ゆりかご 好きなことは無いのか。そう問われたことがある。いつ、どこで、どんな時、誰に聞かれたかまでは思い出せないが、そういった質問をされたことだけは薄ぼんやりと覚えていた。
その時ドクターはこう返した。
「水の中に浸かるのが好きかな」
◆
「さっきのはそういうことだったんですか……」
「うん。だから、別に気絶してたわけでもなければ溺死したかった訳でもないんだ。ほんとうにごめんね」
心配させてくれるな。そう言いたげな表情を隠しもしない男を見て、ドクターは素直に謝った。さっきまでの自分を見た彼──リーが、どんな気持ちになったかを正しく理解したがためだった。
事の顛末はこうだ。
本日の業務が滞りなく終了したドクターは、子供たちの元に顔を出しに行くというリーを見送って先に自室へと戻っていた。そもそも来艦すること自体があまり多くない恋人が来る日というのはつまり、そういう日になる。だからとっとと身体を清めるが吉と踏んで入浴していたのだ。今日も疲れたなあと思ったドクターは、髪も身体もきっちり洗った上で湯の中へとぷんと沈み、ふわふわぼんやり揺蕩っていた。そしてその状態のドクターを、部屋を訪ねても応答のないことを訝しんで名を呼びながら探していたリーが見つけ……大慌てで引っ張り出した。
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