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    toko3_1126

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    toko3_1126

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    またまた続いたので投げます。
    前回までの文章は同じです。キリがいいかは分からない

    #やまみつ
    #マリミュ

    少しヤマトの話 団長がお宝を盗んでる間考えていた。
    今日は団長が新しい街でお宝を持ち帰る日である。
    実際問題そのお宝に価値があるのかは分からないが、価値というのは時間が経つにつれて後からついてやって来るものであるとミツキは考えていた。
     ミツキは団長の持ち帰るお宝にはじめから価値を感じることはなかったが、かつては自分もそのお宝だったのだから笑える話しだ。
     今回はどんなお宝を盗んでくるのかと自分の長くなった髪を指で遊ぶ。
     ここにやってきたときから今まで髪は切っていない。この髪は、身寄りのなかったミツキに居場所ができた年月全てだ。腰あたりまで伸び切った髪は愛着はあるものの、邪魔になるので一つに結んでいる。
     髪の先を指でくるくると巻きつけながら、最近は資金集め用のお宝を持って来ることが多かったので、今回もそんなとこだろうと思考を巡らす。
     今回のお宝に思いを馳せていると、コツコツと足音が聞こえて来る。おそらくお宝を盗み終えた団長であろう。軽快な音を鳴らしてこちらの部屋に近寄ってくる。
     ここはリビングのような場所で、いつもお宝を持ち帰ったときには、全員にお披露目をする。
     お宝か、ガラクタか、なんてどちらなのか見当もつかない物で溢れかえったこの部屋は、以外にも居心地が良く、自分はソファーの肘置きにもたれかかって、半ば横になった状態で今も座っている。
     数年前にお宝としてこの奇術芸団にやってきたナイフ使いもこの部屋にある四人がけのテーブルの一角に座り、暇を持て余していたところだ。
     コツコツと団長にしては少し大きい足音がした後、団長の足音が扉の前で止まる。
    やっとお披露目かと体を少し起こすと、扉が開いた。
     この部屋は広々としている割に、電球が二つほどぶら下がっている程度で夜は暗い。月明りのせいで逆光になっていたことも相まって、今回のお宝はよく見えない。目を凝らして見てみると随分と大きいらしい。
     団長がパッチンと指を鳴らすと、団長が持っていたランタンに火がつき、お宝の全貌が見える。
    「今回のお宝だよ」
    そう言って団長は横に立っているお宝を少し押して前に出させた。挨拶を促しているらしいが、ローブを深く被っているせいか顔となりがよく分からない。それに加えて無口ときた。
     新しいタイプが来たなと思ったとき、団長が、あぁ、と合点がいったように懐から人形を取り出した。
     ぬいぐるみを受け取ったローブの男は、おずおずと人形を口元に持っていくと
    「オハツニオメニカカリマス!」
    「ヤ、ヤマトデス!ヨロシクオネガイシマス」
    と裏声のような少し作った声で話し始めた。



     今回のお宝はヤマトというらしい。
    無口な割に人形を通すと結構なお喋りになることを知ったのは少し後の話だ。
    「船内を案内する係を二人に頼みます」
    団長はミツキとナイフ使いを交互に見やると、そう言い放った。
     ミツキにとってそのお願いは造作もないことだったので、二つ返事で了承することにした。
     ナイフ使いも渋々といった表情で、返事はしないものの、フンと言いながらそっぽを向いた。
     長年連れ添ってきたから分かるが、あれはナイフ使いなりの了承の表明だ。
    それが分からないヤマトと名乗る人形使いは、ビクリとして一歩下がり、団長の陰に隠れながら
    「お手を煩わしてしまいすみません」
    と謝るものだから、それを気に食わなかったナイフ使いが舌打ちをすると、人形使いは団長の後ろに完全に隠れてしまった。
     それまた気に食わないナイフ使いはもういっちょ舌打ちをするので慌ててミツキはナイフ使いと人形使いにフォローを入れる。
    「こいつちょっと気難しい奴でさ。ごめんなさいじゃなくて、ありがとうが聞きたかっただけなんだよ」
    そう言って人形使いの方へ近づき、親睦の証にと手のひらを突き出す。
    「ほら、握手」
    握手なのだから人形使いと握手するものだと思っていたが、実際はミツキと人形が握手する形になっていた。
    一瞬戸惑ったが、腹話術で話す彼を目の当たりにしていたので、この握手は彼なりの歩み寄りだと判断し、ミツキはそのまま人形の手を握った。
    「オレはミツキ。音楽家なんだ。眠れないときは子守唄を歌ってやるよ」
    冗談を交えて遅れて自己紹介すると、テーブルから
    「ミツキの子守唄はワタシ専属では?」
    とこれまた不貞腐れた子供の甘えた声が飛んでくる。
     ミツキの子守唄を独り占めしていた特権を奪われると思ったのだろう。出会って数分でナイフ使い中では人形使いは敵と見做されたらしい。
     ミツキはナイフ使いにも人形使いにも仲良くして欲しい。
     ナイフ使いには、こらっと少し咎め、人形使いには優しく微笑みながら
    「一緒に生活していくんだ。中身はこれから知っていくだろうから安心しろ。」
    と慰撫したのであった。



    「一通りは見て周ったかな〜」
    淡々と部屋の紹介を済まし、長い廊下を歩く。
     ナイフ使いは少しの間、ヤマトの様子を伺う為か後に続いていたものの、飽きたと言わんばかりに自室へ戻ってしまった。
     長い廊下の一番奥には団長の部屋、その隣にミツキの部屋、そのまた横にはナイフ使いの部屋がある。
     ナイフ使いの部屋の手前で足を止める。
    「ここがお前の部屋だよ。」
    ここは現在空き部屋である。この空き部屋こそが今回のお宝の部屋になると団長から聞かされていたのでヤマトの部屋はきっとここであろう。
    「個室まで用意して下さるのですか?」
    ヤマトが慌てて口元に人形をやる
    「この船は人数が少ないからな。団長が持ち帰ったガラクタが詰まった部屋とあとは全部空き部屋だよ」
     好きに使って良いからなと付け足すと三人では少し大きいこのガラクタだらけの船に一人仲間が増えたのが嬉しくて少し笑みが溢れる。
     そういえばこの部屋は長年空き部屋だった為ほこりや蜘蛛の巣でいっぱいだった筈だ。ヤマトを部屋に入れる前に掃除をしてやらないといけないかもしれない。
     最初の仕事が煤だらけの部屋の掃除とはなんとも可哀想である。伊達にもヤマトは団長がみそめたお宝である。
    「ちょっと部屋入るな」
    そう言ってこの前までの部屋の記憶を思い出し、扉を開くと記憶とは比べものにならないくらいの綺麗な部屋がそこにはあった。 
     部屋のど真ん中には一人用とは思えない程大きな天蓋付きのベッドがあり、周りには取り囲むように様々なマリオネットが大量に鎮座している。部屋は暗いものの綺麗にされていることが分かった。
     扉を開けて少し固まっていると、あの…っと小さな震えた声が聞こえてきた。
    「気持ち悪いですよね。こんなに沢山…」
    大量のマリオネットのことを言っているのであろう、勘違いさせてはいけないのですぐさま首を横に振る。
    「気持ち悪くなんてないよ。もう部屋が完成しててびっくりしただけ」
    この前までは煤だらけだったからさ。そう付け足し少し微笑む。
    「あと、なんか安心したんだよ」
    この先を言ってしまうのは蛇足だろうか。蛇足だと分かっていてもミツキの口から言葉が溢れる。
    「お前にも荷物、あるんだな。」
    少し切ない横顔にヤマトの瞳が揺れた。
    「それって…」
    ヤマトの言葉を遮るようにミツキはヤマトの背をバシバシと叩く。
    「てかお前友達いっぱいいるんだな!暗い顔ばっかしてたから心配してたんだぜ!」
     懐かしむような声色と切なげな表情が見えたのは一瞬で、すぐに元の明るいミツキに戻ってしまった。
     元のとは言ってもヤマトはミツキとさっき出会ったばかりである。どちらの表情が元のミツキなのかなどは浅い時間の中で判別が付かなかった。
     ヤマトが唖然としている内にミツキは部屋に入り、マリオネット達を物色していた。
    「これ皆んな操れんの?」
    そうミツキが聞くと、ヤマトはこくんと頷いた
    「みせてよ」
     ミツキの一言が合図となり、たちまちマリオネット達が軽快なダンスを始める。
     音楽もないこの部屋から音楽が聴こえてくる。マリオネット達が楽しそうに踊る姿に魅入ってしまう。
     駄目だ。目が離せない。
    あぁ、なるほど。これは最高級の宝だ。
     そこでミツキはこのお宝の価値を完全に理解した。いや、理解させられたのである。
     触れたい。楽しそうなそのマリオネットに。触れられたい。その糸に。
    気づけばミツキは吸い込まれるように糸へと指を伸ばしていた。
     だが、ミツキの指がマリオネットの糸に触れた途端マリオネット達はパタリと動かなくなってしまった。
     動かなくなったマリオネットと同時にヤマトが声を上げる。
    「あ…ごめんなさい」
    どうやらミツキがマリオネット達に近づきすぎたせいで糸がミツキの髪に絡んでしまったようである。
    「謝らなくていいよ。こっちこそごめん。髪は結び直すから。それより糸、大丈夫か?」
    やってしまったと眉毛をハの字に下げて謝り、切れてはいないかと糸の心配をする。
    「糸は大丈夫」
    そうヤマトが言うとしゅるしゅるとミツキの髪から糸が解けていった。魔法のようだ。
    「カミ、ダイジョウブ?」
    今度はヤマトが顔を人形で覆い隠し、おどおどと聞く。
    「大丈夫だって。適当に結び直すから」
     そう言って髪を頸の位置で結おうと髪を束ねるとこれまたおずおずとした声でヤマトが「結ってもいいか」と聞くもんだから驚いた。
     勿論了承し、髪を結っていた糸をヤマトにやるとベットに腰掛ける。
     ヤマトは無言でミツキの後ろに周り、髪に触れた。
     心地いい。人に髪を触られるのはなんとも安心する。いつも糸を触っているせいか、少し指の皮が厚い気がする。それが余計にミツキを安心させるのかもしれない。
     ヤマトの指使いに神経をやっていると、あっという間にミツキの髪は綺麗な三つ編みになっていた。
    「手先器用なのな」
     三つ編みを触りながら言うとヤマトは「こんなことしか出来ない」なんて言うものだからミツキは、ううんうんと首を横に振った。
    「オレ、三つ編みなんてしたことない」
    「この髪大事だからさ、綺麗にしてくれてありがとう」
     ミツキの髪を触る手はより一層優しい手つきになり、愛おしむように触れる。
    「かみ、きれいだね」
    「うん、ありがとう」
     ミツキがふっと微笑むと、次にはスクッと立ち上がり、太陽のような明るい笑顔で言う。
    「髪綺麗にしてもらったお礼だ!」
    「今日の晩飯何がいい?あと、アンタ年上だろ?名前、好きに呼んでいいからな!」
     ヤマトは突然の光ような笑顔と勢いにびっくりして咄嗟に「ミツ……きぃ。ク、クリームシチューが良い……!」と口走る。
     『き』の文字が聞こえていなかったのか「ミツ?あとクリームシチューね。どっちもいいよ」などと返ってくる。
    「呼び方、こっちはヤマトさんでいいだろ?」
    年上だし。そう付け足しミツキは倉庫の食材を頭に思い浮かべ、うんうんと頷く。
     音楽家の呼び名はミツと今晩の食事はクリームシチューに決定された。



     「晩飯作ってくる!」と駆け足でヤマトの部屋を出て行ったミツキに呆気に取られたが、すぐに気持ちを無にし、一度部屋を出る。
     部屋を出てみると、腕を組み、廊下の壁にもたれ掛かりながら外を眺めていたナイフ使いがいた。思ってもいない人物がそこに居たものだからヤマトは驚いた。
     慌てて話しかけようと口元に人形をやり、息を吸い込む。
    「ナイフ使いさん」そう呼ぶとナイフ使いから「ナギ」と返事が返ってきた。
     少し微妙な空気が流れた後、ナイフ使いがまた口を開く。
    「ナギ、ワタシの名前です。次からはナギでいい」
     心をゆるされたようで少し嬉しい。まだ、今名前を名前だけを口に出すはのはすこしくすぐったいので心の中でナギ、ナギと何度か唱える。するとダンッとヤマトの横に何かが刺さった音がした。
    「ミツキの髪に触れるな」
    ナギのナイフがヤマトの周りを囲むように三つ刺さっていた。なるほど、腕は確からしい。
     名前を教えて貰い、距離が縮まったかと思えばすぐに突き放される。なかなか気難しい性格のようだ。それかただの口下手なのかもしれない。
     ただ、ミツキの髪に触れるなとは一体どう言う了見か見当がつかない。疑問をそのまま口にする。
    「それってどう言う……」
     呆れたようにナギはため息をひとつ吐いた。
    「そのままの意味です。ミツキの髪も、ミツキの自身もどれも繊細なんです。あまり触れていいものじゃない」
     ヤマトは先程のミツキの憂いた顔を思い出す。
    「ミツ、さっき荷物のこと気にしてた。関係ある?」
     ナギが目を見開く。あの憂いの表情をもう見たのかと。
    「ミツキは身寄りがなかったから。楽器しか荷物がなかったんです。」
     身寄りのなかったミツキを拾い、才能を見抜いたのが団長だと言う。
    「元々髪は長かったそうですが、拾われたことをきっかけに髪を切ったそうです。」
     ミツキのとってあの髪は居場所ができた年月全て。だから大事だと言う。ヤマトにもそれはわかる。ただだからと言って繊細だ、触れるなと言うには少し理由が小さい気がする。
     それを感じ取ったのか、ナギは続きける。
    「身寄りのないミツキが何故生きていけたと思いますか。何故あの容姿で髪を長くしていたのか分かりますか。」
    「身体を売っていたのですよ」
    ナギは続けて言う。
     可憐な少女に見えるよう、髪を伸ばしていたんです。
    「ミツキにとってあの長い髪は希望であり、トラウマです」
     だから触れないでと言うのか。ミツの心にまで踏み込みこんでやるなとナギは言いたいのだろう。
     ミツにそんな過去があったとは知りもしなかったが、だからと言ってあの綺麗な髪に触れるな、などと言うのは少し勿体無い気がした。
     ヤマトには過去を少し知った上でもミツの全てが清いものに思えたのだ。
    「あんなに、きれいなのに」
    気づけば口から溢れた言葉に返事が返ってくる。
    「何が綺麗なんだ?」
    ミツが何故かそこに居た。
     人のディープな過去をベラベラと話していたのだからこれにはナギも慌てる。
    「ミツキいつから?どこから聞いていたのですか?」
    「いや、さっき来たこと。」
     こちらの動揺など知ってか知らずか、ミツはあっけらかんとして答える。
    「お前らが仲良くしてくれるのは良いんだけどさ、もうそろそろ晩飯できるからダイニング片付けておいてよ」
     なんせ乗員が一人増えたんだからな!とミツはにかっと笑う。
     ナギが何かを察したかのように眉毛が片方ピクリと動いた。
    「ミツキ、今晩のメニューは?」
    「クリームシチューだけど?」
    ナギはOuchと言いながら頭を抱え後ろにのけ反る。
    「ミツキ!今晩はハンバーグの約束では!?」
    「ごめんごめん。新入りが来るなんて想定外でさ。ハンバーグは明日な」
     そう言ってナギの絶望をさし置いてミツは「すぐに来いよ」と去っていった。
    ナギはギロリとこちらを睨みつけ言い放つ。
    「許しません」
    ナギと距離を詰めるのはもう少し先になりそうだ。



    「人形遣いさんにショーの流れを教えてあげてください。」
    そんな団長の一言から今日は始まった。
     次の街に到着するにはまだ日にちがある。それまでに新しい団員の演目を組み込んだショーを完成させなければいけない。
     演目は一から組みなおしていく。もっと新しく皆が驚く華麗なショーにする為だ。
     仮の演目を一度通した頃である。
    「何か改善点や案がある奴いるか?」
    そう聞くと人形遣いがそっと口を開いた。
    「ミツ、の音楽と一緒に自分の演目を披露したい…です」
     それは嬉しい申し出だったがミツキの顔は少しずつ渋くなっていく。
     その微々たる表情の変化を誰も気づけずにいたのか、ヤマトに若干のジェラシーを感じていたナギまでもがいい案ではないかと首を縦に振った。
    「ミツキの演目は繊細なゆったりとした曲調の物に変えて、ヤマトの演目ではミツキの得意とする陽気な音楽と共に人形たちが舞うなんてどうでしょう」
     ナギはヤマトのお披露目にはピッタリではないですかと付け加える。
     ミツキとてその演目で進行するのが一番良いのは分かる。大いに理解はできるのだが、ミツキはヤマトのショーをみると何とも言えない感覚になるのだ。
     ふわふわとして心地よい。だが、ひとたびヤマトの瞳を覗き込むとまるでヤマトの支配下にでも置かれたような気分になる。だがそれが嫌ではないのが困ったことなのであるが。
     多分自分は初めてヤマトのショーを目にした時から、ヤマトのショーに魅入られているのだ。
    「う~ん。そうだな。オレが慣れればいいだけの話だよな…」
     ぶつぶつと誰にも聞こえない声量で気持ちを固めると、ヨシと手のひらを頬にぺちぺちと何度か打ち付け
    「その演目やろう!」
    声高らかに叫ぶのであった。



     声高らかに叫んだものはいいもののその後が大変であった。なんせヤマトと一対一の稽古をしないといけないのだから。
     まずはヤマトの演目を観察する。この演目に。マリオネットたちの動きに、どんな譜面が合うのかを目極める為だ。
     ミツキは近くの木箱に腰を置き、片足をあげ、そこを重心として顎をつく。
    (遠くから見る分には良いんだけどなぁ。距離があれば変な気起こさないのに)
     そんな風に思うが、本番はそう上手くはいかない。
    (何が原因なんだ…?)
     ミツキが原因を探っていると人形がピタリと動きを止め、ヤマトがこちらを見やる。
    「あの、嫌でしたか?」
    心当たりしかない質問にミツキの目が動揺を隠せずに左右に泳ぐ。
     辛うじて「何が?」と返事は出来たものの、ヤマトは続け、ミツキの方へ詰め寄る。
    「ミツ眉間に皺寄ってるし、提案した時も歯切れ悪かったから」
     成る程。ヤマトにはバレていたらしい。
    どう返答しようかと頭を回転させても、あ〜。だの、えーっと。だの意味のない音しか出てこない。
    「いやだった?」
     ヤマトが悲しげに言うものだから、木箱からそっと立ち上がり少し恥ずかしい気がするので目線を下にやる。
     本当のことを言おう。第一ミツキははぐらかすだのは得意ではないしどちらかと言えば好きではない。
     少し息を吐いた後、目をきゅっと瞑る。
    「ヤマトさんのショー好きだからさ。なんか、ちょっと言いにくいんだけど、変な気持ちになる」
     何が言い方が不味いような気もするが、これはミツキの気持ちそのものであったのでさほど大きな問題ではないだろう。
    目線を目の前のヤマトにチラリとやると、そこにはいつものおどおどとしたヤマトの姿はなくギラついた捕食者の目があった。
     後退りたいが、木箱に足が引っかかり、そのまま木箱の上に尻餅をつく。
     糸がたらりとミツキの上に降って来るが、体を動かすことが出来ずミツキにはどうにもできない。
    されるがままに糸を見つめていると頭がぼーっとして何も考えられなくなる。
     ミツキの目が虚になり、腕に糸が巻き付き始め、今にもミツキの体を乗っ取らんとしたその時。ダンと音がしてナイフが脇の方が飛んできた。
     糸はナイフで途切れ、ミツキの体に触れることはなかった。
    「何しようとしてるんですか。この物狂いが」
     切れた糸とナギの声にミツキがハッとした顔をして顔を上げる。
    不安げなミツキの顔よりももっと不安な顔をしたヤマトがそこにいた。
     やってしまった。見せてしまった。そんな風に冷や汗を垂らしながら青い表情をするものだから、ミツキは大丈夫だからとヤマトの頬に手を添えて笑って見せた。
    危機感のないミツキと被害者のような顔をするヤマトに嫌気がさしたのかナギは言う。
    「あなたが青ざめてる理由は何ですか?加害者が被害者のような顔をしないでください」
    「ナギ!そんな言い方はないだろ!!ヤマトさんにも理由はあるのかもしれないし…」
    ナギはミツキの首根っこを掴みをヤマトから離す。
    「ミツキは少しお人よしが過ぎます」
    確かにミツキはお人よしかもしれない。ただ、この船にはそういうお人よしを必要とする者が多くを占める。
    「ナギ。新人には優しくしろ。お前だって最初はそうだっただろ?」
    先程までナギに首根っこを掴まれていたとは思えない程肝が据わった目をしてナギを見つめる。
    「お前だって最初は俺や団長にまでナイフ振りかざしてたじゃんか。みんな世間から特殊な扱いを受けてきたんだ。心のわだかまりが溶けるまで時間はかかるよ」
    お前、初の後輩が出来てちょっと自分の過去を忘れてるんじゃないか?なんて笑って付け足す。
    「ヤマトさんもさ。オレらには怯えなくていいよ」
    ミツキはヤマトの方へ足を向けた。
    「力も使っていいし。傷つけてもいい」
    近づくミツキにヤマトは怯えた表情を崩すことはなかったが、ミツキは気にせずヤマトの前に座りヤマトの心臓をつつく。
    「だからさ、ヤマトさんのここの痛いとこ教えてよ」
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