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    TokageIppai

    @TokageIppai

    怪文書置き場です

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    TokageIppai

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    #セブスト
    sebst.
    #アミュエス
    ams
    ##花の咲くころ、あなたと

    「わたし」と白百合 ――どうしてこの人は、突然わたしと散歩がしたいだなんて言ったんだろう。
     並んで歩き出したはいいものの、オルテア親衛隊所属の軍人だというこの女性は、時折たわいもない話をするばかりで、さっきの話については一言も触れない。
     誰かと一緒に行動するのは、この冒険団に入ってからが初めてだったから、たまに人との距離をはかりかねる時がある。セプティムたちが話しかけてくれるのは嬉しかったけれど、自分がその優しさにちゃんと応えられているのか、よく分からなかった。だから今日も、あんな話をしたせいでこの人に気を遣わせてしまったのだとしたら、申し訳ないと思う気持ちの方が強かった。
     そっと隣を見る。日の光を浴びて、彼女の銀髪がきらきらと光った。
    「どうしたの?」
    「あ…いえ、ただ、きれいな髪だなって、思って」
     彼女は一瞬きょとんとしたあと、ふわりと笑みを浮かべた。
    「ありがとう。これは、私の故郷に咲く百合の花と同じ色なの。だから、そう言ってもらえて嬉しいな」
     そして、不意にこちらに向き直って、手を伸ばしてきた。
    「私は、エステアちゃんの髪も好きだよ。透き通るように青くて、まるで湖みたい」
     すらりと細長い指が、髪の毛に触れる。少しくすぐったいけれど、不思議と嫌な感覚ではなかった。
    「…ありがとうございます…そんなこと、初めて言われました」
    「そう?すごく素敵なのに」
     彼女はそう言って、またにこりと笑った。
     それを見て、ずっと心に引っかかっていた疑問を、思い切って尋ねてみた。
    「あの…どうして、わたしに声をかけてくれたんですか?」
     髪から指が離れる。彼女の浮かべた微笑みが、少しだけ困ったように曇った。
    「うーん…なんでだろう、ね…」
     そして、自分自身に対して問いかけるように、彼女は少しずつ言葉を重ねだした。
    「私の故郷の村はね、今はもうないの。昔魔族が攻めてきて、滅ぼされてしまったから。…それからしばらくは、魔物退治に明け暮れてね。復讐することだけを考えて、来る日も来る日も戦い続けた。その頃の私と、昨日の…エステアちゃんの戦い方が少しだけ似ているような気がしたの。だから、あなたの孤独が分かるような気がしたのかな」
     ――ああ、やっぱり、気を遣わせてしまっていたんだ。適当にごまかしておけばよかった。そんなこと、いくらでもできたはずなのに。
    「…でも、それは思い上がりだった。私は戦うことを自分で選んだけれど、あなたは選ぶことすらも許されず、一人で戦わなければならかったんだから」
     そう言って彼女はまた笑ったけれど、それは自分を責めるような、苦しい笑い方だった。
     胸が、締め付けられたようにきゅっとする。それは、後悔でも後ろめたさでもない感情だった。
    (違う。わたしは――このひとにこんな顔、してほしくない)
     さっき初めて話したばかりなのに、どうしてだろう。
     自分でも気づかないうちに、話しだしていた。 
    「そんなことは、ないと思います」
    「…え?」
    「確かにわたしは、記憶がないから…アミュレットさんのような故郷の思い出も、それを失った悲しさも、ほんとうの意味ではよく分かりません。それと同じで、わたしが三年前、初めて『わたし』として目覚めた時の気持ちが、ほんとうの意味でアミュレットさんに伝わることはないのかもしれません」
     言葉があふれてくる。どうかこれが、目の前にいるひとに届いてほしい、その一心だった。
    「でも――一人だったのは同じです。故郷をなくして一人になってしまったアミュレットさんと、最初から一人だったわたしとで、きっとどちらの方が辛いということはないんだろうと思います。一人でいるということは――それだけで、淋しいことだから」
     彼女は何も言わず、ただじっとこちらを見つめている。
    「それに、わたし…嬉しかったです。話しかけてもらったことも、髪を好きだと言ってくれたことも、今こうして一緒に散歩ができることも、ぜんぶ」
     だから、わたしもまっすぐに見つめかえす。初めて、ほんとうに目が合ったような気がした。
      少しの沈黙ののち、彼女が口を開く。
    「ああ――そっか、なんでこんなに簡単なこと、気づかなかったんだろう」
     朝焼けを閉じ込めたような、美しい瞳がわずかに揺れている。
    「私はただ、エステアちゃんと話がしてみたかったんだ。あなたのことを知って、そして――しばらくの間、あなたと一緒に過ごしたかったの」
     つぼみが開くように、ゆっくりと彼女の顔がほころんでいく。
    「ねえ、あなたの――今のあなたのこと、もっと教えてくれる?」
    「…はい!」
     わたしがうなずくと、彼女は花のように笑った。

           ***

     ひとしきり歩くと、小高い丘に着いた。緩やかな斜面に、小さな野花がたくさん咲いている。ここで少し休憩することにして、草の上に並んで座る。
    「懐かしいな…故郷にいたころも、こんな野原でよく遊んだの」
    「…どんな、遊びをするんですか?」
    「へっ?」
    「あっ、あの…わたし、戦いがないときは、何をすればいいのか…よく、分からなくて」
    「そう…そうね…ちょっと、目を閉じて待っていてくれる?」
     なんだろう、と思いながらも、言われたとおりに目を閉じた。周りの草がさわさわと揺れているのが分かる。地面の熱が、指先からだんだんと伝わってくるような気がした。

    「お待たせ」
     声がして、頭の上に何か軽いものが乗せられた感触がする。どうやら、あのままうたた寝してしまっていたらしい。
     そっと手に取ってみる。それは、小さな花冠だった。
    「これは…」
    「小さいとき、よく作ってたんだ。あそこに咲いてた花とは、種類も全然違うけど…」
     彼女の故郷には咲かないという黄や橙の花たちは、素朴だけれど、日だまりを集めたような色をしていた。
     顔を上げると、彼女の笑顔が目の前にあった。つられてわたしも笑う。
    (お姉ちゃんって――こんなひと、なのかな)
     あたたかな風が、わたしたちの間を通り抜けていく。
     もう少し、このひとと一緒にいたい、と思った。
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    TokageIppai

    DONE完成に何ヶ月かけてんのって感じですが前書いたお酒ネタを最後まで書いたやつです 推敲は未来の私がやるでしょう(なのでそのうちしれっと本文とかタイトルとか変えるかも)
    見ように寄っては際どいかもしれない
    おさけはおとなになってから それはいつもと変わらない夜、のはずだった。

    「ふぅ、面白かった……まさか連続パンの実消失事件の犯人が教頭先生で、禁忌の魔法を使って学園を丸ごとパンプディングの森に変えちゃう計画だったなんて」
     両手に持った本から顔を上げ、周りに誰もいないのをいいことに、エステアはひとりごちた。
     彼女が読んでいたのは、王都の子どもたちを中心に大流行している学園小説だった。魔力は低いが天才的な頭脳を持つ主人公が魔法学校に入学し、学園内で起こる難事件を次々に解決していくシリーズで、新刊が出る度に売り切れと重版を繰り返している。
     その人気ぶりは彼女の仲間たちの間でも例外ではなかった。もっとも旅の身では嵩張る本をそう多くは持てないから、新刊が出版されると何人かで共同してお金を出し合い、誰か一人が代表して買ってきて、それを皆で回し読むようにしている。今読んでいる第六巻は数週間前の発売日にイータが張り切って買ってきたもので、やっとエステアの順番が回ってきたのだ。物語自体に惹き込まれるのはもちろんだが、もう読んだ仲間と感想を話し合ったり、あるいはこれから読む誰かの反応を見守ったりするのが楽しみだった。
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    TokageIppai

    MAIKINGアルコールが入って珍しくへにょへにょになったアミュレットとエステアちゃんの話。キリのいいとこまでかけたのでためしに進捗をあげてみます。
    色々ゆるふわ。ちょっときわどいかもしれない。
    アミュエスのゆるい話(書きかけ) それはいつもと変わらない夜、のはずだった。

    「ふぅ、面白かった……まさか連続パンの実消失事件の犯人が教頭先生で、禁忌の魔法を使って学園を丸ごとパンプディングの森に変えちゃう計画だったなんて」
     両手に持った本から顔を上げ、周りに誰もいないのをいいことに、エステアはひとりごちた。
     彼女が読んでいたのは、王都の子どもたちを中心に大流行している学園小説だった。魔力は低いが天才的な頭脳を持つ主人公が魔法学校に入学し、学園内で起こる難事件を次々に解決していくシリーズで、新刊が出る度に売り切れと重版を繰り返している。
     その人気ぶりは彼女の仲間たちの間でも例外ではなかった。もっとも旅の身では嵩張る本をそう多くは持てないから、新刊が出版されると何人かで共同してお金を出し合い、誰か一人が代表して買ってきて、それを皆で回し読むようにしている。今読んでいる第六巻は数週間前の発売日にイータが張り切って買ってきたもので、やっとエステアの順番が回ってきたのだ。物語自体に惹き込まれるのはもちろんだが、もう読んだ仲間と感想を話し合ったり、あるいはこれから読む誰かの反応を見守ったりするのが楽しみだった。
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    「無理はしなくていい」
    ユウリは、思い切って尋ねた。 4055