も大変お世話になりました。あまり創作ができない状態が続いてますが、気が向いたら気が向いただけ創作を続けていきたいと思ってるので、気が向いたらそっと見てやってください。

    来年もどうぞよろしくお願いします。

    「あれ」
    「キースか」
     夜勤のヒーローに交代して喫煙所で一服……しようとして、ふとスマートフォンを見たオレは喫煙所に回れ右をして、そのままエレベーターに乗り込んだ。
     寒風吹きすさぶ屋上庭園は一歩踏み出しただけでここに来たことを後悔するほど寒かったが、先ほどまでの乾いた暖房でぼんやりした頭がすっきりしていくような感覚は悪くない。
     煙を吸い込んでもいないのに真っ白な息を吐きながら歩いていると、柵の近くに見知った男の後ろ姿が見えた。
     思わず声をあげると、向こうも気が付いたのか振り返る。
     そこに立っていたのは、鼻の頭と耳を赤くしたブラッドだった。いつからここにいるのか知らないが、頬も赤くなりつつある。
    「お前、こんなとこにこんな時間に何やってんだよ。耳真っ赤だぞ」
    「貴様こそ、そんな薄着でどうした」
    「え?あ~いやぁ~」
     さっきまで屋内で仕事をしていて、そのまま部屋に戻る前にここに寄ったのだから、当然オレは制服の上には何も羽織っていない。出先から戻ってきてそのままここに来たのか、それとも屋上で夜景をながめるためにわざわざ着たのか、既定の上着の上からマフラーまで巻いているブラッドとは大違いだ。
     思わず目を逸らすと、ブラッドは薄々察していたのだろう、深々と溜息をついた。
    「どうせ一服しに来たんだろう。何度も言わせるな。屋上は禁煙だ」
    「はは……ま、いいだろ一本くらい。新しい携帯灰皿も持ってきたし」
     へら、と笑いながら煙草を取り出すと、ブラッドは黙って肩を竦めて、また町並みの方に視線を戻した。珍しいことに、一本なら許してもらえるらしい。
    「風邪をひくぞ」
    「一本吸えば戻るって」
    「そういう問題では……はぁ……」
     再びわざとらしくため息をついて、ブラッドが首に巻いていたマフラーをほどく。
    「うおっ」
    「戻るまで巻いていろ。見ているこっちが寒い」
     咄嗟に煙草を遠ざけている間に、心なしかいい匂いのするマフラーがぐるぐると首に巻かれてしまった。勝手に巻いて、勝手に満足そうな顔をしているブラッドに、今度はオレの方がため息が出そうになる。
    「お高いマフラーにたばこの臭いが付いちまうぞ」
    「今更だ」
     あ、そう。
     本人がいいと言っているならいいのか。知らんけど。
     遠慮なく待望の煙草の味を楽しむべく、息を吸いこんだ。
    「今まで勤務だったのか」
    「ん?あ~まぁな。夜勤のやつらがトラブルで遅れるっていうからそれ待ち。やっぱ対策部隊の方は、ホリデー休暇前後はな」
    「そうだな」
     以前、クリスマスにイクリプスが市民を標的にしたテロ行為を……つまり、レンの家族が巻き込まれたあの事件があって以降、イクリプス対策部隊はクリスマスの前から年明けまではピリついている。そのあたりは、クリスマスのLOMが終われば一息つける通常勤務のヒーローとは少し違う雰囲気だ。
     研修チームと掛け持ち状態のオレたちは他の隊員のように詰める必要こそないものの(なにせ、ジュニアとフェイスはまだルーキーだ)、それでも多少忙しくはなる。
     それは分かっていたのだろう、ブラッドも一息ついてから小さく頷いた。
     
     何となく、オレもブラッドの視線を追って街を見下ろした。ここからはグリーンイーストを正面に、サウスセクターの方もよく見える。歓楽街のイエローウエストの方に比べたらやはり少し暗いが、グリーンイーストの方は珍しく……
    「あ」
    「ん?」
     と、そこまで考えて寒い中ここまでやってきた理由を思い出したオレは、早くもかじかむ指先で慌ててスマートフォンをポケットから引っ張り出した。……セーフ。
    「おい、もう年明けるぞ」
    「もうそんな時間なのか?」
    「いや……お前いつからここにいるんだよマジで」
    「日付が変わるなら……そうだな、かれこれ20分ほどか」
    「にじゅっぷんん?お前ほんっと……あっ」
     視界の端にあったスマートフォンに表示されていた時間が、23:59から0:00にパッと切り替わって、同時に眼下に花火が打ちあがる。
     驚いたように視線を花火に向けたブラッドにスマートフォンの液晶を見せると、光を反射してきらりと光る瞳がすっとオレの顔に視線を移した。
    「…………」
    「…………」
     遠くで打ちあがる花火の音を聞きながら、かれこれ数秒。きっとニューイヤーで盛り上がっているどこかの広場と違って、オレとブラッドしかいない屋上は静けさが耳に染みるほど静かだった。
    「あ~……ハッピーニューイヤー?」
    「ハッピーニューイヤー。なんだ、お前もカウントダウンを見に来たのか?」
    「お前もって、お前もか?20分も待つ必要あるか?」
    「ついでに少し考え事をしていたんだが、少し集中しすぎていたようだ。貴様が来て助かった」
    「あのなぁ……」
     ぱらぱらと打ちあがる花火をなんとなしに並んで眺める。ちらりとブラッドの横顔を盗み見ると、彼はやたら真剣な顔で花火の方を見ていた。
    「……あー、ブラッド?」
    「どうした?」
    「いまうち、誰もいねぇんだよな。ジュニアとフェイスは実家に戻ってるし、ディノも今年こそは!って実家に帰ったし」
    「あぁ、知っている」
    「どうよ、朝まで飲むとか。お前も明日は休みだろ?」
     普段なら一蹴されるような頼みだが、ニューイヤーくらいいいだろう。特に、ブラッドが大好きな日本ではホリデーよりニューイヤーの方が重視されていると言うし。日本酒はないが、こいつが好きそうな酒がある。
     勝率は40%くらいを見込んでいたのだが、ブラッドはふっと笑って首を振った。……横に。
    「悪いが、明日は朝から皆で初日の出を見に行って、そのままグリーンイーストに初詣に行くことになっている」
    「ハツモー……あ~なんかお前が昔オレとディノを連れ出したやつか。神社の」
    「あぁ。だからこの後は部屋に戻って寝なければ」
     最後の煙を吐いて、携帯灰皿に吸い殻をねじ込む。いじけるわけではないが、つまらないやつだ。まぁ……勝率は40%しかなかったわけだが。
    「だから酒には付き合えないが……お前もどうだ、一緒に」
    「は?ハツモーデか?お前らと一緒に?オスカーとか、アキラとウィルと行くんだろ?」
    「そうだが?三人ともお前がいても嫌とは言わないだろう。それにグリーンイーストには屋台も出て、甘酒や熱燗も楽しめるらしい」
    「うっ、いや…………やめとくわ」
     それは結構魅力的だが、サウス四人の中に親戚のおっさんよろしく混ざるのは流石にちょっと気が進まない。
     断ると、ブラッドはさして残念そうな顔もせずに「そうか」と頷いた。誘ってきたのはそっちなんだから、フリでももう少し残念そうにしろ。
    「あー……じゃあその代わりっていうか、なんか土産買ってきてくれよ。そんで、帰ってきたら飲もうぜ。ディノも明日の昼には戻るって言ってたし」
    「昼から酒か」
    「いいだろ?日本じゃニューイヤーはそうやって過ごすって聞いたぜ」
     ネショウガツというらしい。朝から酒を飲み、コタツに入って美味いものを食べて寝て、とニューイヤーを過ごすんだとか。最高のニューイヤーだ。
     当然ブラッドは知っているはずで、「それは一部の話だろう」と渋い顔をしながらも今度は縦に首を振った。
    「明日は一日休暇だ。少しなら付き合おう」
    「少しかよ。付き合いわりぃな、ックシュ!」
    「明日酒を飲む前に風邪をひくぞ。吸い終わったなら戻れ」
     いつの間にかグリーンイーストの花火は終わっていたらしい。それを見届けて踵を返したブラッドの背中を追ってオレも歩き出す。五分やそこらしかいなかったと思ったが、確かにブラッドの言う通り、すっかり身体が冷え切っていた。
    「おいブラッド」
    「なんだ」
     やっと屋内に戻ってほっと人心地つく。明るい部屋ってのはそれだけでほっとするもんだ。
    「あー……今年もよろしくな」
     確か日本ではこう言うんだろう。ニューイヤーおめでとう、今年もよろしく。
     今年もよろしくと言ったって、別に数分前と何かが変わったってわけでもない。ただ何となくその気になってエレベーターを待つ間に言っただけ。
     だけど、ブラッドは小さく笑って「あぁ。こちらこそ。よろしく頼む」と珍しく嬉しそうに笑った。
     丁度軽い音を立ててエレベーターが到着する。
     居住エリアに到着するまでの間、明日の話なんかを軽くして、エレベーターホールで別れた。
     全く、あいつの日本フリークぶりには恐れ入る。明日の昼までに日本語でニューイヤーの挨拶をできるように覚えたら、あいつも気分が良くなって夜まで付き合ってくれるんじゃねぇの。
     そんなことを思いながらマフラーを外して「あっ」と声が漏れた。
     すっかり慣れてほとんど感じない煙草の臭いの奥に、さっき笑って別れた腐れ縁の男の匂いがしていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💖❤💖❤💖🙏🙏☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator