千年先で待ち合わせ 「楓って人間がいたろう。覚えてるかい?」
烏天狗がラーメンを食べ終えて席を立とうとするのとほぼ同時に、間他の客と話していた店主の狐が突然振り向いてそう切り出した。美しい漆黒の翼を持つ妖怪が僅かに首を傾げると、羽飾りが揺れてしゃらんと澄んだ音をたてる
「楓? ああ、雲外鏡を追い回していた奴か。それがどうかしたか?」
「どうやら最近死んだらしいよ。まあ、寿命だろう」
そういえば最近めっきり雲外鏡の姿を見ていないな、と今更のように気づく。少し前までは刀衆の男に追い回されて辟易している姿を良く見かけていたものだった。まあ、妖怪である烏天狗にとってのその少し前というのも、もう何十年か前の事だったかもしれないが。妖にとっての百年など瞬きの間に過ぎないが、人間にとっては天寿を全うする程の時間なのだろう。
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