─あの時に語った夢、覚えているでござるか。
カンカンとリズム良く金属音が響く。
朱く熱せられた金属を見つめながら、万葉の額には汗が滲む。
一定の間隔で響く高音を聴いていると、友人と語り合ったときの事を思い出す。
──たしかあの時は真夏で、燦々と照りつける太陽を避けて茶屋の軒先で過ごしていた。
「楓原家は没落してしまったが、受け継がれている鍛造技術を無くしてはならぬと思っているでござるよ」
いつものように他愛も無い話をしていたはずが、いつの間にか万葉自身の話をしていた。
彼と話していると、いろいろと包み隠さず話してしまう。
それも彼の人柄故のことだが、それよりも万葉自身が友人と共に過ごすことを心地良いと感じているからだろう。
「いつになるかは分からぬが、全てが明らかになれば曾祖父の代で途切れてしまった一振りを造ることもできるでござる」
握りしめた拳を見つめていると、彼が万葉の頭をわしゃわしゃと大きく撫でる。
「そのときが来たら、俺にも一本打って貰おうかな」
朗らかに笑う彼につられて万葉も笑う──
万葉が自らの手で打ち上げた刀を空に掲げる。
きらりと眩しく光る朱色の刀身。高く高く掲げれば彼にも見えるだろうか。
「あの時に語った夢、叶ったでござるよ」