【重なる視線】ヒュンポプ良く目が合う時がある。気のせいかとも思っていたけど、どうやらそうでも無い。それはお互いに分かっていた。
城の廊下、食堂、会議中。様々な所で必ず目と目が合うのだ。そうしたら、しばらくお互いにじ、と見つめた後にするりと自然にお互いに目をそらす。それが一連の流れとなっていた。
それは、特に気持ち悪い訳でもないし、何かがある訳でもないから、気にはしていなかったけど、でも、お互いにきっと、そうなんだろうと思っていた。
「なー」
「どうした?」
「なんで見てくんの」
「…それは、お前にも聞きたいが?」
ある日一緒に食事をしていた時に、ポップが切り出したこと。この所の視線の件について。
問いかけても、逆に聞き返されてしまうのは当たり前だろう。
ヒュンケルも気になっていたのだろう、顔を合わせて初めて聞かれた事だから。
「なんでだろうなぁ」
「俺にも分からない事だが、お前も分からないのか」
「わっかんねぇよ、気づいたら目が合うんだからよ」
「そうか…」
お互いに無言になり、またじ、と瞳が交差する。
その合わさる視線が今はそらされることなく、ゆるりと時間が過ぎていく。
チクタクと時を刻む音だけが部屋に響き渡るだけで、部屋にいる二人は静かにお互いを見つめるだけだから。
不意に、二人の影がひとつになった。
ヒュンケルが、顔を寄せてポップの唇に自分のそれを重ねていたからだ。
軽く触れるだけの口付けを交わして、そっとヒュンケルは離れていく。
それを、ポップは何を言うでもなく、自然に受け入れてしまっていたのだ。
「…、なあ、なんでキスしたの」
「…何故だろうな、分からない」
「わかんねぇのかよ」
「いや、ただ触れてみたいと思ったのだ、お前の唇に…」
「ふぅん…」
ヒュンケルの行動を責めるでもなく、ただ淡々と受け入れていたポップも、冷静だった。
唇に触れたヒュンケルの温もりは、決してポップにとっても嫌なことではなかったからだ。
「なら、もっとする?」
と、ポップが首を傾げてヒュンケルを見上げながら問いかければ、そっと頬に手を宛てがわれた。
剣だこが出来ている、硬い指先だけど、この手は大切なものだ。慈しむように顔を擦り寄せれば、ピクリと震える手に、ふ、と笑みを浮かべる。
「誘ってるのか?」
「んー、どうとってもらってもいいぜ?」
「なら、良いように解釈するからな」
「どーぞ」
ポップのその言葉に、ヒュンケルは顔を再び近づけていく。その顔をポップは見つめながら、落ちてきた唇に、じわりと胸が温かくなった。
そうか、そうだったのか。
「ふは」
「なんだいきなり笑って」
「いや、なんで目が合うのか分かったからだよ」
「そうなのか?」
きょとん、とした顔で見つめるヒュンケルがおかしくてまた笑ってしまう。
そのまま笑い続けていたら、だんだんとヒュンケルも不満そうな顔をしてきて、早くと促すように、くい、とバンダナを引かれた。
「ごめんって」
「なら、早く話せ」
「んー、どう言ったらいいかな」
困ったようなポップの顔に、ヒュンケルはまた顔を近づけてくる。そのまままた、唇を合わせてしまうから、もう答えなんて分かっているんじゃないか、とポップは思った。
「なんかさ、心地よくないか?」
「言われてみたら、そうだな…」
「おれ、ヒュンケルにキスされても嫌じゃなかった」
「……、それは…オレも、だな」
「な?だから、おれたちお互いに惹かれてたんじゃないかって話だよ」
「そうなんだろうか、だが、オレは…」
またお得意の不幸な話が始まるのかと、ポップは遮るように強引に口付けた。
いま、まさに好きだなんだの話をするのに、そんな話は聞きたくないのだ。むしろポップは自分がヒュンケルを幸せにしたいと思っているから。
「ポップ」
「そーいう話は聞き飽きた」
「だが」
「だがも何も無いってーの!おれはお前が好きだヒュンケル」
「ポップ…っ」
「…お前はどーなんだよ?」
ポップの問いかけに、思案していたヒュンケルも、観念したのか、こくり、と頷いて、
「ポップが、好きだ」
そう小さく呟くように囁かれた。
その答えを聞いたポップは、嬉しそうに笑って、ヒュンケルに抱きつき、頬に口付けた。
きっと、お互いに惹かれ合うから、目が合う事があったのだろう。きっかけなんてそんなものかもしれない。
居心地、関係性、どれをとっても良いことしかない。
そう、これは必然だったのだ。