2022/1/2司冬ワンドロワンライ司冬 初夢、参拝 新年を迎え、チームメンバーでの初詣を控え心が浮き立つ時間。不意にスマホに明かりが灯り震え出す。液晶には今一番声を聞きたかった名前が表示されていた。
「もしもし、青柳です」
「冬弥!あけましておめでとう!」
「あけましておめでとうございます。司先輩」
聞きたかった声が聞こえた瞬間、頬が緩んだように感じた。司先輩とは、年明け直後にスマホ上のやり取りで新年の挨拶を交わしたが、本当は声を聞きたかったのだと思い知る。何度も耳に馴染んだ声に意識を向けた。
「どうされたんですか?こんな時間に……」
「いや、目が覚めてしまってな!新年の挨拶も兼ねて、冬弥に電話を……って、冬弥は何故もう起きているんだ?」
「俺はこの後、チームのメンバーと初詣に行く予定なんです」
「なるほどな!オレも昼頃にワンダーステージの仲間と共に行く予定だ!」
「そうなのですね。ですが、時間帯的に会えませんね……」
「正月はお互い忙しいからな。冬弥、初詣楽しんでこい!」
「はい。司先輩も。あの、目が覚めてしまったって……眠れなかったのですか?」
「いいや、ぐっすり快眠だ!だがな……夢を見たんだ」
急に声色が変化したことから、もしや悪夢を見てしまったのかと心配をしつつ夢の内容を尋ねる。しかし、返って来たのは予想外の答えだった。
「茄子の着ぐるみを着て鷹に咥えられながら空を飛んで富士山を眺める夢だった」
スマホの通話越しなのに頭を抱える司先輩の幻覚が見えた気がした。
「なんだったんだあの夢……ああ確かえむと寧々は鷹の上に乗っていたような……なんでオレだけ咥えられていたんだ……類か……類の仕業な気がしてきた……」
司先輩の声は電話の最中でもよく通るから、ぽつぽつと記憶を確かめるように呟く声が聞こえてしまい、つい笑ってしまう。
「司先輩らしい夢ですね」
「オレの夢の話で冬弥が笑ってくれるなら見た甲斐があった……のか?」
「一富士二鷹三茄子。全て揃っている素晴らしい夢じゃないですか」
「確かに!しかし、初夢でもないのにな……」
「一般的に初夢は一日から二日にかけての夢ですしね」
「うーむ……ワンダーステージの皆とは今日会えるからな。できれば冬弥が夢に出てきてくれたなら良かったんだが」
「司先輩。実は初夢というのは諸説あるようで、一般的には一日から二日にかけてですが、江戸時代では大晦日から一日、更には二日から三日の説もあるようです」
「そうなのか……。なら、これから初夢に冬弥が出てくる可能性もあるな!」
夢でなら会える、そんな発想があったとは。思いもよらなかった発言に心が震える。司先輩も、少しは会いたいと思って電話を掛けてきてくれたのだろうか。そうならば嬉しいと思う。
「俺も、司先輩と夢で会いたいです」
「ああ……ん、随分と話し込んでしまったな!」
時刻を確認すると、思っていた以上に時間が経っていたようだ。 司先輩と話していると時間があっという間に過ぎる。
「新年に司先輩と話せて嬉しかったです」
「オレもだ。お前が起きていて良かった。正月だからと言って遠慮せずに、寂しくなったらいつでも電話していいんだぞ」
「……!」
自身が秘めていたものの正体に息を飲んだ。そうか、俺は寂しかったのか。冬季休暇に突入し、司先輩と話す機会が減ったことで寂しく感じていたのだろう。一つ一つ分析し、検証を経てそう結論づける。つい深く考え込んでしまったようで、電話口で俺の名前を呼ぶ声が聞こえ我に返る。聞こえていますと口に出しながらぼんやりと思う。本当に、司先輩は凄い。
「あの、では明日またかけますね」
「ああ、楽しみにしているぞ!」
明日と言ったものの、本当に大丈夫だろうか。お忙しくないだろうか。そんな不安さえも消し飛ぶ明るい声が耳に届いた。
「今年もよろしくお願いします。司先輩」
「こちらこそ!今年も素晴らしい一年になるだろう!」
「今年も良い一年になりますよ、きっと」