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    spring18_520

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    spring18_520

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    書きたい台詞があって書き始めたのに結果的にその台詞を書けなかったのでこっちで供養します🤗😇

    #七マリ

    好きな人の名前を自分に刻むっていう背徳感の話(七マリ)「タトゥー、か」
    「わぁ、凄いね」

    昼休み、ご飯を共にした私達は雑誌を広げてお喋り。七ツ森くんが今日持ってきてくれた雑誌は、普段はあまり見ないジャンルだから少し新鮮だ。ぺらりとページを捲った先には、太い腕に見事なタトゥーを入れている男の人が写っていた。

    「あんた、こういうのスキ?」
    「凄くってわけじゃないけど…綺麗だし、かっこいいと思うよ。七ツ森くんは?」
    「俺もそんな感じ。温泉入れなくなんのがキツそうだけど」

    確かに、と頷きながら口角を上げる。そういうデメリットはあるけど、タトゥーには底知れぬ魅力がある。オトナでセクシー、って感じ。……タトゥーシールとかなら私でも出来るかな。夏休みの間に挑戦してみようか…なんて妄想も広がる。

    「……でも俺、アレは憧れあるな。彼女の名前彫るやつ」

    私が想像を膨らませていると、七ツ森くんはそんなことをふと語った。その発言が少し意外で、私は丸くした目を彼へ向ける。

    「へぇ…七ツ森くん、そういうの嫌なのかと思ってた」
    「ハハ、まぁ少しは恥ずかしいだろうけど…。俺はその人のモノ、って証明になるじゃん?……なんか、想像するとイイかもって」

    そう言いながら目を細めて、彼は自身の腕を軽く擦る。流石モデルとも言える、ガッチリして綺麗な腕。そこに人の名前のタトゥー、それも女の人の…。
    ……想像しようとしても上手く出来なくて、くすりと苦笑した。

    「あ、笑ったな。そういうロマン、あんたには無い?」
    「ふふっ、ロマンなの?」
    「ロマンなの。……ま、あんたの綺麗な腕にタトゥーは似合わないかもしんないけどさ」

    そう言いながら彼も苦笑する。そうかなぁ、と私は考える。……なんかまるで子供扱いされている気分だ。私にだってタトゥー、似合うかもしれないじゃないか。
    それに好きな人の名前を自分の身体に刻む、ということも言われてみれば素敵に思えてきた。自分がその人のモノであることの証明、なんて彼は言っていた。…想像すると何故かぞくりと身体が震えた。

    「……好きな人の名前を身体に刻む…かぁ」
    「まぁ、女子からすればただ恥ずかしいだけか?この背徳感、伝わんないだろなー」

    背徳感。……文字や言葉は知っているけど、その感覚はよく分からない。けれど彼が少しの憧れを滲ませながら息を吐くものだから、なんだか意地でもその感覚を知りたくなってきた。


    「よし…やってみよう」
    「ん?」

    机の中からペンケースを取り出して、ネームペンを手に取った。きゅぽんとキャップを外してペン先を己の腕へ向ける。

    「……なる、お手軽タトゥーね」
    「そう。私にだってタトゥー、似合うと思うよ?」
    「ハハ、そこでムキになっちゃったか」
    「うん。あと、その背徳感ってものを味わってみたいの」

    『え、』と彼が言葉に詰まる。それと同時に私は文字を書き終えて、手の甲を自身の目の前に掲げて微笑んだ。書きにくい場所ではあったけど、なんとか読める。
    ……けれどこれじゃタトゥーというより、ただ名前を書いただけだ。似合うも何も無いし、背徳感とやらもそんなに感じられない。


    「うーん…」
    「……微妙な顔してますね」
    「タトゥー感が出なかった…」
    「どれ。見せて」

    はい、と彼へ手の甲を向ける。その途端に両手でぎゅっと手を握られ、まじまじと眺められた。……ただ名前が書いてあるだけだから、そんなに見るところも無いと思うんだけど…。


    「──似合ってる」

    「え?」
    「凄い似合ってるよ。今日一日はこのままでいな」

    ぱっと解放された手。…昼休みが終わったら洗ってこようかと思ってたけど、残しておいたほうがいいのかな?というか似合ってるって、本当にただの名前なんだけど…。


    「いやー、素直に謝るわ。あんた似合うよ、タトゥー」
    「ええっ?これ、タトゥーっぽくないよ?」
    「あぁ。それ以外は似合わないと思うんで、間違っても彫るなよ?」
    「もうっ、彫らないよ…。というかそれって、やっぱり私にタトゥーは似合わないって言ってない?」

    『さてどうでしょう』なんて彼は笑う。……絶対そういう意味だ。今度のお出かけ、本当にタトゥーシールでも挑戦して行ってみようか。

    「そろそろ昼休み終わるし、俺教室戻るわ。背徳感、ご馳走様でした」
    「えっ、背徳感……?」

    私が感じるべきものを一体何故、彼の方が感じているのだろう。そんな疑問を問い詰めたかったけど、彼は満足そうな様子で教室を出ていってしまう。今日の放課後にでももう1回聞きに行ってみようか。


    そう思いながら次の授業の用意をしていると、ふと前の席の子から声をかけられた。

    「ねぇねぇ、次の授業ってさ──ん?手に何書いてんの?」
    「あ、これ?タトゥーの真似事」
    「タトゥー…。……彼氏さんの名前でもメモったの?可愛いね」

    彼氏さんとかじゃないよと否定しようとして、…ふと言葉が止まる。

    『自分はその人のモノって証明』『好きな人の名前を刻む』『背徳感』、そんな話の流れがあった。…私、何気なく書いてしまったけど。もしかしてこれって……。

    自身の手の甲を改めて見つめ直した。一切の迷いがなく書かれた『七ツ森実』の文字。
    ……ぼん、と顔中に集まった熱が爆発した。

    「ち、違う…違うの、私はただ目の前にいた人の名前を…!」
    「だ、大丈夫……?」
    「大丈夫じゃない……かも…」

    手を握られた感触が蘇ってくる。似合ってる、と言った彼の様子も蘇ってくる。思い返すとかなり意地悪に笑っていた気がする。

    (七ツ森くんは嘘つきだ……!)

    これが背徳感なわけが無い。ばくばくと心臓が鳴って、急にこの文字が意味を持ったものとして認識されてしまう。……まるで彼の持ち物にでもなったようだ。
    こんなドキドキする変なキモチが、背徳感、ロマンな筈がない……!

    (…だけど、どうしよう。……消したくなくなってきた…)

    真剣な顔で似合うと言われてしまったからだ。…嫌な顔のひとつでもされたり、冗談みたいに笑ってくれたなら良かったのに。


    (……放課後、苦情言いに行ってやろう)

    うっかり書いたのは私だけど、指摘しなかった彼も悪い。……でもどんな顔をして会いに行けばいいんだろう。



    やっぱり放課後会いに行くのやめよう、家に帰ってすぐ消そうなんて考えは、放課後になってすぐ、廊下で待ち伏せしていた彼によって打ち消される。わくわくしたようにネームペンを携えていた彼は『俺にもタトゥー彫って』と私に言ってきた。

    ……背徳感ってモノはどうやら、楽しめる人とそうでない人がいるらしい。私は後者の方だと言い聞かせながら、苦笑して彼からペンを受け取った。
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    spring18_520

    MOURNING自分以外が学年トップクラス、そして一流志望…、好きな子もその進路、ってなったら七ツ森くんは1回くらい本気で一流大学進学を考えたことがあるのでは?
    そんでマリィと真剣な話をして自分の将来の選択に自信を持てるようになってたりしないかなぁ、なんて妄想。
    一流大学進学を考えた七ツ森くんの話 問題を全て解き終えてから数分。ようやく採点をする気になって、どくんと心臓を鳴らしながらページを捲った。赤ペンを持つ手には力が入らない。
    いやいやでも、もしかしたら、案外──なんて自分を勇気づけては回答の冊子と自身の文字とを見比べる。

     マル、バツ、バツ、マル、マル、バツ、バツ、バツ……。

     半々くらいか、と思う気持ちには安堵と落胆が入り交じる。手応えの割には取れていた。けれどこの結果じゃ到底ダメ。あと10点でも取れていれば気分も少しは違っただろうか。

    (……あぁもう、絶対ムリ、マジでムリ!)

     頭を抱えるように項垂れる。目の前の冊子や筆記用具も全て投げ捨ててしまいたかったけど、ここは教室。放課後だから残っているのは俺くらい、とは言え誰に見られるか分かったもんじゃない。とりあえず深く溜息をついて、忌々しく机を眺める。
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    そんでマリィと真剣な話をして自分の将来の選択に自信を持てるようになってたりしないかなぁ、なんて妄想。
    一流大学進学を考えた七ツ森くんの話 問題を全て解き終えてから数分。ようやく採点をする気になって、どくんと心臓を鳴らしながらページを捲った。赤ペンを持つ手には力が入らない。
    いやいやでも、もしかしたら、案外──なんて自分を勇気づけては回答の冊子と自身の文字とを見比べる。

     マル、バツ、バツ、マル、マル、バツ、バツ、バツ……。

     半々くらいか、と思う気持ちには安堵と落胆が入り交じる。手応えの割には取れていた。けれどこの結果じゃ到底ダメ。あと10点でも取れていれば気分も少しは違っただろうか。

    (……あぁもう、絶対ムリ、マジでムリ!)

     頭を抱えるように項垂れる。目の前の冊子や筆記用具も全て投げ捨ててしまいたかったけど、ここは教室。放課後だから残っているのは俺くらい、とは言え誰に見られるか分かったもんじゃない。とりあえず深く溜息をついて、忌々しく机を眺める。
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