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    薄暗いモモユキです。
    ハッピーDom/Subユニバースを書きたかったはずなので、続いたらハッピーになればいいな……。
    この先ケンカします。

    #モモユキ

    モモユキ Dom/Subユニバース「ユキさんってSubだったの?」
    「うん」
    ユキは小さく頷いた。
    ユキがSubだったなんて、全く知らなかった。ステージの下から見上げていた頃だってそうだ。Subには全く見えていなかったから。
    「パートナー、居るんですか?」
    自然と、今は消えてしまった彼の本当の相方を思い浮かべた。ユキがSubだと知れば自ずと浮かぶ疑問だった。あの、ステージの上から的確に状況を見回してから指示を出していた姿を思い出す。思い返すとあれはDomらしい仕草だったのではないか。
    「いない」
    ユキが首を振る。肩のあたりで銀色の毛先が揺れて、キラキラ光って見える。自分たちの立場だってあやふやな中、ユキの周りはいつだって明朗だった。
    「大丈夫なんですか?」
    「大丈夫って?」
    「その、体調とか」
    「別になんともないよ。僕ってSubの性質が弱いみたいなんだ。Domのパートナーだって持ったことないし。だから、別に。抑制剤を飲んでれば大したことない」
    いつもと変わらず笑うユキを見て、モモは静かに安堵する。最初から隠すつもりもないところが彼らしい。
    「でも、たまに褒めてくれたら嬉しいかも」
    甘えた声を出すので、ぎょっと肩から跳ね上がる。気づいていたのか。モモはDomである。
    目を瞬かせたモモに、ユキはすうっと近づいた。
    「僕たち、パートナーになったんだから」
    いたずらに笑うユキの吐息が、耳にかかった。モモは大袈裟でなく飛び上がって、耳を抑える。きっと耳まで真っ赤だ。恥ずかしくなって、耳を覆い隠した。
    「そ、ういう意味のパートナーではないです」
    「ふふ。そうね」
    そう言うと、ユキはくすくす笑った。
    「レッスンの続きしよっか」
    ユキが立ち上がると、ぱちんと空気を切り替わる。ふたりはDomとSubではあるが、ダイナミクスなど関係はない。今は生徒と先生だった。目標を忘れてはいけない。万理を見つけなければ。そのために、早くデビューしなければいけないのだ。

    Re:valeが軌道に乗ってからは、文字どおり閃光のように時間は過ぎていって、DomだとかSubだとか、ダイナミクスのことなんて考えることはなかった。だからふたりが、このことについて話したのはそれだけ。
    ただただ目の前の仕事に集中すればよかったし、忙しくなって、住処が別れてからはすれ違うことが増えた。
    かまって欲しがりの性格は、彼の性質から来ているのかはわからなかったけれど、それに比べて幼い頃からサッカーに励んでいたモモは、自分のダイナミクス性をコントロールする訓練が出来ていたし、元来ユキのファンであるという意識が強いモモにとって、彼に対してCommandをすることなんて恐れ多い。そもそも選択肢にも入らなかったのだ。
    そうしている内に、モモにとってはむしろ最大の懸念事項であった5年の期限も乗り越えた。だからふたりの関係は、これからも、今まで埒外だったダイナミクスごときで変わることはない。モモはそう思っていた。

    収録が巻きで終わって、食事の流れもなく事務所に戻ってきたモモは、スケジュールを確認する。
    ユキのスケジュールには作曲作業と書かれていた。つまり、彼は自宅に居るということだ。モモは事務所への挨拶もそこそこにすぐにタクシーを呼んだ。
    仕事の都合上、作曲だけに当てられる時間は限られている。だからこそ、まとまって取れる作業時間に根を詰めてしまうきらいがある。
    制作に身も心もすべてを捧げるアーティスティックな魂は美しい。モモだってそう思う。でも、その感性だけを甘受するには、ユキとモモは近すぎた。ただのファンではなく、彼の隣に立つパートナーなのだから。すり減った魂をかき集めて、もとの形に戻さなければいけない。それはモモの役割だった。

    「ユキー!いるー?」
    玄関に入って、モモは声を張り上げた。スタジオに居るのだろうか。
    しんと冷え切った廊下を抜けて、リビングの扉を開ける。いつも暖かいリビングも空気は変わらず、暖房はついていなかった。
    「ユキ?」
    リビングに入ると、彼は見つかった。
    ダイニングテーブルに突っ伏して、腕を枕に眠っている。
    「ユキ、風邪引くよ」
    そっと駆け寄るが、返事はない。
    腕の横でマグが目に入った。コーヒーが黒く沈んで、気付けのつもりだったのだろうが、室温と同じく冷めきっていた。
    「ユキ、ユキ、生きてる?」
    肩を揺さぶってみると、小さくうめき声が聞こえた。注意深く耳を傾けたが、意味は解さなかった。
    「何?」
    そう言うと、ゆっくり片手が上がって、スタジオの方を指差す。
    「できたの?!」
    もぞもぞと頭を振った。肯定らしい。
    モモはスタジオの扉を開くと、デスクトップPCに駆け寄った。待機画面がもどかしい。マウスを動かすと、一瞬あってから制作ソフトの画面が映った。慎重に保存を選択して、メールアプリを開く。数時間前にデモ音源が事務所宛に送られているのを確認した。
    ふう。モモは小さく安堵した。クリエイターと
    いうものは繊細で、製作中はあらゆることが抜け落ちるから、データが飛んだなんてことがあったら大問題だ。ユキの作った楽曲がどこかに消えてしまったら、モモだって耐えられない。
    「僕より音楽?」
    モニターを見つめていると、掠れた声が聞こえた。テーブルから顔を上げて、だけど立ち上がれないユキがこちらを見つめていた。
    言葉は不満げだったが、責めた色をしていなかった。
    「モモ」
    困ったように眉を下げたユキが放っておけず、モモはリビングに足を向けた。ほとんど反射だった。
    「ユキ?」
    少し近づくと、やつれた顔をしている。限界そうだ。いつもの端正な目元がにじんで見えた。モモはこうやって、自分に無防備な姿を見せるユキのことも好きだった。体の芯が熱くなって、守ってあげたくなる。だけれど、今はとにかくベッドで寝かせるべきだ。明日だって仕事はあるが、まだ夜は深くない。今から寝れば、少しはしっかりとしたユキを取り戻すことができるだろう。
    「ユキ、ベッドいこう。ちゃんと寝ないと」
    そういうと、ユキは両手を広げた。
    連れて行って欲しいのだろうか。その手を引くと、ユキはべしゃっと椅子から崩れ落ちる。
    俯いた顔に沿うように、長い髪の毛が流れ落ちた。床に手をついて、ふるふると首を振る仕草が、モモの目にひどく幼く見えた。
    「大丈夫?」
    訊ねるも、しばらく無言が続く。口を開くのも億劫なのかもしれない。
    カーテンの隙間から入る夕日が、ユキの髪の毛を覆うように長い影を落としていた。
    隣にしゃがみ込んで、顔を覗き込む。前髪を払ってやると、青い瞳がぼんやりと床に向いていた。
    「もも……」
    かすれた声が耳に入った。あまりにも小さくて、聞き漏らしそうになる。でもモモの鼓膜を確かに揺らした。
    「ゆき……?」
    知らず弱気になって、常に呼んでいる名前が喉に引っかかるようだった。
    ふっと吐息が、ユキの前髪を揺らした。それにすら負けたように、またユキが首を揺する。

    それで、顔が上がる。
    その瞬間だった。

    青い瞳が目に入る。潤んで、膜を張って、表面がキラキラ光っているようにも、奥深くから覗き返しているようにも見えた。
    ばくばくと音が聞こえた。自分の、心臓の音だった。モモは驚いて胸を抑えた。
    これはマズい。ダイナミクス由来の不調を自覚したのは、だいぶん久しぶりのことだった。
    ユキの方を見ると、髪の間から覗く耳の先まで真っ赤になって、呼吸も荒い。感情の読めない表情も、力の抜けた体も、Sub dropに近い。というか、ほとんどそのものに見える。モモの体調も、ユキに引きづられたのかもしれない。
    この、目の前に居るSubをCareしなければならない。本能的に思って、ユキに手を伸ばす。Commandを与えて、従わせて、命令を遂行させれば、幾ばくか彼も安心できるだろう。
    触れる直前になって、モモは慌てて手を引っ込めた。ユキにCommandを使って、自分はどうするつもりなのだ。ユキとは相方ではあるが、DomとSubとしてのパートナーではない。もし万が一、彼にパートナーが居たとして、相手は考えたくはない。だけどユキに、居たとしたら、パートナーでもない人間に従うのなんて大問題だ。
    「モモ」
    悩むモモに対して、ユキは何か言いたげに名前を呼ぶ。問いかけても、きっとCommand を使わない限り、何を伝えたいとは言わないだろう。
    どうしてこうなってしまったんだろう。
    今までいくら製作に苦労したところで、ユキがSub dropに入ることはなかった。ドラマの撮影で、連日朝早く出掛けて、深夜過ぎに帰ってきていた時も、走り抜けた全国ツアー千秋楽の後だって、人並みに疲労は見えたものの、こんな姿を見せることはなかった。それこそ、お互いのダイナミクスを忘れてしまっていた位だ。
    「ユキ、疲れてるでしょ。しっかりやすもう?」
    これは相方としての救護だ。モモは言い聞かせて、ユキの脇に腕を通す。Sub dropであると指摘したくはなかった。祈るようにユキを抱えると、背中に腕が回った。
    しっかり抱き上げて、寝室に向かう。しがみついた腕に力が込められた。子どものようだった。
    「モモ」
    じっと何かを待っているような視線に、モモは弱かった。肩に埋まって見ることはできないが、きっとそんな目をしているだろう。Sub dropに入ったユキの体は、熱を持って温かいのに、背中に着いた手先が氷のように冷たかった。
    「何?」
    「デモ、作った」
    ユキがずっと言いたかったことは、それだったらしい。
    「うん、見たよ。頑張ったね」
    腕に力が込もって、ぐりぐりと肩口に頬を擦りつけられる。それから力が抜けて、ぐっとユキ身体が重くなった気がした。
    気絶してしまったのだろうか。負担だっただろう。片手で支えて、慰みに背中をなでてあけだ。
    慎重にベッドに降ろして、布団をかけた。せめて温かくなるように、氷のように冷たい手を握る。
    身じろぎもせず、頬がまだ赤いのが気になる。しかし先ほどよりは落ち着いて、荒かった呼吸も平静に戻ってきていた。普段と変わらない寝顔に、モモはほっと胸を撫で下ろした。それと同時にゾッとする。
    無意識にSubを従わせようと思ったのは初めてだった。思えば芸能界は、ただしく団体戦のフィールドで、自然とDomとしての欲求が発散される機会も多い。自分の形質を上手くやりくり出来ていたつもりになっていたのだ。そう気付かされる。
    ユキはSubなのだ。モモがRe:valeになった最初に教えてもらったことなのに。これは失態だ。
    自分の中から居なくなったと思っていた怪物が、再び息づいた。
    自分が望めば、ユキはきっと命令を遂行しようとするだろう。ユキ自身の望みとは関係ない。彼の性質によって、強制的に行われてしまう。自分には、それをさせることができる。
    恐ろしくなって、握っていた手を離した。
    あの日、ユキの思いを確かめたかった5周年の日、自分が直接ユキに求めていたら、どうなっていたのだろう。モモの切なる思いは、ユキを壊してしまっていただろう。
    それだけではない。とっくの昔に、この怪物はユキを飲み込んでいたのではないか。モモとユキのRe:valeだって、モモが始まりだ。あの懇願がCommandとして作用していたら。あの頃のユキは特に弱っていて、目も当てられない程だった。Command未満のお願いを、ユキが果たそうとしたのなら。自分は弱りきったSub性に浸け込んだのではないか。
    足元が沈んでいくように身体が重い。いつのまにか外は真っ暗になっていた。
    月明かりがモモの背後に伸びて、長い影がユキを覆っている。ぎょっとして、モモはベッドから遠のいた。
    「んん……」
    床を蹴った音に、ユキが身じろぎする。普段ならこんな程度では起きないが、でも起きてしまったらどうしよう。
    とにかく、ここに居てはいけない。これ以上、何かあってはいけない。モモは後ろでに寝室のドアに寄って、そのままユキの家を飛び出していった。
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    DONEカプなし Re:valeの共同制作の話。

    完成した曲から手を離せるようになった分、百がひとつひとつの楽曲を愛でているのが可愛くて、その上で制作で同じ悩みにぶつかった時、先輩としてアドバイスできる千がいたらいいな。の話です。
    先輩の手引き/同じ場所で百にとって楽曲製作は、粘土を捏ねる作業に近かった。伝えたい言葉の断片は沢山作れても、それを繋げて作品を作ることは、しごく困難だ。接着面がどうも滑らかに繋がらない。無理矢理に捏ねて形を作ったって、ちょっと触っただけで外れてしまって、そもそも何故くっついていたのかも分からなくなってくる。
    音楽だって美術だって、授業を受ける分には、自分の楽しみのため、引いては先生の評価のため、真剣に取り組んでいるつもりではいた。でもこれはプロの作業だ。
    それに評価者は千である。これが百にとって一番の問題だった。
    「ちょっと語尾を変えたほうがニュアンスが柔らかくなるかも」なんて言うもんなら、評価者は柔軟に音色を変えてしまう。下した評価が、彼の音楽にとっての正解であるのか、百にはわからない。彼が作り出すものすべてが良いものに聴こえてしまうのだ。ひとつ前に戻そうと思ったところで、形を変えてしまった粘土を元の形に再現する技術もないのだから、どうしても発する言葉ひとつに慎重になってしまう。
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