君の未来を愛してる 立香が会う時、以蔵はいつも癖毛の長髪をポニーテールにしている。ほどけば肩より長く伸びているだろう。脂ぎっているとか臭いとかいうことはないが、櫛を入れていないのか、ぼさぼさでいまいち清潔感に乏しい。
今日も以蔵は行きつけのカフェの一番奥のテーブルを指定席にしていた。右目を前髪で隠して、仏頂面でアイスコーヒーをすする姿はどことなくくたびれている。グラスの底から結露した水滴が落ち、紙のコースターに吸い込まれる。
「おまんもたいがい暇じゃの。どいてこがなおっさんをストーカーしゆう」
「以蔵さんはおっさんじゃないよ」
以蔵は二十七歳だ。以前免許証を盗み見た。
食い気味に立香が言うと、以蔵は首を横に振った。
「未成年にとっちゃ、アラサーなんぞおっさんじゃ。そう見えんなら、おまんはやっかいな魔法にやられゆうがよ」
要するに、自分に恋愛感情を向けるな、ということだろう。
半年前、『聖杯』をめぐる不思議な事件に巻き込まれた立香は、坂本探偵事務所の介入で助けられた。その際に実働部隊となって立香を護ったのが以蔵だった。
脅威に迫られた立香を背中にかばい、違法すれすれの日本刀を振るった時の以蔵のかっこよさといったら!
初対面の時の無愛想さやとげとげしさ、だらしなさに対する嫌悪はすっかり忘れ去られた。
以来立香は以蔵のストーカーと化した。
今日も以蔵は困り果てたような顔で立香を見る。
「第一おまん、学校はえいがか。しょっちゅうこがな夕方にこがなとこ来て。単位落といたらわしはおまんのおとやんに申し訳が立たん」
立香は大学二年生で、学業を修めなければならない立場だ。以蔵の心配もわかる。
しかし立香はへこたれない。
「そしたらうちにご挨拶に来てくれる? ついでに『お嬢さんを僕にください』って言ってくれれば」
「ほたえな、こんべこのかあ」
傍らに置いた箱から煙草を取り出す以蔵に、立香は笑顔を作る。
「冗談だよ、まだ」
「言い方が不穏じゃ」
「それに、単位の心配してくれるなら大丈夫。ちゃんと考えて授業取ったから。一限から四限まで詰め込んで、夕方はフリーにしてあるの」
以蔵は唇に挟んでいた煙草を取り落とした。
「アホかおまん……いや、アホやアホやとは思うちょったけんど」
「お褒めにあずかり光栄です」
「褒めやせんわ。何がおまんをそこまで駆り立てるがじゃ……」
「愛」
「あぁもうえい、みなまで言いな」
以蔵はテーブルに落ちた煙草を拾ってくわえ、改めて火を点ける。葉に燃え移る前の、巻紙が立てる乾いた香りが、立香は好きだ。
以蔵は、立香の知らない世界を見せてくれる。
肺腑の奥で味わった紫煙を、立香へかからないように横を向いて吐く。尖らせた唇の可愛さと、大人の嗜好品を楽しむ姿とのギャップ。たまらない。
目を輝かせる立香に呆れを隠さず、以蔵は前髪をかき上げた。普段めったに見せない右の飴色が、もの憂げな光を帯びている。
「ログインボーナス……」
「まーたやちもないこと言いゆう」
上げた前髪をくしゃくしゃとかき混ぜるしぐさに、立香は以前抱いた疑問を思い出した。
「以蔵さん、髪の毛ってどこで切ってるの」
立香は男性の身だしなみには詳しくない。ただ、以蔵がその手のことを面倒くさがっているのはわかる。髭は一日おきに剃り、仕事の日もよれよれのワイシャツを着て、かかとがすり減った革靴を履いている。探偵は時に汚れ仕事(肉体的にも、精神的にも)を行うことがあるから、常にぱりっとした服装をしていられない、という言い分もわかるが。
一〇〇〇円カットの理容店では、この長髪を切ってもらうことはできないだろう。しかし美容院に行けば、もう少しましなトリートメントをほどこされるはずだ。
そんな立香の疑問に、以蔵はこともなげに答えた。
「自分で切っちゅう」
「――マジで」
以蔵は立香が驚いていることに驚いたようだ。
「どいた、ほがな顔して。おまんもまぎとろしゅうなったら髪ばぁ切るろう」
「……いや、いやいやいや! 普通自分では切りません! というか、ハサミは何使ってるの?」
「ハサミ言うたらハサミじゃ。文房具屋で売っちゅうやつ。こう、前に髪持ってきて、四、五センチばぁジャキっと」
「ガタガタするでしょ」
「くくりゃぁわからん」
こともなげに以蔵は言う。
「せめて理容ハサミ使おうよ。アマゾネス・ドットコムでも買えるし」
「通販は好かん」
「以蔵さん、毛量多いでしょ。梳いたらかなり楽になるよ」
「洒落たことするがは面倒じゃ。別にこんままでも困うちょらん」
それは、本当に快適な時の状態を知らないだけではないだろうか。
立香は意を決して言ってみた。
「よかったらわたしが」
以蔵は吸い終わった煙草を灰皿に押しつけた。
「しーわーいー。おまんはわしのなんながじゃ」
「恋人?」
「疑問形で言いなや。ストーカーか、せいぜい元・護衛対象じゃ。おまんもわかっちゅうろう」
以蔵の正論に、立香はぐぬぬとうなる。
子供扱いされているのはわかっている。実際立香はまだ十九歳だ。堅気でないとはいえ職に就いている以蔵から見れば、乳くささばかりが際立っているだろう。立香が抱く感情も、吊り橋効果と若気の至りでしかない、と思っている。だから立香のアタックもすげなくあしらう。
それでも、好きなのだ。
この感情が本物だと認めて欲しい。拒んでもいいから、立香と向き合って欲しい。子供の戯言だと頭ごなしに否定されるのはつらい。
もちろん、あわよくばおつき合いしたい。以蔵と歩く街は、三倍増しで輝いて見えるだろう。以蔵と食べるごはんは、一人暮らしの五倍はおいしいはずだ。メシマズと言われないように練習もしている。
健全な青少年だから、恋人同士がすることにも興味がある。以蔵はどんな風に女を抱くのだろうか。ぶっきらぼうな無頼漢を気取っているが、根は真面目で押しかけ女房の立香も無碍にはしない人だ。快楽に焦りながらも立香を優しく撫でてくれる――といいなと思う。
「今日はどんな仕事したの?」
「守秘義務のある仕事をべらべら喋る探偵がおるか」
「以蔵さんのこと知りたいのにな……わたしは今日英語と統計学の授業があって、お昼はメイヴちゃんと食べて。メイヴちゃん覚えてる?」
「おまんくのミス大学じゃろ」
「そうそう、メイヴちゃんといるとよく男の子が寄ってきて。二人きりになりたいならカフェテリアは無理だなって」
「悪い虫には気ぃつけぇよ」
「大丈夫、以蔵さんに比べたら大学生なんて子供だもん」
「ほうかえ……」
「でね、午後はSQLの基礎で、ずっとディスプレイ見てたから目が疲れちゃって」
「えすきゅーえるゆうがはなんじゃ。わしは大学も出やせんし学もないき、わからん」
「コンピューターのデータベースを触る言語で……あっデータベースっていうのはね……」
以蔵が聞いてくれるのをいいことに、立香はつらつらと今日のできごとを話す。
話がひと段落したところで、以蔵はテーブルの伝票を手に取った。
「えっ、まだ五時半」
「まだやない、もう五時半じゃ。ざんじ去ぬるぞ」
「でも、またお日様も沈んでないし」
「口答えしな。油断しちょったらすぐ暗うなる。未成年をほがな時間に歩かせれるか」
「ぐぅっ」
うなる立香だが、こういう時の以蔵が決して折れないのも知っている。だからしかたなく、教科書やノート、タブレットや生活必需品の詰まった黒い合皮のトートバッグを手に取って立ち上がった。
伝票を指ではさんで先を行っていた以蔵が振り返り、手を差し伸べてきた。
「カバン。持っちゃる」
こんな時だけ、以蔵は左目を優しく細める。
以前何度も拒んで、結局根負けしてエスコートされるに任せた。だから今回もおとなしくバッグを渡す。
バッグを持って、以蔵は笑った。
「相変わらず重いのう。よう勉強しちゅう」
「成績悪かったら、いよいよ以蔵さんに追い返されちゃうじゃない。成績表見る?」
「いらん。わしはおまんの保護者やない」
会計を終わらせた以蔵に、立香は四〇〇円を渡した。これも、紆余曲折の末に決められた約束だ。ストーカーの会計を持つ被害者がどこにいる、と迫った立香と、未成年の女に割り勘させる男がどこにいる、と拒んだ以蔵との言い合いは、もはや懐かしい。
「駅でえいな。どっか寄り道するとこはあるか」
「今日は大丈夫」
立香と以蔵は並んで最寄り駅へと向かう。当然のように車道側を歩く以蔵の手に触れようとしても、さらりと避けられる。はじめは傷ついていたが、もう慣れた。それでも、手を繋ぐことを諦めない自分がおかしい。
こうして一緒に過ごせるだけで充分幸せだと思いたいが、人間は欲と煩悩に満ちた生き物だ。以蔵の心の中に、立香の居場所を作りたい。以蔵の安らぎになりたい。
しかし、こんな小娘にそんなことが叶うのだろうか。
そもそも、今の立香はストーカーだ。かえって逆効果ではないのか。
(……でも、離れたくない)
「どいた。やけに静かじゃの」
「……なんでもない、大丈夫」
立香が言うと、「ならえい」と高めの声が返ってきた。
(ほら、以蔵さんはわたしに興味なんてない)
こぼれそうな涙をこらえるため、立香は空いた両手で頬を叩いた。
「何しゆう……」
以蔵が不思議そうに立香を見た。
「おかえり、以蔵さん」
「帰ってこなくていいんだぞ、クソザコナメクジ」
坂本探偵事務所のドアを開けると、応接セットの奥のデスクから龍馬が手を振った。その傍らに浮くお竜は忌々しげに以蔵を見る。
喧嘩を売られているが、それを安易に買いたくはない。以蔵はどっかりとソファに腰を下ろした。大股開きで背もたれに身を預ける以蔵に、お竜は眉をひそめる。
「汚いものを見せつけるな」
「ほたえな」
「第一、そこは客用だ。イゾーはイゾーらしく自分の席で丸まって報告書を書け」
「所長夫人様はずいぶんと肝が小そうございますな? 福利厚生ちゅう言葉はご存知ですかぁ?」
にやにや笑いながら煙草に火を点ける以蔵に、お竜は冷たい爬虫類の視線を投げた。
「リツカと楽しんできたやつに福利厚生なんていらないだろ」
「っ! 何言いゆう!」
いきなり立香の名前を出されてあわてる。しかし以蔵が立香と過ごしていたのは嘘ではないから否定もできない。
「あげな小娘と過ごして楽しいことなんぞあるか!」
「ふーん、お前の中ではそういうことになってるんだな」
「てがいなや蛇女!」
結局喧嘩を買ってしまった。
「まぁまぁ、以蔵さんもお竜さんも」
一触即発の以蔵とお竜を龍馬が取りなす。龍馬はコーヒーカップを片手に、以蔵をいたわるような口調で言った。
「今日も立香ちゃんと会ってたんだね」
「あいつが押しかけてくるき、しかたないろう。わしは来いらぁて一言も言いやせん」
「でも、来るなとも言ってないんだろう?」
「それは……あいつはまだガキじゃ。今はわししか見えやせんけんど、そのうち目が覚めてまともな男を好くはずじゃ。ほがな日がじきに来るき、それまでは放っといちょっても問題ないろう」
「答えになってないぞ。結局お前はリツカをキープしてるだけだ」
お竜の的確なツッコミに、以蔵はとうとう反論を失う。
「以蔵さん、突き放す優しさもあるんだよ?」
「……わかっちゅう……」
そう、以蔵もわかっている。
特殊な環境で錯覚した愛情などに振り回されては、ろくなことにならない。立香は冷静ではない。こんな男を選んだら必ず後悔する。
そう思うから、寄ってくる立香をあしらい、無愛想に接しているのだが。
いざ本当に立香が歳相応の堅気の男を選んだら、大人のふりをして抑えていた感情はストッパーをなくし、以蔵はキレ散らかすだろう。
あんだけわしを慕うちょったがは嘘か。もうわしん方を向いてはくれんがか。ほがなモヤシみたいな男がわしよりも勝うちゅう言うがか。
合間に汚い悪態を挟みながらそんな風に食ってかかる自分が、ありありと思い浮かべられる。
龍馬とお竜の言う通りだ。本当に立香のことを考えるのなら、今すぐ振ってしまうべきなのだ。
もうすぐ成人を迎える立香の華やぐ時間は有限だ。自分のために粧って、好きなことをして。一日ごとに失われる時間を有効に使えるよう、大人は彼女を支えなければならない。
しかし心の中で立香への好意を持て余したまま、以蔵は立香の若さを浪費している。
弟よりも歳下の小娘に対して、まったく誠実ではない。もともと他人の気持ちを重要視していなかった以蔵でも、己を好いてくれて己が好いている女へはもう少し向き合わなければならないことはわかる。
逡巡ごと肺から煙を吐く。
龍馬が真面目な顔で以蔵を見た。
「でも実際、以蔵さんは立香ちゃんをどう思ってるんだい?」
「……」
言葉をなくす以蔵に、龍馬は笑顔で踏み込む。
「もし以蔵さんが言いづらいなら、僕から『以蔵さんは迷惑してる』って伝えてもいいけど」
頭に血が上る。
「ほがなこと、せいでえい」
なんとかこらえて言葉を絞り出す以蔵に、龍馬は困ったなとばかりに首を振った。
「以蔵さんは優しい人だから、歳下の立香ちゃんを傷つけるくらいならって我慢しちゃうだろう」
「本当か? このナメクジが?」
「そうなったらお互いにつらい。あのかっこいい以蔵さんが我慢して、あげくに可愛い女の子を傷つけるところなんて、僕は見たくない」
黒い瞳がいたわしげな光を帯びる。
「僕は以蔵さんのためなら何でもするよ」
「せいでえい言うちょる、わしは立香を迷惑には思いやせん」
以蔵の言葉に、幼馴染み兼雇い主はさわやかな笑顔を浮かべた。
「迷惑じゃないってだけなら、以蔵さんが困った時に僕が先手を打って立香ちゃんを排除してもいいわけだね?」
「しわい!」
以蔵は思わず叫んでいた。
「余計なことすなや龍馬! あいつをわしから引きはがすような真似してみぃ、おまんを寸刻みにしちゃるき!」
「冗談でも言っていいことと悪いことがあるぞ、クソザコナメクジ」
いきり立つお竜の袖を掴み、龍馬はぱっと破顔した。
「いいんだお竜さん、僕は以蔵さんの本音が聞きたかったんだ。以蔵さんは僕らの前だとなかなか本音を出さないからね。きちんと立香ちゃんのことを想ってるって言ってくれて、僕は嬉しいよ」
以蔵を見つめる表情は、不思議な自信に満ちている。以前ある依頼人が『後方保護者面』と言っていたが、以蔵はその言葉の意味を知らない。
「おまんはわしを挑発して言質ぃ引き出したちゅうことか」
歯ぎしりする以蔵を薄目で見て、龍馬は続ける。
「立香ちゃんは可愛いよね。真面目で善良でひたむきで。あの事件の後味がいいものだったのは彼女のおかげさ」
「おまんにそう言われるとまっことえずいがよ」
「話は最後まで聞いて。可愛い立香ちゃんは、以蔵さんのかっこよさをよくわかってる。きっと彼女は以蔵さんをよく助けてくれるだろう。そして、僕にとっても以蔵さんは大事なんだ。彼女が以蔵さんの幸せのパーツになるなら、僕はなんでもするよ」
微妙に立香の人権を損ねるようなことを言っている。
「リョーマ、そのナメクジを甘やかしたら調子に乗るぞ。『突き放す優しさもある』んじゃなかったのか」
お竜の言葉にも、龍馬は笑顔で答える。
「それは以蔵さんが立香ちゃんを好きじゃない時の話さ。以蔵さんの気持ちははっきりわかったんだから、僕は以蔵さんを見守るよ」
「お竜さんはイゾーの機微なんてどうでもいいが……リョーマがそれでいいならお竜さんも構わない。よかったなクソザコナメクジ、リツカとはいつ交尾するんだ?」
その言いように、以蔵は息を呑んだ。折悪しく煙を吐こうとした瞬間だったから、呼吸をしくじって咳き込んでしまう。
「こっ、こん……蛇女……」
「好き合っているニンゲンは交尾するんだろう?」
「未成年に手ぇらぁて出せるか! 大学卒業するまではほがな関係にはならん!」
喉を抑えながら以蔵は言う。ふわふわ浮いたお竜は上から龍馬を覗き見た。
「イゾーがまともなこと言ってる……明日は槍が降るな、リョーマ」
「お竜さんは知らなかったかもしれないけど、以蔵さんは真面目な人なんだ。本当に好きな子ができたら、ふさわしい時まで待てるさ」
「おまんも見てきたようにわしを語りなや……」
以蔵はソファのヘッドレストに後頭部を置き、天井に向かって煙を吐いた。
以蔵は立香の幸せを形作れるのだろうか。
坂本探偵事務所は、ターミナル駅から徒歩十五分のうら寂れた通りにある。以蔵はここで人探しや浮気調査、いじめの証拠集めなど、決して自慢できない案件で糊口をしのいでいる。給料は出来高制で、案件がなければ微々たる固定給しか支払われない。時折特殊な、実入りのいい仕事も来るが――あくまでイレギュラーと考えなければならない。
そんな以蔵と一緒になったら、立香には苦労を強いるだろう。
それでもいい、以蔵さんと一緒にいられるなら、と立香は満面の笑顔で言うはずだ。
いつでも離れられるよう、束縛せずに接せればいいのだろうが――それは無理だ。一度掴んだ宝物を手放せるほど、以蔵は謙虚ではない。
あぁ――
金色の瞳のきらめきを思い出す。
あの夜、壁際に追い詰められた立香をギリギリのタイミングで見つけ、脱法に近い得物を振るって踊りかかり、脅威を立香から引き剥がした。
立香の懐に飛び込み、身を翻すまでの一瞬、立香の強すぎる感情をその瞳でぶつけられた。
その瞬間に、以蔵の心の動きは決まったようなものだ。
「りつか」
煙草をくわえたまま、可愛い女の名を呼ぶ。
幸せにできるかどうかはわからない。
ただ、この女とともにいられれば、以蔵は間違いなく幸せになれる。
そんな利己的な愛情は許されるだろうか。
この気持ちを立香に見透かされないように――このことを知れば、立香は以蔵のベッドまで入り込んで来かねない――以蔵は煙草のフィルターを噛んだ。