しずく、しずか、しずむ【一八】──たとえば、よ。
本当に、たとえばの話ね。
小さい頃から視なくていいものまで見えて、それに反応しちゃったせいで、よく怪我とかして帰ったりしてさ。
信号待ちしてる横断歩道とか、ちょっとした山の坂道だとか、電車のホームとか、そういう場所で押されたり引っ張られて危ない思いをする。
何度もそれを繰り返して、そうして全部、「視えません」って態度で、無視するようになったとする。
それとはまた別の話で、だ。
自分がね?オジサンだとしてさ。
それで自分より体格のいい、若い男三人ぐらいに囲まれて、骨も折れたかも~?ってくらい、殴られて……。
ああ、まずい。もう駄目かも、ここで死ぬかもしれないって思った時。
それって、そのふたつを比べたとき、どっちのがこわい?
って話。
────まあ、この話はまだ続きがあってね。
もしその、襲われている時に、その無視しなくちゃいけない方のやつが自分を助けてくれたら、どうする?
白蛇の下半身に男の体がついてんの。
そこに綺麗な顔が乗ってるんだ。
そいつが男の首をしめあげて、暴漢の体が宙ぶらりんになってるのを視たとする。
そうして、その、無視しなくちゃいけない方の、そいつと、ばっちり目が合ってしまう。
でも、そいつは俺の命を助けてくれているんだ。
俺はそのとき、もう、殴られた痛みとかで判断も鈍ってて。
人間の悪意とか、害意とか、暴力から救ってくれたそいつに、思わず──
「ありがとう」
って。
たったひと言、こぼしてしまって……。
ああ、いや。そう。これはたとえ話だから。
俺の知り合いの、元嫁の、友人の、同僚の、後輩の、弟の……そんな遠い、とおい誰かの話ってことで。
──それで。
なあ、おまえさんなら、どうしていた?