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    @Futa_futa_2222

    ジャンルごちゃまぜ闇鍋。
    カプは全部プラトニックです。
    官能表現に乏しすぎてどう脳内をほじくりかえしても生み出せないので……

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    2022/2/6ワンドロワンライ司冬 待ち時間 隙間時間に読んでいた本を読破した司は、図書室へ本を返却しようと思い立った。善は急げ。思い立ったらすぐ行動がモットーの司は、図書室へと続く廊下へと向かう。今日はどこからともなく現れることでお馴染みの演出家は用事があるようで、司は色々と安心して図書室へと歩いた。
    図書室へ足を踏み入れると、本を勧めた後輩──冬弥の姿が目に入った。今日は図書委員の当番日のようで、声をかけると何冊か本を抱えたままこちらへとやってきて、そのまま2人でカウンターへと向かった。
    「司先輩、本の返却ですか?」
    「ああ、頼めるか?冬弥が勧めてくれたこの本、面白かったぞ。色々と勉強になった」
    「それは良かったです」
    司から1冊の書籍を受け取った冬弥は返却の手続きを行う。その素早く無駄の無い手つきに思わず見蕩れていると、冬弥は何か思い出したかのように手を止めた。
    「他にも演劇関連の本を見つけたのですが、良かったら借りていきませんか?」
    「他にもあるのか……冬弥のおすすめなら是非借りさせてもらおう」
    読書家である冬弥は、本の見極めが上手い。そのため冬弥の勧める書籍には外れはない。図書委員で図書室の全ての本を把握している節がある冬弥に本を勧めてもらった経験のある人は皆そう語ることだろう。司の了承の二つ返事を聞いた冬弥は図書室の奥へと行き、数冊の本を抱えて戻ってきた。そうしてカウンターに並べられた本に、司は釘付けになった。矢張り冬弥の選ぶ本に間違いはない。本に関して冬弥と話していると、冬弥は少しばつの悪そうな表情をした。
    「話し込んでしまってすみません。ショーキャストのバイトがありますよね、すぐに手続きを済ませます」
    足早に手続きを済ませようとする冬弥を手で制し、今日はバイトが無い旨を伝える。
    「慌てる必要は無い。オレは今日完全オフだからな!」
    いつものように声を張り上げてしまいそうになり、少しボリュームを下げる。司のいる場所は図書室で、カウンター越しにいる冬弥は図書委員だ。奇想天外なうちのショーキャスト達といる時のように声を上げていたら真っ先に出禁になる。それは避けたい。
    「今はまだ俺しかいないので良いですが、図書室では声は下げてください。……司先輩の声はよく通りますね」
    よく通るが果たして褒め言葉なのかはわからないが、冬弥曰く同じ当番の先輩は隣の図書準備室にいるらしく、図書室にはオレと冬弥の2人だけらしい。図書室に人がいないことは珍しいようで、本棚の整理をしながら図書室の利用者を待っていたらしい。話しながらも冬弥の手は動き続け、貸出手続きを経て司は本を受け取った。
    「冬弥は今日も練習があるのか?」
    「いえ、メンバーが用事があるそうで無しになりました」
    「なら、オレと帰らないか?」
    冬弥は目を見張った。そして少しの逡巡の末返答する。
    「いいんですか……?図書室を閉めるまでまだ時間がありますが……」
    「ああ、冬弥が勧めてくれた本もあるしな」
    司は自身の腕に抱えている本を示す。が、司を待たせてしまうことが申し訳ないのか、冬弥の返答は曖昧だ。
    「オレも冬弥も最近は何かと忙しかったからな。……久しぶりに一緒に帰らないか?」
    確か前回一緒に帰ったのは冬弥が捨てられた子犬のような目……(後で聞いたが彰人とすれ違っていた時期らしい)をしていた日だ。思い返すとその日は大分前のことで、これほど時間が経っていたとは思っていなかった。
    「……わかりました。すぐに終わりますから、待っていてください」
    図書室の閉館時間は何とかできるものでは無いが、冬弥がやる気を出しているので口を噤んだ。そうして近くのテーブルへと移動した司は早速勧められた本を開いた。
    冬弥は忙しなく図書室内を動き回り、そこに図書準備室から本を抱えて戻ってきた先輩が加わった。前日に返却された本を手分けして本棚へと戻しているようだ。
    こうして学校で冬弥を眺めていられるとは過去の自分は思っていなかっただろう。冬弥はクラシックを続け、音楽関係の学校へ通うと思っていたから。そこに本人の意思は関係なかった。しかし、冬弥は自らクラシックから離れた。クラシックを続けていた頃の冬弥は見るからに憔悴しきっていて、家族と上手くいっていないことも聞いていたし、度々相談も受けていた。そんな冬弥がクラシックから離れ、彰人に出会ったことで冬弥は自分を取り戻すことが出来た。司はそのことが本当に嬉しかった。冬弥がストリート音楽をやっていることを聞いた時は驚いたが、冬弥が音楽を捨てずに続けていて、そこに大切な仲間ができたことを司は自分の事のように喜んだ。まあその仲間の1人は何かと虫で揶揄ってくるのだが。
    遠くへ行きかけた思考が虫を思い出したことで帰ってくる。何故今オレは虫を思い浮かべようとしたんだ。気付けば図書室の時計の長針が半刻も過ぎていた。思いに耽りすぎたようだ。咲希や冬弥のことを考えるとつい感慨深くなってしまうのは悪い癖だ。司は広げているページへと視線を戻した。


    「司先輩。そろそろ図書室を閉めようと思います」
    「ん?ああ。もうそんな時間か」
    「はい。待たせてしまってすみません。……司先輩、ページがあまり進んでいないようですが……お気に召しませんでしたか?」
    「い、いや、そんなことはない!じっくりと、噛み締めながら読んでいたのだ!」
    ──結局、冬弥のことが気になり、本の内容は全く頭に入らなかった。
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