【誘惑するのは…?】ヒュンポプ季節が夏を迎えて、段々と暑くなる日々。
パプニカの城の中でも暑さは増すばかり。日陰はひんやりとした空気もあるものの、吹き抜ける風は熱風を思わせるくらいには熱かった。
部屋に籠りがちなポップは、益々暑くなる部屋の暑さにまいりきっていた。
「あちぃ~」
まあ、魔法で部屋を冷やすことも可能なのだが、あえて使わない所がポップらしい。
机に突っ伏しながら、唸るポップを諌める人物はおらず、部屋の中にはポップ一人だけ。
「なんで夏はこんなあちぃんだよ~」
一人ぶちぶちと呟きながら、ちらりと羊皮紙を睨みつけるが、仕事をやろうにもやる気が起きなくなってくる。
溜まりきった仕事の山を片付けないと、またレオナからのお小言が来るのは分かってはいるのだが、いかんせんこの暑さだ、もう集中力も無いに等しい。
むー、と唇を尖らせながら、どうするかと考えていた時だった。
コンコンと部屋の扉をノックする音。
んあ?と、ノロノロと顔を上げて「あいてんぜ~」と声をかければ、ガチャと扉が開いて入ってきたのは、ヒュンケルだった。
「ヒュンケルかよ、どーしたんだ?」
「ポップ…、お前こそ仕事はどうしたんだ」
「仕事ぉ?この暑さだぜ?やってらんねぇっての!」
「……」
ポップの言い分に、ヒュンケルははあ、と溜息をつきながら部屋の中へと足を進めると、ポップの目の前にどん、ととあるものを置いた。
「なんだこれ」
不思議そうに見上げるポップに、ヒュンケルは紙に包まれたものを取り出せば、中身は透明な紫色の液体ををゆらゆらと光に輝かせている酒瓶の様なものだった。
じぃ、とポップはその酒瓶とヒュンケルの顔を交互に見るが、意図が読めず首を傾げるばかり。
いつもは驚くほどのに頭を働かせる弟弟子だが、今回は暑さゆえか、余程頭が回らないポップに、ヒュンケルは苦笑しながら、頭を撫でてやる。
「なんだよ…」
「いや、暑さに参っているんだな、と思ってな」
「お前は涼しい顔してるけどな」
「オレでも暑いぞ?」
「嘘つけ!てか、なんなんだよその瓶は」
「ああ、葡萄酒だ」
「!!」
葡萄酒…、と口にしてポップは、ヒュンケルを見上げる。そう、意外にもポップは酒に強いわけではないくせに、酒が、その中でも葡萄酒が特別好きなのである。
それを知るヒュンケルはポップのために、とある有名な葡萄酒を取り寄せたのだ。
「くれんのか?」
「ああ、そのために取り寄せたのだからな」
「やるじゃん、ヒュンケル!」
見るまに元気になっていくポップに、ヒュンケルはじわりと胸が暖かくなるのを感じた。
やはり、ポップの笑ってくれる顔を見るのが好きだ、と改めて思う。
じんわりと浸っていたヒュンケルを他所に、ポップは立ち上がると部屋の中をゴソゴソとしていたのちに、テーブルを片付けだした。
「どうしたんだ?」
「んー?いや、せっかくだから、ちょっと飲んでみようぜ!」
「仕事はいいのか」
「少しぐらいいーだろ?」
上目遣いで見上げてくるポップに白旗を上げるのも一瞬である。ヒュンケルは、可愛さ余りに甘やかす事を選んだ。
「…仕方ないな」
「よっしゃ!」
広がったテーブルに、部屋に置いていたグラスを二つと葡萄酒を置くと、ポップは早速とばかりに酒瓶のコルクを抜いた。
ふわり、と香るその葡萄酒独特の匂いは、やはり良いものだと感じる。ポップもそれが気に入ったのか、見るからにウキウキとしながら、少しずつグラスに注いでいく。
たぷんと揺れる葡萄酒に、待ちきれないとばかりにポップはグラスを手に取ると、ヒュンケルにもそれを渡し、カチンとグラスを合わせた。
そのまま、くい、とそれを口に含んだポップは、余程喉が乾いていたのかごくり、と飲み干してしまう。
「うっめぇ~!!」
「そうか」
「めっちゃうめぇよ!なんだこれ!」
はしゃぐポップの姿に、ヒュンケルも嬉しくなる。
もはや、暑さなど忘れたかのように浮かれる恋人に、ヒュンケルそっと近づいて、顔を近づけると、ポップの唇に付いた雫に気づく。
「ポップ」
「ん?なん、だ…んぅ!?」
ちゅ、と音を立てて、唇を奪ったヒュンケルは、何度もポップの小さな唇を味わうように口付ける。
喘ぐポップの舌を絡め取り、ちゅくちゅくと水音をたてながら、口内を蹂躙して行く。
「ん、んん……っ、ぁ、はっ」
「ん…」
流石に苦しくなったのか、ポップがヒュンケルの背中をバンバンと叩くと、最後とばかりに唇を舐めとりながら、ようやく唇を離した。
涙目でヒュンケルを睨むポップは真っ赤な顔をしていて可愛いな、と思いながら、そっと指をポップの唇に這わせる。
「な、なに…っ!!」
わなわなと、唇を震わせながら、恥ずかしさから怒るポップに、ヒュンケルは、意地の悪い笑みを浮かべると、
「美味しそうなお前が悪い」
と指でポップの唇をなぞり、耳元で囁くようにして、抱き締めたのだった。