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    so_annn

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    23回キスブラワンドロライのお題より「予感」をお借りしました。
    遅刻の上にあんまりキスブラっぽくないのでそっとあげておきます。

    腐れ縁の経験則 第六感という言葉がある。五感以外の感覚で物事を予測したり、先読みしたり……似たようなことか。つまりは勘だ。
    『勘っていうのはな、まぁつまり、これまでの経験則に基づくものなんだ』
     ジェイがオレたちにそんな話をしたのは、ルーキー研修も終わりに近づいた、LOMの後だったかと思う。
    『サブスタンスを回収している中で、パトロールの中で、イクリプスとの戦闘の中で、それ以外にもLOMや模擬戦の中でもだ。ふと嫌な予感がした時や、これといった確証はないけど気になることというのが増えてくるタイミングがある』
     ジェイは伸ばし始めていた髭を撫でながら、オレたち三人を順番に見た。
    『気のせいかもしれない。考えすぎかもしれないな。その余計な動作が命取りになることも十分あり得る。……だが、忘れないので欲しいのは、その嫌な予感や気になる何かは、お前たちのこれまでの経験に基づいて感じたものだということだ。こういうのは、キースが一番敏感かもしれないな』
     ジェイがにっと笑って、両隣にいたディノとブラッドがオレの方を見たのが分かった。
    『逆にブラッドはこういう感覚的なところは少し不得手な部分もあるが……それも経験が解消してくれるはずだ。長くなってしまったが……つまり何を言いたいかと思うと、自分が感じた直感を大切にしてくれということだ。いい予感も悪い予感も、な』
     ジェイの言う通り、普段仕事をしていれば嫌な予感なんてものはゴロゴロそのあたりに転がっている。何となく怪しい気がする裏通り、ふと気になった市民。イクリプスの戦闘中に何となく背後が気になって振り返れば、そこに気配を消したイクリプスがいた……なんてことはか数えきれない。気が付いていないだけで無意識にこなしてきたものはもっとたくさんあるのだろう。
     嫌な予感。気になる何か。
     メジャーヒーローにもなれば、いい経験も悪い経験も否が応でも積むことになって、そんな勘働きもよくなってくる。ヒーローなら……いや、ヒーローじゃなくても、誰だって経験があるだろう。


    「……」
     その時ブラッドと鉢合わせたのは、完全に偶然だった。
     研修チームに所属しながらイクリプス対策部隊の方に派遣……というか、完全に掛け持ちになっているオレたちウエスト研修チームは、冗談ではなくマジで目が回るほど忙しい日々を過ごしている。まさかメジャーヒーローにもなって座学のお勉強をしなければならないなんて考えてもいなかった。なんだかんだで顔なじみが多かった研修チームから離れてピリついたイクリプス対策部隊に顔を出さなければならないというのも疲れるし、当然研修チーム側の仕事が免除されるわけでもないし、なんなら会議も通常のパトロールにも出なければならない。
     オレとディノはともかく、ルーキーふたりがオーバーワークにならないように気に掛ける必要だってあるし、対策部隊の隊長は抜けてるところもあるが一応はイクリプス対策部隊のトップだ。あまり無下にあしらうことも出来ないし、相談を持ち掛けられたら無視するわけにもいかない。
     それに加えて市長から持ち掛けられたLOMの開催があるとかで、正直オレはてんてこ舞いだった。
     これまたそれに加えてオスカーのことだってある。……オスカーが姿を消してしばらく経つ。他の飲み込まれた奴らは全員無事に帰ってきているのだから、どこかで倒れているのか……という段階はとうに過ぎ、今は捜索チームが組まれて、ニューミリオンを隅から隅まで探している状態らしい。
     正直、今のエリオスに特別LOMを開催している余裕なんてものは一ミリもないのだが、市民からの応援がなければ成り立たない仕事というのも事実だ。夢や希望、やりがいなんてものじゃなく、もっと切実な、根っこの部分で。先日の騒動以降、ヒーローへの不信感はやや払拭され、ヒーローブームのようなものも巻き起こっているらしいが、それも安定しているとは言えないし、軍への不信感と引き換えになっているようなものだ。ここいらで一度対外的なアピールが必要だというのはオレにだってよくわかる。
     ブラッドも、メンターリーダーとして企画にかかわっているようだし、オスカーがいない穴を埋めるためにメンティーたちの指導にもこれまで以上に時間を割いている……らしい。これはジェイからの情報だ。
     オレとしては、ただでさえ目が離せないルーキーのうち一人はオスカーのことがあって本調子ではないし、ディノもいつも通りふるまってはいても時々深刻そうな顔をして司令部の人間と話しているからそっちだって気になる。自分たちのことで精いっぱいで、よそに気を配る余裕は全くない……のだが。
    「ブラッド」
     声をかけると、エレベーター待ちをしていたブラッドは初めてオレに気が付いたみたいな顔をして振り返った。
    「キース。何かあったか」
     その振り返った顔に薄く隈が浮いているので思わずため息をつきそうになる。
    「いや、別になんも。……どうだよ、サウスの方は。大丈夫なのか」
    「そうだな。アキラもウィルも、相当気が滅入っているようだ」
    「だろうな。特にアキラはオスカーに滅茶苦茶懐いてたし……ガストのことがあってすぐこれだ」
     ガストが戻ってきてくれたと大喜びしていたのを目の前で見ていた分、その日のうちにオスカーが行方不明だと聞いたときのアキラと、分かりづらくもほっとしていたウィルの様子は想像するに余りある。いつになく疲れた顔のブラッドも、小さく息を吐いて徐々に近づいてきているエレベーターの表示を見上げた。
    「あぁ。一応食事と睡眠は問題ないようだ。気落ちしてはいるがトレーニングもこなせているし、パトロールも市民に向けてはいつも通りらしい。互いにな」
    「お前まさかとは思うけどアキラとウィルに互いを監視させてるんじゃねぇだろうな?」
    「人聞きの悪いことを言うな。お互いがお互いのことを報告書に書いてくるんだ」
    「なるほどねぇ」
     仲良きことはなんとやらだ。と、丁度その時エレベーターがフロアに到着した。
    「んで、お前は?」
    「は?」
     誰も乗っていないエレベーターに乗り込みながら尋ねると、ブラッドは怪訝そうに眉をひそめた。居住エリアに向かうオレよりさらに上……会議室のエリアだ。この後また会議なのかもしれない。
    「お前はどうなんだよ。フェイスなんかはめちゃくちゃ落ち込んでるぞ」
    「……あぁ、だろうな」
    「だろうなじゃなくて、お前は」
     尋ねながら、これが無駄だということを知っている。勘なんて大層なものでもない。
    「俺は問題ない」
     五年前、同じことを同じ顔で言っていた横顔を思い出す。
    「……そうかよ」
     こいつが公私を気味の悪い程にしっかり分けているというのは分かってたことだ。オスカーがいなくなって飯が喉を通らなくなって夜も眠れなくなるような性格でもない。……仮に飯が喉を通らなくなったとしても、それを周りに見せるようなやつでもない。相手がオレでも、ディノでも、ジェイでもだ。
     今はオレが出し忘れている書類もないからか、それ以上ブラッドは何も言わず、まっすぐエレベーターの扉の方を向いた。その同じ高さにある後頭部を眺める。寝癖ひとつない綺麗な頭だ。
     ぐんぐん上っていくエレベーターは一度も止まらず、恐らくオレが降りる階まで止まることはないのだろう。
    「…………」
     しわひとつないベスト、アイロンのかかった制服、後ろからでも分かるまっすぐ伸びた背筋。
     いつも通りだ。気味が悪い程、いつも通り。いつもと違うのは、小言を言わない口と、薄く隈の浮いた目元だけ。
     ポーン、と間抜けな音がした。
     これは何の根拠もない。なんとなくと言うにしても曖昧で、言葉にしようとすると霧散して、行動に起こす前に消えてしまうようだ。
     いくらわかりづらく隠していたとしても、こいつには心配事がある。それも、ちょっとやそっとの心配事じゃない。それはオスカーのことで間違いないだろう。そしてこいつは山ほど秘密を抱えてる。オレにも、ディノにも、ジェイにも言えない秘密を。
     ただ、そう、本当になんとなく。
    「キース?」
     降りないのか、とブラッドが怪訝そうな顔でこちらを見た。
     オスカーのことで、お前なんか隠してるか?
     そう言おうとした口を引き結んで、オレは笑った。
    「いや、なんでも」
     エレベーターを降りるその時に、ブラッドの背中をひとつ叩いた。おい、と不機嫌そうな声が背中に投げられる。
    「なんかあったら聞いてやるから、連絡しろよな。酒があればなお歓迎だ」
    「はぁ?」
     手を振ると、エレベーターの扉が怪訝そうな顔のブラッドの顔をゆっくり隠して、閉じた。
     本当になんとなくだが。
     ブラッドがあの日、夜のプールサイドで口をつぐんだ秘密のひとつが近いうちに暴かれるような。
     なんとなく、そんな予感がしている。
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