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    ぎぃ。

    @gigigigiiiii
    ぎぃ。だよ!!!
    ポケモン絵と創作絵と過去絵とかもなんかアップ出来たら見やすいんじゃないでしょうか?

    二次創作SSもおいてるよ。ラッシャイ!!

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    POIPOI 52

    ぎぃ。

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    🐍の怪異宇佐美と門倉さん

    あなたはつかれているんですね

    しずく、しずか、しずむ【一〇】観光客が多い。
    人の流れが戻ってくるのは、いいことだ。

    でもな、居すぎだろ。
    隠れ家だと思っていた店が、席がいっぱいで入れなかったりして──
    「こんなとこまで?」って、さ。

    それに、

    駅前のスクランブル交差点。
    青信号が灯ると同時に、人、人、人。
    その中で、必ずすれ違う。
    俺以外には視えない、そういう類のやつに。

    無いものは、視えないふりをして、すり抜ける。
    “無視”が、いちばんだ。

    雑踏の中に混じる、空気を震わせない声。
    白黒の交差点、その向こうまでが、やけに遠い。

    ずっと、なにも視えないふりをしてきた。
    なにも聴こえないふりをして。
    そうやって、“普通”の顔で日々をやりすごしてきた。

    そういうところが、駄目だったんだろうな。

    家の中を横切ったり、部屋の隅に浮かんだり、風呂場で沈んだり。
    日常に潜むそれらを、見て見ぬふりをするたび、
    俺の“普通”は、誰かに嘘をついているみたいだった。

    娘が成人し、大学も卒業して、ようやく夫婦としての一段落を迎えた、そんなある日だった。

    あなたは、ずっと私に、なにかを隠してる。
    それを教えてほしい。
    分かち合いたいの。

    そう言ってくれたのに。
    俺は、言えなかった。

    言ったら、どうなる?
    言って、どうする?

    “普通”に疲れ果てていたくせに、
    それでもなお、言えないまま、
    演技を続ける方を選んだ。

    それで、少し経ってから、別れてほしい。
    あなたを嫌いになったわけじゃない。
    でも、これからは別々に歩みましょう、って。

    息が詰まるのも、当然よな。
    この先の人生をともに歩む相手が、ずっと何かを隠してると知りながら、それでも「なにもないよ」って、笑ってごまかすんだから。

    特に夏は、視えてしまう。
    温度と湿度のせいか、よく視える。
    ゆらゆらと、陽炎のように形を変えながら、すぐそばまで来ようとする。

    ああ、
    もう、

    「──やめてくれ!」

    気づいたら叫んで、走り出していた。
    走って、走って……。
    シャツが汗で背中に張りつくせいで、夜になっても気温が下がらないせいで、この歳になって急に走り出したせいで、もう、ぜんぶ気持ち悪い。

    俺が何をしたっていうんだよ。

    俺が──

    気づけば、家についていた。
    玄関の前で肩で息をして、扉を開けて、靴を脱いで、灯りをつけて、リビングに入った、そのとき。

    「“ただいま”は?」

    するり。白く長い尾が、俺の体に巻きつく。
    忘れかけていた習慣を咎める声は、感情の波のない、まっすぐな音。

    「……た、だいま……」

    ウサミの体が、汗でどろどろになった俺の体を抱きしめる。
    ひんやりとしていて、心地いい。

    ウサミが来てから、家の中を走り回っていた“それら”は視えなくなった。
    夜も静かで、それでいつの間にか、ウサミと住むこの家に安らぎを覚えるようになっていた。

    こんなにも、冷たいのに。
    こんなにも、人間じゃないのに。

    「おかえりなさい」

    俺が、なにをしたって言うんだよ。本当に……。
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