桜に攫われる系のよくあるやつ。※尊の両親的なものが出て来て喋るので、無味寄りだとは思うのですが一応注意です。
「――――ッ」
尊が布団を蹴飛ばすのと意識が覚醒するのはほとんど同時だった。
デンシティに住む大半の住民が眠りの中にいるだろうと思しき深夜のことだ。尊は時折、今のような寝苦しさに眠りを妨げられて飛び起きる。理由は大抵の場合が悪夢で、内容は過去の苦しんだ記憶であることもあれば、全く無関係ながら嫌な気持ちになるもの、嫌だったことは記憶しているが起きた瞬間に内容が飛んでしまっているものまで様々だった。
悪夢全ての起因がロスト事件の後遺症によるものばかりというわけでもないが、それでも少なからず悪夢を見やすいことについて、その頃の影響は幾許かあるようにも思う。だとしても、昔よりはずっと回数は減っているから尊自身としては「今日は見ちゃったか」と思える程度にはなってきているのだが。少なくともこの街に来て様々な経験を経た今は、膝を抱えて自分を責めるようなことはしなくなっていた。
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