傷と誘惑1 シェーシャがパッセンジャーと最初に二人きりで話したのは、パッセンジャーがロドスに来て数日後のことだ。彼は技術部のエンジニアとして配属された。新人の案内という余計な仕事は彼をロドスに連れてきたシェーシャに押し付けられたのだが、その途中、彼はそっとシェーシャに囁いた。
「『あの話』は、まだ有効ですよ」
「……ッ」
密かに息を呑む。
ついに──と思った。サルゴンでの任務を終えてロドスに帰還するまで時間はあったが、他の人間がいたせいで詳しい『話』をすることはできなかった。シェーシャとしては、正直心待ちにしていた申し出だ。
「今夜でどうだ?」
動揺を抑えて囁き返すと、パッセンジャーはその美貌に張り付けた微笑みを僅かに深くした。
7560