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    玖朗さんお誕生日SS2023【前編】「あー…………」
     9月初旬。最後の患者を捌き切り金をせしめ笑顔で蹴り出して、玖朗は診察室の事務机に突っ伏していた。
     嘘のように忙しい8月、9月だった。いや、忙しいのは構わない。それだけ儲かるし、金さえもらえるなら文句はない。ただ。
     目だけを上げて一秒ずつ時を刻む置時計の秒針を見つめる。時刻は午前5時20分を過ぎたところ。深夜を超えてこんな早朝ぎりぎりまで仕事がすし詰めになるのは珍しい。さっさと寝た方がいいのだが立ち上がる気力もなかった。
    「はぁ…………」
     溜息をつく。目の回る忙しさで気づくことはできなかったが、二階の自室にはもう風猫が帰っているはずだ。風猫は風猫で連日駆け回っていたため、疲れ果て今頃眠りこけていることだろう。その愛しい寝顔が見たくて、そして——同じくらい、見たくなかった。

     事の始まりは初夏の頃。中華街に回り始めた噂。
    「子どもを狙った人攫いが増えてきているらしい」。
     未成年者の人身売買は、多かれ少なかれ、中華街の暗部で昔から蔓延っていた犯罪行為だった。というのも、明確な保護者もいない、戸籍もないようなこの街の浮浪児たちは、攫ったところで誰も気づかないし助けようともしない。犯罪者にとって、あまりに都合のよすぎる環境が揃っているのだ。だが当然ながら、ヤクザの癖して子どもには至極優しい虎仁帮、というか王劉仁がそんな行為を黙って見ているわけもなく、この数年は結構な数の輩が血祭りに上げられている。この街を取り仕切るヤクザの抑止力というのはやはり絶大で、最近は被害件数も大分落ち着いていたようだった——もっとも劉仁は、根絶はできないのだと悔しそうに語っていたが。だが、それがここに来て一挙に増えている。どうやら犯罪者が寄り固まってできた集団によって、より組織的に、狡猾に犯行が行われているらしい。
     それは、虎仁帮の眼を掻い潜って闇商売ができるよう、悪党が進化したという側面がひとつ。ただ事はそう単純な話ではなく、結論から言うと、ヤクザの割にクリーン、彼ら風に言えば筋の通っているヤクザである虎仁帮の求心力を低下させるための、どこぞの組織の工作らしいのだ。その証拠に、人身売買に特化したその犯罪組織を作ったのは実は虎仁帮であり、これまで苛烈な粛清を行ってきたのはマーケットを虎仁帮が独占するためである、などという、とんでもないデマがこの夏中華街を駆け巡った。子どもを攫うことでしか金を稼げない無能な悪党に、こんな小賢しい真似ができるはずもない。確実にもっと大きな、邪知深い組織が絡んでいる。どうやら烈幇リィエバン辺りも一枚噛んでいそうだが証拠が掴めない、と劉仁がブチ切れ顔で語っていたのは玖朗の記憶に新しい。
     ところで、見ず知らずの子どもが攫われようがどんな扱いを受けようが、そんなことにはさして興味のない玖朗が、どうして一連の騒ぎについてこれほど詳しく知っているのか。それは劉仁のおかげというのもあるが、玖朗の恋人、風猫の存在が何より大きい。
     野良猫の王様、柳追眠。まさに野良猫のごとく、勝手気ままなこの街の若者や浮浪児たちを自然と束ね、何かと甲斐甲斐しく面倒を見ては可愛がる野良猫筆頭もまた、身内こどもの人身売買を放置するはずもない。
     いち早く事件を察知していた風猫のキレようも劉仁に負けず劣らずのものだった。常日頃の自由気ままで怠惰な様子からは考えられないほどに緑の眼をばちばちと怒りで滾らせ、一人も攫わせないどころか既に捕まった子どもも取り返す破竹の勢いで、風猫は中華街を連日飛び回った。自身が前に出て実行犯をぶちのめし虎仁帮に突き出していたかと思えば、街中にネットワークを張り巡らせて目を光らせ情報を集め、周囲の若者の指揮を取る。突貫とは思えないくらい見事な采配で虎仁帮と協力して組織の人間を捕らえ、水面下で子どもが攫われるのを食い止める手腕は、端から見ているだけでも圧巻だった。
     だが、玖朗は心穏やかではなかった。身体の弱い風猫は、何もなくても暑さにやられて倒れそうだというのに、この8月は昼も夜もなく連日駆けまわっているのだ。玖朗にとっては、見ず知らずのガキなんかより風猫の方がずっとずっと大切だった。しかし、それを口に出してしまえば恐らく風猫との関係は終わる。だから、鬼気迫る様子で駆け回る風猫を、黙って見守る他なかった。
     子どもを奪われ取り返し、悪党を捕まえ逃げられ。真夏の最中続くシーソーゲームに際し、やがて虎仁帮の構成員をはじめとした怪我人が一気に診療所へ雪崩れ込んでくるようになった。はじめは他人事だった玖朗も仕事に追われるようになり、連日、刺し傷や銃創を作ってくる構成員に処置をしながら、じきに大怪我をした風猫が運ばれて来るかもしれないと内心気が気ではなかった。幸い風猫は大きな怪我をすることなく、毎日を乗り切っているようだったが、互いに目の回るような忙しさの中、生活時間に大きなずれが生じ、すれ違いの毎日になってしまった。寂しく思ってくれているのは同じなのか、風猫は連日玖朗のベッドに潜り込んでいてくれていた。眠る前のひと時、風猫の顔を眺め無事を確かめられることだけを支えに、玖朗は恋人の身の危険に狂いそうになりながら、忙しい日々を何とかこなしていたのだ。
    「……俺も、戦える性質タチならよかったのかな」
     眠る風猫にひっそりとそんなことを呟いた夜もあった。自分の歩んできた人生に後悔などない。医者だからこそ、いろんな意味で目の離せない危なっかしい恋人の支えになれるのだと自負している。けれどもし、自分に格闘術や銃を扱える技術があったならば、風猫の隣で身を挺して彼を守り、誰より側にいられたのではないか。今更そんなことを思うくらいには、玖朗も疲弊していた。
     そうして、慌ただしい8月も後半に差し掛かったある日の夕方。その日は、風猫との交際記念日だった。今日だけはほんの少しでも会話を交わせないだろうか、と淡い期待を抱いていた玖朗のもとに、風猫は帰ってきた。神妙な表情の劉仁を伴って。
    「……囮?」
    向かいに座った二人に対し、玖朗は一言だけ尋ね返した。劉仁の表情が硬くなる。
    「追眠に危険はない。虎仁帮の威信をかけて、追眠の身は絶対に守る。だから……オレを信用してもらえないだろうか、医生センセイ
     それからさらにつらつらと、劉仁は作戦とやらについて説明した。人身売買を取り仕切っていた親玉の居所は掴んだ。ただ守りが硬いため誘き寄せて一網打尽にしたい。その作戦において追眠を囮にしたいと。既に相手の情報は掴んでおり、作戦はほぼ確実に成功する。説明が、鼓膜に届いてから頭を素通りしていく。
     危険はない? 冗談。危険だから、腕に覚えがある猫に頼ったんでしょ?
     胸につっかえた蟠りは、覚悟を決めた静かな表情で唇を引き結ぶ恋人を前にすると、喉に張り付いて出てこない。
     いや。これは。もしかして猫が。
     思考を読んだように、目が合った風猫が告げた。
    「そうだ。俺が自分で、囮役を買って出たんだ。……許可をくれ、玖朗」

     許可を取りに来るようになった分、風猫は成長したのだろう。以前なら、玖朗には何も言わずに二つ返事で引き受けていただろうから。でも。だけど。
     向かい合って目の前にあった緑の瞳。風猫の隣に立つ劉仁。
     そこは俺の場所なのに。俺の猫なのに。
     他でもない劉仁にそんなことを思ってしまった自分が馬鹿らしくて、それでも思考を止められなかった。
     いっそ誰の目にも触れないように、あの緑の眼が自分以外を映さないように閉じ込めてしまいたい。そうしたら、こんな焦燥感に苛まれることもないだろうか。
     ひと月どろどろと溜め込み深くなった澱が、今にも執着の言葉になって喉の奥から這い出してきそうで。
     傷つけたくない。嫌われたくない。尊重してあげたい。そう思っているのは確かなのに。

     そうして訪れた、作戦の日。夜が更けた頃、裏口の鍵が回る微かな音を耳が敏感に拾った。ひとまずの処置を患者に行った後、玖朗は速足で裏口へと向かう。
    「ただいま」
     少し疲れた笑みで裏口に立っていたのは、丈の短い真っ赤なチャイナ服を纏い、さらさらとした銀の長髪を長く垂らした少女だった。
    「ごめんな、こんな格好で。……早く無事を知らせたかったから。全部そのままで帰ってきた」
     立ち尽くしている玖朗に、風猫が近づいてきた。生白い足首から太腿まで、すらりと伸びた脚は生身そのままに晒されている。何時ぞやかの真っ白なチャイナ服よりは、囮としてより存在を主張するような赤のチャイナ。瞬きとともにぱさりと音を立てそうなくらい長く伸ばされた睫毛。瞼を彩る綺羅綺羅しい化粧。愛らしい少女を演出する淡い桃色の頬紅。目を惹く艶々の真っ赤な口紅。間近で見ても、喋らない限りは美しい「少女」で通るだろう。だからこそ、作戦中はだんまりを決め込んでいたのだと追眠は笑った。
    「知り合いがさ、誰も俺だと思ってなくて助かった。バレたら流石に恥ずかしい」
     そう言って苦笑を浮かべる。まっすぐ伸びた長髪ウィッグが、首の動きに合わせてさらりと揺れた。囮として仕立てられた風猫は非の打ち所がないくらい美しく、だからこそ玖朗はどうしようもなく腹が立った。
    「心配かけてごめんな。玖朗」
     背伸びした風猫が、両手を背に回して抱きしめてくれる。恰好のせいか、いつも以上に華奢に見えるその身体を確かめるように、玖朗も腕の中の身体をぎゅうと抱きしめ返した。
    「……無事でよかった。お疲れ様、猫」
     それだけ言うしかなかった。風猫も疲れているから早めに解放してあげたかったし、診療所の仕事の途中だったし、何より、それ以上一緒にいると、どす黒く暴力的な感情を風猫にぶつけてしまいそうだった。キスの一つでも落としたら、もう止まれない。雪崩れ込むように、合意のないセックスで犯し尽くしてしまいそうだった。
     抱きしめた首筋から、甘く柔らかい鈴蘭の香水の香りが立ち昇り、ぎりぎりで感情を堰き止めている理性を誘惑する。香水まで見事に女性仕様であることに、乾いた笑いしか出てこなかった。
    「さ、疲れたでしょ? 今日くらいは、ゆっくり休みなよ」
     そう言って、風猫の身体を無理やりにでも引き離したのは理性などではなかった。ただ、無理やり行為に付き合わせて嫌われるのが怖かった。それだけだった。

     それから9月に入ってすぐ、劉仁が連絡をよこした。
    『追眠は中心になって随分動いてくれて、かなり助かった……我たちでは動かせないような者たちが、追眠の言葉に応じて協力してくれたことにも驚いたし、本当に感謝している。だが……医生、もうすぐ誕生日だろう? 作戦のおかげで大本も捕まえられたし、噂も大分沈静化してきた。あとは残党狩りと尋問くらいだから、我たちに任せてほしい。その……医生』
    「なぁに?」
    『……すまなかった』
     クソ真面目なヤクザの若頭は、ぽつりと一言だけ謝ってから電話を切った。


     その連絡が昨日のことだ。そして、忙しい診療所の夜が明け——冒頭に戻る。
    「……決めた」
     時刻は午前5時30分。怒涛の一か月を回顧した後、玖朗は立ち上がる。ひとまず浴室で身綺麗にして、風猫を抱きしめて睡眠を取って、話はそれからだ。




     ぱち、と目を開くと、人肌の感触とやんわりとした熱。抱きつかれているのに気づく。頭の少し上の方から、小さな寝息が聞こえた。玖朗だ。まぁ、ここは玖朗の部屋なのだから当たり前だが。
     追眠は身じろぎして窓に目をやる。カーテンの閉め切られた部屋は薄暗いものの、隙間から明るい陽射しが差してきていた。ベッドサイドの置き時計が指すのは午前9時過ぎ。昨晩は劉仁が「峠は越えたし、しばらくゆっくり休め」と早めに帰してくれた。この家まで帰り着くと、気が抜けたのか途端に眠気がやってきて、うつらうつらしながらなんとか風呂に入り、このベッドに潜り込んだのが午後9時くらいだったはずだ。とてもよく寝た。
     見上げると、まだ眠っている玖朗の顔が目に入る。眠っていても分かるくらいに疲れた顔をしていた。劉仁と協力して、例の人攫い組織をほぼ壊滅状態まで追い込むことには成功したのだが、その過程で味方にも多数の負傷者が出てしまい玖朗の診療所を随分忙しくさせてしまった。やつれの見えるその顔にひたりと指先をやると、猫、と小さく掠れ声で囁かれどきりとする。
    「……おはよう……」
    「おはよ。まだ9時だぞ、アンタ昨日何時まで仕事してた?」
    「うーん……ここに寝にきたのが……6時くらいかな……」
    「まだ3時間じゃねェか。寝てろ」
     そう言いつつ上半身を起こしベッドから降りようとすると、追眠を阻むように玖朗の両手が腰に巻き付いてくる。
    「なに」
    「猫は……?」
    「俺は、起きてメシの準備を、って」
     巻き付いた腕は離れようとしない。玖朗が小さく囁いた。
    「猫、いかないで……」
     その声がやけに心細げで、追眠は動きを止める。もしかしたら、単に疲れているというだけではないのかもしれない。玖朗は基本的に己の理を一番に考える打算的な男だが、こと追眠に関することだけは思考が不思議なくらい明後日の方向へと突き進んでいる時がある。すれ違いが続いたこのひと月も、玖朗なりに何か思うところがあったのかもしれない。
    「んー……」
     追眠はベッドに残ることと起き上がることとを天秤に載せて少し考える。今日は何の予定もないしもう少し眠っても構わないのだが、昨晩何も食べずに寝たからか、空腹だった。ものすごく。意識すると何故だか余計に空腹を感じてきて、追眠は起きることを即決する。珍しく、食欲が睡眠欲に勝利した瞬間だった。
     とはいえ玖朗の腕を振りほどくのは可哀想に思えて、追眠は解かれた玖朗の長髪を指先でなぞり、しばらくの間寝かしつけるように玖朗の頭を撫で続けた。そのうちに、ぎりぎりで意識を保っていたらしい玖朗はことんと眠りに落ちる。やはり連日の疲れには勝てなかったらしい。腰を捕まえていた手から力が抜けたのを確認して、追眠はそっとベッドから抜け出した。

    「えーっと……?」
     冷蔵庫を開けて中身を確認して、追眠は朝食のメニューを考える。お互い忙殺されていたこの一か月、食事もなかなか悲惨なものだった。買い物に行く時間も、キッチンに立つ時間も惜しい。そんな状態だったため簡単な料理が並ぶのはまだいい方で、インスタントやら携帯栄養食やら、果ては食事を抜くことも珍しくなかった。そんなわけで冷蔵庫には、いくつかの食材が申し訳程度にまばらに、それから余ってしまった冷ご飯の器がいくつか保管されていた。
    「炒飯でも作るか」
     メニューを決めた追眠は、レンジで冷ご飯を温めつつ卵を割る。それから買い溜めしてあるとっておきの蟹缶を開けて、長ネギと調味料を準備して。中華街の料理屋にはもちろん負けるが、今まで何度か作ってきたメニューだから、それなりに美味しいものができるはずだ。
     じゅわっ、と卵がフライパンの上で弾けるのを、箸でかき回すのは楽しい。上機嫌で菜箸を動かしていると、後ろから腕が絡みついてくる。
    「……猫」
    「うわっ、なんだよ、結局起きてきたのか」
    「だって、猫がいなかったし……」
    「悪かったよ。すげー腹減ってて」
     ご飯にネギにカニに、と手早くフライパンに具材を追加しながら追眠は答えた。
    「……猫は俺よりごはんの方が大事なんだ?」
     後ろから聞こえる玖朗の声が、小さな子どもが唇を尖らせて拗ねるときのそれと全く同じで、追眠は思わず笑ってしまった。
    「はいはい、ごめんって。ひっつくのはいいけど、身動きできなくすんのはやめてくれよ」
    「いい匂い……猫の料理、食べたい」
    「ちゃんと二人分作ってるぞ」
     最後に調味料を加えてじゃっ、と出来上がり間近の炒飯を炒めていると、怪しげに追眠の身体を這っていた玖朗の親指と人差し指が、服の上から軽く乳頭をすり潰してきて、追眠は飛び上がった。
    「……っ」
     声は何とか押し殺したものの、思わず身体が跳ねた。じわりと、ひと月満たされないままの色欲が染み出してくる。
    「おいこらっ」
     振り返ろうとすると、それを阻止するようにちゅ、と唇が首筋に落とされる。そこからじぃん、と身体が痺れてくるようだった。
    「もうっ、邪魔、すんな……火、使ってんだから危ねェだろ」
    「いやだ」
     間髪入れずに玖朗が言った。呆気に取られていると、腰に両手が巻き付いてくる。
    「俺の猫だ」
     これは大分拗らせてるな。
     思ってから、追眠はフライパンを揺らして炒飯を返し、火を止めた。
    「そうだな、その通りだ。……メシは? すぐ食べる?」
     玖朗はまだ離れようとしない。黙っている。追眠は、振り払おうとはせずにただ返答を待った。
    「……ごはん食べた後、また俺と一緒に寝てくれる?」
    「うん」
    「謝謝」
     小さく呟いた玖朗は、ようやく追眠を解放した。

     向かい合ってテーブルに座って、遅めの朝食を食べる。玖朗はしょっちゅう手を止めて、追眠の方を見てはにこにこしていた。
    「……なに?」
    「なーんにも。ただ、猫がいるなぁ、って」
    「……ぼちぼち食べ終わって早く寝ないと、時間なくなるぞ。店開けんだろ」
    「あぁ、それなんだけど……明後日、俺の誕生日でしょ?」
    「うん」
    「だからね、今日から9日まで……3日間は、店も診療所も、休みにしようと思って」
    「えっ?」
     予想外だった。お互いの誕生日くらいなら、これまで玖朗が店を閉めたこともあったが、三連休だなんて。ともあれその間は、ずっと一緒にいられる。追眠は綻んでしまいそうな顔を慌てて引き締めて、何気ない表情を取り繕ってから言った。
    「そっか。どっか行くか?」
    「うぅん。俺の希望をきいてくれるんなら、猫と家でゆっくり過ごしたい」
    「アンタがそう言うなら、そうしよ。ここんとこ大変だったしな」
    「謝謝。ただ、家で過ごすだけじゃなくて、もう一つ提案があってね」
    「ん?」
     訊き返した追眠に、スプーンを置いた玖朗が笑顔で言った。
    「監禁ごっこ、しよ」
    「か……か、監禁?」
     追眠は思わず問いなおした。食事の手が止まる。だが玖朗はすっかりいつもの調子を取り戻したらしく、お得意の胡散臭い笑みを浮かべて平然と続けた。
    「そんなに大仰に構えなくてもいいよ。この三日間家から一歩も出ない。ただそれだけ」
    「ふぅん」
    「今年の誕生日プレゼントとして、猫自身が欲しいんだ。3日間分の猫の時間すべてを、俺にちょうだい」
    「そんなんでいいのかよ?」
    「俺にとっては、何よりの贅沢だよ」
     玖朗が右手を伸ばしてくる。頬を撫でられて、追眠は目を細めた。玖朗が囁く。
    「一か月分、猫を充電させて」

     皿を洗って歯磨きをして。ほんの一時間程度で、玖朗と追眠は寝室に逆戻りした。残暑厳しいこの季節でも、空調が効きっぱなしになっている寝室は快適だ。
     ベッドに横たわった玖朗は、抱き枕か何かのようにぎゅうと追眠を抱きしめて、すぐにうつらうつらし始めた。12時間は寝ていた追眠と違って、まだまだ睡眠不足なのだろう。
    「ねぇ猫……」
    「なんだ?」
    「寝て、起きたら……猫を抱くから」
    「っ……!」
     思いもかけない囁き声に、追眠は腕の中から逃れようとじたばた暴れた。だが玖朗の腕は鎖のように、がっちりと追眠を捕まえて離さない。
    「じっとして。約束、守ってくれるよね……」
    「うぅ……」
     追眠がもぞもぞと躊躇っている間に、玖朗はすっかり眠ってしまった。追眠はその腕の中で、両手で顔を覆うしかなかった。
    「眠れるかよくそ……」


     それからしばらくはうんうんと唸っていたと思うが、いつの間にか寝入っていたらしい。大欠伸しながら身体を起こすと、玖朗がいない。先に起き出したようだ。
     大きく伸びをしてからしゃっとカーテンを開けると、橙色の眩しい陽射しが目についた。
    「夕方じゃん。一日寝てた……」
     眩しさに目を細めてから、追眠は玖朗の部屋を出た。

    「やぁ、おはよう。随分寝てたね」
     振り返った玖朗が声を掛けてくる。やんわり香るブイヨンの匂いと、かたかたと音を立てる鍋。どうやら夕食づくりをしていたらしい。
    「寝過ぎた……」
    「アハハ、まぁいいんじゃない? このひと月、猫も睡眠時間短かっただろうし。疲れが溜まってるんだよ」
    「んー、うん」
     そういうものかもしれない。というか、長く寝入るのもよく考えるといつものことだ。返事しながら、追眠は玖朗の隣に並ぶ。
    「晩メシなに」
    「ロールキャベツだよ。猫好きでしょ? 朝晩はこの時期でも急に冷えたりするし、ちょうどいいかなって」
    「うん、すき」
    「よかった。そうだ猫、悪いけど洗濯物入れてきてくれない?」
    「ん」
     こういう何気ないやり取りも久しぶりだ。短く返事を返すと、追眠は足取り軽やかに階段を駆け上がり、屋上へと向かった。扉を開くと、眩い夕日が差してきて目を細める。
    「……まぶし」
     秋の匂いのする風が頬を撫でていく。屋上の物干し竿に干され風に遊ばれる二人分の衣服を見て、そういえば、いつの間にか洗濯物は一緒に洗うようになったなぁと、ぼんやり思って追眠はくすりと微笑んだ。

     洗濯カゴにこんもりと衣服を入れて追眠は二階のリビングに戻った。キッチンでことこと揺れる鍋を前に目を上げた玖朗が「ありがと」と笑ってくれる。
    「ん」
     追眠はラグの上で適当にカゴをひっくり返して、取り込んできた洗濯物を畳み始めた。基本的に自分のことは自分で。何かしてもらったら、自分も何かしてあげる。玖朗との生活は、おおよそそんなゆるいルールで心地よく回っている。
    「畳んだやつ、アンタの分はテーブルの上に置いとくぞ」
    「謝謝。こっちもできあがりだよ、ごはんにしようか」
     おいでおいでと手招きされて、追眠はダイニングのテーブルに付く。テーブルの真ん中、木製の鍋敷きの上にホーローの真っ白い鍋が置かれて、お揃いの深皿に玖朗が料理をよそってくれる。
    「召し上がれ」
    「イタダキマス」
    「うん、ばっちり覚えたね。あとは発音と抑揚かな? ……いただきます」
     玖朗と一緒に手を合わせてから、追眠は柔らかく煮込まれたキャベツとひき肉をスプーンで小さく切ってからすくって、口に含んだ。玖朗の作るロールキャベツはトマトスープだ。真っ赤なスープと一緒に、具材をはふはふと口を動かしながらも咀嚼する。
    「おいしい……」
    「よかった。長く煮込んだ甲斐があったよ」
     にこにこと玖朗が目を細めている。
    「猫が眠ってる間に、買い物も済ませてきたんだよ。久しぶりに冷蔵庫満タン」
    「なんだよ、起こしてくれたら一緒に行ったのに」
     ふーふーと、追眠は再びすくったスプーンの上の具材を冷ましながら答える。追眠が何かしら食べているとき、玖朗はいつも嬉しそうに観察している。俺のことはいいから食べろと何度言っても見ている。そのうち追眠は諦めて、今は好きに観察させていた。
    「ふふ、あんまりにもよく寝てるから起こすのが忍びなくてね。ともあれ、これで3日分の巣籠もり準備もばっちり」
     玖朗が含みのある怪しい笑みを浮かべる。ちょうどスプーンを口に含んだ追眠ははっと気づいた。
    「ん……!?」
    「やっと思い出した? あまりにもいつも通りだから、てっきり忘れてるのかなと思ってたんだけどやっぱりそうか」
    「んん……」
     ひとまず口に入れたロールキャベツを咀嚼してから、追眠は下を向く。眠って全て吹き飛んでいたところに、寝入ってしまう前の玖朗の囁きが急に反芻されて、頬にかっと熱が昇った。
    「意識してる? 相変わらず猫は可愛いね」
    「……うっさい」
    「ふふ。ねぇ猫、訊いていい?」
     こういう時の玖朗は意地悪だ。追眠の羞恥を煽るようなことばかり尋ねてくる。若干身構えて「何だよ」とぶっきらぼうに答え目を上げる。意外にも、玖朗は揶揄う時のにやにやとした笑みではなく、存外真剣な表情で追眠を見つめていた。
    「このひと月で、猫はまた一段と人気者になっただろうね。紛うことなきこの街のヒーロー」
    「……急に何の話だ? 人気者? 知らね、俺はただ俺がやりたいようにやって、くそみてェなやつをぶっ飛ばしただけだ」
    「そう……俺は、猫のそういうところも好きだよ。でも、それ付けてても大分声掛けられたんじゃない?」
     玖朗が追眠の器を握っていた左手、薬指で瞬く指輪に目をやって言う。問いかけの意図が見えない。追眠が首を傾げていると、玖朗が続けた。
    「いろんな子に言われなかった? 例えば『諦めません』とか『負けませんから』とか……『私じゃダメですか?』とかもあった? もしかして」
     鼻で笑う玖朗に、追眠は目を丸くしてしまう。
    「……何で知ってんの?」
    「えっ?」
     確かに、駆けずり回っていたここひと月、同世代かそれよりもっと下の少女……そう、例の組織から守ったり救い出したりした子たちから、感謝の言葉と一緒にそういうことを言われる機会が多々あった。何を諦めないのか、何に負けないのか、何がダメなのかよく分からなかったが、深く考える余裕もなかったため不思議に思いつつもいつの間にかすっかり忘れていた。だが、玖朗は頭がいい。追眠ではまるで思い至らないような可能性にさらっと行き着いてしまう。現に、その場にいなかったのに彼女らの発言内容を当てている。多分、追眠には理解できなかったあの子らの言葉の意味もよく理解しているのだろう……と思いきや、玖朗は自分で尋ねてきた癖に驚いたように目を丸くしていた。
    「や、なんでアンタも驚いてんの」
    「いや、だって……半分冗談だったから。そう、今時の子もそんなそんなドラマみたいな台詞を吐くんだ、そうか……」
     何が“そう”なのかは分からないが、玖朗は何かがっかりした面持ちで重たい溜息をついた。意味が分からない。冷めないうちにロールキャベツを食べ進めながら、追眠はそういえばと思い出したことを尋ねる。
    「なんか、劉仁にもおんなじこと相談してみたら『医生センセイも大変だな』って言ってた。なんでアンタなんだ? 言われてるのは俺なのに」
    「いや、大変なのは俺で合ってるよ……」
    「は?」
    「ま、猫が人気者だなんて今に始まったことでもないしね……分かった、分かってる」
     分かっていると言いつつも、玖朗の表情はうんと硬くなってしまった。せっかくの三連休、そして明後日は玖朗の誕生日。ようやく訪れた二人だけの休日を満喫したかったのに、玖朗は言葉少なになり、応じて追眠も話しかけるのが躊躇われ、妙に気まずい夕食になってしまった。

     二人分だけの皿洗いはあっと言う間に終わってしまい、歯磨きも済ませてしまった追眠はさっとカーテンを閉めてからソファに座り込む。玖朗はキッチンで夕食後のお茶を淹れてくれていた。どうしてこんな空気になってしまったのか分からなくて、けれどどうにかしたくて、追眠は玖朗が自分の隣に来てくれるのをそわそわと待ち構えていた。
    やがて足音が近づいてきて、盆をテーブルの上に置いた玖朗が追眠の隣に腰かける。
    「お待たせ。猫の好きな茶葉だよ」
    「謝謝」
     美しい蔓草模様が精緻に描かれた茶器に玖朗が茶を注いでくれる。立ち上る湯気とともにふわりと、甘く柔らかな、けれど少しだけ薬草めいた、すっきりとした香りが漂う。注ぎ方が違うのか、玖朗が茶を注ぐとほとんど音がしない。紫色の瞳は茶壷と茶器を見つめて伏目がちだった。玖朗は付き合う前から、何かとこうして茶を振舞ってくれた。幾度となく見つめてきた横顔に、何だか胸がぎゅっとする。玖朗がことりと茶壷を置いた。
    「さぁどうぞ。……猫?」
     柄にもなく何だか泣きそうになって、追眠は玖朗の身体に顔を押し付けた。
    「……ごめん」
    「どうして謝るの? 猫はなんにも悪くないでしょ」
    「でも……」
     せっかくの三連休をこんな雰囲気で過ごしたくない。やっと、やっと戻ってきた平穏な日常なのに。——それに。
     玖朗の身体にぎゅうと手を回すと、くすりと柔らかい声が降ってくる。
    「いや、やっぱり悪いのかも。何が悪いか分かってないのに謝るのはダメだよ」
     視線だけ上げると、表情の解けた玖朗が仕方ないなぁ、とでも言いたげな困った時の笑みを浮かべて、追眠を見つめていた。
    「純情な猫に教えてあげよう……女の子たちの言葉はね、俺への宣戦布告なんだ。指輪をくれるような相手、恋人がいても、猫のことを諦めない、ってね」
    「……えっ」
     ぱちぱちと瞬かせた追眠の瞼に唇を落としてから、玖朗は追眠の頭を撫でてくれた。
    「やっぱり分かってなかったか。あのね、俺は怒ってるわけじゃない。猫を疑ってるわけでもない。だって猫は、ちゃんと断ってくれるでしょ?」
    「当たり前だろ!」
    「うん、謝謝」
     愛おしそうに紫の瞳が細められる。玖朗は、今度は追眠の額に口づけた。
    「でも、それでも猫の恋人として面白くはない。平気だと思いたかったけど、やっぱりそういうわけにもいかないみたい。ここひと月、俺の心の中を占めてたのは心配と、焦げそうになるくらいの嫉妬心だよ。……カッコ悪いから黙っておきたかったんだけどな」
    「そんなの……」
     追眠は顔を顰めた。玖朗は両手で追眠の頬に触れて、至近距離から覗き込んでくる。こんな時でも、この世界で一番大好きな紫色に心が跳ねて、息が止まった。
    「これからの三日間もね、猫を甘やかすことができたらそれでいいと思ってた。四六時中猫と一緒にいられたら十分だってね。でも……ごめんね、猫にひどいことしちゃいそうな自分が嫌になる。俺は——」
    「いいよ」
     玖朗の言葉を遮って、追眠はそう告げた。玖朗の手の上に自分の手の平を重ねてから、受容の言葉をさらに重ねる。
    「ひどいことしてもいい。受け入れる」
    「猫、ダメだよ、軽々しくそういうこと言っちゃ……」
    「軽くない」
     動揺して離れようとする玖朗の瞳をまっすぐに見つめて、抜け出そうとする玖朗の手をしっかり握りしめて、追眠は続ける。
    「なにしてもいいよ、アンタなら」
    「猫……」
     目の前で揺れる瞳の中で、ぐらぐらと感情が揺れているのが分かる。もうひと押しだと追眠は思った。玖朗は己の心に忠実なようでいて、すべてを曝け出したら追眠が離れていくかもしれないと、いつも何か我慢しているような節がある。どれだけ忙しくても、黙っておこうと口を閉ざされる前に追眠がもっと気にかけて、話をすればよかったのだ。けれど悔いても過去には戻れないから、今、向き合いたい。追眠は閉じられた蓋の縁を少しずつ少しずつ押すような心持ちで、玖朗を見つめた。あともう少し。そんな追眠を押し留めるように、玖朗は俯いた。
    「……猫に嫌われたくない」
    「嫌いになんかなるかよ。俺たちが、ずっとすれ違ってた8月の間……アンタが俺のこと心配したり嫉妬したりしてる間、俺の方は、アンタに対してなんにも思うとこがなかったって、思うのか?」
     ついと伏せられていた目が、はっと上げられ追眠を見つめる。
    「猫、それって、どういう……」
     追眠は何も答えずするりと両手で玖朗の顔を捕まえて、掠めるように口付けた。唇が重なった瞬間、ざわりと身体の奥底に無理やり沈めていた欲が騒めく。
     欲しい。
     そう強く思った瞬間。
    「んッ……」
     途端に舌が侵入してきたと思うと、ソファに沈められていた。両手は痛いくらいに強く縫い付けられて、身体の自由が利かない。
    「は、ッ……んっ、んぅぅ……ん、っ……!」
     はしたないくらいの水音。リップ音。じんと痺れる唇。自分以外の存在に口内が侵される快感。キス、なんて可愛いものじゃない。貪られる。食われる。酸欠になるくらいの、嵐のように激しいそれに、朦朧としながら追眠は身を委ねた。息を継いだ隙に、耳元で声が吹き込まれる。
    「……よく分かったよ。もう我慢するのは止める。全部受け入れてみせて、追眠」
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    ━━━━━━━━━━━━━━━
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    _______________

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    ━━━━━━━━━━━━━━━
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