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    もちの粉

    @mochikout

    サンフリ置き場

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    もちの粉

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    #サンフリ小説企画White

    #サンフリ小説企画White

    プロムひとり参加サンズはダイニングテーブルでコーヒーをすすりながら、この家に暮らす母子がふわふわとした花のようなドレスを囲んで討論するのを見ていた。

    「これがいいんじゃないかしら?」
    「可愛すぎないかな?」
    「あら、とっても似合ってるわ」

    サンズはバタースコッチパイをフォークで一口サイズに切っておもむろに口に運ぶ。

    「フリルがいっぱいで子供すぎない?」
    「そんなことないわ、ねえ?サンズ」

    フォークに刺さったパイはサンズの口に入ると同時にスッと消えた。
    トリエルの背中越しにフリスクが、サンズの口元を凝視している。
    フリスクいわく『サンズが物を食べる姿は何回見ても不思議』らしい。パイは口に入れた時点でエネルギーへと変換されて咀嚼されることなく消え去るのだ。

    「あぁフリル。似合ってるぜ。フリフリのフリスクだ。」

    フォークをくわえて両手を上げてみせる。
    「お行儀がわるい」と親子が口をそろえて、サンズはさらに肩をすくめた。

    「…んで、おどる相手はきまった?」

    フォークを置いて親子のそばへと歩み寄る。
    高校の卒業イベント、プロムの日は随分先なのにフリスクは慣れるために日々ヒールを履いて過ごし、こうしてドレスも小物もせっせと用意してその日に備えている。

    「まだ。…誰も誘ってくれなくて」
    小柄なフリスクだが、ヒールを履くと少しだけサンズより背が高くなる。それが恥ずかしいのかサンズが近付くと少し身をかがめて猫背になった。

    「そいつは残念だな。爪までこんなに綺麗にしてるのに」
    フリスクの手を取ると、みるみるその頬が赤く染まった。同時にその手からどうしようも無いほどの熱量が伝わってくる。
    ─わかりやすすぎる。

    「誰のせいかしらね…」
    トリエルが呆れたように笑って自分の飲み物を用意しにキッチンへ向かった。

    サンズは苦笑いした。
    小さな頃から包み隠さず真っ直ぐに気持をぶつけてきたフリスクだ。気付かないわけもない。
    そして周りだって学友含め皆が気付いている。ほぼ全員がフリスクを『サンズの事が好きな子』として見ている。
    つまり、誘われないのはサンズのせい。だ。

    目の前で、せっかく着飾ってるのに自分より小さくなろうと背中を丸めて頬を染めてる少女。
    しなやかに手足は伸びて、ずいぶん大人びた。
    出会った頃は随分小さかったのにな。
    あの頃はどれだけ背伸びしたってオイラの背を越せなかったのに。と、サンズは心の中でつぶやく。

    「せっかく綺麗な服着てるんだからさ、背筋のばしな」
    フリスクは背筋を丸めたまま赤い顔を上げない。
    「だれかいないのか?友達でもいいんだろ?」
    「……いいの、ひとりで」
    「ひとりで?」
    「プロムにはひとりでいく。パートナーが見つかりませんでしたって言えばひとりでも行けるって聞いたから」
    「……それは…あー…、なんていうか……そうか。」

    サンズはフリスクの瞳にケツイの光を見た。
    自分が誘わなければ、フリスクはきっとやりとげるだろう。

    ─プロムひとり参加。






    その夜、サンズは散らかった部屋のクシャクシャなベッドに寝転び、フリスクがひとりでプロムに参加する様子を思い浮かべていた。

    パートナーと参加する大勢の中で、花のように着飾ったフリスクがひとり。参加者達はパートナーとはいえ、付き合っている者同士とは限らない。プロムに出るためのその日限りのパートナーもたくさん。従兄弟で出るやつもいるらしい。

    不特定多数が見るのだ。
    ひとりでいるフリスクを。
    自分への気持を包み隠すこと無く、公認片思いをしていたようなフリスクがひとりで着飾り、ひとりでプロムを過ごすのだ。
    フリスク自体は自分が決めたことだから何とも思わないかもしれないが…。

    『フリスクはサンズに振られた』
    周りは当然のごとくその結果に落ち着くであろう。

    それはフリスクを想う奴にとって最大の好機ではないだろうか。
    純粋に「想うやつ」ならまだいいが、「狙うやつ」だっている
    サンズの存在は小柄ながらも「モンスター」として恐れられていた。
    それはフリスクを迎えに行った時にひしひしと肌で感じた。肌はないけど。

    サンズの姿をとらえると、ひと目も憚らず頬を染めて子犬のように尻尾を振りながら駆け寄るフリスクを見て『頑張れば自分にもチャンスはある』だなんて思うニンゲンはなかなか居なかったはずだ。

    ─困ったふりをしながら優越感を抱いていたのは、誰だ。

    ひとりきりでプロムに参加。
    フリスクはきっとやる。やりとげる。

    プロムで着飾りひとりでいる姿を見て「チャンス」だなんて思う悪いニンゲンは……いるんじゃないか?

    いや、でもフリスクはニンゲンで
    ニンゲンはニンゲン同士くっついたほうがいい。
    そう思ってたじゃないか。

    考えが堂々巡りするサンズはクシャクシャのベッドでゴロゴロと転がり
    「ちょっと兄ちゃん!うるさい!」
    という隣の部屋からの声にピタリと動きを止めた。

    そして、おもむろに立ち上がりバイトを掛け持ちして貯めたお金を引き出しから取り出し、握りしめた。



    フリスクはひとりでプロムに行くケツイをしていた。
    プロムには誰からも誘われることはないだろう。
    ここまで周りに全く隠すこと無くサンズへの愛を伝えてきたのだ。

    フリスクが着々とプロムの準備を進めるのをサンズは知っている。これでサンズに誘われなかったらそういうこと、だ。
    今までの経験からあまり期待はしていなかった。

    でもトリエルは楽しみに準備しているし、自分もプロムというものを経験してみたいし、行かないという選択肢はない。
    そしてサンズ以外と行く選択肢もない。

    サンズに誘われなかったら、完璧に着飾りひとりで参加して、きっぱりと諦める。
    そう決意していた。

    最近になり周りはプロムの話で盛り上がってきた。一緒に過ごしてきた友人たちもパートナーと共に計画を練っている。

    そんなクラスメイトたちを横目にフリスクはひとりで校舎を後にすることにした。
    門には誰も居ない。

    ヒールを履いた足が痛む。いつまでたっても痛くて慣れない。ジンジンと日に日に痛くなる。

    風がざっと吹いて木々が揺れて、髪が目に入って、思わず手で押さえた。

    「…泣いてるのか?」
    低く心地よい声に片目を開くと指の隙間からサンズの足とピンクのスリッパが見えた。
    ゆっくりと目から手を離すと、髪と共に涙が目からこぼれ落ちた。ポロポロと。

    「これは、髪が目に入って…」
    真実なのに、ひどく言い訳じみてると思った。

    「…オイラが誘わなかったから?」
    フリスクは下を向いたまま首をふった。
    ポロポロポロポロと涙があふれてくる。これは髪が目を直撃したせいだ。思いのほか痛い。だからだ。

    「だって…プロム、すごいお金かかるし…」
    揺らぐ地面を見ながら、サンズが笑う気配を感じた。
    「オイラも小さく見られたもんだな」
    優しい声だった。

    「こう見えて、アンタより稼いでるつもりなんだけど」
    顔を上げたが、ぼやけた視界にサンズのいつもの青色が見えない。

    …?

    揺らぐ視界を指でぬぐうと、上質なスーツを来て両手を上げているサンズがいた。
    「靴は今から買いに行くとこなんだ」

    上からビシッとスーツで決めて、けれども足元はいつものスリッパのままだった。

    「プロムってこれでいい?それとももっと王子様みたいなやつがよかったか?」

    スリッパの足を持ち上げズボンの裾を気にしている。
    フリスクは涙に濡れた目を丸く見開いた。

    「サンズ…プロム、出るの…?」
    「ん?まぁな」
    「……だれと?」

    今度はサンズが目を丸くする番だった。

    「…あー、そうだな。その…アンタと。」

    フリスクはぼう然と立ち尽くしていた。
    本当に期待していなかったのだ。
    『そうしたい気持ち』はあったが無理だと思っていたから。

    「アンタはひとりで出たかったかもしれないけど…」
    フリスクはとっさに首を振る。
    「オイラとでもいい?」
    フリスクはブンブンと首を縦に振る。

    「そいつはよかった」
    「でも…なんで…」
    涙を拭うのも忘れてつぶやくと、サンズが近付いてきておもむろに腰を抱き寄せられた。慣れないヒールにバランスを崩してサンズの肩にあごを預ける形で抱きついてしまった。耳元で低い声が小さくつぶやく。
    「…アンタを誰にも取られたくなくてさ」

    甘い声に腰がくだけるかと思った。抱き寄せられたのも初めてならば、そんな甘い言葉を言われたのも初めてだった。
    正気を保つために、現実的な質問をしなければと思った。
    「で、でもほら車…リ、リムジンとか借りなきゃとか聞く…」

    「頼んであるぜ。ほら」
    サンズがフリスクの腰を離すと
    「サンズ!フリスク!」
    パピルスが自慢の赤いスポーツカーでやってきた。

    「プロム、この車でもいいッ?リムジンは用意できないけど、俺様っていうおかかえ運転手付きッ」
    「パピルス…!」
    「プロムは大事なトモダチの大事な日だからね!」
    パピルスのスポーツカーはピカピカに磨かれている。その輝きはリムジンにだって劣らない。
    着実に用意してくれているのだ。フリスクのプロムのために。

    「なぁ、フリスク。オイラと一緒に靴を買いに行こうぜ。オイラは気にしないけど、オイラの隣でアンタが背筋を伸ばせないのはあんまりよくないだろ。痛そうだし。ドレスに似合う、ピッカピカで足に合うローヒールをさ」

    サンズは窮屈そうなフリスクの足元と、自分のくたびれたスリッパを交互に指差した。

    「…そうする!」
    そうしてふたりはパピルスの車に乗り込んだ。
    きっとプロムは素敵な日になる。

    ─プロムひとり参加─終
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