Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    Jeff

    @kerley77173824

    @kerley77173824

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 50

    Jeff

    ☆quiet follow

    お題:「遅刻」
    #LH1dr1wr
    ワンドロワンライ参加作品
    2023/11/04

    #ラーヒュン
    rahun
    #LH1dr1wr

    Parade 祝祭に賑わう街道。
     桃色のリボンとヴァニラの香り、透けるような上等な生地。
     平和を享受するパプニカが生み出す最高峰の織物が、様々な形をとって街を埋めている。
     ラーハルトは直立不動のまま、行き交う人々の笑顔をゆるく追っていた。
     ――先に行ってるわね。
     仲間たちは一人、二人と彼を離れて、城を目指して駆けていった。
     正午の鐘が鳴る。
     十二時十五分の鐘。
     十二時三十分の鐘。
     勇者と王女の邂逅を記念した、年に一度の祝いの宴だ。国民は城下の広場に集い、美しく成長した二人がお出ましになる。
     正義と融和の象徴たる若いカップルを見上げて、人々は歌い、キスを投げ、心からの愛慕を捧げるのだ。
     そして、ダイの腹心の部下ことラーハルトは――彼らの背後に控えて怪しい動きに目を光らせながらも、養父バランの若き日を思って涙する、はずだったのだ。
    「……」
     四十五分。
     姿勢を崩して、適当な柱にもたれかかった。
     ため息とともに、きつい礼服の襟を緩める。
     淡いブルーの晴天だけを見上げて、ひたすら待った。
     ミルク色の雲に、カラフルな魔法の炎が踊る。
     楽音。
     間欠的に沸き起こる遠い歓声は、どこか眠気を誘う。
     からん――からん――からん――。
     十三時の鐘が鳴って、さらに数分後。
     心細げな、さりさりという足音が忍び寄ってくる。
     背後で止まった。
    「やっと来たか」
     ラーハルトは目を閉じたまま、振り向かずに言う。
    「すまない。身支度が……遅くなって」
     ヒュンケルは拳を開き、また握って、所在なくマントをいじる。
     レースのシャツと金糸の編みこまれたジャケットを、完璧に着こなしている。それくらいの教養は叩き込まれている男だと、ラーハルトはよく知っている。
     さっきまで着飾った市民であふれていた街中は、もう人影まばらだ。
     式典も半ばの時間帯なのだから、当然だ。
    「俺はダイ様の警護にあたる予定だった」
    「そうだったな」
    「立派なお姿で、人間たちを祝福しておられることだろう」
    「ああ」
    「特等席で見られる予定だったのに」
    「そうだな」
    「部下失格だと思わないか」
    「思う」
    「お前が遅れるから」
    「すまない」
    「謝って済むと思っているのか」
    「……すまない」
     ラーハルトは眉間の皺を解いて、目を開ける。
     体を起こすと、相棒の正面に立った。
    「それで、どうする」
     ヒュンケルは目を瞬かせ、ラーハルトを見返す。
    「どうって」
    「この懲罰じみた服を脱いでからにするか、このまま行くか」
     と、すたすたと郊外に向かって歩き始める。
     城とは逆の方へ。
    「ラーハルト?」
    「この前飲んだ、偏屈な親父の酒場だ。あそこなら、祭りの日でも通常運転だ」
    「……」
    「飲むぞ、ヒュンケル」
     まったく、とか、くそったれ、とか呟きつつ前を行くラーハルトを呆然と見つめて、ヒュンケルは俯いた。
     泣きそうな顔で笑ってから、正装した半魔を追いかける。
     
     恋慕と言うにはあまりに単純で。
     嫉妬と言うにはあまりに複雑な。
     ――ラーハルトを取られたくない。愛する弟弟子にすらも。
     ヒュンケルの幼く意味不明な衝動を、ラーハルトは時々、黙って許容する。
     
    「この格好で乗り込んだら、さすがにあの親父も仰天するだろうか」
    「しないな。そういう店だ」
    「そうかな」
    「驚かないに賭ける。勝ったら奢れ」
     
     国家の祭典を抜け出して、不届きものが二人。
     観客のいないがらんどうの街道を、のんびりと歩いて行く。
     昼下がりの陽光に、壮麗な装いが不釣り合いに煌めく。
     暇を持て余した若い男神の、小規模なパレードのよう。
     
     
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👏💖💖💖💖💖💕💕💕💕💕💞😊🙏💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖💖👏💜💜💖💖💖🍼💒💒💒☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺☺💖💒💒💒💗💗🍆
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works