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    よるのなか

    二次創作文字書き。HRH🍣右、🍃右中心。

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    よるのなか

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    あかでみー時のキスブラ。少しでもあおはる感が出れば良いと…。真ん中の日にあげようと思ったけど、思いの外明るくならなかったのでそこは断念しました…。

    #キスブラ
    kissBra

    繋いだ手 がたり、と大きな音が鳴ってから、エレベーターが突然停止した。乗っていたのはオレとブラッドの二人だけ。今日は授業のない日で、ディノと三人でショッピングモールに来ていて。ディノがさっきまでいた店に忘れ物を取りに行ったから、オレ達は先にエレベーターに乗って次の階へ行こうとしたところだった。いきなりの事に、顔を見合わせる。
    「停電か…?」
     その辺のボタンを押してみるがうんともすんとも言わない。窓もない所で止まったから辺りは暗く、周りの状況もわからない。何だこりゃ、と思っていたら、ブラッドがスマホを取り出して操作し始めた。
    「ディノにメッセージを送ってみた。どうやら停電ではないらしい」
    「え、じゃあ何で止まってんだよ」
    「わからん。とりあえず」
     そう言うとブラッドは、綺麗に整えられた指で壁に刻まれた電話番号を辿った。
    「この緊急連絡先に電話をしてみるしかないだろうな。停電でないなら、こちらの発信は繋がる筈だ」
     ブラッドは素早く電話番号をタップし、耳にスマホを当てた。オレのスマホを見てみると、ディノから連絡が入っている。ブラッドから事の次第を聞いて、オレにも大丈夫かって。状況はまだわかんねぇけど今のところは大丈夫っぽい、と返しているうちに、ブラッドの通話は終わった。
    「原因はまだわからないが、何かの誤作動で止まった可能性が高いとのことだ。すぐに復旧作業に取り掛かるから待機していてほしいと言われた」
    「はいよ」
     原因がわかんないんじゃ何時になるのかもわからない。待つしかないからとその場で佇んでいると、ブラッドがそれまでよりも少し距離を詰めてきた。
    「…お前は、こういう所は平気なのか」
    「こういう所?」
     今のこの空間のことを言ってるんだろうか。確かにエレベーターに閉じ込められるなんて、そうそうあるもんじゃねぇけど。
    「まぁ、アカデミーに入る前はこんな所にばっかいたからな」
     逃げる、雨風を凌ぐ、理由はその時により様々だったが、こういった暗くて狭い場所は丁度良い隠れ家であることが多かった。だから、怖いとか、そういった感情は全く無い。
    「…俺は、こういった事はあまり経験がない」
     オレの返事を受けたブラッドはそう答えた。声を聞く限りは、いつも通り至極冷静で全然平気に見えるけど。でもコイツみたいなお坊ちゃんは、確かにこんな事に遭遇したことはないだろうな。
     ……もし、オレが怖いとすれば、コイツとのその差を感じること、かもしれない。やっぱりオレが本来生きる場所はこっちで、アカデミーでブラッドやディノと一緒にいたそっちが、期間限定の淡い夢なんじゃないかって。
     そんな事を考え始めたから、オレは少し黙ってしまって。その沈黙が僅かに続いた後だった。

     手に、何かが触れる感触。人の、手だ。

     誰かなんてわかりきってる。ここには、オレとブラッドしかいないんだから。ブラッドが、俺の手を握っている。
    「……どうしたよ、怖くなったか、お坊ちゃん」
     突然のことに動揺しつつも、それを表に出さないように、平静を装って尋ねた。近くに来たブラッドの表情を見るが、エレベーターが停止する前と大した違いは無いように見える。
    「そうだな。あまり経験がないから、戸惑っている」
     オレの問いを肯定する声も相変わらずで、コイツ本当に怖がってんのか、と疑問に思う程だ。でも、返事と共によりしっかりと手を握られたから、思わずこっちからも握り返してしまった。
    「それと」
     ブラッドは続ける。
    「お前が少し元気が無いようだった」
    「…………オレが?」
    「考え事に、沈んでいるようだった」
     オレは上手く返事を返せずに、また黙ってしまう。さっき、ぼんやりと考えていたことをまるで言い当てられたように感じてしまったから。
     黙ったままでいたら、返事を待たずにまたブラッドが話し始めた。
    「……手を繋げば、互いの戸惑いや沈んだ気持ちが、中和されるかと思った」
    「……そりゃ、随分思い切った判断だな」
    「嫌か?」
    「…………嫌じゃ、ねぇけど」
     嫌だとは思わない。繋いだ手が、温かいから。不思議と自分の奥にあった濁って重いモノが、消えていく気がする。
    「なぁ、立ってるままじゃ疲れるし、座ろうぜ」
     そう言って、ブラッドを促して壁際に座る。手は、繋いだまま。
     復旧までの間、オレとブラッドはそのまま待ち続けた。
     オレの頭の中からは、さっきまで考えてた事なんて綺麗さっぱり消え失せていて。
     その代わり、繋いだ手の温かさと、隣りにいるブラッドの存在が、オレの頭の中をずっと占拠していた。
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