【キラキラな笑顔】ヒュンポプ「はー、やっぱり家の方がいいよなー」
ポップは家の庭にある菜園畑にいた。
城の籠った暑さよりは、こうして日差しの中にいる暑さの方がどこか心地よく感じる。
しゃがみこみながら、トマトの苗を植えていた。
手袋をして土を掘り起こし、一つ一つ丁寧に。
風が吹けば、土の匂いがする。
それが、生きているという実感が湧く。
「ちゃんと美味いトマトになれよ~?」
ザクザクと苗を植え込み、上から土をかけていき、更にその上から特製の肥料をふりかける。
炎天下での作業ながら鼻歌を歌いながら、さっさっとこなして行くそれは、この人物が世界を救った勇者一行の中の一人である、大魔道士だとは誰も思わないだろう。
まあ姿からして、ラフなシャツに麻のズボンだ。
見事なまでな作業着と言った所か。
この場所は、入口からは裏手になっていて、表からは見えない位置にある。
陽の光は十分に浴びせられる場所だからと選んだが、まあそれが功を奏したのか、毎年幾つもの野菜が取れるようになった。
だからか、生活には困らない。まあ、肉などは買い揃えなければならないが。
さて、今度は何をしようか、と考えた時だった。
じゃり、と砂を踏みしめる音が背後からした。
「ポップ」
「ヒュンケルか」
現れたのは、同じく勇者の一行の中の一人。
アバンの使徒の長兄であるヒュンケル。
振り返ればヒュンケルが、荷物を抱えて尋ねてきたのだ。
「部屋に居ないとおもったらやはり」
「あー、ごめんな!買って来てくれたんだな」
「ああ、頼まれ物だ」
「さんきゅ」
ヒュンケルが抱えた荷物を受け取ると、直ぐにそれを取り出し始める。
頼まれ物はパンに肉。
野菜にかかりきりのポップに代わり買って帰ってきた。つまり、ヒュンケルの家もここだという事で、いつの間にか、一緒に暮らすようになっていたのだった。
城の部屋はもちろんレオナの計らいで用意されてはいた。最初はヒュンケルも城で暮らしていたが、いつしかポップの家に通うようになってから、自分もここで暮らすとポップに告げたのだ。まあ、特に困ることは無いからと二つ返事でポップは頷いた。
その日からだ、ポップが菜園畑を作ると言い出したのは。
魔道書を読むためには何処までも読み込み探求するポップだが、野菜の本を読み、野菜まで育てる事にもその努力と器用さは発揮された。
まあ、しかし最初は悪戦苦闘の連続だったのは、本人にも苦い思い出だが。
「今回はトマトか」
「ああ、今度も育てるの楽しみだわ」
「きっと上手く育つ」
「ばっか、褒めすぎんな!」
真っ直ぐなヒュンケルの言葉に、ポップは真っ赤になりながら、恥ずかしそうに怒る。
だが、満更でもないポップに、ヒュンケルは可愛いな、と思ったのだが、それは口にはしなかった。(きっと殴られるだろうから)
真っ赤だが、機嫌が良くなったポップは、水を汲みに井戸へと向かう。
それについて行くヒュンケルはポップからバケツを奪うと、自分の仕事だ、とばかりに水を運び始めた。確かに力仕事は頭脳派ポップよりヒュンケルの方がいいが、それを自然にするヒュンケルは、男前以外何物でもない。
「ったく、仕事奪うなよな」
「何故だ、ポップが持つよりオレの方が力が強いのだからいいだろう」
「嫌味かそれは」
「なにがだ?」
今度は逆にブチブチ文句を言うポップに、ヒュンケルは分からない、という顔をしてみつめてくるが、それがまたポップを不機嫌にさせる原因だとは本人には気づかない。
先程までは機嫌がよかったポップが急に不機嫌になってしまった事に、ヒュンケルはキョトンとする。
その顔を見て、ポップは怒りを通り越して、呆れてしまった。
「はいはい、おめぇはそういうやつだったな」
「ポップ?」
「なんでもねーよ!さ、水やり水やり」
ポップは気を取り直し、汲んだ水を如雨露に入れていく。そしてそれを手に、作物に水をやり始める。
それをヒュンケルは見つめながら、そばにある椅子に座った。
さあ、と如雨露から水をやると、土が水を吸収していくのが見て取れた。ポップはふんだんに、だけれども適度に水をやる。
慎重にそして丁寧にポップは一つ一つの作物に水を与える。
それを楽しそうにするポップを見て、ヒュンケルは愛おしそうに目を細めた。
ようやく全部の畑に水やりをしたのは、何度目だっただろうか、ポップは最後の最後に畑全体に水を振りまいた。
その瞬間に、水は太陽の光に反射し、虹が現れた。
「わっ、虹だ!!」
ポップの言葉通り、光に反射したのか虹が菜園畑に出来ていた。
ポップはそれを見て、子供のようにはしゃいでいる。
「みたかヒュンケル!虹だぜ?!」
「ああ、そうだな」
「めっちゃ綺麗だったな!!」
ニコニコと振り返り、虹を指で示すポップは、本当に嬉しそうにしていて、笑った顔がヒュンケルには眩しかった。
す、と椅子から立ち上がり、ポップのそばに立つと、一緒に虹を見る。
「な!綺麗だな!」
「綺麗だ」
「だよなあ!もっかいしたらまた見れるかも!」
そう言ってキラキラとした笑顔を浮かべて、見上げてくるポップに、ヒュンケルはポップこそ綺麗な存在だと思った。
あんなに子供のように、純粋な笑顔は、ポップにしか出来ないと。
そう思ってしまったヒュンケルは、ポップの手を取り、引き寄せる。そのまま、腰を抱き寄せて、頬に口付けた。
一瞬固まるポップだったが、直ぐに何をされたのか理解すると、かああと顔を赤らめていく。
そして涙目になり、ヒュンケルを押し返すと、直ぐに距離をとった。
「な、な、なにし…っ」
「キス、だが」
「なんで!?」
しれっとするヒュンケルに、ポップは真っ赤だ。
色々な顔を見せるポップ。
それは、ヒュンケルの内側をいつも刺激する。
ヒュンケルは意地が悪そうな笑みを浮かべ、心底楽しそうに口を開く。
「ポップ…お前が可愛すぎるのが悪いんだぞ」
「っ、はあ?!」
「そんな可愛い顔はオレだけが見ていたらいい」
そうポップに伝えれば、ポップはまた顔を赤らめて呟く。
「…そんなの、こんな顔おめぇにしか見せねぇよ…」
「ポップ…」
「っ、だあー!昼間っから恥ずかしい事言わせんな!!」
「それは、夜ならいいと言うことか」
「はい?!」
思ってもみなかったヒュンケルの返答に、ポップは空いた口が塞がらない。
ヒュンケルは、その唇を指でなぞり、そのままポップを抱き上げると、部屋中へと足を進めていく。
「や、違うから!ヒュンケル!?」
「答えは身体に聞いてやる、だから大人しくしておくんだな」
じたばた暴れようとも、歩みを止められない事を悟ったポップは叫ぶ。
「だから!違うってのお!!」
が、結局は寝室に連れ込まれてしまうのだった。
次の日にポップが起きれたかどうかは、ヒュンケルだけが知っていた。