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    @vermmon

    @vermmon 成人済/最近シェパセ沼にはまった。助けて。

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    シェパセなれそめ、ラスト。ようやく恋人の扉の前に立ったというところ。

    #シェパセ

    傷と誘惑6 ──pipi、pipi、pipi、pipi

     無粋なアラームが泥沼のような狂騒から意識を引き剥がす。すぐ目の前には、ぐったりとしたパッセンジャーの顔。彼は随分前から声も出なくなっていた。閉じることさえできなくなった口から突き出た赤い舌を痙攣させ、唾液をだらだらと零すままの彼は、それでも美しかった。長い髪が乱れてシーツに広がり、まだらな夜明けの光景を描き出している。一晩中犯され、それでも懸命に雄を受け入れ続ける腫れぼったい粘膜が、電子音に反応してひくりと蠢く。
     突然冷水を浴びせられたような空白。呆然としてると、パッセンジャーが億劫そうに腕を上げて手首の装置を探り、ピーピーわめいているアラームを止めた。
     そういえば、最初に言われたような気がする──「『一晩中』私の事を好きにしてかまいません」とかなんとか。枕元の時計が示すのは午前五時。早朝と言っていい時間だが、ロドスでは朝のシフト交代のために起きだす連中もいる頃合いだ。美しいリーベリが訪ねてきたのは、昨夜八時ごろ。それからいろいろあったが、少なくとも八時間以上セックスしていたことになる。だが、シェーシャはまったく疲れていない。突然脳にアラーム音を突っ込まれて、ショックで思考停止しているだけだ。
     その間抜け面を「いわんこっちゃない」と睨みつけ、パッセンジャーが咳き込んだ。どけと言いたげに胸を押されたシェーシャは、大人しく身体を起こして陰茎を引き抜く。それは持ち主の興奮が冷めたせいか勢いを失っていた。ぼっかりと開いた孔からまだ温かい粘液がどろどろと流れだし、シーツを汚す。性交の生々しい臭気が部屋中に漂っていた。
     大儀そうに身を起こし、身体を引きずるようにバスルームへ消えて行くパッセンジャー。その股から白い粘液が溢れ、太腿から足首へ伝い落ちていく様が淫靡だった。
    「あー……」
     こんなとき、なんて言ったらいいんだ? 言語野がまだ動き出していない。やめようと思えばやめられる。だが、たったいま自分の手から逃れて行った裸身が惜しくてならない。シーツや床を汚した自分の精液の量を見て、我が事ながら少し呆れた。
     ヴィーヴルとリーベリでは、体力に天と地ほども差がある。どれほど彼に負担をかけてしまったのだろう。なのに、自分はもっと彼を抱きしめて味わっていたかったと思ってもいるのだから、度し難い。
     シャワーが床を叩く水音に混じって、何度か咳き込む音が聞こえる。汚れた髪と身体を洗うのに時間がかかっているのか、パッセンジャーはなかなか出てこない。
     ようやく再起動したシェーシャは、とりあえず下着を履いて床の汚れをティッシュで拭った。床に落ちている自分の服とペンダントをひとまず椅子に上げ、パッセンジャーの服をハンガーに掛ける。見るも無残な有様となったシーツをベッドから剥いで、共有ランドリーの使用は何時からだったか思い出そうとしていると、バスルームのドアが開き、腰にタオルを巻いたパッセンジャーが現れた。しばらくドライヤーの音がしていたものの、彼の長い髪はまだ生乾きで、指で梳いただけらしく縺れていた。
     ガラガラに掠れた声が、明らかに怒りを堪えているとわかる過剰に優しい口調でシェーシャを呼ぶ。
    「シェーシャくん?」
    「ああ……」
    「残るような跡はつけないでください、と言いませんでしたか?」
     リーベリの裸身には数えきれないほどの鬱血痕や歯形がついていた。特に首筋とうなじには執拗に噛みついた痕があった。腕や腰には指の形の痣があり、鉤爪が食い込んだと思しき傷は血が固まってかさぶたになっている。
     明日までに消える傷かと言われれば否である。ほとんどは服で隠せる場所だし、首筋のそれも襟と髪でギリギリ隠せないこともないが、検診では体表に源石結晶が現れていないか確認するので間違いなくバレる。
     彼を傷つけたくないと思った──それなのに、この有様だ。詳細は思い出せないものの、自分がそういう事をしたという意識はある。
    「その……すまなかった……」
     パッセンジャーがハンガーに掛けられていた服を素早く身に着けながら溜息を吐く。
    「医療オペレーターは、この傷の理由を聞いてくるでしょうね」
    「わかってる。正直に答えてくれ。キチッと怒られてくる」
     本気で落ち込んでいると、ふっと吐息だけで笑う音がした。
    「今度からは、気をつけてくださいね」
     その声は掠れて聞き取り辛かったが、初めて聞くような明るさと気安さがあった。シェーシャは驚いて顔を上げたが、すでにパッセンジャーの姿は消えていた。微かに残る湯気とシャンプーの匂い。
    「今度から……?」
     ──次があると思っていいのか?
     独り取り残されたシェーシャは、汚れたシーツを抱えたまま呆然と扉を見つめる。若いヴィーヴルの尻尾はご機嫌な動きで左右に揺れ、持ち主がまだ実感できていない喜びを表していた。

       +

    「血液中源石密度の数値は前回から変動なし。体表の源石も変わりないようです──ひとまず、問題はありません。このまま薬の服用を続けてください」
     検査結果を眺めながら若いコータスの医師が言う。確か、アンセルと言っただろうか──ロドスに所属する医療オペレーターは数多く存在するが、戦闘任務に同行できる男性医師は希少なため、珍しく名前を覚えていた。
     彼はパッセンジャーが淡々とチェックを入れたプライバシーもクソもない問診票を眺め、検査着の首元に視線を移した。
    「そのお怪我は?」
     彼は先ほどパッセンジャーの身体を調べていたが、よほど肝が据わっているのか、体中についた痕跡を見てもほんの少し眉を動かしただけで何も言わなかった。傷をつけた相手を責めるような素振りさえなかった。
    「パートナーが情熱的でして──ゴホッ、ゴホッ」
     パッセンジャーは咳き込んだ。一晩中声を上げ続けて傷めた喉は、丸一日経っても回復しきっていない。アンセルは動じた様子も無く質問を重ねる。
    「合意の上だということでしょうか?」
    「まあ、そうなるでしょうね……」
     曖昧に頷く。確かに抱いて欲しいとねだったのは自分の方だ。好きにしていいとも言った。だが、それは「何をしてもいい」という意味ではない。正直、ここまでされたのは計算外だった。
     だが、不思議と怒りは湧いてこない。「自分にこんな真似をしたことを、骨の髄まで後悔させてやろう」という気持ちにはなっていない。これは今までにない事だ。昨日の朝、すっかりしょげかえった青年を見て、そんなに深刻にならなくてもいいのにとさえ思った。昨日は何とか自室に辿り着いた後、ベッドに倒れ込んで一日中起き上がれなかったが、それさえも大したことではないような気がしている。むしろ、夢も見ずによく眠れた。
     自分を辱めた相手を殺したくなっていないのだから、この傷さえも合意の上と言って差し支えないはずだ。
     アンセルは問診票に目を落とした。前回検診から今までの性行為についての項目を眺めている。治療計画に影響を及ぼすこともあるためか、任意ではあるものの相手の名前を記入する欄まである。正直に答えて良いと言われていたので、その欄には「シェーシャ」と書いておいた。
    「シェーシャさん……パッセンジャーさんと同じエンジニア部所属のオペレーターですね。お二人は恋人同士なんでしょうか?」
    「その質問における恋人の定義はなんでしょう?」
     パッセンジャーは喉の痛みに顔を歪めながら首を傾げる。
    「あいにく、私は今までの人生において、恋人を持ったことがありません。カルテに書かれるのであれば、今後、私と彼が継続的に肉体関係を持つ可能性があるか、という意味でよろしいですか?」
    「それもあります」
    「であれば、恋人であるかどうかは関係がないのでは? 関係が継続するかどうかは、相手次第な面もありますので、断言はできません」
     話しながら質問の意図に気づいた。
    「ああ……そちらでは、私の精神面についても要観察となっているのですね? 確かに、我ながら健全な精神状態だと胸を張ることはできません。誰か、心の支えになるような人物がいるかどうかは、医療部としては当然チェックしておくべき事項なのでしょうね」
    「有り体にいえば、そういうことです」
    「そうですね……現時点では違うとお答えすべきでしょうね。今後そうなる可能性があるのかは、これもわかりません」
     答えながらも、パッセンジャーは自分がシェーシャを受け入れた瞬間の事を思い出していた。赤毛のヴィーヴルは、こちらの心の中に無遠慮に踏み込んできた。今思えば一方的で無礼極まりない決めつけ──だが、その指摘によって今まで目を逸らしていた自身の心に復讐され、砕けそうになった自我を支えてくれたのもシェーシャだった。
     ──あんたの苦しみは、俺が知ってる。
     己自身すら顧みることのなかった暗闇に手を差し伸べてくれた。その言葉にどれほど救われたかわからない。こんなに心が軽いのは初めての事かもしれなかった。苦しみが癒えたわけではないが、少しだけ世界は明るく、空気が新鮮に感じられている。
     アンセルは考え込んでいる患者の表情を観察し、「微妙な時期」とカルテに書きつけた。
    「私からも質問をよろしいでしょうか?」
    「はい、どうぞ」
    「鉱石病が患者との接触で感染しないことは知っています。ですが……いえ、解っていることを聞いて貴重なお時間を無駄にするのは本意ではありません。忘れてください」
     パッセンジャーは知っているはずの事をわざわざ確認しようとする自分に苛立った。だが、アンセルは落ち着いた口調で答える。
    「パッセンジャーさんとの性的接触でシェーシャさんが鉱石病に感染する可能性は低いでしょう。ですが、体表の鉱石が皮膚を傷つければ話は別です」
    「彼は私の額には触れなかったと思います……ですが、どうぞ気を配ってください。いえ、オペレーターのバイタルを細かくチェックしているロドスが、感染を見逃すはずはありませんでしたね。失礼いたしました」
     若いコータスはなぜか微笑んだ。
    「毎日全員のチェックができるわけではないので、やはり身近にいる人同士で注意しあうほうが素早く対応できます。何かあったらすぐに報告してください」
    「わかりました」
     医療部には自分たちの関係を咎めるつもりはないらしい。あれこれ口を出されないのは歓迎すべきことだが、何故相手が笑っているのかわからない。
     訝しげな顔で部屋を出ていくパッセンジャーを見送り、アンセルはカルテに所見を追記した。何事にも感心が無く虚無的だった患者が、パートナーの健康を気遣った──その態度の変化は、医者として好ましいものに感じられたからだ。

       +

     検診を終えて宿舎に戻ると、人気のない共有スペースのソファにTシャツにワークパンツ姿のシェーシャがぽつんと座っていた。丁度昼休憩が終わった時間なので、私服でいるということは非番なのかもしれない。
     時間を持て余している時の彼は必ず携帯ゲームをしていたような記憶があるが、珍しく手に何も持っていない。赤毛の青年は、パッセンジャーの姿を見ると、緊張した顔で立ち上がった。
     そういえば、彼は昨日も部屋を訪ねてきていたようだ。こちらが職場に顔を出さなかったので心配したのかもしれない。元々休日だったし、ほとんどの時間眠って過ごしていたので、夢うつつにノックの音と呼び掛ける声を聴いたような気がするだけなのだが、そのせいでこちらが怒っていると勘違いしたのかもしれない。
    「パッセンジャー……その……」
    「昨日は一日中寝込んでいました。君の声が聞こえたような気がしたのですが、起き上がる気になれなくて」
    「え、あ、そうだったのか……? てか、声とかもまだ……」
    「ええ。君に付けられた痕も消えていません」
     襟と髪で隠すにも限界があったので、パッセンジャーは首にスカーフを巻いている。神妙な態度を取る青年を、彼の罪悪感を刺激する荒れた声でやんわりと詰ってやる。
    「ヴィーヴルの相手をしたことはありますが、君ほど若くありませんでしたから、やはり甘く見ていたのでしょうね。私の身体を骨までしゃぶりつくしたくせに、まだ足りないという顔をされたのは誤算でした」
     恨み言を言われた青年は、まじまじとこちらを見つめた。
    「……なんです?」
    「やっぱり、記憶違いじゃなかったんだな」
    「何がですか?」
    「あんたが、そんな風に話すところ」
    「そんな風とは?」
    「だから、今みたいに……なんていうか、普通な感じっていうか。あんた、わざとかは知らねぇけど、いつも何かにウンザリしてるような話し方してるだろ」
    「反論はできませんが……」
    「一昨日はちょっと違ってた気がしたんだが、俺の勘違いかもしれないと思って」
    「それが何か?」
    「いや……なんか、可愛いなって」
     何を言ってるんだこいつは──パッセンジャーは呆れて溜息を吐いた。同時に、ひどく空腹だったことを思い出す。
    「シェーシャくん、昼食はお済みですか?」
    「え? いや。まだだが」
    「実は昨日から何も食べていなくて、とてもお腹が空いているのです。一緒に食堂へ行きませんか?」
    「いいのか?」
     突然の誘いに驚く青年の背後で、尻尾がぶんぶん揺れている。実にわかりやすい。ヴィーヴルの尻尾はこんなに感情豊かだっただろうか。
    「君のせいで食事をし損ねたので、奢っていただきたいのですが」
    「もちろん」
     食堂はまだ開いているはずだった。並んでそちらへ向かう間、気詰まりな沈黙が落ちる。シェーシャはエネルギー切れを起こしてふらつくこちらを気遣っているようだが、何か言おうとしては口を閉じるということを繰り返していた。倦怠感で頭が回らない。言うべきことがあったはずなのだが。
    「シェーシャくん……」
    「お、おう」
    「昨日……いえ、一昨日ですね。抱いて欲しいと願ったのは私の方ではありましたが、とりあえず、今後頻繁に君の相手をするのはごめん被ります。私の身体が持ちません」
    「いいのか?」
    「何がですか?」
     青年は不思議そうな顔で言った。
    「いや、俺と寝るのはもうこりごりなんじゃねえのか? 随分怪我もさせちまったし」
    「あの程度、怪我のうちには入りませんよ。医療オペレーターも、合意の上かどうか確認しただけで何も言いませんでしたし」
     パッセンジャーは目を伏せて「君は誰よりも優しかったですよ」と呟いた。それを聞いたシェーシャはものすごく何か言いたそうな顔をしたものの、不躾な質問をするよりも、もっと前向きなことを口にすべきだと思ったらしい。
    「なら、月イチ……くらいなら、いいか?」
    「いえ。そこまでお預けさせるつもりは……週に一度くらいなら、なんとか……──」
     脳のエネルギーが枯渇していたせいで、うっかり口を滑らせた。横を見る。シェーシャは一生懸命顔を引き締めていたが、喜びを隠しきれていない。彼の尻尾はもっと正直で、腕よりも先にこちらの腰に巻き付いてくる。
    「シェーシャくん」
    「約束手形をくれるか?」
     やはり我慢しきれなくなったのだろう。青年はこちらを通路の影に引っ張り込み、壁に押し付けた。パッセンジャーは近づいてくる顔を冷ややかに見つめる。
    「もう恋人気取りですか?」
    「週一なら抱かれてくれるんだろ? 次はあんたに怪我させないように気を付ける」
    「無駄な努力はおやめなさい」
     表情を緩めたパッセンジャーは、肩を抑えている青年の手に触れた。
    「この爪さえ切ってくれれば文句は言いません」
    「わかった。約束する」
     彼に抱きしめられると動きたくなくなる。暖かい腕の中が心地よくて──パッセンジャーは少し顔を上げて、シェーシャのキスを受け入れる。記憶のおぼつかない夜の間にどれほどこちらの唇を味わったのだろうか。最初は子供のように触れ合わせることしか知らなかったくちづけは、随分と上達していた。舌を絡めながら身体を優しくまさぐられ、場所もわきまえずに恍惚としてしまう。なんと貪欲で勤勉な生徒なのだろう。
     彼と今までの男たちと、いったい何が違うというのだろうか──そう思いかけ、すぐに考えるのをやめた。
     いつものように自分の心から目を背けて、整理はしばらく先送りする。昔から、そこは醜い感情ばかりが押し込まれた腐臭漂う倉庫だったし、今は何かとてつもなく恥ずかしいものが見つかりそうな気がする。
     この赤毛のヴィーヴルに触れられると、胸の中が温かくなる。
     いまは、それだけで十分だった。
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