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    spring18_520

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    spring18_520

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    自分以外が学年トップクラス、そして一流志望…、好きな子もその進路、ってなったら七ツ森くんは1回くらい本気で一流大学進学を考えたことがあるのでは?
    そんでマリィと真剣な話をして自分の将来の選択に自信を持てるようになってたりしないかなぁ、なんて妄想。

    #七マリ

    一流大学進学を考えた七ツ森くんの話 問題を全て解き終えてから数分。ようやく採点をする気になって、どくんと心臓を鳴らしながらページを捲った。赤ペンを持つ手には力が入らない。
    いやいやでも、もしかしたら、案外──なんて自分を勇気づけては回答の冊子と自身の文字とを見比べる。

     マル、バツ、バツ、マル、マル、バツ、バツ、バツ……。

     半々くらいか、と思う気持ちには安堵と落胆が入り交じる。手応えの割には取れていた。けれどこの結果じゃ到底ダメ。あと10点でも取れていれば気分も少しは違っただろうか。

    (……あぁもう、絶対ムリ、マジでムリ!)

     頭を抱えるように項垂れる。目の前の冊子や筆記用具も全て投げ捨ててしまいたかったけど、ここは教室。放課後だから残っているのは俺くらい、とは言え誰に見られるか分かったもんじゃない。とりあえず深く溜息をついて、忌々しく机を眺める。

     ……と、教室の入口の方でカタンと物音がして、顔を上げた。はっとしたような顔を浮かべて、慌てて身を隠した女の子。…居るのはバレバレだし、別に隠れる必要も無いのに。

    「出てらっしゃい、何を心配してんだか知らないけど」
    「う、うん……。…たまたま通りかかったら七ツ森くんの姿が見えて、声かけようとしたら、何だか難しい顔浮かべてたから、その…」

     ハハ、と力なく笑って、おそるおそる教室に入ってきた彼女を迎え入れた。……本当はバレたくなかったことだけど、もうこの際仕方ない。
     すっかり自暴自棄になってしまった俺は、いっそのこと、どこまでもカッコ悪い姿を晒してやろうかなんてことまで考えてしまう。

    「何か悩み?私でよければお話…、……って、これ…」

     俺の前の席に腰を下ろした彼女は、広がった冊子達を見てすぐに気がついたようだ。まぁ分かるよなぁ、と苦笑して、そのうちの1冊をぴらりと手に取る。

    「一流大学の過去問」
    「そう、だよね。……七ツ森くん、一流志望なの?」

     ……ここでそうだと言えたらかっこよかった。けれど、そんなこと言える資格は無いってことは、採点結果で証明されてしまっている。

    「……そうしたかったけど、無理」
    「どうして……?」
    「見る?俺の結果。とてもじゃないけど一流目指す人とは思えないボロボロっぷりだから。二流でも怪しいかもな、この分だと」

     バツの印がやたら強く書かれた用紙を、彼女の方へ押しやる。その紙に目を落としていた彼女だが、それを手に取ることは無かった。
     その代わりと言うべきか、口が小さく震えた。

    「……違うよ」
    「え?」

    「違う。その『どうして』じゃない。……一流大学に行くことは、本当に七ツ森くんのやりたいことなの?どうして、一流大学を目指そうって思ったの?」

     その言葉に息を飲んで、目を見開く。顔を上げた彼女の瞳は真剣だった。
     ……理由を話したら余計にかっこ悪いことは分かっている。けれど、焦った俺は弁解をするように話していた。


    「だって…。……ダーホンもカザマも、一流だろ」
    「うん」
    「あんたも、そうだ。……一流大学に俺以外の全員が行くってのは、その…。……それに、受験勉強だって。3人で勉強会とかもするだろ。俺がそこに混ざったら邪魔にしかならないし、かと言って俺を呼ばないことにも罪悪感とか覚えそうだし、あんたら」

     ……あぁ、ダサい言葉しか出てこない。仮にも好きな子に、こんなこと聞かせたい男がいる筈も無い。
     失望されただろうか。それとも引かれたかな。せめて俺の頭がもっと良ければ良かったのに。そうしたら、きっとこんな状況も違っただろうに。


     続けるべき言葉に迷って、口を閉ざす。……こんなこと言ってゴメンって謝るべきか。今の無かったことにして、って言おうか。
     ヤケになって、今から必死で猛勉強したら、ワンチャンあるかもしれないし。ここで自暴自棄になって諦めるのはまだ早い、されど数ヶ月、まだ数ヶ月あるんだから。だから……。


    「──それで、一流大学に行ったら七ツ森くんのやりたいことは出来るの?」

     俺の心にかかった暗雲を、スパリとその言葉が切っていく。彼女の目は真剣なまま、かつ優しいものだった。

    「…それは……」
    「私達のことを気にしてくれたんだね。その気持ちは嬉しい。……でも、七ツ森くん。高校を出て、違う道に進んだら、繋がりって途絶えちゃうのかな」
    「…………」

     彼女はどこまで、俺の中の葛藤を見抜いているのだろう。俺が見ないフリをしようと決めて片付けてしまった気持ちさえ、掘り起こしてくる。
     ──そんなことされたら、俺が固めたつもりでいた心がぐらりと揺らいでしまう。

    「……少なくとも、私は七ツ森くんとずっと一緒に居たい。今みたいな時間は少なくなるかもしれないけど、休日は遊びに行ったり、夜はメッセージや電話でやり取りしたり。私は……七ツ森くんとの関わり、断ち切るつもりなんて無かったよ」

     少し照れたようにはにかむ彼女の目に、言葉に詰まって何も言えなくなっている俺が映り込む。
     適当にあしらってくれて良かったのに。頑張れ、なんて応援の一言でも貰えれば、俺は頑張って勉強と向き合ったのに。
     どうして彼女はいつだって、俺を見てくれるんだろう。

    「きっと2人も、そうだと思うけど。私は……好きなことやって、楽しそうな七ツ森くんを見ていたい。その姿に元気や勇気を貰えるから。一流大学に行くよりももっと凄いこと、七ツ森くんには出来ると思う」


     彼女と少し話をした、ただそれだけで、俺の迷いはもう姿を消してしまった。
     進路指導の先生に相談したら、きっと勉強のコツなり教えて貰えただろうこと。両親に話したら、応援してくれただろうこと。

     それをまず最初に否定してくれるのは、きっと彼女とアイツらくらいなものだ。


    「──目、覚めたわ」
    「七ツ森くん……」

    「俺…後悔したくない。俺は、1番かっこいい俺をあんたに見て欲しい」

     そう宣言すると、一瞬きょとんとした彼女の顔が一気に明るくなった。うん、と大きく頷いて、笑ってくれる。

    「うん、好きなことを頑張る七ツ森くんは最高にかっこいい!」
    「ハハ、サンキュ。……色々考えすぎてた。先のことを考えると、どうしても不安が拭えなくて……。でも、あんたのおかげで、もう大丈夫だ」

     締切ギリギリまで迷っていた進路調査票。明日までに出さなくてはいけないものを、ようやく自信を持って提出することが出来る。

     俺だって、アイツらや彼女と一緒に居たい。けれどかっこ悪い様を晒してまでそうしたいわけじゃない。彼女の隣にいて恥ずかしくない自分として、そばに居たいんだ。
     仮に無理して一流大学に入ったとして、俺は彼女のそばに居るどころか、この気持ちを告げることも出来ないだろうから。

    「ふふっ、力になれたなら良かった。ここ最近、ちょっと悩んでるみたいだったから心配してたの」
    「そっか、ゴメン。……あぁでも、あんたも受験勉強あるのは変わんないよな。あんまり俺に気、使うなよ。俺からもあんたの勉強、邪魔しないようにするし…」

    「あー……それなんだけど……」

     ちょっと待ってね、と前置きした彼女は自身の鞄を漁っている。クリアファイルを取り出して、少し遠慮がちに俺に視線を送ってきた。

    「……あの、嫌味とかじゃないから、勘違いしないでね?私は七ツ森くんにも気を使って欲しくないから、見せるんだからね」
    「え……?」

     どうぞ……と消え入りそうな声で差し出されたのは、さっきまで俺が睨みつけていた回答用紙。
     ……違うのは、圧倒的なマルの数。


    「──あんた、これ……」
    「か、過信してるわけじゃないけど!でも…。……七ツ森くんとのデート、この分ならまだ沢山行けそう、かな…」

     ……学年トップクラスの秀才に恋をするなんて、恐れ多いとか申し訳ないとか思った時もある。けれど今日ほど嬉しかったことはない。

    「ハハ、そうだな。…それじゃ、高校生のうちに沢山作りましょ、思い出」
    「……!うん、作る!」

     ある意味でこんな点数を叩き出したとは思えないくらい、柔らかで温かくて無邪気な笑顔。その笑顔をこの先ずっと守っていけるような男になろうと心に決める。この気持ちだけは、きっと揺らぐことは無いだろう。

     それじゃ一緒に帰りますか、と声をかけて、机の上の冊子や道具を片付ける。
     ……もう意味の無い物になってしまったけど、俺がこんなに真剣に迷えたことが、なんだか今では嬉しく感じたから。そっと僅かに口角を上げて、彼女の方を向きながら鞄のチャックを閉じた。
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    MOURNING自分以外が学年トップクラス、そして一流志望…、好きな子もその進路、ってなったら七ツ森くんは1回くらい本気で一流大学進学を考えたことがあるのでは?
    そんでマリィと真剣な話をして自分の将来の選択に自信を持てるようになってたりしないかなぁ、なんて妄想。
    一流大学進学を考えた七ツ森くんの話 問題を全て解き終えてから数分。ようやく採点をする気になって、どくんと心臓を鳴らしながらページを捲った。赤ペンを持つ手には力が入らない。
    いやいやでも、もしかしたら、案外──なんて自分を勇気づけては回答の冊子と自身の文字とを見比べる。

     マル、バツ、バツ、マル、マル、バツ、バツ、バツ……。

     半々くらいか、と思う気持ちには安堵と落胆が入り交じる。手応えの割には取れていた。けれどこの結果じゃ到底ダメ。あと10点でも取れていれば気分も少しは違っただろうか。

    (……あぁもう、絶対ムリ、マジでムリ!)

     頭を抱えるように項垂れる。目の前の冊子や筆記用具も全て投げ捨ててしまいたかったけど、ここは教室。放課後だから残っているのは俺くらい、とは言え誰に見られるか分かったもんじゃない。とりあえず深く溜息をついて、忌々しく机を眺める。
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