Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    ぎぃ。

    @gigigigiiiii
    ぎぃ。だよ!!!
    ポケモン絵と創作絵と過去絵とかもなんかアップ出来たら見やすいんじゃないでしょうか?

    二次創作SSもおいてるよ。ラッシャイ!!

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 52

    ぎぃ。

    ☆quiet follow

    夏・日帰り帰省的な話

    しずく、しずか、しずむ【九】親戚の集まりって、本当に面倒だ。
    けど、こういうのは出なかったら出なかったで、あとから余計に面倒になるんだよな。

    お盆の時期に本家へ顔出して挨拶──ってやつだ。
    まあ、小さい頃はじいさんにすごく可愛がられたし、今でもじいさんのことは嫌いじゃない。
    だけどよ。

    集まりの度にいつまでも嫁に逃げられた、だの言われるし。
    円満離婚だっつーの。
    草葉の陰でじいさん泣いてるよ、とか言ってさ。最後に会ったときも、じいさんは別に泣いてなかったってのに。
    俺はもういい歳なのに、更に年上から、お前はこんな小さい頃はいつまでもおねしょして、へんなものが見えるって言って泣いて……なんて思い出話をされてさ。

    いや、ずっと“視えて”るんだって。今もさ。
    ただ、あんたらが俺がそう言うと変な顔するから、言わなくなっただけだよ。

    なんて言えねぇから、いつものように乾いた笑いでごまかす。

    「そういえば、じい様の別荘があったあの山、夏でも涼しくてよかったなぁ」
    「今じゃあの辺も開発が進んでさ、次はなんだっけ、でかい商業施設が建つらしいよ」
    「へえ、利運がまだ小さいときは、まだあったろ?」
    「ああ、ええ……」

    名前がつくような山じゃない。裏山って呼ばれてたくらいの場所だ。
    避暑用に建てられた小さな別荘があって、夏でもひんやりしてて、でかい甲虫の類いがいっぱい採れたっけ。
    その別荘ももうだいぶ前に手放して、今じゃ山は平らになってショッピングモールが並んでる。

    「おまえ、あの山で白い蛇見つけたって言ってたな」
    「ああ、そうそう。追いかけて迷子になって、あのとき一晩帰って来なかったんだぞ。翌朝ケロッと戻ってきてさ」
    「……!? それって、いつの──」

    前のめりになった拍子に、近くのビール瓶を倒してしまう。
    寿司桶がビール浸しになって、笑いと叱責が一気に湧いた。
    この歳でまた次回以降に語られるネタが一つ追加されてしまった。

    大部屋を「便所」と言って抜け出し、外の空気を吸いにいく。
    たばこに火を点ける。深く吸って、長く吐く。

    ──ほんと、いやになる。
    会話してるようで、ただ言いたいことだけ一方的に言うだけなんだから。

    「……」

    静かだった。
    お盆ってのは、先祖の霊が帰ってくるんだっていうけれど──
    俺は、じいさんを“視た”ことが一度もない。

    「……白蛇、か」

    ぽつりとこぼす。
    思い出そうとしても、はっきりとは浮かばない。
    たばこの煙が蛇のような尾を引いて、何となくその形をなぞった。

    あいつ、家でおとなしくしてるかな。

    ぼんやりとした思考のなか、ふと、視界の端を何かが横切った。
    猫かと思った。でも、違う。
    まずい。この感じは、久しぶりだ。
    気を抜いていた。

    視えない。視てない。俺はただの一般人。普通の人間。
    だから、こっちを見ないでくれ。
    俺にはなにもできない。なにも。

    そう念じて、顔を作って、会食の場に何もなかったように戻る。
    帰り際の「泊まっていけばいいのに」を振り切って、俺は日帰りで自宅に戻った。

    もう、くたくただ。
    足取りも身体も重い。心もずっしりと重たい。

    「ただいま……」

    声をかけると、「おかえりなさい」と返してくる存在がいる。
    怪異との暮らしのほうが、親戚の集まりよりよほど安心できるなんて、なんとも複雑だ。

    闇の奥からぬるりと現れたウサミが、珍しく顔をしかめている。

    「“それ”、なんですか?」
    「え? ああ、これ?なんか持たされてさ。土産。おまえの口に合うかはわかんねえけど……」

    紙袋を掲げて見せるが、ウサミはさらに眉をひそめる。
    視線はその先の、俺の肩の後ろに向けられていた。

    すう、とウサミの腕が伸びてきて、俺の肩にそっと手がかかる。
    そのまま肩の向こう、空間にふっと息を吹きかけた。

    「……なんか、ついてた?」
    「さあ、よくわかりません。取るに足らないものでしょう」

    糸くずでもついていた、みたいに怪異は言う。

    ふしぎと身体が軽くなる。
    玄関の戸を閉めて、俺はようやく「帰ってきた」と思える家に足を踏み入れた。

    どっと疲れが押し寄せてきて、風呂にも入らず、そのまま昼近くまで寝てしまった。
    それを「なんてだらしのない!」と、ウサミに小言を言われ続けるのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works