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    makino1639

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    makino1639

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    CPなし。
    実弥さんの「弟はいない」発言がどこから出てきたんだろう?というお話。
    ※すべて都合の良い妄想です
    ※出自への差別や違法行為の描写があります
    ※今回の粂野先輩は良い兄弟子なのですが、お館様が激烈な腹黒設定です。実弥さんメリバです、ご注意下さい
    ※名ありモブ大量出没

    レゾンデートル「匡近。柱になれば、俸給は思いのままってのは、本当か」
     おむすびを食べる手を止め、粂野はきょとんとした顔で隣を見た。
     それぞれの担当地区の夜回りを終え、中間地点にある寺の裏手で落ち合った弟弟子は、粂野が渡したおむすびを味わいもせず二口三口で平らげ、うつむき加減に地面を見つめている。
    「本当だよ」
     平静を装い、残りのおむすびを急いで口に入れた。不死川の横顔を盗み見ると、目の下に濃く隈が浮いている。
     ここ数日、何やら悩んでいるのは気づいていた。いつから様子がおかしかっただろうか? 連日の夜回りは空振りで、緊急の任務も入っていない。珍しく平坦だった日々の記憶を遡り、そういえば先日、婚姻届の証人を頼まれて、署名をしたのを思い出した。
     一期下の後輩は、もう一つの証人欄はお相手の育手にお願いするのだと、なれそめのノロケ話もそこそこに、そそくさと用紙を回収していった。一部始終を横で見ていた不死川は、何とも言えない表情をしていた気がする。
    「ひょっとして、実弥も結婚したい人がいたりするの?」
    「……はァ?」
    「どんな人かは知らないけど、俸給で釣るのは感心しないなぁ」
    「そんなんじゃねぇ!」
     カッとなって怒鳴った勢いの割に続きを口ごもる不死川に、粂野はやんわりと水を向けてやった。
    「じゃあ、何か欲しいものでもあるのかい?」
    「…………」
     だいぶ迷った末に口に出したのは、予想もしなかった望みだった。
    「戸籍を、キレイにしてやりたい」
    「戸籍?」
     唐突に出てきた単語の意味は分かるが意図がつかめず、目をぱちくりさせる粂野を置いてきぼりに、不死川は一方的に話を続けた。
    「すっかり忘れ込んでいた、あれから何年経ったんだか。二親ふたおやが死んじまってるのはまだしも、消息不明の兄貴がいるんじゃァ、まずまともな就職先はねぇだろうし、何かの拍子で大恋愛したところで、ふつうの家のお嬢さんが嫁に来てくれるはずもねェ」
    「……」
    「金を積めば、どうにかしてくれるって話を聞いたことがある。でもたぶん、それは」
    「詐欺か、悪事に巻き込まれるだろうね」
     話に思考が追いついた粂野が差し挟む。口惜しそうに唇を噛む不死川は、そこで行き詰まっているのだろう。
     かわいい弟分は、時折、やけに大人びたことを言うとは思っていた。それにしても戸籍をいじりたいだなんて想定外で、粂野の中に答えがあるはずもなかった。
     さぁっと吹いてきた風で、頭上の枝がさわさわと揺れる。ふと、粂野の脳裏にある男が思い浮かんだ。
    「実弥。どうにかなるかは分からないけれど、俺に心当たりがある。一度、話しに行こう」
    「……匡近?」
     心細げに見上げる不死川に、粂野はニッと笑ってみせた。
     過酷な毎日を送る鬼殺隊で、だてに生き残ってはいないのだ。

    「そんなん、俺も知らねーよ」
     俺を便利屋だと思ってるだろ。事務系は不得手だっつーの。──ぶつくさ呟きながら、腰紐のような細長い布を巻く手つきは無駄がなかった。
    「そこを何とか。後藤サン」
     面隠しの隙間を覗き込むような粂野の上目遣いに、ウッと詰まった。さして年は変わらないのに入隊したのがわずかに早いというだけで、いつも後藤の顔を立ててくる。たとえ同期でも隊士と隠の間には歴然とした格差があり、ぞんざいに扱われることも慣れっこだった。そんな中で下にも置かない粂野の態度には、こそばゆくも悪い気持ちはしない。
    「……ひとつ貸しな」
    「恩に着るよ。ありがとう!」
     ひらりと手を振り、粂野は不死川を連れて出て行った。そっちは当事者のくせに一言も話さず仏頂面だったが、よくあることで気にもならない。呼びつけずにやって来ただけマシだ。
     ぼやきは口をついて止まらない。それでも手元の作業が終われば、区切りをつけざるを得なかった。後藤は頭の中で、この後の行動を算段する。目隠し用の布を棚にしまい、その足で向かおう。粂野に押し付けられた面倒事を相談すべき上役の元へ。
    「怖ぇんだよな、まだ話しかけるの」

    「あいつ、頼りになんのかァ?」
     疑り深くやり取りを見つめていた不死川は、さすがに本人の前では言わないという分別はあった。
    「最近、本部付きになったらしくて」
     俺達の俸給もそうだし、鬼に襲われて身寄りのない子供や、亡くなった隊士はしかるべき手続きを踏む。政府非公認の組織だからこそ、その辺はしっかり処理しとかないと鬼殺隊の本来の活動に支障が出る。
    「本部の事務方は、隊士の遺書を保管してるだけじゃないんだよ」
    「……へぇ」
     不死川はまだ完全に信用できないながらも、野良で鬼狩りをしていた子供の時分とは違い、世の中は『鬼の頸さえ斬れば後はどうにでもなる』訳ではないと理解していた。
     数日後、二人揃って後藤に呼び出された場所はとある邸宅で、金縁の眼鏡をかけた男性が落ち着いた洋間に書類を広げて待っていた。
    「立花です。不死川くんと言ったかな、早速ですが君の情報をいくつか教えて下さい」
     父母の名前や入隊前の住所を問われるがまま答える不死川を、粂野は壁際に置かれた椅子に座って見守っていた。少し緊張した雰囲気の後藤が、そっと粂野に耳打ちした。
    「弁護士で、お館様の左腕とも言われる方だ」
     そこまで上位の人間が出てくるとは思っていなかった粂野がびっくりして振り返ったが、後藤はさらりと視線を受け流したので何も聞けずに口を閉じた。
    「……はい、今日はここまで分かれば結構です」
     意外と短時間で聞き取りは終わった。
     疲れた表情の不死川に、コホンと咳払いして確認が付け足された。
    「我々鬼殺隊は規模の大きな自警団のようなもので、けして官憲に追われる立場ではない。鬼を殺す瞬間を見られようが、殺人罪に問われることもない。君の所在が明らかになったとしても、何ら恥じることはないように思いますが?」
     途端に不死川は目を見開き、顔色は一瞬で蒼白になった。何を思い出しているのか時間が止まったような沈黙の後、あと一滴で決壊しそうな声を絞り出した。
    「俺という存在を消したい……それだけだ」
     誰も身動きしない室内に、書類挟みがパタンと閉じられる音が響く。
    「──やってみましょう」

     帰り道、粂野が何も聞いてこないのをいいことに、不死川は押し黙っていた。
     自分が思っているより、意外と世間は気にしないのかもしれない。無駄なこだわりかもしれない。でも、このままなら、たった一人生き残った弟は、人生の大事な節目に兄の名を見ることになる。母を殺した男の名を。
     できることなら、玄弥から『人殺しの兄貴』の記憶そのものを消してやりたい。酷い事件に遭いはしたが、何も悪くないお前は真っ当な道を歩み、温かい家庭を築いて平穏な人生を送るのだ。
     地獄行き確定おやごろしの不死川が得られようもない幸福──弟には、もう、二度と会うつもりはなかった。

     後藤は必死に筆を走らせていた。これから取り寄せるもの、作成するもの、立花がポンポンと告げる種々様々な書類を書き留めていく。
    「……そんなところかね。すぐ手配して」
    「はい」
     敏腕弁護士は湯呑み茶碗の蓋を取り、香り高い煎茶で一服しながら、後藤に釘を刺した。 
    「分かっているだろうが、これは特別扱いだ。お館様からご指示がなければ、彼の身辺になどかかずりあってる暇はない。気の毒な少年は、鬼殺隊には掃いて捨てるほど居るのだから」
    「……はい」
    「彼はやがて、柱になるだろう」
    「えっ⁉︎」
    「お館様に目を掛けられるというのは、そういうことだ」
     羨望と憐憫が混ざった呟きは、底に残った茶と共に飲み込まれていった。



     この時代、長屋の一棟に一人は、世話好きのおばさんが標準装備されていると言っても過言ではなかった。不死川家があった京橋區においても例外ではなく、子だくさんの母子家庭から一夜にして母と長男が蒸発し、次男は大怪我を負い、三男以下は惨殺されるという悲劇に見舞われた家の遺児の身柄を引き受けた人がいた。とはいえ、台所事情はおっつかっつな世帯であるから、さらに伝手をたどって郊外にある篤志家の孤児院に預けられた。
     月日は流れ、尋常小学校を卒業する年だということで、養父母が身上書代わりに戸籍謄本を取りに行った。大人達が小ぎれいな格好で都心に出掛けたなら、きっと珍しい土産があるだろうと帰りを待ち構えていた子供達は、お目当ての菓子を渡されてはしゃぎ回り、そっと一人だけ連れ出された子供に気付かなかった。
     早く菓子を食べたくてそわそわする棟髪モヒカンの少年には、連れてこられた小部屋の重苦しい空気は感じ取れなかった。
    「玄弥。お前には、生き別れた兄さんがいるんだよな?」
    「……うん、そうだよ」
     急に不安が押し寄せて、答える声は小さくなった。
     あの朝、騒ぎを聞きつけた大人達が駆けつけて、玄弥はすぐに病院に連れて行かれた。兄は現場に残り、警察が来て簡単に事情を聞かれた辺りまでは、確かにそこにいたという。ふとした隙に、姿を消した。
     玄弥の言い分は、子供のたわごとだと誰も聞いてくれなかった。兄が迎えに来てくれないと分かって癇癪を起こしてもいたから、なおさら取り合ってもらえなかった。
     兄は生きている。あんなこと・・・・・があったから、俺の顔も見たくないだけで──いつか、兄に劣らぬ立派な男になって、面と向かってあの時の暴言を謝るのだ。そう胸に誓って日々を過ごしてきた。
    「ひょっとして兄さんは貰い子だったとか、何か聞いてないかしら?」
    「兄ちゃんは俺の兄ちゃんだ!」
     ろくでもない親父が事あるごとに、長男は橋の下から拾ってきただのとニヤニヤしていたのを思い出し、玄弥は腹を立てた。しかし、目の前の養父母はとにかく困惑していて、玄弥の忿懣は爆発せずにしぼんでいった。
     戻って菓子を食べても、大人達の様子が気になってそこまで美味しく感じなかった。夜、皆が寝静まってもなかなか寝付けなく、便所に行く途中で漏れ聞こえた養父母の話し声に思わず寄っていったのは、当然の帰結だった。
    『玄弥の兄さんが、まさか載っていないだなんて』
    『その子は、玄弥が知らないだけで、戸籍が別であっても理由は付く。それよりも問題なのは、行方不明のはずの母親が死亡になっていることだ。子供達と日付が揃っているが、この届出人はいったい誰だ?』
    『誰かがこの戸籍を触ったのは間違いなさそうね。可能性が高いのは消えた長男だけれど、入れ知恵をした者がいるはずよ』
    『父親は、生前、胡散臭い連中と関わりがあったそうだ。もしそちらの影響なら、その子は今頃……』
    『……玄弥にはしばらく黙っておきましょう』
     じっと立ち尽くしていたせいか、玄弥の視界がくらくらする。気がつけば寝床に戻っており、まるで夢を見ていたかのようだった。
     兄ちゃんは、今、どこで何をしているのか……。

     玄弥は年下の子供達に混じって遊ぶことがめっきり減り、時たま物思いにふけるようになった。養父母は、成長の過程でよくあることとそっと見守るにとどめ、気分転換や社会勉強と称してあちこち連れ出すことが増えた。幼い頃より兄と一緒に雑役で小銭稼ぎをしていたおかげか、体躯が頑強な玄弥は荷物持ち要員として最適だったし、今後の身の振り方を考えるために世の中を見せてくれようとする気持ちはありがたかった。
     ある日、用事を済ませる間、時間を潰しておいでと有楽町で小遣いを渡された玄弥は、思い立って、昔、家族と住んでいた辺りへ行ってみた。目まぐるしく変わっていく風景に、ついキョロキョロしていると、声を掛けられた。
    「アンタ、玄弥ちゃんじゃないか!」
    「……おばさん!」
    「元気にしてたかい? 大きくなったねぇ!」
     痛いくらい手を握られ、元住んでいた長屋へ連れて行かれる。玄弥達の家であった一間は、異常死であったから聞こえが悪いと建て替えられていたが、全体的にはほぼ変わらぬ懐かしい景色だった。
     井戸端会議の輪に迎え入れられた玄弥は、孤児院での生活を当たりさわりなく話した。元ご近所の気やすさで容赦なく混ぜっ返されたりしていると、急に袖の陰に押し込められた。
    「な、何?」
    「シッ、ちょいと隠れてな」
     隙間からそっと覗くと黒づくめの若い男が二人、通りを横切って行った。
    「最近見かけるんだよ。どうも、アンタの兄ちゃんを探してるみたいだよ」
    「えっ……」
    「言いたかないけど、アンタの父ちゃんは酷かったからねぇ。借金のカタに、志津さんともどもさらわれたんじゃないかと心配してたんだよ。うまく逃げ出せたのかねぇ」
    「……そんな。兄ちゃん……」
    「アンタも帰り道、気をつけなよ」
     口々に心配や励ましの言葉を掛けられていると、遠く時鐘が響いてきた。おかみさん達があわてて家事の続きに散っていく。
     取り残された玄弥は、ぽつりと呟いた。
    「こんな音だったっけ……」
    「市電や車の音で聞こえにくくなっちまってね。今度、表通りに建つビルヂングには、大きな時計が付くそうだよ」
    「……そうなんだ」
     時が流れてゆく。『いつか』なんてのんきに構えていては『一生』兄に会えずじまいかもしれないと思うと、カッと体が熱くなった。

     生まれ育った町の知り尽くした裏道を駆け抜ければ、先回りは簡単だった。先ほどの黒づくめの男達の前を、いかにも地元の子供の様子でふらりと通りすがる。狙い通り、声を掛けてきた。
    「やぁ、こんにちは。この辺に白い髪の男の子が住んでたと思うんだけど、家族か知り合いを知らないかい?」
    「……」
     子供相手だからか物腰柔らかに聞いてくるのが、かえっていかがわしい。警戒心もあらわにジロっと見上げる玄弥に、男達は気を悪くする様子もなく、むしろ親しげに質問をくり返した。
    「知らないかなぁ? 白い髪で、『しなずがわ』って、ちょっと珍しい名字の」
    「…‥知らない」
     口ではそう言ったが、兄に間違いない。どうしよう、この人達がもしも兄の敵だったら──思い惑っている玄弥に、若い男は小さな紙を差し出した。
    「我々は鬼殺隊と言うんだ。もし思い出したことがあれば、ここへ連絡をくれないか?」
     あっさりと去っていく背中には『滅』の字が大書されており、どう見てもカタギの組織には思えなかった。
     玄弥は渡された名刺の住所を必死に覚え、その辺のドブに細かくちぎって捨てた。養父母の元を飛び出し、鬼殺隊につながる門を叩くのは、この数日後のことである。

     それより少し前の、鬼殺隊本部では──。
    「お館様。風柱の元の戸籍に、照会があったそうです」
    「……そう」
     隠からの報告を受けて、鴉の羽根を撫でつけていた耀哉が、つと顔を上げた。
    「実弥の親族が、きっと近くにいるのだと思う。あの子の血縁は押さえておきたい」
    「旧居の周辺で情報を撒いてみますか?」
    「そうしてくれるかい」
    「御意」
     御前を下がる背中に、耀哉のひとり言が追いかけるように聞こえてきた。
    「地に落ちた種は、やがて大きく花開き、たくさんの実を結ぶ。いつ、どこで、何の種にするか……悩ましいね」
     障子を開け放って見渡せる庭には、今の季節は百合の花が咲き揃っている。湿り気を帯びた風がそよ吹き、白や黒の花弁が重たげに、まるで身を寄せ合うように揺れていた。
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    ⚜😭🌼🌼🌼😭😭😭
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    makino1639

    MOURNING🍃さんの悪い評判について⚔️匠(捏造モブ)目線でひとこと言いたいという話。脇役ですらない裏方キャラの妄想を楽しめる方向け。書きたいところだけ書いた超短編
    ※事後(雰囲気のみ)
    ※切り傷の描写あり
    ※🍃さんの傷跡=自傷の痕に異論を唱えたいわけではなく、こんなのもアリよね〜と軽く楽しんでいただければ
    刀の錆 つつ、と指が肌を滑る。気持ちよくまどろんでいた不死川は、ゆるくまぶたを持ち上げた。目の前に金色の頭髪がふわふわと広がっている。夢よ覚めてくれるなと瞳を閉じて、腕の中のぬくもりに頬をすり寄せた。

     身じろぎした恋人は、いまだ眠りの中にいるらしい。スゥスゥと再開した寝息をくすぐったく感じながら、煉獄は肩、腕、胸と、目についた傷跡をなぞっていった。普段あれだけ盛大に前を開け広げて見せつけているに等しいのに、不死川本人は全く意識していないとのたまう。縦横に走る傷跡に触れることが許されるのは、文字通り懐に入れられた者の特権だった。
     薄まった古傷はともかく、赤く盛り上がっているものは、血が止まりさえすれば後は構わなかった印だ。通常、全集中の呼吸で早く傷を癒す方向に血流を操作するが、不死川は逆手に取って他に血を回している。自然治癒どころか、これでは遅々として治るものも治らない。全身の傷跡が減らないわけだ。
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    makino1639

    MOURNING『🍃🔥2cm3kg差なんて誤差みたいなもんじゃん(差がないでもやっぱり差があるでもどっちも楽しめて美味しすぎる😋)』癖に忠実に、書きたいシーンだけ書いて終わってます。
    漫画向きのネタで、描写がイマイチな所が多々あるかとは思いますが、脳内補完をお願いします🙇‍♀️
    土手 そぼ降る雨の中、昼の明るさと暖かさが見る間に失われていく。
     ──[[rb:尾 > つ]]けられている。
     ひたひたと寄ってくる気配に、振り返りもせず足を早めた。



     炎柱である煉獄は、その見た目も相まって、護法神の化身とたとえられることがある。魅せられる者は後を絶たず、逆に異常だと毛嫌いする者も合わせれば、不審者がまとわりつくのはもはや日常茶飯事である。
     警察に突き出すというのも、こちらが政府非公認の組織に所属する身であるからには、なるべく避けたい。まして追跡者が人間でない場合、彼らの手に負える代物ではないのだし。
     チラリチラリと見え隠れする気配は、まだどちらのものとも判別できなかった。

     担当地区を回っていたら火事に行き当たり、それには別の隊士が任務として対応していた。取り急ぎ協力して消火したところで詳細を聞くと、火事場に出る鬼がいると言う。深夜でもエサの方からのこのこ外に出てくるのだから、鬼にとっては絶好の狩場だろう。はた迷惑なことに、火事騒ぎに便乗どころか、放火犯の容疑すらあった。
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     今日はこれから、招待制のシークレットライブが開かれるのだ。出演はもうすぐ単独武道館公演も夢じゃないと言われているスリーピースのロックバンド、「The Undead」だ。最近では数千人クラスの大箱でのライブしかやっていない彼らが、500人も入らないような会場で演るのは、ファンなら見ておきたいステージだった。至近距離 8063