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    nmhm_genboku

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    たけみっちお誕生日おめでとう!!

    ##タケミチの弟

    ▼花垣武道 は 最強 の 弟 を 手に入れたこの話を書くまでのあらすじ

    たけみっち誕生日おめでとう!!

    花垣武道には、中学を卒業して逃げるように家を飛び出し、一人になった時も、自身の廃れた心を落ち着かせるために思い浮かばせていた、とある人物がいた。その人物こそ…

    時は遡ること2007年7月4日
    男、花垣武道は電車で惹かれたのにもかかわらず、自分の逃げ続ける人生の始まりである12年前に戻っていた。ボコられて奴隷となる人生の始まり。どうせ死ぬなら最後くらい自身の弟の顔を見たかった。そう思った矢先、キヨマサの頭部にランドセルがぶち当たり、中に入っていた教科書類が、四散した。

    「おいコラてめぇら、何俺のにぃちゃん殴ってんだぶっ殺すゾ!!!」
    「夏樹!」

    キラキラと夕日に染まる銀の髪と、蒼のバンカラマント。まるでスーパーヒーローのような登場の仕方に、マコトたちは思わず頬を染めた。

    「なっ、夏樹さァん!!」
    「まこっちゃん達も!タケ兄ぃといい何してんの!!」

    どーせマサルのバカに乗せられて来たんだろ!なんて言いながら目の前の5人をあっという間に倒して、夏樹はマサルに、虚勢張るのはいいけどタケ兄ィにはしないでって言っただろーが!と腹パンをぶちかました。

    溝川第五小学校…略して五小の花垣夏樹といえば、着用しているバンカラマントを魚の尾びれのように例えられた、五小の“深海魚”である。母親似の童顔目立つ武道と違い、父親似の知性溢れるその顔は、僅か小学六年生ながら女にモテる顔つきで、170cmに到達しようという程の身長を持ち合わせている。

    そんな彼の登場に、武道は都合のいい夢か、と自身の妄想にうっすらと笑った。だって、過去の記憶の中で、彼がここに居るなんて本来なら有り得なかったから。けれどこれは夢ではない。花垣武道の弟、花垣夏樹は、今日この日を持って、兄のようにタイムリープした訳ではなく、前世の記憶を思い出していた。茹だるような脳が記憶の処理を行いながら、夏樹は自分よりも筋肉のある男たちを倒して、大好きな兄の最悪なスタートを阻止すべく行動に起こした。ただそれだけである。

    「兄ちゃんら、無事!?」
    「た、助かった…」
    「夏樹ぃ〜!!お前すげぇよォ…!」
    「好き!!もうお前大好き!!」
    「ぎゃー!!!やめろ!!暑苦しい!!!」

    ボロボロになった体すら追いやって、巨悪が立ち去った安心感から、マコトと山岸は夏樹に体当たりするように抱きついた。やめて欲しい程暑苦しい抱擁だった。

    「てか母さんが今日コロッケだからはよ帰ってこいって言ってたんだよ。兄ちゃん帰んよ」
    「えっ!?あ、うん」
    「夏樹、悪かったな」
    「別にぃー。つーか謝るぐらいなら明日遊んでよ。俺明日は設立記念日でガッコー休みなんよ!」

    ニッ、とそう言って笑った夏樹に、千堂は息を吐いて、昼から遊ぼーぜ、と声を上げた。そんな小さな約束事に楽しみだと全身で伝えるかの弟に、武道は泣きそうになった。自分が消えても尚、唯一探してくれていたその存在。未来で、夜中に車に惹かれて若くして死んでしまった自分の弟の葬儀にすら参列できずに別れてしまったこの家族を、今度こそ大切にしようと武道は思った。朝も昼も探して、探して、あの日夜まで探していたと風の噂で聞いた時、締め付けられるほどに傷んだ胸がどうしようもなく蘇って、ポロポロと頬を涙が伝った。

    「兄ちゃん、そんなに怖かったの?」
    「うん、怖かった…。お前を失うのが、怖かったんだよ…」
    「もー。泣き虫だなぁ」

    今日は特別に、一緒に寝てあげる。そう言ってゆったりと笑ったその顔を見て、武道は言いようのない思いのまま、彼を抱きしめた。

    そんな日を過ぎた翌日。
    朝急いで登校した武道を待ち構えていたのは、自身の弟にボコボコにされたキヨマサと、彼の所属している東卍の人達だった。先に登校していた千堂たちを人質に、武道に昨日のやつを呼べと声を荒らげるキヨマサを見て、武道は奥歯を噛みやって、お前の命令になんか絶対従ってやるもんか、と声を上げた。

    その言葉にキレたキヨマサから殴られようが、蹴られようが、どうでもよかった。自身の弟を、こんなヤツらの前に差し出したくなかった。口の中の血を吐き出しながら、あいつを呼びてぇなら、俺を殺すしかねぇぞ、と声を上げた武道のその言葉に、後ろで見ていたボンパドールの男は、ゆっくりと口角を上げて1歩足を前に出そうとした時、ゾワリと足元から寒気を感じ取って、勢いよく振り返った。男…マイキーと同じくして、その気配に釣られるように振り返れば、そこには冷ややかな目を見開きながら、怒気を纏う男が立っていた。

    「お前ら、タケにぃちゃんの、ナニ?」

    サラリ。武道とは正反対の癖のない銀の髪の毛が、男…夏樹の頬と首筋を撫で、毛先が重力に従ってストン、と落ちて揺れ、蒼を滲ませた黒々としたその瞳を見ながら、マイキーたちは正反対な兄弟だと思った。温厚そうな武道とは違って冷酷さを孕んだその姿に、腹の底に潜む何かをぞわりと刺激した。

    「お前ッ!」
    「あ?昨日のハゲじゃん。てめぇ何俺の許可もなくタケ兄ぃに会ってんだ」
    「な、夏樹!お前学校は!?」
    「今日は設立記念日で休みって言ったじゃん」

    つーか弁当忘れた兄ちゃんに飯届けてやってんのになんで嫌そうな顔してんの、と眉間にシワを寄せながらそう言えば、武道はごめんね!?と声を上げた。

    「つーかアンタ、タケ兄ィが悪くないって分かってんだろ、何ハゲ連れて来てんだ」
    「んー、仲間売るやつだったら締めようかなって思ってたからさ」
    「俺の兄ィちゃんがそんなゴミみたいなことするかよ。ナメんな」

    そう言ってするりと彼らから千堂たちを回収して、武道の目の前に青ざめた顔を見せるキヨマサの前に躍り出て、ねぇ、と夏樹は声を上げた。

    「挨拶。俺、お前を昨日潰したんだけど?」
    「アァ!?誰がてめぇなんかに!」
    「まぁ、挨拶なんて要らねぇけど」

    は?とキョトンとした顔を見せたキヨマサの顔面に足蹴りをぶつけ、飛ばした。

    「ッ…!!?」
    「手加減、してやったから意識はあるでしょ」

    兄ちゃん無事?そう言って尻もちを着いた武道の前にストンッと座り込んで困ったような顔で尋ねる夏樹の顔を見て、武道は抱きしめた。弟を危険な目に合わせたくなかった。こんなヤツらに見つけられたくもなかった。

    「ごめんっ…!俺が、弱ッ…俺が弱いから…ッ!!」
    「えー。謝んないでよ。俺は喧嘩に弱っちくて、ひな義姉ぇに甘くて、泣き虫な兄ちゃんが大好きなんだから」

    そんなに自分を責めないで。そう言って抱きしめ返す夏樹の姿を見ながら、マイキーはゆっくりと笑った。欲しくなった。あの自身の兄貴のような男を、あの、兄を1番に愛しているであろう少年を。

    「なぁ、お前ら、名前は?」
    「…俺らの名前聞く前にそっちから名乗るもんじゃねぇの?」
    「!、ふはっ、そーだね、ごめんごめん。俺は佐野。佐野万次郎。マイキーって呼んでよ」

    お前らは?そう言ってとろけるような目を見せる男に、夏樹は眉間に皺を寄せた。どろりと蕩けるようなその瞳が、その瞳を見せる男が、夏樹にとって危険だと警鐘を鳴らしている。

    「は、花垣…武道です」
    「…花垣夏樹」

    けれど、ここで嘘の名前なんて言えなかった。目の前のマイキーといった男の背後で、彼の腹心だろう男らが、自分が嘘を吐いた瞬間、自身の大事なものを全てかっさらって行く可能性すらあったから。

    「タケミチ…タケミっち」
    「へ!?」
    「夏樹はなっち、ね。お前ら2人とも、今から俺のダチ、な♡」

    ゆっくりと笑うマイキーのその顔を見て、夏樹はそっと視線を武道へと逸らした。今まで1人で泳いでいたのだ。そんなすぐに仲良くなるなんて無理だと思っている、だから…。

    「タケ兄ィを呼ぶなら、俺も呼んで。1人で突っ走る兄にほとほと呆れてるんだ」
    「な、なつきぃ…」
    「正義感が強いのも、考えものなんだよ…」

    母さん心配するし。そう言って小さくため息を吐いて腰を上げ、再度マイキーを見つめ直す。ここが、分岐点。そう夏樹は理解して、ゆっくりと口角を上げ微笑む。

    海底の中で生きる魚を欲したければ、死ぬ気で構えよ。まるでそう言っているかのように笑う夏樹に、その声が聞こえた訳では無いのに、目の前の彼らは目を大きく見開いた。

    「兄ちゃん、昼。また来るよ」
    「えっ、あ、うん…」

    待ってる。そう武道の言葉を聞いて、笑って歩を進めた。風でバンカラマントを揺らめかせながら、夏樹はマイキー達に邪魔になるンでどこか移動しましょ、と声を上げた。



    花垣夏樹(♂)
    武道の最悪の始まりをクラウチングスタートの如くぶっ壊した人。
    友達?あぁ、名ばかりのね
    という回答を持ち合わせられるほど、幾度となく友と呼ぶ人間から裏切られた過去がある。


    この世界はみんな死んでない世界線なので、花垣兄弟愛されになる予定です!


    「俺はね、兄ちゃんに何かあったらって思うと気が気でならんのよ」

    そう言って隊長、副隊長だけを廃墟へと連れてきた夏樹は、ゆっくりと振り向いて、ここだけの話、と言葉をはいた

    「アンタらを海底に沈めるのなんて、造作もないことなんだよ」
    「あ?」
    「たかが陸の人間が、海に生きる深海魚の俺に勝てると思うなよ?」

    ゆるり。綺麗にそう言って笑うその顔に、嘘や虚勢などは含まれていなかった。本気で、本気で彼らを海底へと沈められるのだと言った夏樹に、マイキーは海のさざ波を聞いた気がした。

    「もし」
    「ん?」
    「もし仮に、お前が俺らを負かせられたとして、お前は何を望むの?」

    そうマイキーが尋ね、夏樹はそうだね、と軽く声を上げた。思っても無かった質問だった。彼が嫌がろうが何を言おうが、タケ兄ィのことをあまり構わないように忠告する予定だったのだが…。

    「俺のお願いを、一つだけ、聞いて欲しいかな」

    この時の彼らの顔を見て、気が変わった。夏樹は後にそう答えるだろう。僅かひとつのお願いを叶えさせるために“無敵”のマイキー率いる東卍に喧嘩を売るなんて、なんと無謀だろうか、そう、普段なら思うだろうが、目の前の少年の姿を見て、何故か、そう何故かそれが無謀な発言ではないと思わせた。

    「なっち」
    「なんスか?」
    「俺と、今からタイマン張ろーよ」

    俺もお前も、負け無しの称号持ち。どっちが強いか、ここで白黒付けよう。そう言って笑ったマイキーの顔を見て、夏樹はゆっくりと笑って頷き、いーよ、と声を上げた。

    「その話、乗った。最近本気で泳げる相手居なかったからさ、丁度いいや」
    「俺も。最近骨のあるやついなくてさ。ハンデいる?」
    「要らんよ」

    そんなの、俺らには必要ないでしょ?そう言ってゆったりと笑う夏樹に、マイキーはゾクゾクとした高揚感に包まれながら、笑った。ドラケン達には手を出すなよと声を出し、マイキーは夏樹と見つめ合う。

    「俺が勝ったら、俺のオネガイ、ひとつだけ聞いてね」
    「俺が勝ったら…そーだなぁ、なっち、俺の付き人ね」

    そうマイキーが言えば、夏樹はうっすらと笑っていーよ。と答える。開始の合図は要らない。お互いの波長がピタリとあったその瞬間から、夏樹は着ているバンカラマントをバサりと大きくはためかせ、マイキーは低く体制を保って走り出した。

    花垣夏樹“深海魚”と、佐野万次郎(マイキー)
    2人の戦闘スタイルは、よく似ている。重機のように鋭く重たい蹴りを繰り出すマイキーと、しなやかに、魚の尾が水を弾くような軽やかさをもつ夏樹の蹴り。勝敗は、いとも容易く決まると、そう思っていた。

    殴る、蹴るの攻防。夏樹の揺らめくバンカラマントが水の中を泳ぐ魚の尾びれのように美しく動く。

    「ッらァ!!!!」
    「ぐっ…!」

    ごぽっ、と見えない水泡の音が鼓膜を揺する。舞台は陸。けれど、この場に蔓延るは、海の中のように息苦しい世界だった。
    パシャンッ、と魚が跳ねる音が聞こえる。水を弾くように、泳ぐように、この目の前の少年は、目の前の“最強”の男に食らいつく。深く、思考を落とさなければ。そうマイキーの経験が警報を鳴らしながら語りかける。黒く淀んだその衝動に意識を軽く持っていかれながら、マイキーは自制していた。していたはずだ。まぁ、そんな夢のような話はこの世にないけれど。

    重たい。そう思うほど空気が水のように重たかった。繰り出されるしなやかな蹴りと、衝撃を体内に収めるように繰り出される掌底突き。その攻撃を受けながらも、マイキーはその衝撃以上の攻撃を繰り出すために動き、飛んだ。

    「どうしたんですか?マイキーくん。息、上がってますよ?」
    「いってろ!」

    深く息をして酸素を肺に入れようにも、目の前の男がそれを許してはくれなかった。大きく息を吸い込もうとすればするほど、夏樹の攻撃を受け付けてしまう。フィールドは陸なのに、海の中へと引きずり込まれるような、そんな空気。抗っている。絡め取るような水底の恐怖から、逃げるように、振り払うように動く。
    その様子を見ながら、夏樹はゆっくりと口角を上げた。靡く銀髪が、夜の月に照らされた海の波目ように美しく輝いて、その場にいる誰もが目を見開いた。

    海の中を生きる、魚。そう例えられて僅か2年。強さを身につけ、誰にも負けないその存在は、海の全てを纏ってそこにいる。

    楽しい。思わずそう心が踊った。自分自身を全力で負かせに来ている。ゾクゾクと武者震いを起こす背筋を伸ばし、マイキーはくっ、と笑みを浮かばせた。

    「ははっ…」
    「…?、なに」
    「いや、こんな状況でも笑ってくれるなんて、流石だなって」

    俺も、今、最ッ高に楽しいっす。そう言って、更に深海に落とすように深く潜るように意識を落とす夏樹を見ながら、マイキーは笑う。この戦いを、ずっとしていたいと、心臓の奥深くを握りつぶされそうになりながらも慣れ始めた夏樹が創り出すこの海底の様な世界に身を投じた。

    マイキー達が夏樹のことを知ったのは、随分昔の事だった。七小のマイキー、五小の夏樹。僅か3つの歳の差が、彼らを遠ざけていた。
    マイキー達が小学校を卒業後、五小の夏樹は、五小の深海魚として名前を変え、小学生内で噂されていた最強は、マイキーが卒業すると同時に夏樹へと当てはめられた。
    何をするにしても比べられる人生。

    マイキー君は
    マイキー君なら
    マイキー君だったら

    うんざりだった。同じ戦闘スタイル、同じ無敵の称号を手にする者同士、見える景色も同じ。ただ一つ違うところがあるとすれば、それはマイキーには仲間が居て、夏樹は一人ぼっちだった事。その心の差が、マイキーを組み引くまでに成長するなんて、誰も思わないだろう。深い深い海の底で、獲物が落ちてくるのをジッと待っていた。そんな、そんな空気。

    「…随分とあっさり組み敷かれましたけど、体調不良ですか?」
    「ッ…!」

    始まりの合図は互角だった。目が合った瞬間、お互いピタリと波長が合ったと言っても過言ではない。湧き上がる高揚感。初手、マイキーの拳が夏樹の頬を殴るが、すかさず掌底突きがマイキーの鳩尾に入る。
    この最初の一撃で、お互いの技量を理解したと言っても過言ではない。
    “本気で挑まないと溺れる”
    そう思考が喚いたのは、いったいどちらだろうか。

    夏の空のような、浅瀬の海を纏ったような兄のようには成れなかったからこそ、夏樹は夜の海全てを纏って海底奥深くまで沈むことを選んだ。だからこそ、ここで自身の兄の心の大半を占めることになる存在に苛立ちを覚えていた。誰にでも全力で助けるヒーローのような、大好きな存在。それが、花垣夏樹の兄、花垣武道の役目。でもそれは物語の中の彼であって、この世界ではもう既にそんな役目なんて関係ない。俺の、兄だ。俺だけの、

    「沈め」

    キュゥ、と狭められる瞳孔に、ゾワリと観戦していたドラケン達は背筋を震わせる。危険だと思った。これ以上潜らせるのは、危険だと、何故か思ってしまった。そして彼らのその思考は正解だった。夏樹は今、必死に浅瀬に戻ろうともがいている。目の前の男を殴り、蹴りつけながら、自身も蹴り飛ばされ、殴りつけられながらも、必死に浮上を試みていた。強い相手を目の前のするといつもこうだな、と自身に悪態付きながらも、今まで浮上が出来ていた安心感から油断して潜ったことのない深いところまで思考を落としてしまった。そうして深く潜りこんだまま目の前の男の降参を促そうとして思考を戻す際、フッと、思ってしまったのだ。彼は、負けを知らないせいで、落としどころを知らないのではないのか、と。

    その一瞬の思考の隙を、マイキーに咎められるかのように殴りつけられ、夏樹はこの時をもって、さらに海底深くへと思考を落とした。ゴポリと水泡の音がその場にいる全員の鼓膜を揺らし、誰も入ったことのない禁則地へと足を踏み入れる。その空気の変動をマイキー達はいち早く察知していた。僅か小学六年の少年が、ここまで自分を、総長を、追い詰めるなんて思ってもいなかった。美しく泳ぐその姿に、マイキーは酷く昂揚した。

    マイキーは自身の強さを知っている。相手がどんなに強いと噂されようと、どれほど年上だろうと、勝ってきた。その連勝を重ねるごとに、負けから遠ざかっていく自分自身の功績に、軽く飽きていたのも事実。最近では忘れていたこのワクワクを、まさか自分よりも年下の人間に思い起こされるなんて、誰が思おうか。

    「兄貴も…、兄貴もこんな感じなのかなぁ…」
    「…は?」

    黒い衝動すら抑え込まれ、初めて感じる敗北感に、不思議と苛立ちはなかった。ごぽっ、と海に溺れるような感覚。水が体にまとわりつき、落とされる。そんな感覚を感じ取りながら、目の前の、蒼を滲ませた黒々とした瞳を見せる夏樹の目を見た。深海奥深くに住まう魚が見る世界のように深く広いその色を見つめていれば、遠くから悲鳴じみた声で少年の名前を叫ぶ男の声が響いた。

    「タケ兄ィ…?」

    ちかり。あの深海が、浅瀬の海と視線が交わり、光が入った。その光景を間近で見ていたマイキーは、震えた。この小さな体の中に内包された海が、目の前で深海から浅瀬へと浮かび上がるのを肌で感じた。息がしやすい場所へと浮上させられる。勿体ないと、思ってしまった。思ってしまったからこそ、マイキーは理解したのだ。

    自分は、この男に負けを認めさせてやりたかったのだ、と。その思考になった瞬間、この勝負は負けなのだ、と感じて、胸ぐらを掴もうとした自身の手を止めた。

    もう、あの海底うなぞこに彼は連れて行ってくれないと、分かってしまったから…。

    「なっち」
    「あ、忘れてた」

    喧嘩してたんだったわ、とこちらへと意識を取り戻した夏樹の垂れた髪をするりと手に取りながら、マイキーはゆっくりと声を上げた。

    「お願いごと、決まってるの?」
    「あー…実は全然?取り敢えず退きます」

    中断しちゃってすみません。そう言ってするりと軽やかに上に乗っていた彼が退いた瞬間、今まで感じていた重力のような変な重さすらも消え去って、一気に肺へと入る空気に、こふ、と少しだけ噎せた。

    「楽しかったのになぁ…」
    「えー…」

    あれを楽しかったで済ませるんだ、と若干引いた顔で言われながら、マイキーはゆっくりと口角を上げて、お願いごと、決まったら言ってよ、と声を上げた。

    「野良試合だろうけれど、俺はお前相手にそう思った」
    「そうっすか…」

    そう思わせられて安心しました。そう小さく声を上げてそれじゃぁ、俺行きますね、と困ったような顔でそう声を上げ、逃げるように武道の方へと戻る夏樹に、マイキーは、ふは、と笑いの声を上げた。

    消え去ったその姿を最後まで見送ったあと、ドラケン達に、ごめん、負けちった、とスッキリしたような顔で笑う彼を見て、彼らもまた、スッキリしたような顔でマイキーにお疲れ、と声を上げる。

    負けを知らない彼が、あの少年に対して感じた感情を、彼らが理解しない訳もなく。あぁ、いい試合だったな、なんてまぁ思ってしまったので。

    「ところで、あいつ東卍に入れんの?」
    「んー…今はまだ、友達でいたいかな」

    きっとあの魚はチームとか、ダチとか関係なく、泳いで来てくれるだろうから。そううっすらと笑いながら言ったマイキーに、さっきの質問をした場地は、だろうな、と鼻で笑って声を上げた。

    あの兄を大事に思う魚の全てを知りたいなんて、そう思ってしまったからこそ、今はまだ深海で自由に泳いで欲しいと思うので。

    「まぁ、でも…」

    いつかはあいつの兄と一緒に手に入れるよ。眩しいものを追いかけるかのように細められたマイキーのその瞳を見ながら、その場にいた全員が、笑った。



    花垣夏樹(♂)
    勝った…のか?
    なんか釈然としない。
    間違えていつも潜る所よりも更に深い場所へと落ちてしまったせいでやっべ、殺しそう!ってなってた人。マイキーくんの黒い衝動とよく似ているけれど、違う。ちゃんと抗う術を後で手に入れる。

    佐野万次郎
    無敵のマイキーが人になった瞬間。
    負けを知った時の空は、深い深海を纏う男と相まってとても綺麗だった。
    今度は海に住まう魚を捕まえたい。

    東卍の幹部たち
    マイキーが負けたけれど、スッキリしたようなその顔を見て何も言えなくなった。むしろいい傾向だったと思う。

    花垣武道(♂)
    この度自分の弟がマイキーを組み敷いていたせいで泣きそうになった。なんで!お前は!危ないことをするんだよ!!!




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    h‘|ッЛ

    PAST風間トオルがデレないと出れない部屋

    ⚠️アテンション
    ・未来パロ(17歳、高2)
    ・しん風
    ・中学から付き合ってるしん風
    ・以前高1の頃○○しないと出れない部屋にて初体験は終えている。(いつか書くし描く)
    ・部屋は意志を持ってます
    ・部屋目線メイン
    ・ほぼ会話文

    ・過去にTwitterにて投稿済のもの+α
    『風間トオルがデレないと出れない部屋』

    kz「...」
    sn「...oh......寒っ...」
    kz「...お前、ダジャレって思ったろ...」
    sn「ヤレヤレ...ほんとセンスの塊もないですなぁ」
    kz「それを言うなら、センスの欠片もない、だろ!」
    sn「そーともゆーハウアーユ〜」
    kz「はぁ...前の部屋は最悪な課題だったけど、今回のは簡単だな、さっさと出よう...」

    sn「.........え???;」

    kz「なんだよその目は(睨✧︎)」

    sn「風間くんがデレるなんて、ベンチがひっくり返ってもありえないゾ...」
    kz「それを言うなら、天地がひっくり返ってもありえない!...って、そんなわけないだろ!!ボクだってな!やればできるんだよ!」

    sn「えぇ...;」

    kz「(ボクがどれだけアニメで知識を得てると思ってんだ...(ボソッ))」
    kz「...セリフ考える。そこにベッドがあるし座って待ってろよ...、ん?ベッド?」
    sn「ホウホウ、やることはひとつですな」
    kz「やらない」
    sn「オラ何とまでは言ってないゾ?」
    kz「やらない」
    sn「そう言わず〜」
    kz「やら 2442