かわるこころ 「ショー、タイ、、ジョウ」
研究室のテーブルに置いてあった手紙を読み上げたあと、赤い帽子が傾く。
「アルベドおにーちゃんパーティに行くのクレーも行きたい」
キラキラと目を輝かせながらアルベドに尋ねる。周りをピョンピョン跳ねるさまは兎のようだ。
「テーブルのものを勝手に触らないっていう約束を忘れたのかい」
ひょいと手紙を取り上げて、クレーの手の届かない棚の上に置き直す。
ずるいと唸るクレーを宥めていると、実験中のスクロースが横目でアルベドに声を掛ける。
「アルベド先生、まだお返事してなかったんですね」
「なんの招待状なんですか」
賑やかな声に気付いたティマイオスが続けて尋ねる。
「以前、枕玉先生の小説の挿絵を描いたんだけど、その小説が稲妻で賞を取ったようでね。
その授賞パーティに呼ばれたのだけれども、」
以前のアルベドなら悩むこともなく、すぐに断っていただろう。
しかしまだ断りの返事をしていない。これはどういうことなのだろう。
自分でも不可解な行動に少し戸惑いながらー
答えが出ないアルベドのことはお構いなしに会話は盛り上がる。
「稲妻まで行くんですか羨ましいなぁ~」
「ちょっと、ティマイオスってばアルベド先生はまだ行くって言ってないわ」
「でも稲妻ですよ~最近、鎖国令も解除されたって聞きますしお土産楽しみだなぁ」
「クレーもパーティ行きたい行きたい行きたい」
そんな楽しい会話が飛び交う賑やかな研究室だが、以前はこの広い研究室でアルベド一人だった。
研究に没頭するが故に他者との関わりは不要だとさえ思っていた。
しかし、いつしかクレーや西風騎士団の仲間達、旅人にパイモン…
友人と呼べる人達が集う場所になっていた。今それを心地良いとさえ思える。
徐々に変わりつつある不可解な自分。
ー他者と関わることで求めていた答えに辿り着くのだろうかー
顎に手をやり、考えを巡らせる。アルベドの求める完全には程遠いように感じる。
「稲妻、行きたくないの」
クレーが不安そうにアルベドを見上げている。
「いや、
稲妻に行くのも、良いかもしれないね」
ふわりと笑みを浮かべ、再び手紙に手を伸ばすのだった。