無題「いらしてたんですね。何があるか分からないので、遠慮して欲しかったです。言っても無駄でしょうから屋敷に来た気配はあっても止めませんでしたが。アレが読めなかったんでしょうか?」
「処置も終わり、特別な治療も不要と聞いている。状態が安定しているのがわかっているから入室した。何か問題が?」
「裸でいらしたら、どう責任取るおつもりでしょう。嫁入り前のお嬢さんですよ」
「そんな疑問が口から出てくる事自体がおかしいと自分で思わないのか。お前がその嫁入り前のお嬢さんなる人間を裸で寝かせておくと、そう言っているのと同義だが」
「時透君もですが、体温が三十九度を超えていたんですよ。その割に発汗もあまりないですし、原因がよく分からないんです。二人とも不思議なほど状態が落ち着いていて、よく眠っているので様子を見ていますが」
「わかった、もう良い。これを時透に」
そう言って蝶屋敷の主に見舞いの品であろう包みを渡し、訪問者は去って行った。
「…律儀な人ですね、ふう」
入口の扉の張り紙に目をやった。下の子達が用意してくれたもの。そこそこ大きな文字で書いてあると思うのだが。
「字が小さくて見えなかったのか、字が読めなかったか、どちらかという事にしておきます」
ー面会謝絶 立入禁止ー
「やはり三十九度ありますね…」
「そうなんだ、全然平気なんだけどな。むしろとーっても元気!」
「そうですねえ、お食事もたくさん召し上がってますし」
「…ねえしのぶちゃん。あの、伊黒さん来てたの?」
「いいえ。来ていませんでしたよ」
とぼけてみる。
「えっ、そうなの?じゃっ、じゃあこのお品物は?」
「ああそれなら、字が読めなくて甘味に詳しい親切な殿方が、お見舞いに届けてくれました」
「えっと、もしかして…」
「はい」
「不死川さん…?」
「あっ、ええっと。すみません、語弊がありました。不死川さんではなく伊黒さんです」
「ええっいい伊黒さん??語弊??なにが語弊なの?」
「うーん、説明しないといけませんか?」
「説明できないの?なんで?どーいう事!?伊黒さんが来てたの?寝てる間に??ああもうもうしのぶちゃんってば!!」