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    Chickentabetai7

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    Chickentabetai7

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    なんでも許せる方向け

    鯉博 夢十夜パロ(オマージュ) ふと気づくと、夜だった。
    目の前にはあのひとが静かに横たわっている。
    「もうすぐ私は死ぬよ」
    静かな声だった。このように話す人だったかと思って、不思議と思い出せなかった。ただ珍しいとだけ感じた。
    薄い壁の向こう側にあって、よく見えないことの方が多かった顔が外気に晒されている。髪が白い枕の上に散らばっているさまがやけに鮮烈だった。そのひとは存外まろやかな輪郭をしていたことを、今初めて知ったように思った。
    不健康そうな白さはそこにはない。新雪の奥底、紅梅が眠っているような頬をしている。いつもよりずっと健康そうに見えた。とても死にそうに見えないそのひとは、やはり死ぬのだという。その声があんまりにも静かで、染み入るようだったから、ああ死ぬのだなと思った。
    「死んでしまうんですか。もう」
    覆い被さるようにして覗き込む。身体は重かった。
    「死ぬとも」
    何を見ているのかよく分からない人だった。視線の先に何があるかは分かるのに、いつだって遠いどこかを見ていた。けれど今は違った。リーは、烟るような睫毛で縁取られたまなこの奥に己の姿が在るのを見た。
    漸く、おれを。身のうちから湧き出た衝動に近い何かは、かたちを得る前に消えていった。
    これでも死ぬのかと思った。こんなにはっきりと、自分を見ているのに。
    「……ねえ」
    もうじき死ぬそのひとは眠たげな目をして、小さく呼びかける。ここにはふたりの他、誰もいない。
    寝ているその人の近くに手をついて、そうっと身をかがめた。内緒話をするかのようだった。
    「なんですか」
    「私が死んだら、埋めてくれ」
    「そんなこと言わないでください」
    「君こそつれないことを言うなよ」
    ふう、と。赤い唇から吐息が漏れた。
    いのちが吐き出されている。僅かに空いた隙間から、生がするりと抜け出していっている。
    それが嫌だと思った時にはもう、唇が重なっていた。行くな、行かないでくれと縋り付いていた。
    ずっと近くでそのひとは笑っていた。ばかなやつだと困ったように笑っていた。ばかにしていると言うには、幾分やさしすぎる顔だった。
    「大きな真珠貝で穴を掘ってさ。そうしたら、そのうち天から落ちてくる星の破片を置いてくれ。墓標だ。それで、待っていてほしい。また、逢いに来るから」
    「……いつ、逢いに来てくれるんです」
    つう、と逸らされると思った視線は、そうはならなかった。
    ほんの僅かな例外を除いて、誰のことも見ていなかった瞳は、今はずっとリーだけを見ている。
    「日が出て、沈んで。それをずっと繰り返すだろう。赤い日が、何度も同じように───君は、それでも待っていてくれるかい」
    返事はしなかった。かわりにひとつ頷いた。
    静かな声が、ぴんと張った弓の弦のように響いた。
    「百年だ。……百年、私の墓の傍に座って、待っていてくれ。きっと、逢いに来るから」
    待っています。ぽつりと返した。
    まるいひとみに映りこんだ自分の姿が揺らぐのを見た。ぐちゃりと崩れて、水面が綻ぶ。白い頬を涙が伝った。
    ───もう死んでいた。

    リーはそれから、ドクターが言った通りにした。庭に出て真珠貝で穴を掘った。これほど大きな殻をもった貝がいたろうかと思うこともなく、黙々と掘った。なめらかな七色が、土をすくうたびにちらちら光っていた。湿った土の匂いは、思ったより不快ではなかった。
    暫くたって、穴は掘り終わった。
    ドクターをその中に入れてやる。柔らかな布団を被せるように、火の消えた蝋燭のようになったそのひとの上に土を被せた。そのたびに、また貝の裏側はちらちら光った。月の光を反射しているのだと、その時初めて気がついた。
    それから星の破片を拾ってきて、土の上にそっとのせた。大きくて、まるくて、ぽうっと白く光っていた。たぶん、空から転げ落ちてくる途中で角がとれたのだろう。抱き上げた腕と胸が、少しだけ温かった。
    リーは苔の上に座った。ここで待とうと思った。
    あのひとの言った通り、幾度も日が昇っては落ちた。とおを数えたあたりから、指折ることをやめた。ずうっと待った。不思議と、それ以外のことは考えなかった。けれどもあのひとは来なかった。
    すっかり苔むした標を見た。
    「おれは、騙されちまったんですかねえ」
    降り出したばかりの雨のような声だった。

    すると、標石の下からすうっと何かが伸びた。リーに向かって、青い茎が伸びてきた。それは胸の辺りまで来て、ぴたりと成長を止めた。と思えば、その先で所在無さげに揺れていた細い蕾がふわりと花開いた。真白な百合だった。鼻先で揺れるそれの匂いは噎せ返るようで、けれど嫌ではなかった。
    どこからともなく雫が垂れた。ぽたりと滴るそれをじかに受けて、花はふらふら揺れた。
    気づけば白い花弁にそっと口付けていた。たった数秒が永遠のように感じた。
    花から顔を離した時、リーはふと空を見た。
    暁の星がたったひとつ瞬いている。それはちらちら光っていた。
    百年はもう来ていたのだと、その時初めて知ったのだ。

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    Chickentabetai7

    DONE鯉博 一応お風呂ネタです 多分
    ゆりかご 好きなことは無いのか。そう問われたことがある。いつ、どこで、どんな時、誰に聞かれたかまでは思い出せないが、そういった質問をされたことだけは薄ぼんやりと覚えていた。
     その時ドクターはこう返した。
    「水の中に浸かるのが好きかな」

     ◆

    「さっきのはそういうことだったんですか……」
    「うん。だから、別に気絶してたわけでもなければ溺死したかった訳でもないんだ。ほんとうにごめんね」
     心配させてくれるな。そう言いたげな表情を隠しもしない男を見て、ドクターは素直に謝った。さっきまでの自分を見た彼──リーが、どんな気持ちになったかを正しく理解したがためだった。
     事の顛末はこうだ。
     本日の業務が滞りなく終了したドクターは、子供たちの元に顔を出しに行くというリーを見送って先に自室へと戻っていた。そもそも来艦すること自体があまり多くない恋人が来る日というのはつまり、そういう日になる。だからとっとと身体を清めるが吉と踏んで入浴していたのだ。今日も疲れたなあと思ったドクターは、髪も身体もきっちり洗った上で湯の中へとぷんと沈み、ふわふわぼんやり揺蕩っていた。そしてその状態のドクターを、部屋を訪ねても応答のないことを訝しんで名を呼びながら探していたリーが見つけ……大慌てで引っ張り出した。
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