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    はじめ

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    はじめ

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    面あた

    日常に溶け込む「君」の存在。
    「いつもの日常」を積み重ねて関係性を築く二人が好きなのかもしれない。

    ギュッと文字が詰まっている表現方法が好きでたまに書く。ポイピクには読みやすいように調整したものを。
    https://twitter.com/ysursay/status/1601945003047079937?s=20&t=Glkxtv0LadyY6wu3WdxW7A

    #面あた
    face

    いつもの日常 寝て起きて布団を畳んで、欠伸交じりのままに制服のなかに着込むシャツを探す。
     布団のなかで一晩中温められた体はすっかり火照っていて、体温が増すと素肌がすべすべとする感じがするから不思議だ。
     昨夜ラムはUFOで寝たはずだったが、いつの間にか制服姿で部屋にいて、覚束ないあたるの手を取るようにして、シャツを手渡す。はい、とラムに渡された白シャツはいつぞやみたいに本音が漏れるような代物ではなかったので、寝ぼけ眼のままにシャツを着込んで学ランを羽織った。
     母親が作ってくれた朝ご飯は相変わらず美味しかった。お代わりをする時間はなかったので、かき込むようにして頬張り、足早に家を出る。おかずが少ないと文句を言うことはあっても、基本的には感謝をしている。
     今日はよく晴れた良い日だった。澄んだ空気は呼吸がしやすいのでわりと好きで、頬を撫でていく凍てつくような寒さも、妙に心地が良い日がある。今日がそれだった。
    「ダーリン待って」
     と、ラムが言う。
     あからさまに待つことはしないが、後ろから駆けてくるその音をなんとはなしに聴いて、ばれないように努めてさり気なく速度を緩めた。自由に空を飛べるラムの方がなんだって速いに決まっているのに変なやつだな、と時おり思う。
     朝の校庭は登校する生徒でごった返していた。小石を蹴りながらグラウンドの中央を歩いているとコースケに声を掛けられた。
    「ラムちゃんおはよう」
     と、それはそれはだらしのない顔で挨拶をしたのちの、
    「あたるもよっす」
     見るからについでのような感じだったことはこの際きちんと付け加えておく。さらには今日の数学は小テストがあるだとか体育はマラソンだとか、逐一嫌なことを思い出させるので辟易とした。とはいえコースケとの、なんてことないことで馬鹿言って笑えるような関係は、ひどくありがたいことだった。
     三人で向かった生徒玄関で上履きに履き替え、二年四組を目指す。古い廊下は寒くて軽く震えた。窓から吹き込む隙間風が冷たくて、本格的な冬が来たなあ、とぼんやり思った。
     後ろから生徒たちの足音が聞こえ、ぱたぱたと独特の音を奏でながら追い越していった。廊下が僅かに軋む。幾人もの声が掛け合わさった校内は輪唱のように賑やかだった。傷のついた柱をなんとなしに視界に留める。多くの出会いと別れを経験した校舎はどこか誇らしげでくたびれていて、重厚とふてぶてしさを綯い交ぜにしたような面白みがあった。
     教室のドアを開けると、ふわっと冬風があたるの前髪を揺らした。
    「誰じゃ、窓を開けたのは」
     なんて小言を言いつつ、声を掛けてきた生徒に適当に挨拶をして自席を目指す。瞬間、視界に飛び込んできた白い制服。誰か、なんて分かり切っているのに、その顔を瞳に留めて安心したりなんかする。
    「遅刻ぎりぎりだぞ」
    「ぎりぎりなだけじゃろ」
     おはようの挨拶もそこそこに、軽口を叩き合う。そもそも、おはようなんて形式ばった挨拶は必要ない間柄だった。
    「親しき仲にも礼儀あり」とよく言うが、あたると面堂の関係は、「親しい」と呼ぶにはいささか不釣合いで、礼儀なんてほとんどない。小言を言って喧嘩をして、時に向かい合ってやり合うことだって。鼻持ちならないやつだとは思うけれど、波長が合わないわけではなかった。
     それを認めてしまうには、互いに幼すぎるだけ。
     今日もまた面堂がいるのか、と思うと、あたるの心はわりと弾む。もちろんそこには悪戯心も多分に交ざってはいるが。
     チャイムの音とともに、温泉マークが教室にやってきて、席に着けよ、と教室を見回した。仕方なく席に着いて、点呼を待った。
     あたるの視界に映る面堂のぴんと伸びた背中と清潔な後頭部を見ながら、また明日もこんな日が続くのかとおもむろに思った。いや、こんな日が続けば良いのに、か。
     まるで息をするように自然と、面堂と過ごす未来を想像している。
     あたるの人生の中に毎日の中に、面堂がいる明日を想像する。
     それは案外、あたるの胸にすとんと落ちて、いつもの日常を彩らせる。
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    あたるくんの「面堂のばっきゃろーっ」を受けて0.1秒ですっ飛んでくる面堂くんも、呼べばすぐに来るって分かってる確信犯なあたるくんも大好きです。
    恋より淡い 校庭の木々の葉はすっかり落ちて、いかにも「冬が来ました」という様相をしていた。重く沈んだ厚ぼったい雲は今にも雪が降り出しそうで、頬を撫でる空気はひどく冷たい。
     期末テストを終えたあとの終業式までを待つ期間というのは、すぐそこまでやってきている冬休みに気を取られ、心がそわそわして落ち着かなかった。
    「――なに見てるんだ?」
     教室の窓から校庭を見下ろしていると、後ろから声を掛けられた。振り向かなくても声で誰か分かった。べつに、と一言短く言ってあしらうも、あたるにのしかかるコースケは意に介さない。
    「…あ、面堂のやつじゃねえか」
     校庭の中央には見える面堂の姿を目敏く捉え、やたらと姿勢の良いぴんと伸びた清潔な背中を顎でしゃくる。誰と話してるんだ、などと独り言を呟きつつ、あたるの肩にのしかかるようにして窓の桟に手を掛けている。そのまま窓の外の方へと身を乗り出すので危なっかしいたらありゃしなかったが、落ちたら落ちたときだ。
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