TokageIppai
DONEアミュエスフェクが絵本を読む話。セブスト世界にメーテルリンクはおらんとか言わない
思い出すことは「青い鳥は、大空へとはばたいてゆきました。しあわせは、本当はとても身近なところにあったのです……おしまい」
アミュレットが読み終えると、彼女の両脇で絵本をのぞき込んでいた二人――エステアとフェクタは同時に顔を上げた。
「すてきなお話だったね、フェクタ」
「ああ。それに、うさぎも出てきた」
「あれ? うさぎさんなんていたっけ……」
「確か、『森の国』の場面で――」
読んできた方向とは逆にページを捲りながら話しだした二人の声を、アミュレットはどこか遠くのことのように聞いていた。
︱︱魔女は言いました。これから、あんたたちには青い鳥を探しに行ってもらわねばならんね。あんたたちが、青い鳥を探しに行けば……
彼女の脳裏で、さっき自分で読み上げたばかりの物語の一場面が再生される。
2989アミュレットが読み終えると、彼女の両脇で絵本をのぞき込んでいた二人――エステアとフェクタは同時に顔を上げた。
「すてきなお話だったね、フェクタ」
「ああ。それに、うさぎも出てきた」
「あれ? うさぎさんなんていたっけ……」
「確か、『森の国』の場面で――」
読んできた方向とは逆にページを捲りながら話しだした二人の声を、アミュレットはどこか遠くのことのように聞いていた。
︱︱魔女は言いました。これから、あんたたちには青い鳥を探しに行ってもらわねばならんね。あんたたちが、青い鳥を探しに行けば……
彼女の脳裏で、さっき自分で読み上げたばかりの物語の一場面が再生される。
TokageIppai
DONEリッカちゃんとエステアちゃんが出会ったばかりのころの話満月と子守歌 遠くの山で、狼が吠えた。
仲間を探しているのだろうか。けれども返ってくる声はなく、長く尾を引いた咆哮はただ空しく夜の静けさに飲まれていく。
カーテンのない窓からは、月明かりが真っ直ぐに差し込んできていた。
こんな月の大きな夜には、狼が遠吠えをあげて人間の姿に変化する。以前どこかで聞いたおとぎ話を、エステアはぼんやりと思い出していた。
満月の夜が、彼女は少し苦手だった。
何もかもが青白い光に照らされているのを見ると、どこにも逃げ場がないような、何も隠し事ができないような、そんな気持ちになるのだった。早く眠ってしまってやり過ごしたいのに、そういう時に限って、明るい光を浴びた目は一層冴えてしまっていた。
2697仲間を探しているのだろうか。けれども返ってくる声はなく、長く尾を引いた咆哮はただ空しく夜の静けさに飲まれていく。
カーテンのない窓からは、月明かりが真っ直ぐに差し込んできていた。
こんな月の大きな夜には、狼が遠吠えをあげて人間の姿に変化する。以前どこかで聞いたおとぎ話を、エステアはぼんやりと思い出していた。
満月の夜が、彼女は少し苦手だった。
何もかもが青白い光に照らされているのを見ると、どこにも逃げ場がないような、何も隠し事ができないような、そんな気持ちになるのだった。早く眠ってしまってやり過ごしたいのに、そういう時に限って、明るい光を浴びた目は一層冴えてしまっていた。
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DONE今年の母の日前後に書いたやつを今更まとめフェクタちゃんとリネットちゃんの話のつもりだけどエステアちゃんとリッカちゃんも出てくる
一応調べはしたけど花言葉は定義が曖昧なので、信憑性は微妙だと思ってるんですが、まあそういうことだと思ってください……
部屋中を満たす、湿った、かすかに甘い匂い。
様々な色の花びらや、見たこともない形の葉を持つ植物。
溢れんばかりの花を包み、あちこちに陳列されている花束。
どこから入ってきたのか、耳元を掠めた蜜蜂の羽音。
棚にずらりと並べられている、華やかな模様のついたリボンと紙。
王都で一番の品揃えを誇るという花屋は、建物の中に突然現れた森のようで、しかし自然にある風景とは全く異なっている。
そう、人の手で管理されている、という意味では、あの研究所とも少し似ているかもしれない。ここの方がずっと明るいけれど。
「花を受け取りに来たのだけど。これ、注文の控え」
「ああ、ムーンクレストさんのお使いですね。奥から持ってきますから、ちょっと待っててください」
9996様々な色の花びらや、見たこともない形の葉を持つ植物。
溢れんばかりの花を包み、あちこちに陳列されている花束。
どこから入ってきたのか、耳元を掠めた蜜蜂の羽音。
棚にずらりと並べられている、華やかな模様のついたリボンと紙。
王都で一番の品揃えを誇るという花屋は、建物の中に突然現れた森のようで、しかし自然にある風景とは全く異なっている。
そう、人の手で管理されている、という意味では、あの研究所とも少し似ているかもしれない。ここの方がずっと明るいけれど。
「花を受け取りに来たのだけど。これ、注文の控え」
「ああ、ムーンクレストさんのお使いですね。奥から持ってきますから、ちょっと待っててください」
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DONE去年の双子の日に書いたエスフェクの話に加筆修正したものです。ちょっと追加するつもりがなぜか倍の字数になってた不思議。続きの構想も一応あるのでまとめて本にしたりとかしてみたい…ね…冒頭はロードラの[光海王]リヴァイアのストーリーテキストからの引用です。推しと推しを組み合わせれば最強理論の俺得クロスオーバーがしたかったんだ。
冥海の灯「……やがて時代が流れゆき、人の光が海を照らし出した頃、役目を終えたお姫様は、ゆっくり天へと昇ってゆきました。」
最後の一文を読み上げると、エステアは一つ息をついて絵本を置いた。
「……これは、悲しい話、なのだろうか」
「どうなんだろう、わたしは、そんなことないと思うけど……」
その絵本は、エステアたちが今滞在している宿の倉庫の中、もう使われなくなった椅子や寝具の奥にあった本棚に仕舞われていた。濃い青色の表紙に銀色のインクで描かれた文字や絵が目を惹く、古いながらも美しい絵本で、きっと宿の主人か誰かが子供のころからずっと大切に持っていたのだろう、と思わずにはいられないものだった。
そこには、美しい容姿と歌声を持ち、七つの海を統べた海姫の物語が記されていた。
4740最後の一文を読み上げると、エステアは一つ息をついて絵本を置いた。
「……これは、悲しい話、なのだろうか」
「どうなんだろう、わたしは、そんなことないと思うけど……」
その絵本は、エステアたちが今滞在している宿の倉庫の中、もう使われなくなった椅子や寝具の奥にあった本棚に仕舞われていた。濃い青色の表紙に銀色のインクで描かれた文字や絵が目を惹く、古いながらも美しい絵本で、きっと宿の主人か誰かが子供のころからずっと大切に持っていたのだろう、と思わずにはいられないものだった。
そこには、美しい容姿と歌声を持ち、七つの海を統べた海姫の物語が記されていた。
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DONEアミュエスのハロウィン妄想SS(2019年ハロウィンイベント準拠)です。ご都合主義・捏造山盛りなのでなんでも許せる人向けきみとかぼちゃのクッキーを「トリック・オア・トリート~!!」
突然ドアが勢いよく開いたかと思うと、元気な声が部屋中に響き渡った。
「あら、リッカちゃんに、ニーナちゃん。こんにちは」
部屋の入り口に立っているのは、私と同じオルテア生まれの女の子二人組だ。書き物をしていた手を止めて、彼女たちに挨拶する。種族は違うけれど、とても仲のいい二人の様子を見ていると、こちらまで心が弾んでくる。
「とりっく、おあ、とりーと」
「トリック・オア・トリート…あのう、お仕事中、すみません…」
リッカちゃんとニーナちゃんの背後から、少し控えめな声がする。同じオルテア出身のエステアちゃんとフェクタちゃんだ。
「エステアちゃんとフェクタちゃんも、こんにちは。…その帽子、おそろい?とってもかわいい」
2517突然ドアが勢いよく開いたかと思うと、元気な声が部屋中に響き渡った。
「あら、リッカちゃんに、ニーナちゃん。こんにちは」
部屋の入り口に立っているのは、私と同じオルテア生まれの女の子二人組だ。書き物をしていた手を止めて、彼女たちに挨拶する。種族は違うけれど、とても仲のいい二人の様子を見ていると、こちらまで心が弾んでくる。
「とりっく、おあ、とりーと」
「トリック・オア・トリート…あのう、お仕事中、すみません…」
リッカちゃんとニーナちゃんの背後から、少し控えめな声がする。同じオルテア出身のエステアちゃんとフェクタちゃんだ。
「エステアちゃんとフェクタちゃんも、こんにちは。…その帽子、おそろい?とってもかわいい」
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DONE「わたし」と白百合 ――どうしてこの人は、突然わたしと散歩がしたいだなんて言ったんだろう。
並んで歩き出したはいいものの、オルテア親衛隊所属の軍人だというこの女性は、時折たわいもない話をするばかりで、さっきの話については一言も触れない。
誰かと一緒に行動するのは、この冒険団に入ってからが初めてだったから、たまに人との距離をはかりかねる時がある。セプティムたちが話しかけてくれるのは嬉しかったけれど、自分がその優しさにちゃんと応えられているのか、よく分からなかった。だから今日も、あんな話をしたせいでこの人に気を遣わせてしまったのだとしたら、申し訳ないと思う気持ちの方が強かった。
そっと隣を見る。日の光を浴びて、彼女の銀髪がきらきらと光った。
2497並んで歩き出したはいいものの、オルテア親衛隊所属の軍人だというこの女性は、時折たわいもない話をするばかりで、さっきの話については一言も触れない。
誰かと一緒に行動するのは、この冒険団に入ってからが初めてだったから、たまに人との距離をはかりかねる時がある。セプティムたちが話しかけてくれるのは嬉しかったけれど、自分がその優しさにちゃんと応えられているのか、よく分からなかった。だから今日も、あんな話をしたせいでこの人に気を遣わせてしまったのだとしたら、申し訳ないと思う気持ちの方が強かった。
そっと隣を見る。日の光を浴びて、彼女の銀髪がきらきらと光った。
TokageIppai
DONE「私」と双剣双剣が宙を舞う。
音もなく着地した小さな影が森の中を駆け抜け、魔物の群れに飛び込む。
青白い光が一筋閃いた、
と思った次の瞬間、魔物たちは両断されていた。
それは、剣技というより剣舞と呼ぶにふさわしい、軽やかな動きだったけれど、
手にした双剣以外には、何もかも───自分の感情さえ、捨ててしまっているように見えて。
だから、気づいてしまった。
ああ、この子はきっと、ずっと一人で戦ってきたんだろう、と。
***
拠点へ帰り、寝床に入ったあとも、その少女のことが頭から離れず、なかなか寝付けなかった。彼女の戦い方は、明らかに常人のそれではない。熟練の冒険者でも、あれほど双剣を扱える人はわずかだろう。けれどもそれは、一人で戦うことを前提としているもののように見えた。協調性がないというわけでもなさそうだったが、仲間の動きを確認するよりも先に、敵の方へと体が動いている、といった風であった。そういう戦い方には、何よりも自分自身の過去に覚えがあった。
1700音もなく着地した小さな影が森の中を駆け抜け、魔物の群れに飛び込む。
青白い光が一筋閃いた、
と思った次の瞬間、魔物たちは両断されていた。
それは、剣技というより剣舞と呼ぶにふさわしい、軽やかな動きだったけれど、
手にした双剣以外には、何もかも───自分の感情さえ、捨ててしまっているように見えて。
だから、気づいてしまった。
ああ、この子はきっと、ずっと一人で戦ってきたんだろう、と。
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拠点へ帰り、寝床に入ったあとも、その少女のことが頭から離れず、なかなか寝付けなかった。彼女の戦い方は、明らかに常人のそれではない。熟練の冒険者でも、あれほど双剣を扱える人はわずかだろう。けれどもそれは、一人で戦うことを前提としているもののように見えた。協調性がないというわけでもなさそうだったが、仲間の動きを確認するよりも先に、敵の方へと体が動いている、といった風であった。そういう戦い方には、何よりも自分自身の過去に覚えがあった。