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    TokageIppai

    @TokageIppai

    怪文書置き場です

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    TokageIppai

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    リッカちゃんとエステアちゃんが出会ったばかりのころの話

    #セブスト
    sebst.
    #リッカ
    licker
    #エステア
    esther

    満月と子守歌 遠くの山で、狼が吠えた。
     仲間を探しているのだろうか。けれども返ってくる声はなく、長く尾を引いた咆哮はただ空しく夜の静けさに飲まれていく。
     カーテンのない窓からは、月明かりが真っ直ぐに差し込んできていた。
     こんな月の大きな夜には、狼が遠吠えをあげて人間の姿に変化する。以前どこかで聞いたおとぎ話を、エステアはぼんやりと思い出していた。
     満月の夜が、彼女は少し苦手だった。
     何もかもが青白い光に照らされているのを見ると、どこにも逃げ場がないような、何も隠し事ができないような、そんな気持ちになるのだった。早く眠ってしまってやり過ごしたいのに、そういう時に限って、明るい光を浴びた目は一層冴えてしまっていた。
     うう、とちいさく声をあげて、窓から背を向けるようにエステアは寝返りを打った。背中を丸めて眠るのは、一人で旅をしていた頃からの癖だ。そうして目をつぶって、朝が来るのをじっと待つ。今まで何度もそうしてきたものの、この居心地の悪さにはまだ慣れなかった。



    「眠れないの?」
     不意に、頭上から声がする。
     と同時に、ひょっこりと現れた顔があった。二段ベッドの上から身体を乗り出す格好になっていて、髪の毛が逆立っている。髪の間から飛び出したかわいらしい長い耳がぴくりと跳ねた。
    「リッカさん……えっと、あぶない、ですよ?」
     だいじょーぶ、と返事をしたリッカは、ひょいと身体を引っ込めたかと思うと、今度は梯子を伝って下りてきた、
    「ねっ、今日はエステアと一緒に寝たいな」
     返事を聞くよりも早く、リッカはエステアの隣に横たわった。
    「……どうして、ですか?」
    「エステアのこと、もっと知りたいから」
    「え……っ」
     知りたい。その言葉に、エステアの身は一気に硬くなった。 
     何を知りたいと言うのだろう。旅をしている理由? それは、初めて顔を合わせたときに少し話したはずだ。出身? 記憶喪失になったきっかけ? あるいは、いつも肌身離さず持ち歩いている二振りの剣について? そんなこと、エステア自身が知りたかった。
     ――記憶をなくしたあと、いちばん最初に見たもの?
     背筋がぞくりと冷えるのが分かった。それは、誰にも知られてはいけない。自分の胸の中だけに閉じ込めておかないといけないもので、知られてしまったら最後、きっとここには居られなくなる。
    「昼間にあいさつしたっきりだったでしょ?」
     けれどもこんなに明るい月明かりの下では、隠し事はなにもできないように思われた。
     鼓動がどんどん早くなっていく。それにつられて、呼吸も短く、浅くなって、手足が思うように動かせない。
    「……どうしたの?」
    「……ごめん、なさい。なにも、何も聞かないで……おねがいします……」
     震える声で、それを言葉にするのが精一杯だった。
    「どうして謝るの? エステア、何もわるいことしてないよ」
     リッカの声が聞こえていないのか、エステアはただ、ごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返す。その尋常でない様子に、リッカも面食らったようだった。
    「ど、どうしよう……」
     故郷の村を離れて旅に出てから、王都で迷子になっていた子どもに出会ったことがある。道を行き交う人たちの中にぽつんと立って、心細げな顔をしていたその子は、リッカが声をかけるとみるみるうちに顔を歪ませて、おかあさん、どこにいるの、と泣き出してしまった。
     目の前のエステアは自分と同じくらい、もしかすると少しだけ年上かもしれない。けれど何となく、あの時の子どもと、今のエステアが似ているような気がした。
    (あのときは、たしか……)
     しばらくわたわたと落ち着きなく視線を動かしていたリッカは、そうだ、と呟くなりエステアの手をつかんだ。
    「えっと、だいじょうぶだよ? ……だいじょうぶ」
     冷たく強ばったエステアの指を包んで、ゆっくりと語りかける。
    「だいじょうぶ、こわくないよ。リッカがついてるから」
     だいじょうぶ、だいじょうぶ。魔法の呪文のように繰り返す。エステアが何を怖がっているのかは分からなかったが、怖いと思う気持ちなら、リッカも知っていた。
     そうしているうちに、エステアの指の震えがおさまっているのが分かった。少し、落ち着いたようだった。へいきになった? と尋ねると、エステアはこくりと頷いた。
     それでも、エステアは不安げにリッカの方を見ている。リッカはその頭に右手を乗せると、ごく軽く、とん、とん、とん、とゆっくりとしたリズムを刻み始めた。
    「……?」
    「おかあさんが、よくこうやってくれたんだ」
    「おかあ、さん……?」
    「うん、リッカのおかあさん。リッカね、おかあさんにこうしてもらってると、なんだかすごくほっとするの」
     目をつぶって、と言うと、エステアは素直に目を閉じる。
    「それでね……えっと、たしか――」
     そしてリッカはそのリズムに合わせて、静かに歌を歌いだした。
     それは、彼女の村に伝わる子守歌だった。古い言葉の歌だから、歌っているリッカ自身、その歌詞がどんな意味なのかよく分かっているわけではない。ただ、冬の夜に子どもたちがみんな寝静まった頃、あたり一面に積もった雪を月の光が照らしている、という内容の歌なのだと、寝物語に聞いたことはあった。
     その光景はもちろん、雪国出身のリッカにとってなじみ深いもので、だからリッカはこの歌が好きだった。好きだったけれど、旅に出てからは、それを聞くことも、自分で歌うこともなかった。
    (わかるよ。こわい、とか、さみしい、とか、わかるよ、リッカにも)
     口に出したらリッカの方が泣いてしまいそうだったから、代わりに同じ歌詞を、何度も何度も繰り返し歌った。意味は相変わらずよく分からなかったけれど、言葉もメロディもちゃんと覚えていて、そのことが少し嬉しかった。



    「あ……そうだ、エステア。これからリッカとエステアは『なかま』で『ともだち』なんだから、『ですます』で喋るのは……」
     気の済むまで歌ったあと、思い出したようにリッカは言いかけ――隣から、すうすうと寝息が聞こえるのに気がついた。
    「あれ……エステア、もう寝ちゃったの?」
     話しかけても、エステアは目を開けない。背中を丸めて、身体を小さく縮こまらせてはいたが、月明かりに照らされた寝顔に不安や緊張の色はなかった。
     よかった。リッカは呟いて、窓の外に目をやる。高く昇った満月は、銀色の光で遠く見える山並みを染め上げていた。
    「明日はきっといい天気だよ。だって、こんなにきれいなお月さまが出てるんだもん」
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    TokageIppai

    DONE完成に何ヶ月かけてんのって感じですが前書いたお酒ネタを最後まで書いたやつです 推敲は未来の私がやるでしょう(なのでそのうちしれっと本文とかタイトルとか変えるかも)
    見ように寄っては際どいかもしれない
    おさけはおとなになってから それはいつもと変わらない夜、のはずだった。

    「ふぅ、面白かった……まさか連続パンの実消失事件の犯人が教頭先生で、禁忌の魔法を使って学園を丸ごとパンプディングの森に変えちゃう計画だったなんて」
     両手に持った本から顔を上げ、周りに誰もいないのをいいことに、エステアはひとりごちた。
     彼女が読んでいたのは、王都の子どもたちを中心に大流行している学園小説だった。魔力は低いが天才的な頭脳を持つ主人公が魔法学校に入学し、学園内で起こる難事件を次々に解決していくシリーズで、新刊が出る度に売り切れと重版を繰り返している。
     その人気ぶりは彼女の仲間たちの間でも例外ではなかった。もっとも旅の身では嵩張る本をそう多くは持てないから、新刊が出版されると何人かで共同してお金を出し合い、誰か一人が代表して買ってきて、それを皆で回し読むようにしている。今読んでいる第六巻は数週間前の発売日にイータが張り切って買ってきたもので、やっとエステアの順番が回ってきたのだ。物語自体に惹き込まれるのはもちろんだが、もう読んだ仲間と感想を話し合ったり、あるいはこれから読む誰かの反応を見守ったりするのが楽しみだった。
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    TokageIppai

    MAIKINGアルコールが入って珍しくへにょへにょになったアミュレットとエステアちゃんの話。キリのいいとこまでかけたのでためしに進捗をあげてみます。
    色々ゆるふわ。ちょっときわどいかもしれない。
    アミュエスのゆるい話(書きかけ) それはいつもと変わらない夜、のはずだった。

    「ふぅ、面白かった……まさか連続パンの実消失事件の犯人が教頭先生で、禁忌の魔法を使って学園を丸ごとパンプディングの森に変えちゃう計画だったなんて」
     両手に持った本から顔を上げ、周りに誰もいないのをいいことに、エステアはひとりごちた。
     彼女が読んでいたのは、王都の子どもたちを中心に大流行している学園小説だった。魔力は低いが天才的な頭脳を持つ主人公が魔法学校に入学し、学園内で起こる難事件を次々に解決していくシリーズで、新刊が出る度に売り切れと重版を繰り返している。
     その人気ぶりは彼女の仲間たちの間でも例外ではなかった。もっとも旅の身では嵩張る本をそう多くは持てないから、新刊が出版されると何人かで共同してお金を出し合い、誰か一人が代表して買ってきて、それを皆で回し読むようにしている。今読んでいる第六巻は数週間前の発売日にイータが張り切って買ってきたもので、やっとエステアの順番が回ってきたのだ。物語自体に惹き込まれるのはもちろんだが、もう読んだ仲間と感想を話し合ったり、あるいはこれから読む誰かの反応を見守ったりするのが楽しみだった。
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