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    はじめ

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    はじめ

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    酔った勢いで体の関係を始める大人面あた
    テーマ:性急な手つき、駆け上がる興奮、増幅する心音、重なる息遣い

    お互いに「誰かと間違えてないか」気になる二人が可愛い

    #面あた
    face
    ##大人面あた

    君と知って、ぼくは誘う「酔ったかもしれん」
     なんて、まるで誘っているかのような台詞がするりと口からこぼれ落ちた。舌足らずな声、回る視界、ふらつく足元。蛍光灯の明かりがやけにきつく感じて、まぶたの上でちかちかと反射する。
     意中の女性に言われたら舞い上がるような常套句をまさか自分が口にするとは思わなかった。あまつさえ、ひどく酔っ払った状態で。
    「…飲み過ぎてもうた」
    「…そのようだな」
     静かに浮上する狭いエレベーターのなか、壁際に体重を預け、見事に撃沈しながら呟くと、反対側の壁際で佇む面堂が平然と呟く。よたつくあたるとは対照的に、なんとも取り澄ました表情を浮かべている。サイリウムの眩い光線みたいなものが、虹彩の間近でずっと揺れていて、余計に頭がくらくらした。あーあ。
    「――…最悪じゃ」
    「自業自得だろ」
     会社持ちのタダ酒だと思って欲張りすぎた。ボーイが勧めるままに飲み慣れない種類のアルコールまでオーダーしてしまった。最悪だと後悔してもあとの祭り。これも大人になった証だろうか。
     放心したように、ぼうっと天井を見上げていると、調子に乗るからだろ、と呆れられた。言い返してやりたいのに、あいにくその元気すらなかった。酒には弱くはない自信はあったが、案外繊細なバイオリズムの周期の関係かもしれない。
     喉奥から吐き出すように盛大なため息をついて、革靴の爪先まで視線を落とす。前髪の隙間から見える、つんと尖った面堂の鼻先が小憎たらしかった。エレベーターが目的の階に着くまでの僅かな間、その横顔を無心で眺めていると、視線に気付いた面堂と目が合った。その瞬間、小気味の良い音とともにドアが開く。
    「降りるぞ」
     と、言われて、不意に冷静になった。埃ひとつ付いていない清潔なスーツを眺めていると、少しだけ酔いが冷めた。なんでこんなところに面堂と二人で? そのかわりに襲ってくる羞恥と緊張、それから後悔。誘ったかもしれん。本当に、面堂を。
     誤魔化すように咳払いをして、広い背中に続いてエレベーターを降りるため、右足を踏み出した瞬間によろけた。その拍子に凭れかかると、面堂があからさまに嫌そうな顔をした。
    「なにをしとるんだ君は」
    「酔ったかもしれんと言っただろう」
    「開き直るな」
     よたよたと覚束無い足取りでエレベーターの隙間を跨ぐ。痺れを切らしたように面堂がため息をついて、あたるの腕を取った。放っておけば良いものを、そのまま腰を引き寄せられた。ベルト同士が擦れて、艶っぽい音がする。
    「危なかしいやつだな」
    「なにすんじゃい」
    「なにするとはなんだ、助けてやったんだから感謝すべき場面だろう」
     やいやいと喧嘩をしながら静寂がこだまする廊下を歩く。
    「…なんでこんなところでお前なんかと二人きりなんだ」
     独り言のように呟くと、誰かと間違えたんじゃないか、とにべもない言い方をされた。歩きながら視線を上げると、面堂と簡単に目が合った。長い睫毛がライトに照らされ、涙袋のあたりに影を作っている。二人を纏う空気が、甘ったるいようなくすぐったいものに変わったのがはっきりと分かって、居た堪れなくなった。
    「…近くないか」
    「…支えてやってるんだから文句を言うな」
     とはいえ、やけに距離が近くて心臓が暴れ出す。スーツ越しとはいえ、肌に触れられていることを急に意識した。面堂が立ち止まって、カードキーで部屋のドアを開ける。感知式なのか、すぐにオートで電気がついた。密閉された空間は余計に静寂がうるさかった。
    「…面堂、ちょっと、」
     近い、と言って、その肩を押し返したが、そのささやかな反抗を面堂は許してくれない。静寂の隙間を縫うように、「なにが」と短く言ったきり、伏し目がちに俯いて、そのまま、壁に追いやられた。なにがって、距離に決まってるだろ。言い返す間もなく、壁を背にしたまま、覆いかぶさられる。
    「…おい、苦しいじゃないか」
    「うるさいぞ」
    「…なんで面堂が怒るんじゃ」
     怒りたいのはこっちの方だっていうのに。スーツが擦れるほど近くに面堂がいて正直困った。これくらいの距離、なんてことないはずなのに、鼓膜が破裂しそうだった。髪の毛が揺れるたびに熟したコロンの色っぽい香りがする。いつだって逃げられる自信はあっても、ここから逃げるのもなんだかもったいない気がして、ここに留まりたい。なんて、自分勝手に思う。
    「――諸星」
     ずいぶんと情けない声で名前を呼んだ面堂が、あたるの顔の両脇に手を付く。なんじゃい、と呟いたタイミングで、前髪越しの額に口づけされた。身構えたは良いが、案外可愛いキスに拍子抜けし、目を瞬かせていると、面堂が不貞腐れた顔をした。
    「なに、笑っとる」
    「べつに、笑ってなんか…あっ、おい…ん」
     今度は躊躇なく、唇めがけてくるので、堪らず押し返した。とはいえ、酔っ払いの弱った腕力では簡単に力負けして、上唇を食まれた。そこで気付く。ああ、こいつも結構、酔ってたんだと。
    「あ…ん…」
     掠めるだけのキスはなぜか無性に羞恥を擽る。面堂の息継ぎに合わせて、その胸を押し返したが、再び抱きすくめられて、骨が軋むまで抱き締められた。
    「…んっ、あほ」
    「…変な声、出すな」
    「…誰のせいじゃ」
     シャツの隙間から脇腹をまさぐられて、濡れた声が漏れる。酔いはずいぶんとマシになっていて、それよりも、ついさっきまで冷静だったはずの面堂の、タガが外れたような姿に面食らった。だから堪らず聞いた。誰かと間違えてるんじゃないか、と。
    「…間違えてなんかいない」
     怒ったような口ぶりで、面堂が言いのける。それから、あたるの肩に額をつけて、悔しそうに拳を握った。続けてふるふるとかぶりを振る。乱れたシャツを直す暇もなかった。熱い吐息が首元で揺れる。舌を吸われて、背中が戦慄く。
    「…っ、はぁ、」
    「…間違えてなんかいない」
     睫毛が触れるような距離で。そんなはっきりと言うなんて、どきどきするじゃないか。
     助け舟、とまではいかないけれど、あたるの言葉を否定するなんて、自分で逃げ道をなくしているのと同じだ。黙っておけば、あやふやに出来た。酒のせいだと、なんだかんだと理由をつけて、なかったことに出来たのに。
     変なところで意固地で、育ちの良い真っ当さが出る。それが面堂の良さでもあり、苦手な部分でもあった。
    「ぼくが貴様を間違えるわけがない」
     そんなことを平気な顔して言うものだから、だから恥ずかしくって、逃げたくなるって言うのに。隠したくなるよ、自分の本当の気持ちを。
     あたるが黙っていると、より一層キスが激しくなって脳も舌も痺れた。
    「…本当に、貴様は間違えたのか」
     キスの合間に聞かれたので、「さあ、どうだと思う?」と笑うと、案の定怒られた。
    「はぐらかすな」
    「分からんか?」
    「分からんから、聞いている」
     しゅんと不安そうに翳る瞳があまりにも健気で可愛かったので、思わず頬が緩んでしまった。
    「…間違えてたら、とっくに逃げとる」
     迷いに迷って面堂の背中に手を回すと、至近距離にある大きな瞳が微かに揺れた。赤くなった面堂の耳に唇を寄せて、囁くようにつぶやく。
    「…間違えるわけないじゃろ」
     それは本音で、気まぐれで。でも、今日はいいか、と諦めの気持ちで目を閉じた。そこには少なからず安堵も含まれている気がする。本当は掴まえられたかったのかもしれない、面堂の腕のなかに。
     気まぐれな自分を許してくれる面堂のことが、案外わりと結構ちゃんと、あたるは好きだったりする。
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